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【「18歳」シャカイ創りのヒント】新型コロナで書き換えられた世界。若者たちに「もっと叫んでいい」と言える社会が未来を変える
- 日本財団の調査で、日本の若者が他国に比べて国や社会に対する意識が低いという結果が出た
- 国や社会を良くできるかは一人一人の想いやビジョンにかかっている。鍵を握るのは、夢や目標を持った若者の力
- 若者たちの声に耳を傾け、行動を後押しする社会の支えがあれば、より良い世界に書き換えられるはず
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本財団が、日本を含む9カ国の若者(17〜19歳)を対象に行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別ウィンドウで開く)。その中で、「自分で国や社会を変えられる」という問いに対し、イエスと答えた日本の若者は18パーセントと、約5人に1人しかいなかった。残る8カ国で最も低い韓国の半数以下の数字である。
今特集では、18歳意識調査「国や社会に対する意識」の結果を深掘りし、若者たちが希望の持てる未来社会を築くためのヒントを探る。
今回は、本来なら東京2020オリンピックの開会式が行われるはずだった2020年7月24日に開催されたオンラインイベント「Hack The World #もっと叫んでいい」開会式(別ウィンドウで開く)の模様をお届けする。新型コロナウイルスにより世界の多くの風景が書き換えられている今、自らのビジョンでより良い未来を切り開こうとする若者たちの姿に迫った。
消えてしまったオリンピック。今、何をするべきか
「新型コロナウイルスによる影響で、世界はとても深刻な状態にあります。4月には、アメリカで新型コロナウイルスによる1日の死者数が700人(2分間に1人が死亡した計算)を突破し、その脅威は今も続いていますが、実はそれ以前に世界では、2分に1人がマラリアで、21秒に1人がワクチンで治療できる病気で命を落としています。今回のコロナでは、そういった発展途上国の健康問題について考えるきっかけになるのではないでしょうか?」
そう語るのは、オープニングの主催者セッションに出演した、イベント協賛社であるビル&メリンダ・ゲイツ財団(別ウィンドウで開く)日本常駐代表の柏倉美保子(かしわくら・みほこ)さん。ビル&メリンダ・ゲイツ財団は、マイクロソフト元会長のビル・ゲイツと妻メリンダによって創設された世界最大の慈善基金団体で、グローバル・ヘルス(※)を推進し、途上国をはじめとする世界中の国々で、人々に健康的かつ豊かな生活を送るための支援を行なっている。
- ※ 地球規模で人々の健康に影響を与えるため、その解決に国際的な連携が必要とされる課題(貧困・感染症など)のこと
「今の世界を良くできるか、社会を良くできるかは、一人一人の想いやビジョンにかかっています。特に私たちが期待しているのは夢や目標を持った次の世代の若者たち。その胸に抱く想いをこのイベントで叫んで、未来を書き換えてほしい」
小さなことでもいいから、Hack The Worldをアクションを起こすためのきっかけにしてほしいと、柏倉さんは視聴者に呼び掛けた。
Hack The Worldは、新型コロナウイルスによって書き換えらえた世界の風景を、若い世代に向けて「自分たちが世界の在り方を次々に『HACK=書き換えてみよう』という思考実験」を行うプロジェクト。Z世代(※)を中心とした若者たちとNPO法人「ETIC.」(別ウィンドウで開く)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、NHKエンタープライズ、Forbes JAPANが協働して進めている。その皮切りとなったのが、このHack The World開会式である。
- ※ 1990年代中盤(または2000年代序盤)以降に生まれた世代
Hack The Worldの仕掛け人であり、実践型インターンシップや起業支援プログラムを通して未来をつくる人材の育成活動に取り組むETIC.代表の宮城治男(みやぎ・はるお)さんは、世界を変えるための「若者の力」の大切さを主張する。
「今回は、“Vision Hacker(ビジョン・ハッカー)”つまり、“自らのビジョンで現在や未来の世界の風景を書き換えようとする若者たち”の活動に焦点を当てていきたいと思います。このオリンピックの開会式が行われるはずだった今日が、新型コロナウイルスによって書き換えられた社会をハックし返す出発点です」
世界をHackする、Vision Hackerたちの「叫び」
Hack The World開会式のパーソナリティを務めるのは、ギタリストや役者としてワールドワイドに活躍し、UNHCR(※)親善大使も務めるアーティストのMIYAVI(ミヤビ)さん。彼と、世界中でアクションを起こしているVision Hackerたちのトークセッションを中心にイベントは展開していく。
