日本財団ジャーナル

【ソーシャル人】辺境の地で始まった教育変革。地方を元気にする若者を育てる岩本悠さんの挑戦

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現在の活動の原点ともなった海外へ「流学」した当時の岩本 悠さん(写真中央から左寄り)。ピエロに扮し学校巡業した時の様子
この記事のPOINT!
  • 進む人口減少に高齢化、財政破綻。地方は日本が抱える課題の先端地域である
  • 他の地域と地元の子どもたち、大人たちの交流が教育の魅力化や地域の活性化につながる
  • 個人による変革だけでは続かない。チームで取り組めばイノベーションを生み続けることができる

取材:日本財団ジャーナル編集部

「学び」とは何か。教科書の内容を覚えること?それとも、テストでいい点数をとること?

約20年前に世界を旅した一人の学生が、島根県のとある島から始めた「学び」のスタイルが、全国各地の学校や生徒たちに影響を与えている。地域を越えて学生が社会課題に向き合う「地域みらい留学」と「学校魅力化」に取り組む、日本財団ソーシャルイノベーションアワード2016最優秀賞受賞者でもある一般財団法人「 地域・教育魅力化プラットフォーム」(別ウィンドウで開く)共同代表・岩本 悠(いわもと・ゆう)さんだ。日頃の活動や理想とする教育の未来像について話を聞いた。

人の流れが逆転。「学校魅力化」と「地域みらい留学」が持つ大きな可能性

「人口減少、高齢化、地方都市の財政破綻…。現在の日本にはたくさんの問題がありますが、都会に住んでいると、その問題を実感することってそんなにないですよね。でも地方に行けば、シャッター商店街があったり、若者が都会から帰ってこなかったりと、日本の抱えている問題を直に触れることができます」

「地方は、日本の未来の箱庭、課題の先進地域である」と語る岩本さん。これまで地方と都会の間には、経済的に恵まれていて学習意欲も高い若者が地方から都会へいくという「流れ」があり、それに逆行する動きは少なかったという。

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島根県を拠点に、日本全国でこれまでにない教育、地域づくりに取り組む岩本さん

「僕たちの行っている『学校魅力化』と『地域みらい留学』は、それを逆転させる取り組みです。学校魅力化では、学校を地域に開き、地域の人々とセクターの壁を越えた協働チームをつくって、子どもたちが地域の抱えるリアルな課題に取り組みます。地域みらい留学は、全国各地や世界各国から日本の地方に関心がある子どもたちを『留学生』として迎え、一緒に学校生活を送るプログラムです」

学校という場所は閉鎖的なことが多く、地方では生徒数が少なく交通手段が限られるため、その傾向はさらに高まると岩本さんは話す。

「学校を地域に、そして全国に開くことで、学校の生徒たちや地域の人々の意識を変えることができたと考えています」

一番大きな変化は、子どもたちが自分の生まれ育った地域について「ここも捨てたものじゃない」という誇りを持てるようになることだという。

岩本さんがこの活動を始めたのは2006年のこと。島根半島からフェリーで4時間程の場所に位置する隠岐諸島にある海士町に、彼自身が移り住んだ。

「僕が初めに取り組んだ島根県海士町の隠岐島前高校では、地元と都会に対して『ここには何もなくって、あっちにはたくさんある』といった一元的な考えを持った子どもが多かったんです。でも、都会から来た子どもたちが、海士町の自然や、そこに暮らす人々のおおらかな人柄や温かさを褒めるたびに、地元に対しての考え方が変わり、自信や誇りを持てる子どもが増え、地域課題に対する姿勢にも変化がありました」

島の外から訪れた子どもたちが地域課題に取り組んでいる姿を見て、「自分たちの街なのに島外の子が頑張って自分たちは何もやっていない」という気持ちになり、お祭りなどの行事や、観光パンフレットづくりに積極的に取り組む子どもが増えた。

