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子どもの貧困を「おすそわけ」で解決。困窮世帯を「おそなえ」で支えるおてらおやつクラブ

- 日本の7人に1人の子どもが貧困状態に。さまざまな面で不利な状況に置かれている
- おてらおやつクラブでは、「おそなえ」を困りごとを抱えるひとり親家庭に「おすそわけ」する活動を展開
- ためらわずに「助けて」と言えて、その言葉に手が差し伸べられる地域づくりを目指す
取材:日本財団ジャーナル編集部
約280万人、7人に1人——これは日本で貧困状態にある子どもの人数と割合だ。ひとり親世帯にいたっては、2人に1人の子どもが経済的に苦しい暮らしを送っている。

日本における子どもの貧困は「相対的貧困」のことを指し、生活するのに最低限必要なお金がない「絶対的貧困」とは異なるが、国の平均水準よりもずっと低い収入で生活せざるを得なく、地域や社会から孤立し、さまざまな面で不利な状況に置かれてしまう傾向にある。
そんな子どもの貧困問題を解決しようと奔走する、奈良県安養寺の住職・松島靖朗(まつしま・せいろう)さん。彼は認定NPO法人おてらおやつクラブ(外部リンク)の代表理事を務め、お寺に届く「おそなえ」をさまざまな事情で困りごとを抱えるひとり親世帯に「おすそわけ」という形で届けて支援している。
全国のお寺や支援団体と協力しながら、お寺の「ある」と社会の「ない」をつなげる、そのユニークな取り組みから、貧困に苦しむ子どもたちに私たちができることを探りたい。
新型コロナウイルスで急増する困窮世帯
いま、日本のひとり親世帯の貧困は深刻化している。要因の1つは新型コロナウイルスの感染拡大だ。
内閣府が2021年12月に公表した報告書によると、新型コロナウイルスの影響で困窮し、生活に必要な食料・衣類が買えない状態にあるひとり親世帯が23.1パーセントもいることが分かった。

松島さんは、コロナ禍におけるひとり親世帯の困窮についてこう語る。
「そもそもひとり親世帯の多くは、コロナ禍でなくても経済的に厳しい生活だったはずです。そこにコロナウイルス感染拡大という未曾有の出来事が起こり、働きたくても働けない人が増え、小中学校の一斉休校によって子どもたちの給食も一時的になくなりましたよね。さらにいまは物価高が進み、個人の負担が増加しています。きっと、自分の食事を減らして、子どもを優先する日々を送っている親御さんも多いことでしょう」

そんなひとり親世帯を含む困窮家庭を支援するために、松島さんが2014年に立ち上げたのが、おてらおやつクラブだ。そのきっかけは、2013年に大阪で起きた痛ましい事件だった。
「マンションの一室で母親と3歳の息子2人が餓死状態で見つかったというニュースを見たんです。現場にあったメモには『おなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね』と書かれていたそうで、大変ショックを受けました。フードロスが問題視され、飽食の時代と言われているのに、『いまの時代に食べる物がなく亡くなってしまうことがあるのか』と……」
一方、お寺には「おそなえ」としてさまざまな食べ物が届く。これを仏さまからの「おさがり」として、困りごとを抱える家庭やそこで暮らす子どもたちに「おすそわけ」できないかと考えた。
「当時、大阪市内でひとり親世帯を支援する団体が立ち上がったことを知り、その会合にお菓子を持って参加しました。その時、寄付される食べ物が全く足りていないと聞き、そこで思いついたのが、全国のお寺に声をかけて協力してもらうことでした。大阪の事件を知り『何かできれば』と思っていた住職さんも多くいらっしゃり、皆さん喜んでご協力いただけることになりました」
活動開始から約9年。2022年4月の時点で、賛同寺院数は1,800を越え、47都道府県に1カ所は協力してくれるお寺があるほどに広がった。