- ※ 国連難民高等弁務官事務所(The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)の略称で、1950年に設立された国連の難民支援機関
ガーナを拠点にアフリカで穀物農家の生産・経営支援を行なっている農業商社スタートアップ「Degas」代表の牧浦土雅(まきうら・どが)さん。
「ここ30年間で世界の貧困層は20億人から8億人に減っています。ですが、サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠よりも南の地域)の貧困率は下がっていないんです。そしてその7割近くに当たるのが、農業従事者。多くの民族がいるため言語の問題から搾取が発生したり、そもそも農業についての正しい知識を有していないケースが多かったり、貧困から抜け出しにくい状況にあります」
牧浦さんは現地の農業従事者に対し、農作物の栽培のサポートから、作物を買い取っての流通、銀行的な役割としてお金を貸し出すビジネスなども展開し、所得向上の仕組みづくりに取り組んでいる。
「2011年まで東アフリカのルワンダに住んでいました。その後、イギリスでの留学を経て2018年に戻ってきたとき、(貧困に苦しむ)現状が何も変わっていないと感じ、それなら自分が変えようと踏み切ることにしました。農業従事者の所得レベルをある程度の水準まで上げることで、子どもを学校に通わせよう、穀物だけでなく野菜を育ててみよう、新しいビジネスに挑戦してみようといった、スターティングポイントに立てると思うので、そこまで現地の人たちがたどり着ける仕組みをつくるのが私のビジョンです」
今後は、ナイジェリア、タンザニア、ケニアと、ガーナから周辺諸国にも活動を広げていきたいと意気込みを語った。
一般社団法人「inochi未来プロジェクト」(別ウィンドウで開く)で理事を務める寺本将行(てらもと・まさゆき)さんは、普段は医者として働きながら、病院の外で命を守る活動も行っている。
「『inochi未来プロジェクト』は、医療関係者だけではなく、企業や行政、市民といった社会を構成するみんなで命の大切さについて考え、誰かの命を救うためにみんなできる一歩を踏み出そうという取り組みです。その中で、今私が特に力を入れているのは、若者を中心とする医療従事者の支援です」
新型コロナウイルスによる厳しい状況下で、寺本さんが立ち上げたのが、これからの医療を担う「未来の医療従事者」を支援する「生きるための交換日記」(別ウィンドウ)というプロジェクト。医療従事者の卵たち1,000人以上の、夢や、新型コロナ禍における「生きる意味」などの思いを綴った日記を、WEBサイトや高校での授業を通して集めていく。そして、それを読んだ現役の医療従事者や社会の大人たちが応援の声を記入して返すという「社会との交換日記」とも言うべき仕組みとなる。
「医療従事者を目指す彼ら・彼女らがその目標を実現するためには、これからいろんな困難を乗り越えて行かなければいけません。そんな時に背中を押してくれる、お守りになるようなメッセージを届けられればと考えています」
世界一危険とも言われるアフリカのソマリアで、テロ撲滅と紛争解決に挑んでいるNPO法人「アクセプト・インターナショナル」(別ウィンドウで開く)代表の永井陽右(ながい・ようすけ)さん。
「世界的にテロ行為は年々増加の傾向にあります。各国ではこれを空爆など武力的な行為で解決しようとしていますが、それでは憎しみの連鎖が増えるだけです」
「比類なき人類の悲劇」と形容されていたソマリア。「内戦や治安の悪さから緊急支援を行うNGOですら撤退せざるを得ない凄まじい場所でしたが、どうしても目を背けることができなかった」と語る永井さん。2011年9月に日本ソマリア青年機構を立ち上げて2017年にはNPO化。降参した若いテロリストたちを中心に、対話を通し社会に「受け入れる(アクセプト)」ことで、テロや紛争を無くそうと取り組んでいる。
「元テロリストには10代、20代の若者が非常に多いのですが、彼らが暴力をしたいのかというと決してそうではありません。テロリストになる背景には複雑な問題が絡んでいます。世界的には若者の力を支援しようといった流れがありますが、彼らだけが取り残されている現状に問題意識を抱えています」
永井さんは、ソマリアをはじめ、ケニアやインドネシアのテロリスト専用刑務所に赴き、若いテロリストたちと真剣に向き合い、彼らの夢に耳を傾ける。
「現地では、宗教再教育や刑務所の中の規律を重んじる生活でさらに過激化してしまうケースもあるんです。私が日本から来た部外者としての立場で、彼らの未来を一緒に考えることで、過去のしがらみを少しでも解いていくことができればと考えています」
ここで、同じく「命を守る」活動をする寺本さんがトークセッションに参加。病院の外で活動する永井さんの行動に、寺本さんは「素晴らしい」と称賛する。
「人体としての人と、社会としての人の両面から命を守る必要があると感じています。永井さんの活動は、社会を変えることで命を守っていると感じました」