他にも島で一番頭の良かった子どもが都会の子どもにテストで負けてより勉学に身が入ったり、都会の子どもが積極的に勉強に取り組む姿に「自分たちも先生の指示を待たずにやっていいんだ」といった学習の姿勢に変化が見られたりと、多くの小さなカルチャーショックが起きたという。

海士町でプロジェクトを始動してからおよそ10年間で、当初は90人ほどの生徒数で廃校寸前だった隠岐島前高校の生徒数は200人近くに増加。また、以前は約半数が地元を離れていた若者の約80%が島に留まり、若い家族のUターンやIターンも増え、年間平均出生数が8人から18人と2倍以上に増加した。

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広々とした校庭が広がる「地域みらい留学」先進校の隠岐島前高校

海士町で成功した「学校魅力化」や「地域みらい留学」といった新しい「学び」のスタイルは、島根県内の学校で取り入れられ、島根県への留学生は約10年の間に3.5倍にまで増えた。さらには北海道や高知県など、26道県59の学校にまで同様の取り組みが行われ、留学説明会には2,000名を超える親子が集まるまでになった。

写真:島根県の高校に集ったたくさんの学生たち
2019年9月に島根県で開催された「しまね高校生探究PROJECT CAMP & しまね若者未来共創CAMP」の模様。岩本さんたちは、全国の学生をつなぐさまざまなイベントを開催している

本当の学びは学校の外に。岩本さんの原点「流学」体験

「学校魅力化」や「地域みらい留学」の発想はどこから生まれてきたのだろうか。学生時代、大学を休学して世界各地を「流学(いろいろな地域を渡り歩きながら学ぶ)」した経験を持つ岩本さん。その経験や「学び」が、今の活動の原点になっているという。

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学生時代、海外での強烈な体験と学びが生き方を変えたと語る岩本さん

「僕は大学生になるまで、何の不満もありませんでした。出席しなくても大学の単位は取れるし、いい仲間や素敵な彼女にも囲まれて…。でもこの先に続く“幸せ”な生活を思い描き、いつかやって来る『たった一度の人生、自分はこれで良かったのか』という問いについて考えると、怖くなったんです。そこで逃げた、というのが正直なところですね(笑)」

そうして飛び出した海外では、「お客さま的な観光ではない何かがしたい」という気持ちと金銭的な問題から、たくさんのNGOの活動に参加した。

地震に遭い、家族と家をなくしてしまった孤独なお年寄りに寄り添ったり、時間の感覚がないアフリカ大陸を旅したり、インドでリアルな人間の生と死に触れたり…。「世界」という学校で、貧困や紛争、環境破壊といったさまざまな問題と向き合う中で、「なんでこんなことが世界で起きるのか」とショックや憤りを感じ「世界をもっと良くしたい」と考えるようになったという。

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世界各地で地域づくりなどの活動に参加してきた岩本さん(写真右から3人目)。写真はバングラデシュにて

「強烈な体験によって、自分の中で『もっと世界を良くしたい。それには教育が重要だ』という軸ができたんです。それからは、大学の授業も全く違って見えましたね。ものすごく面白いんですよ。この流学体験によって僕は『人は変われるし、その人のポジティブな変化が周りにもいい影響を与える』ということを実感することができました」

「辺境」から生まれたイノベーション。全国展開の鍵は「チームワーク」

学生時代の流学体験が生きていく上での原点となり、海士町で理想の「教育」の形を実現した岩本さん。その道のりは、決して平坦なものではなかった。

「僕が海士町を訪れたのは2006年ですが、当初は会議室で論理的に説明をすれば分かってもらえると考えていました。でもなかなか協力を得られなくって…。そこで一度、成果を焦る気持ちを抑えて、しっかり島の人たちと向き合おうと考えました」

