日本財団ジャーナル

【「18歳」シャカイ創りのヒント】「高校生」が日本の「若者」について考えた。必要なのは「失敗しても大丈夫」と言える支え(特集第2回)

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18歳意識調査「国や社会に対する意識」の結果について対話をする高校生たち
この記事のPOINT!
  • 日本財団の調査で、日本の若者が他国に比べて国や社会に対する意識が低いという結果が出た
  • 日本社会の「失敗してはいけない」という風潮が、若者の考えや行動に抑制をかけてしまう
  • 若者には、主体的に考え、取り組むきっかけと、「失敗しても大丈夫」と言える社会の支えが必要

取材:日本財団ジャーナル編集部

日本財団が2019年9月下旬から10月上旬にかけて行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別ウィンドウで開く)では、他国(インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツ)の若者に比べて、日本の若者の国や自身の将来に対するネガティブな回答に世間が驚いた。

自分の国の将来について「良くなる」と答えた日本の若者はわずか9.8パーセントと、トップの中国(96.2パーセント)の10分の1。また、「自分で国や社会を変えられると思う」若者は5人に1人と、残る8カ国で最も低い韓国の半数にも満たなかった。

今特集では、18歳意識調査「国や社会に対する意識」の結果を深掘りし、若者たちが希望の持てる未来社会を築くためのヒントを探る。

第2回に登場するのは、前回(別ウィンドウで開く)取材した東京学芸大学附属国際中等教育学校(別ウィンドウで開く)の藤木正史(ふじき・まさし)先生の下で、「国際協力・社会貢献」について学ぶ6年生(※)の生徒たち。まさに当事者である彼女・彼らに調査結果の背景にある理由について話し合ってもらった。

  • 東京学芸大学附属国際中等教育学校では中高一貫教育の6年制を採用

ネガティブな回答の裏側にあるもの

東京・大泉学園(練馬区)にある東京学芸大学附属国際中等教育学校は、その名の通り多くの帰国生が通う国際色豊かな学校で、卒業後は海外大学への進学者も少なくない。

今回取材でお邪魔したのは、「国際協力と社会貢献」という藤木先生が受け持つ授業。「生徒自身が授業をつくる」ことが特徴で、関心のあるテーマを自分たちで掲げて「議論」ではなく「対話」を重ねながら学びを深める。

始業のチャイムが鳴り教室に入ってきた生徒たちは、お互いの顔を見ながら話ができるように、自ら椅子をサークル状に並べていく。今回ファシリテーターを務める生徒が、ホワイトボードにテーマを書く。

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授業前に今回のテーマについて語る藤木先生

「18歳意識調査 〜私たちのリアル〜」

日本財団が行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」の結果を題材に、日本の若者になぜネガティブな回答が目立ったのか、その原因について自分が思うこと、感じることを自由に述べ合いながら探究を深めていくのが目的だ。

「海外では社会課題を扱った授業もあるし、課題の存在を身近に感じていました。日本だと、そもそも今どんな課題があるかを知る機会が少ない気がする。この学校でも取り上げるのは、この授業くらい」

そう話すのは帰国生の生徒。他にも、小学生の頃から受験を経験してきた生徒からは「小さいうちから学力でふるいにかけられる日本の教育は、セルフイメージ(自分自身の価値)が低くなりそう」といった意見も。

「回答には、謙虚さを重んじる日本文化が影響している気がします。例えば海外では、『おはよう』『こんにちは』など簡単な挨拶ができるだけで『日本語が話せる!』と言う人も多いけど、日本は“ちゃんと”会話ができないと『英語が話せない』と言う人が多い。自分の欠けている部分に目を向けがちというか」

