日本財団ジャーナル

【「18歳」シャカイ創りのヒント】世界の風景を若者の手で書き換える「Hack The World」プロジェクト。鍵を握るのは「関わり合い」(特集第4回)

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Hack The Worldの仕掛け人たち
この記事のPOINT!
  • 「自分で国や社会を変えられる」と思っている日本の若者は5人に1人と、他国と比べて圧倒的に低い
  • 問題視すべきは、若者たちの意識の低さではなく、自己肯定感が育ちづらい日本社会の在り方
  • 若者たちが自分の手で未来を切り開くためには、互いに語り合える場や、大人たちとの関わり合いが重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

18.3パーセント。これは、日本財団が日本を含む9カ国の若者を対象に行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別ウィンドウで開く)の中で、「自分で国や社会を変えられる」という問いに対しイエスと答えた日本の若者の割合だ。約5人に1人の若者しかいないことになる。

この調査結果を深掘りし、若者たちが希望の持てる未来社会を築くためのヒントを探る今特集。第4回は、前回(別ウィンドウで開く) の記事で取り上げたオンラインイベント「Hack The World #もっと叫んでいい」開会式(別ウィンドウで開く)を主催した特定非営利活動法人「ETIC.(エティック)」(別ウィンドウで開く)のオフィスに訪問。自らの力で世界の風景を書き換えようとする若者たちの活動に焦点を当て、多くの視聴者に笑顔と勇気を与えた同イベントの仕掛け人たちに、制作の裏側を伺うと共に、若者を支援する活動の最前線に迫った。

18.3パーセントという数字の裏にある「自己限定」

「18.3パーセントという数字には正直驚きました」

そう語るのは、企業へのインターンシップなどを通じて若者の社会参加を支援するETIC.の山崎光彦(やまざき・みつひこ)さん。

「どの国の若者も持っているポテンシャルに差異はないと思います。では、なぜ日本だけこんなに低い数字になるのか。その原因は、若者を取り巻く環境の方にあるんじゃないかと考えました」

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ETIC.でオリンピック関連のプロジェクトを手掛ける山崎さん(写真左)

日本には「どうせ自分なんか…」と自己評価が低く、自身の可能性を限定してしまっている若者が多いのではないか、と話すのは、同じETIC.のメンバーで、Hack The Worldのディレクターを務める赤尾紀明(あかお・のりあき)さんだ。

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Hack The Worldを牽引するETIC.の赤尾さん

「日本の子どもや若者たちが『何かをしたい』といったときに、それを周囲が応援するといった環境がまだまだ整っていない。その結果、自分で自分の可能性を限定してしまう若者が多くいるように思います」

18.3パーセントという数字を受けて問題視するのは、若者たちの意識の低さではなく、「自己肯定感」や「自己有用感」が育ちづらい、若者を取り巻く日本社会の在り方ではないかと指摘する。

必要なのは、自分の思いを表現するための「場」

では、若者が自分の可能性を信じて未来を切り開くために、私たちに何ができるのだろう。この問いは、ETIC.の設立理由とも関係する。

「私たちETIC.は、自分の人生に対して能動的に行動する若者、言うなればアントレプレナーシップ(起業家精神)を持った若者を増やし、1人でも多く自分らしい人生を歩んでほしいといった思いで、1993年に立ち上げました」

そう話す山崎さんたちの思いが込められた最前線の活動の1つがHack The World。新型コロナウイルスによって書き換えらえた世界の風景を、若い世代に向けて「自分たちが世界の在り方を次々に『HACK=書き換えてみよう』という思考実験」を行うプロジェクトだ。Z世代(※)を中心とした若者たちとETIC.、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、NHKエンタープライズ、Forbes JAPANが協働して進めている。

  • 1990年代中盤(または2000年代序盤)以降に生まれた世代

そして、その皮切りとなったのが、2020年7月24日に開催したオンラインイベントHack The World開会式である。すでに、世界中でアクションを起こしている若者たちのトークセッションを中心にイベントは展開された。

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アフリカで穀物農家の生産・経営支援を行なっている牧浦土雅(まきうら・どが)さん(写真左端)
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アフリカのソマリアで、テロ撲滅と紛争解決に挑んでいる永井陽右(ながい・ようすけ)さん(写真左端)

「開会式のサブタイトルは『#もっと叫んでいい』と名付けました。参加する一人一人に『自分が叫びたいこと、大切にしたいこと、心から願っていること』について考えるきっかけになればと付けました」