それに対し、永井さんも以前は医者を志していたことを打ち明ける。「途中から医者の人たちにできない分野でベストを尽くしたいと考えるようになりました。『ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ』(※)という言葉がありますが、その中にテロリストの命は入っていないことが多い。だけど、僕は全ての人のための言葉だと思っています」と語った。
- ※ 全ての人及び全ての地域社会が、財政の困難に遭うことなく必要な医療保険サービスを受けられること
今回生まれたこのつながりがどのような相乗効果を生み発展していくのか、期待せずにはいられない。
この他にも、最も多い死因が「けが」というネパールでグローバル・へルスの普及に努める東京医科歯科大学の石井佑充(いしい・ゆうま)さん、高校生向けキャリア教育合宿を主宰し、全国の高校生たちに会いに行き彼らの夢を応援する「にゃんます大作戦」(別ウィンドウで開く)などの活動を行っている東京大学教育学部の増子彩夏(ますこ・あやか)さん、難民などスキルはあるのに自分を証明する手段を持たない人に対しブロックチェーン技術を活用して「スキル証明書」を発行する活動を行う安田クリスチーナさんなど、たくさんのVision Hackerが登場し、自身の活動を紹介すると共にイベントを視聴する若者に向けてメッセージを送った。
小さくても一歩を踏み出すことで世界は書き換えられる
MIYAVIさんとVision Hackerたちのトークセッションの合間には、視聴者参加のプログラムも展開。中高生たちの活動を支援する一般社団法人「ウィルドア」(別ウィンドウで開く)・代表の竹田和広(たけだ・かずひろ)さんと「Qulii(キュリー)」(別ウィンドウで開く)株式会社・代表の王昌宇(おう・しょう)さんが主催するオンラインパブリックビューイングに参加した中高生たちも、画面を通していま自分がやりたいこと、世の中に伝えたいことを目一杯叫んだ。
「コロナでダメになったことがたくさんある。だからこそ見えるものがあると思うんです。だから、世の中のことをいっぱい見て、いっぱい感じて、いっぱい叫びたい!」
「中高生が環境問題を意識し行動する、ムーブメントを起こすための学生コンテストを開催しているんですけど、大成功させたいです」
「コロナで修学旅行や海外研修、留学の機会を無くした若者に、オンラインで同じ体験をできるイベントを主催しています。今いる場所で、最高の思い出と青春を皆さんに届けたい」
中高生たちの中には、自分のやりたいことに対し行動を起こしている若者も多い。そんな熱い想いに対し、MIYAVIさんはこれまでの自分の経験を踏まえ、応援の言葉を贈った。
その他にも、MIYAVIさんと男子元陸上競技選手で現在はスポーツコメンテーター・タレントなど幅広く活動する為末大(ためすえ・だい)さん、夢を叶えるライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」(別ウィンドウで開く)を運営する実業家の前田裕二(まえだ・ゆうじ)さんといったゲストとのトークや、日本が誇る歌姫・ AIさんからビデオレターが届くなど、終わってみれば当初3時間半の予定が4時間半を超える大きな盛り上がりを見せたHack The World開会式。今後は、若者を対象としたさまざまなアクションプログラムが実施される予定で、その中には中高生を対象としたプログラムも用意されている。
Hack The Worldと連動して開設された特設サイト(別ウィンドウで開く)には、「#もっと叫んでいい」「#自分の住んでいる都道府県」の2つのハッシュタグを付けて自分の想いや目標といった“叫び”をTwitterやInstagramに投稿すると、ギャラリーとして反映される仕組みになっている。
「どんなにつらくても頑張ろう。諦めないでいよう。人としてまだまだな私だけれど、頑張って来たから、こうしてツイートできてる。出会いに感謝です」
「たまに、命について語る時がある。その時に『重い』と言われることが度々ある。重くていいです。命を軽く見るのは好きじゃないです。私の体重と想いはめっちゃ重い!悪いかー!」
「『普通』という言葉に苦しまない社会にしていきたい。一人一人違って当たり前だし、やりたいことも違っていい。そして苦しんでる人がいたら、その人を無視しない少しばかりの優しさを持てるように」
特設サイトには、イベント終了後もたくさんの感想や思い思いの決意が届いており、中には元オリンピック金メダリストをはじめアスリートからもたくさんの「叫び」 が多数寄せられている。
Vision Hackerやアスリートたちのような大きなビジョンを持つ者が特別な存在かといえば、決してそうではない。国や社会を良くするために「自分には何かできるかもしれない」と思えるものを見つけて、小さくても一歩を踏み出すことができれば、それはもう世界を書き換えることにつながるのだ。
そのためには、このHack The Worldように、多くの若者たちの「叫び」に耳を傾け、その行動を後押しする「場」や、社会の支えが重要なのだと感じた。
Hack the World #もっと叫んでいい YouTube公式サイト(別ウィンドウで開く)
特集【「18歳」シャカイ創りのヒント】
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