写真:手を上げて発言する高校生
自由な雰囲気の中で行われた授業の様子

ここで出てきた「ちゃんと」というキーワードから、話がさらに盛り上がる。

「この『ちゃんと』という言葉があることで、『ちゃんとやらなくてはいけない』と、何かにチャレンジすることへのハードルが上がりそう。完璧にやる必要なんてないのに」

「もっと自分ができることに目を向けてもいいのでは?」

「国の役に立ちたくないのではなく、自分は役に立てないと思っている人が多そう」

生徒たちから湯水のように意見が出てくる。思ったことを素直に発言し、心に何かひっかかることがでてきたら、それをみんなで共有し深掘りしていく。はじめから「ちゃんと」した意見なんてする必要はない。気軽に意見を交換し合うプロセスこそ、問題を自分事化する上で大切なのだと感じた。

中には、調査自体を異なる観点から見る生徒も。

「回答の上位にある国は発展途上国というか、いま勢いのある国が多いですよね。きっと日本もバブル時代だったら上位に来ていたと思うし、その国の置かれている経済状況によっても回答が変わってくると思う」

「『国や社会を変えられる』という質問だと、日本なら政治や法律といったとても大きな問題を変えられる?と受け取る若者が多いと思います」

「他の国の若者には、どのように訳して質問したんだろう。訳し方のニュアンスによっても受け取り方が変わってくるような気がする」

鋭い視点だ。実に面白い。対話を聴きながら、若者たちの柔軟な思考にポテンシャルの高さを感じた。

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思ったことがあれば、気負うことなく話す生徒たち

「失敗しづらい社会」は「挑戦しづらい社会」

「国や社会って、言ってみれば自分の周りの環境ってことですよね。それなら、自分たちでも変えることができると思う」

そう話すのは、IT企業にインターンシップとして参加する生徒。

「ボランティアも社会を変える行動の一つだと思います。ただ日本では、やりたいと思っても行動に移すこと自体のハードルが高い気がする」

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「国や社会」とは、一体何を指すのかについて語り合う生徒たち

他の生徒からは「日本は、『出る杭は打たれる』といったことわざがあるように、何かに突出することや目立つこと、そして失敗することはいけないこと、恥ずかしいことといった風潮が強いと感じます」という意見も。

それに対しIT企業で働く生徒は、「うまくいかないことがあったときにそこから先に進めるかどうかは、過去の成功体験の有無や、周囲の人たちの反応にもよるんじゃないかな。僕の場合は、会社の社長が『失敗しても責任は自分が取るから』と言ってくれるのが、とても心強いですね」と、自身の経験を踏まえ答える。

他にも、日本の若者が国や社会を変えられないと思っている背景に、「社会で起こっていることって、そのプロセスが見えないケースが多いじゃないですか。それって、そもそも大人たちが若者に対し社会を変えられる力がないって思っているから、見えないようにしているのかな」「政治に問題があると思う。日本の政治家はみんなちゃんとした大学を出た高齢の人ばかり。もっと若い人や多様なバックグラウンドを持った人がいてもいいと思う」といった意見も出た。

一方で、「私は、国は変えられないと思ってしまいます。失敗した後のことを考えちゃうし」という生徒もいた。それに対し「分かる!」と賛同する声や、「だからこそ、失敗してもリスクが少ない学生のうちが失敗するチャンス」と話が進んでいくのが、この授業の面白いところだ。

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生徒たちから出る意見を、グラフィックレコーディングを活用してホワイトボードにまとめるファシリテーター

みんなの口からよく出た「失敗」というキーワード。確かに、日本には「失敗してはいけない」という風潮があるように思う。失敗が許されない社会では、変革も起こりにくいのではないだろうか。失敗はしないけどチャレンジしづらい社会と、失敗することを前提にチャレンジしやすい社会。どちらが、これから未来をつくる若者たちにとって生きやすいのだろうか。