もともとは、東京で限られた人たちだけが参加できるオフラインのイベントとして開催する予定だったと山崎さんは言う。しかし、新型コロナウイルスの影響下でYouTube LIVEでの配信イベントへと移行したことで、誰もが自由な形で視聴、参加できるようになった。

「結果的に10代、20代を中心に数千人の方々に視聴していただけて良かったと思います」

Hack The Worldと連動して開設された特設サイト(別ウィンドウで開く)には、視聴者からの感想や決意といった「叫び」が数多く寄せられている。

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Hack The World 開会式の様子を振り返る仕掛け人たち

Hack The World開会式において、4時間半という長時間のパーソナリティを務めた、ギタリストや役者としてワールドワイドに活躍するアーティストのMIYAVI(ミヤビ)さんについては、「もともと、アーティスト活動と合わせて、UNHCR(※)の親善大使も務めるすごい方だと構えていましたが、当日は若者たちの話にパッションを持って受け止めていただき、司会をお願いして大正解でした」と赤尾さんも続く。

  • 国連難民高等弁務官事務所(The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees)の略称で、1950年に設立された国連の難民支援機関
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Hack The World開会式で4時間半にわたってパーソナリティを務めた、世界的アーティストのMIYAVIさん

「MIYAVIさんのような大人が、自分たちのやりたいことに耳を傾けて応援してくれたり、すでに世界的に活動している若者とそうでない若者が対等に夢を語り合える『場』は、若者の可能性を大きく引き出し、伸ばしてくれると実感しました」

Hack The World開会式を終えて企む次なるアクション

Hack The Worldのコンセプトは、若者が世界の風景を自分たちの手で書き換えること。

開会式で視聴者参加のプログラムを企画し、普段は中高生たちの活動支援を行う一般社団法人「ウィルドア」(別ウィンドウで開く)・代表の竹田和広(たけだ・かずひろ)さんと「Qulii(キュリー)」(別ウィンドウで開く)株式会社・代表の王昌宇(おう・しょう)さんによると、若者たちによる新しいプロジェクトがスタートしているという。その1つが「オンライン修学旅行」だ。

「若者たちにとって、修学旅行とはとても大きな意味を持つもの。その一方、行き先は学校の都合で決められてしまうことも多いのが現状です。今回のコロナでなくなってしまった修学旅行について、『もし高校生自身が修学旅行をつくるなら?』というコンセプトで始まったのが、オンライン修学旅行です」と竹田さん。

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中高生たちの「学びの在り方を変えたい」という竹田さん

竹田さん、王さんの活動に関わる高校生たちが「The Same Sky」(別ウィンドウで開く)という団体を立ち上げ、自分たちの気になる場所や旅のプランを企画し、オンラインで修学旅行を体験。新型コロナ禍の中であっても、最高の青春、最高の思い出をみんなで一緒につくろう!という取り組みとなる。

「彼らの、修学旅行がなくなったからといって残念と諦めるのではなく、自分たちならこの制限のある状況下でどうつくるかを考える姿勢は、本当に素晴らしいと思います」と王さんは語る。

修学旅行の本番実施は、2020年の秋頃を予定。今後の動きが気になるところだ。

高校生たちによる「オンライン修学旅行」の実現をサポートする王さん(写真左端)

そして、もう1つ。東京大学教育学部の増子彩夏(ますこ・あやか)さんが主宰する、踊れないアイドル「にゃます」(増子さん自身)が全国の高校生に会いに行き、ライブ(対話や講演)やオフ会(バーベキューやキャンプファイヤー)を通じて、夢実現を全力で応援する「にゃんます大作戦」(別ウィンドウで開く)も始動中だ。

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北海道・旭川で高校生たちと合宿した時の「にゃんます」こと増子彩夏さん(最前列右から3人目)

増子さんの目標は、夢に向かって突っ走る大人が困ってしまうぐらい元気な高校生をたくさん輩出すること。

「増子さんは、普段は高校生向けのキャリア教育合宿を主宰したりしているのですが、そこに参加するのはやはり意識の高い高校生が多く、もっとたくさんの若者の力になりたいという思いで、自ら全国行脚して会いに行くことに決めました。今はコロナの状況で会いに行くことは難しいですが、オンラインで積極的に活動されています」

赤尾さんは、増子さんのような先輩がいることを多くの高校生たちに知ってほしいと話す。

「子どもや若者たちが、もっと期待される社会を築きたい」と語るHack The Worldの仕掛人たち。その鍵を握るのは、お互いに刺激し合える環境や、彼らの数歩、あるいは数千歩先の人生を歩んできた大人たちとの関わり合いにあるのだと確信した。

撮影:十河英三郎

特集【「18歳」シャカイ創りのヒント】