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【子どもたちに家庭を。】養子縁組は手段の1つ。子どもの成長における「パーマネンシー」の重要性

写真:木々と川を背景に、手を組みながら笑顔を向ける福井さん
福岡で、全ての子どもが「一緒に生きていく家族」と安心して暮らせる社会づくりに邁進する、福岡市こども未来局こども家庭課の福井充さん
この記事のPOINT!
  • 「同じ未来を描ける大人」のもとで育つことは、子どもが将来像を描くための力になる
  • 安全な環境だけでなく、永続的に同じ家族のもとで育つ権利を子どもに保障する必要がある
  • 親子が分離しないことを最優先に、市区町村や児童相談所がどうケースマネジメントを行うかが重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

全ての子どもたちが健やかに育つことを目指した、児童福祉の公的専門機関が「児童相談所」だ。全国に225カ所(2021年4月時点)設けられ、家庭への相談や指導のほか、虐待やネグレクト(育児放棄等)から子どもの安全を守る一時保護など、子どもの権利を守るための総合的な支援を行っている。

2016年の児童福祉法の改正では、児童相談所の業務として「養子縁組に関する相談や支援」が初めて規定され、「社会的養護(※)が必要な子どもは里親や養子縁組などの家庭養育を優先させる」ことも明記された。

  • 保護者がいない、または保護者による養育が難しいと判断された子どもを、公的責任によって養育・保護する仕組み

しかし現在もまだそういった子どもたちの約8割が乳児院や児童養護施設におり、全国の児童相談所における特別養子縁組の成立件数は平均でも年間2件に満たない。

このような状況の中、福岡市では2021年度末の里親委託率が59.3パーセント(2020年度末の全国平均22.8パーセント)、特別養子縁組の成立件数が14件(2019年度の全国平均1.78件)と高い実績を誇っている。

子どもの「パーマネンシー」(ずっと一緒に生きていく家族がいる永続的な養育環境)を重んじる方針を掲げ、支援を主導してきたのは福岡市こども総合相談センター(児童相談所)と、こども未来局こども家庭課(外部リンク)。児童養護施設等で暮らす子どもが家族や親族の家へ早い段階で移るための支援のほか、社会的養護が必要な子どもを生まないための「予防」的な在宅支援として、NPO等の民間団体や大学等の研究機関との協働による支援策の充実と各区役所での相談援助の強化に力を入れ、成果を上げている。

パーマネンシーが子どもの健やかな成長をどう支えるのか、そして社会は子どものパーマネンシーをどう保障していくのか。その中で、予防的な支援や里親、特別養子縁組制度を含む、ソーシャルケアに求められる役割とは?

福岡市こども未来局こども家庭課で、こども福祉係長を務める福井充(ふくい・みつる)さんに話を伺った。

頼れる人がおらず、孤立したまま成長する子どもたち

福井さんのいるこども家庭課の役割は、支援が必要な家庭をサポートする施策を作り、子どもの健康な育ちを支えること。虐待防止の対策やひとり親家庭のサポートのほか、里親制度や児童養護施設なども所管し、福井さんは、子どものソーシャルケア(社会的な支援による養育)のための施策の全市的な開発・推進を担当している。

現在は、子どもが家族と暮らせない状況をつくらない「予防的なソーシャルケア」に力を入れているが、かつては他の自治体や児童相談所の傾向と同様に、施設での保護によって「家族と暮らせない子どもの育ちを中長期的に支える」動きが中心だったという。

なぜ「予防」に舵を切ったのか?

「児童養護施設や里親家庭に長くいる子と関わると、自分の好きなことや得意なことを語ったり、なりたい自分を思い描いて将来の“見通し”を立てたりという“アイデンティティ”に関わる話は、問いかけても出てきづらい傾向が見られました。親元から離れ、小さな頃から施設などのルールや周りに合わせて暮らす生活の中で希望を抱きづらい面もあるでしょう。しかし私たちは、子どもたちがパーマネンシーを喪失していることの影響がある、と考えています」

写真
親元から長く離れてくらす子どもたちが抱える傾向について語る福井さん

多くの人はあまり意識したことがないかもしれないが、「親、もしくは生涯にわたって親代わりになってくれる大人と一緒に暮らす」という経験は、子どもが自分の将来を想像し、組み立てていく大きな助けになっている。「ずっと一緒にいる」という安心感が、心的な結びつきを強くして安定した精神的発達を促すほか、家族への所属感や将来への見通しを高める。

「中には家族と交流を続け、家庭復帰できる子もいます。しかし親子の交流が途切れたまま、自立していく子どもたちも一定数いる。施設や里親家庭にいれば“安全で安心”な暮らしはできるでしょう。でも彼らは成長するにつれ、里親委託がいつかは解除されることや、いま一緒に暮らしている大人が18歳以降もずっと頼れる存在であるわけではないことも分かってきます。そういった環境で、心から安心したり、人を頼ってもいいんだ、という感覚が十分に得られたりしないまま社会に出ると、何かの拍子に孤立してしまう可能性があるんです」