小さなチャレンジと失敗を続けていくこと

「今の日本が失敗しづらい社会なら、それを変えるために、自分に何ができるか」

その問いに対し、「だったら、自分たちの代から失敗を披露して、そこから何を学び、いまにつなげたのか、後輩たちに語っていくようにすればいい」という声が多数上がった。

「4年生の1学期、ある教科で1を取ってしまった。それで本気で勉強しなきゃと、その失敗から学ぶことができた」

「生徒会の活動で購買部をつくろうとして失敗して、その時は無力感を感じたんだけど、その失敗を通してなぜ購買部をつくることが難しいのか学ぶことができたのは良かった」

生徒たちは過去の失敗談を笑顔で披露する。教室は、たくさんの笑い声であふれた。こんなふうに、大人たちが自分の失敗談を惜しげもなく聞かせてくれたら、どれだけ多くの若者に勇気を与えるだろう。

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授業後にはクラスメイトの意見でいっぱいになったホワイトボード
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ホワイトボードに書かれた「失敗してもいいよ」と支えてくれる人の重要性

後日、生徒たちによる今回の授業の振り返りを、藤木先生に共有いただいた。

「自身の考え方に大きな変化をもたらしたのは、『社会を変える』という解釈の多様性でした。これまで社会を変えるということは、政治や教育といった社会全体に大きな変革をもたらすことを想像し、自分一人の力で社会を変えるなんて不可能だと感じていました。しかし、授業を通して身の回りの小さな変化(あるいは自分自身の変化)も社会を変えることにつながるのだと考えるようになりました」

「『社会を変える』という言葉には、目の前の人を喜ばせる、地域を少しでも賑やかにする、あるいは政治の側面から抜本的な改革を行うなど、さまざまな捉え方があることが分かりました。そして、自分自身が何となく抱いている『社会を変える』というイメージを自覚することにもつながりました。『社会を変える』ということは『自分が興味のある分野において、自分の価値観を発信することから始まるミクロやマクロな変化』と、自分自身が捉えていることに気付くことができました」

「今回得られた気付きは『失敗すること』の大切さです。自分で何かを成し遂げるためには失敗を恐れないこと、失敗を恐れないようになるためには失敗を重ねることが必要だと感じました。失敗を気にせずチャレンジできる機会や環境を与えてもらえれば、日本の若者も国や社会を変えられる自信が持てるのかなと思います。また『社会を変える』のは身近なことでも良い、どんなささいなことでも自信を持って発信することが、一歩踏み出すのに大切なんだと思いました」

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授業の最後に生徒たちに感じたことを述べる藤木先生(写真最後尾)

「『自分の国の将来が良くなる』と考えている人が多い国は発展途上国という意見があり、ある程度社会が安定している先進国だからこその課題があることに気付きました。しかし、そのような課題も少し視点を変えるだけで、明るい未来が見えてくる。課題を『仕方がない』と思って終わるのではなく、『じゃあ私たちはそれをどう乗り越えていくのか』と考えることが大切なんだと思います。『失敗』というネガティブなことを乗り越えるきっかけは、未来のポテンシャルを見ることができる想像力だと、私は思いました」

「僕は以前の自分が好きではありませんでした。何かと理由を付けては、行動を起こすことから逃げている自分が嫌いでした。ただ、それは授業を通して間違いだと気付きました。人間誰しもそんな時期があって、葛藤する時期があるのだと思います。それを後押しする環境が大切なんだと思います。自分自身が先輩に背中を押してもらい、支えてもらったように、僕自身も後輩たちにそうしてあげるべき。そうすれば、後輩たちがまた次へとつないでくれるはずです」

「Shoot for the moon. Even if you miss, you’ll land among the stars.」(夢やゴールは大きなものを狙おう。たとえ失敗したとしても、どこかにはたどり着くから)

海外にはこんなことわざがある。何も行動を起こさなければ、見える景色は永遠に変わらない。

これから未来を創っていく若者たちには、主体的に物事を考え取り組むきっかけづくりと、失敗を恐れず行動できる環境づくりが必要なのだと、生徒たちの対話を通して感じた。そしてそこに、若者たちに寄り添い後押しする大人たちの支えがあれば、国や社会は変えられるのかもしれない。

撮影:佐藤潮

特集【「18歳」シャカイ創りのヒント】