それからは島民たちと一緒に食事をしたり、話を聞いたりするうちに、お互いがどんな人間か理解でき、同じ目標に向けて走っていこうという気持ちになることができた。その経験から岩本さんは、一方的に「こうした方がいい」と説得できたとしても深いレベルでの変革はありえない、ワンマンなやり方ではなく、みんなと混ざり合い、目標を成し遂げる姿勢が大切なのだと学んだという。

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島根県海士町での成功事例を全国に展開する岩本さん

現在取り組んでいる全国展開について、その鍵は「チームづくり」にあるという。取り組みを行っている各地域が好事例を共有し合うことで、それぞれの地域が抱える課題を解決に導いている。

「変革が個人の力によるもので終わってしまうと、その人がいなければ成功しても長くは続きません。でも、チームの力によるものになれば、人の入れ替わりがあってもイノベーションを生み続けることができます。そしてそのために大切なのが、『I』ではなく『WE』で物事を語り合うことなのです」

そして良いチームをつくる上で重要になるのが「コーディネーション力」。いかに関わる全員にとってメリットがある「三方良し」の調整ができるかが重要になる。

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2016年、日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムにて。岩本さん(写真手前)とチームメンバーたち

この能力を可視化することは難しいが、「良いコーディネーター」の資質を分析し、さまざまな地域に展開しようと岩本さんは考えている。

「島根県で『地域みらい留学』が成功したので、そこから全国に向けてロールモデルをスケールアウト中です。2020年までに、全国100の地域にある100の学校に100のチームをつくり、相互に支え合い、学び合うコミュニティをつくることができたらと動いています。そして各地域からソーシャルイノベーションを起こせる若者を多く輩出できたらと思っています」

写真:「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」で登壇した高校生たち
2018年に開催した日本財団主催の「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」にて。高校生たちの発表をもとに日本における若者の社会参画についてディスカッションを展開した

最後に、自分の殻を破りたい若者に向けて岩本さんからエールの言葉をいただいた。

「僕は人が飛躍的な成長をするには3つの要素が大切になってくると考えます。それは『逆境、熱狂、越境』です。『逆境』は、それを乗り越えた先に大きな成長が待っていますし、たとえ途中で逃げてもどこかの時点で成長のバネになります。やりたいことに没頭する『熱狂』は、自分の好きを突き詰めれば突き詰めるほど、社会の中で尖った存在になれますよね。また、中には、自分が何をやりたいのか分からずに悩んでいる人も多いと思います。そんな人に勧めるのが『越境』です。これは言葉の通り、自分のセーフティゾーンを飛び出してみること。もし、今の自分を少しでも変えたいと思っているなら、3つの要素を意識して行動してみてください」

学校で習う歴史や英語などの教科はもちろん大切だ。しかし「学び」とは、自分が何かしらの問題の中に飛び込んでいき、そこで何を感じ、気付き、行動したかというリアルな体験の中で加速化されるものなのだと、岩本さんの話を聞いて感じた。

学校の外に広がるのは、答えのない世界である。多様な価値観や情報が行き交う現代社会では、その傾向はさらに強くなる。そんな世界で大切なのは、多様性やチームを生かして、社会の抱える問題や自分が理想とする未来に対して、積極的に取り組んでいける姿勢なのかもしれない。

撮影: 新澤 遥

〈プロフィール〉

岩本 悠(いわもと ゆう)

一般財団法人「地域・教育魅力化プラットフォーム」共同代表。1979年、東京生まれ。大学を休学して2000年から1年間、アジア・アフリカ・オセアニアを流学し、20カ国でNGOや国連などを周る。帰国後は、その体験学習記『流学日記』を出版し、印税でアフガニスタンに学校を建設。2007年からは、島根県の離島・海士町で隠岐島前高校を中心とする人づくりと街づくりに取り組み、2015年より島根県教育庁と島根県地域振興部において、魅力ある教育による地域創生に従事。2016年の日本財団ソーシャルイノベーションフォーラムで最優秀賞を受賞。
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