かつて福井さんは生活保護のソーシャルワーカーをしており、乳児院に入って以降、家族とほとんど会ったことがないという青年の担当になったことがあった。

「彼は、日雇いの仕事や路上生活も経験しながら苦労して生き抜いてきたものの、母親の行方も分からず親族とも会ったことがないため、頼れる場所がありませんでした。もっと早い段階でサポートする方法はなかったのだろうか、と切に感じました」

その時の体験が、早期に家族のもとへ戻るための支援や、親族養育・養子縁組などの判断を早めに行う児童相談所での実践、いま取り組む予防的ソーシャルケアの活動のきっかけにもなっているという。

親子が分離する前の予防をした上で、里親・養子縁組がある

子どもの年齢が低いほど、里親家庭でアタッチメント(情緒的な結びつき)を育てたり、家庭経験を積む方法を取る。家庭復帰が難しいと分かれば、親族による養育や、特別養子縁組で新しい家族の関係を結ぶことを検討する。児童福祉法の改正で、家庭養育の優先が原則として明示されたのは先に触れたとおりだ。

しかしパーマネンシーの視点に立つと、養子縁組や里親委託はあくまで手段の1つである、と福井さんは言う。

「かつては福岡市でも、施設や里親家庭に子どもを保護した後の継続的なケースマネジメント(家庭復帰に向けた交流支援や家族支援、その評価に基づく方針見直しなど)はあまり機能していませんでした。しかし、子どもはたとえ会えなくても自分の親を忘れることはありません。期待を裏切られる怖さもあってか、親に会いたいと口にしなくなることが多い。安全・安心な場所にいるからそれでいいのではなく、子ども本人が家族との関係をどうしたいか、家に帰りたいかなどを話し合い、交流が続くよう働きかけていくなど、まずは子どもと親が分離しないようなサポートをし、その結果に応じて親族養育や養子縁組を検討するべきではないか、と考えました」

写真:孤立し、部屋の中で悩む女性
社会的養護を必要とする子どもの親には、地域や人とのつながりに課題を抱えているケースも少なくない。mrmohock/Shutterstock.com

というのも「子どもの養育に困難を抱える親もまた、孤立した状態にあるケースが多い」と福井さんは指摘する。

「身体的な虐待のニュースが注目されますが、子どもを保護するのはネグレクト(不十分な養育、育児放棄等)の場合が多いんです。精神疾患を抱えていたり、被虐待歴があったりと保護者の状態はさまざまですが、その多くはコミュニケーションが不得手だったり、対人不信がある、人を頼れない、他人の手を借りることに負い目を感じている、などの結果、孤立しています。親や親族がいない、いても頼れない、という人も少なくありません。そういった親は、乳児院や児童養護施設、里親宅に子どもを措置してしまうと、気分の浮き沈みや人付き合いの苦しさ、経済的な理由などで自然に交流が減っていきがちです。それを漫然と放置するのではなく、保護者への声かけや励まし、定期的な連絡など、交流を促す働きかけをすることが、家庭復帰できる可能性を高めていきます」

福岡市ではこの問題に着目し、福井さんが中心となって「家庭移行支援係」という専門のチームを児童相談所内に立ち上げ、子どもの家庭復帰、親族による養育への移行、それが難しい場合の方針転換(養子縁組、里親委託)などを進めていった(※)。

そして現在は、親や子どもの置かれている状況を把握し、パーマネンシーの視点から家庭復帰の計画を立て、親へのアプローチや親子交流の促進、親族の調査を行った上で、必要な場合は養子縁組や里親委託の検討などを含め、児童養護施設等と児童相談所が定期的な会議を行っている。

里親委託は直接パーマネンシーを提供するものではないが、家族との交流を続けながら親と同じ方向を向いて里親が子どもを育てていくことができれば、「子どもは親との結びつきを感じながら安定した家庭環境の中で成長・発達し、それが親子関係づくりや家庭復帰につながっていく」と考えている。

「何が親子の交流や家庭復帰を難しくしているのか課題を明らかにして、それを補完できるサポートを探していきます。親による養育が難しいときは、親族を探して子どもや親と交流できないかアプローチを進める。親族とつながることで、親の生活が改善していくケースもある。子どもの一生に関わる問題ですから、より早くパーマネンシーを保障できるあらゆる選択肢を検討し、支援を試みるのがこのチームの役割だと考えています。アメリカでは、パーマネンシー保障のための目標を決めて一定の期間内に支援や判断を行う法律の枠組みやパーマネンシー・プランニングという考え方がありますが、日本ではそれが不十分な中で、実践者の価値観や判断、努力がとても大事になります」

親・親族・養親。子どもと“共通の未来”を描いていける家族がいる環境につなげるための努力を続ける、というメッセージがこのチームの動きから伝わり、施設側・児童相談所側も「親子のつながりを保ち続ける」「親族養育などパーマネンシーにつながる他の選択肢をみつける」「子どもの人生を見通して早めに判断を下す」といった、強いケースマネジメントを意識する方向へ変わってきたという。

また、現場実践から見えてきた家族の支援ニーズを施策に反映する流れも生まれ、市内の社会福祉法人やNPOと協働し、親の孤立を防ぐサポートを充実させている。

妊娠早期の段階から気軽に相談できる24時間妊娠相談(外部リンク)や産前・産後期の母子入所による支援を始めたほか、食材等の提供を兼ねた訪問による見守りや、育児・家事ヘルパーなどの多様な訪問事業、身近な里親家庭での子どもの短期宿泊預かり(ショートステイ)といった在宅家庭の支援などを拡充。家庭移行支援係による実践などで入所児童が減った乳児院や児童養護施設の人材や空間を在宅支援に振り向けて、訪問型・通所型・宿泊型など家庭の状況にあった身近な親子支援の開発も進めており、官民協働でパーマネンシーの推進に努めている。

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子どもと親が分離しないことを重視し、支援することが大切だ。Purino/Shutterstock.com

パーマネンシーを評価する指標があれば、再現性が高まる

福岡市の取り組みがモデルケースとなり、全国の児童相談所の実践や、在宅家庭を支援する国の補助メニューなどにも変化が生まれている。今後、子どものパーマネンシー保障を目指した支援を全国的に広げていくにあたり「市区町村と児童相談所のケースマネジメントが鍵になる」と福井さんは言う。

「児童福祉法の改正により、市区町村が親子を支えるための在宅支援のメニューや相談体制は徐々に充実してきました。大事なのは、家族と十分な援助関係を築くことで、家族の力や必要な支援を丁寧に見立て、ニーズに合った支援をあつらえてタイミングよく届けながら、家族の中で起こる前向きな変化が持続するようなケースマネジメントを行っていくことです。福岡市では、研究者と協働してケースマネジメントを検証し、再現性のあるモデルとして構築できるよう研究を進めています。また、国の統計によると、全国で里親委託されている子どもの約7割が『家族との交流なし』とされています。交流がないということは今のところ家庭復帰が難しいと考えられるので、この7割の中には親族養育や特別養子縁組を検討すべき子どもたちがいるはずです。まずは親との交流が再開できる可能性があるのかアプローチをする。それが難しいと判断したのであれば親族養育や特別養子縁組に移行していく。『今』だけを見ると『里親宅にいるから大丈夫』と捉えがちですが、子どもの一生を見通せば、親子として共に歩んでいく養親のところに行ったほうがいい場合があるはずです。その判断は児童相談所にしかできない役割なんです」

判断を児童相談所任せにせず、実践を評価する指標を国が定め、第三者評価によってパーマネンシーを重んじる実践へと変化させていける可能性もあるという。

「施設や里親に措置した子どもや保護者にどの程度どのようにアプローチをしているか、パーマネンシーに取り組む組織があるか、支援目標を見直す機会は設けているかなどの支援プロセスを測る指標や、施設を退所した子どものうち家庭復帰や親族養育に移った子どもの割合・入所期間などの支援結果を測る指標を作って実践を評価していくことで、地域差を埋めていくことができるのではないでしょうか。現在、早稲田大学の研究所の一員として他県の児童相談所とタッグを組み、実践の改善や指標の設定により、パーマネンシーを保障するケースマネジメントの構築に向けた研究も進めています」

実践・施策・研究(※)をうまく連動させながら、子どもたちを支える身近なソーシャルケアをつくっていくことが、今の福井さんのミッションとなっている。

社会の一人一人にもできることがある、と福井さんは言う。

「親子を支える多様なソーシャルケアを増やすためには、多様な担い手が必要です。福岡市ではNPOの働きかけにより居場所づくりやフードバンクなどの活動に市民の方々が参加されていますが、そうでないと親子を支えきれません。里親や養親になるのはハードルが高くても、誰かの小さな知恵やアイデアが状況を大きく変えていくことがありますから、どうか地域の活動や、NPO・自治体などが発信する課題に関心を持っていただき、気付いたことはどんどん行政にも聞かせていただけるとうれしいですね」

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

福井充(ふくい・みつる)

福岡市生まれ。2008年に北海道大学法学部を卒業後、福岡市こども総合相談センター(児童相談所)などでソーシャルワークに従事。子どもの生涯を見通した根拠ある実践の視点に立ち、その実務や評価に基づく発信を続ける。2017年より、こども未来局で子ども施策全般を推進する「第5次子ども総合計画」の策定に携わり、現在は同局こども家庭課こども福祉係長として、民間団体や研究者を広く巻き込みながら、親子を支える身近なソーシャルケアの実装をリードしている。早稲田大学社会的養育研究所招聘研究員、バーミンガム大学社会政策大学院在学。社会福祉士・精神保健福祉士。主な著作に『パーマネンシー保障に向けた児童相談所の実践結果の検討』(ソーシャルワーク学会誌43号)、『社会的養育ソーシャルワークの道標』(日本評論社/分担執筆)、『英国におけるChildren’s Social Careと警察・司法の関わり』(子どもの虐待とネグレクト21巻3号/共著)。
こども未来局こども家庭課 公式ページ(外部リンク)

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