地域のお寺と支援団体をマッチング
賛同寺院に届くおそなえものは、その地域の子どもの貧困問題に取り組む支援団体を通じて、必要とする家庭に届けられる。
「全国のお寺と地域の支援団体をマッチングするのがおてらおやつクラブの役割です。お寺は『後方支援』に徹し、困窮家庭を『直接支援』する支援団体を支えることで、全国に展開しやすい仕組みをつくっています。昨今は、私たちの活動が多くの人に知られたことで、地域の支援団体とつながりのないご家庭から直接SOSが届くようにもなりました。本来であれば、支援団体に橋渡しするべきなのですが、いろんな事情があってつながれない人も。その場合は、おてらおやつクラブから直接おすそわけする活動も行なっています」



新型コロナウイルスの影響で直接支援を必要とするSOSの声は急増。2019年は351世帯だったのが2021年には5,943世帯と17倍近くに増えた。もともと奈良にあるおてらおやつクラブの事務局だけで直接支援を行っていたが、それだけでは対応しきれなくなり、新たに開発したのが全国のお寺が地域の困窮家庭を直接支援できる「匿名配送システム」だ。
お寺と対象家庭間の個人情報のやりとりを不要とする仕組みで、おてらおやつクラブの事務局から届く集荷先(お寺)、配送先(家庭)のデータをもとに、提携する運送会社がおすそわけの受け渡しを行うというものだ。
「これにより、事務局がある奈良県から発送するよりも、全国に散らばる各家庭に届くまでのスピードが格段に速くなりました。貧困問題解決のすそのが広がり、より多くの支援要請に応えられる体制ができました」

おてらおやつクラブには、支援先の家庭から多くの感謝の声が届いている。
「実用的な食材や子どもたちが喜ぶ食材までおすそわけしていただき、僕自身も笑顔になれました」(40代お父さん、男児1人・女児1人)
「お寺さまからの届け物だと思うと気持ちが落ち着き、またお寺さまとつながっているようで嬉しい気持ちなりました」(40代お母さん、女児1人)

また賛同寺院や個人の寄付者からもたくさんの声が届いている。
「何をお送りするのが良いのか分からず、寄付というカタチを取らせていただきました。6歳の子どもが大人になった時に、今おすそわけで元気になった皆さんと一緒に新たな社会を創ってもらえたらなと思っております」(寄付者)
「『おてらおやつクラブ』の活動が檀信徒に浸透しつつあり、お彼岸法要の際に直接『お寺おやつクラブへ』というおそなえが増えてまいりました。有難く頂戴し、おそなえさせていただいております」(兵庫県・副住職)
共通しているのは、支援する機会に出合えたことへの感謝の気持ちだ。「おてらおやつクラブの活動は『社会のために何かしたい』と考える人の気持ちの受け皿にもなっていると再認識できました」と、松島さんは話す。

ためらわず「助けて」と言える社会にしたい
全国に「おすそわけ」の輪を広げているおてらおやつクラブ。しかし、コロナ禍や社会情勢の変化に、まだまだ支援が追いついていないという。
「いまは支援先の家庭が『おすそわけ』を受けとる回数や頻度を制限せざるを得ない状況にあります。活動の資金面が大きな課題になっています。定期的にサポートをしてくださる方の募集や、自治体と連携してふるさと納税に組み込んでいただくなど対策を講じていますが、まだ全ての家庭に十分な支援を届けられる明確な見通しは立っていません。できるだけ多くの声にお応えするために、ぜひ皆さんにお力添えをいただければと」
子どもの貧困問題を解決するために、社会に必要な取り組みとは何か。松島さんの考えを伺った。
「親御さんがためらわずに『助けて』と言える環境をつくることだと思います。特にひとり親家庭の方は、ひとりで子どもを育てている理由を言いづらかったり、『自分が決めた道だから』と責任を感じて無理をする傾向が強い。本来なら社会からの助けが必要なはずのに。いま必要なのは、そういう人も『助けを求めていいんだ』と思える社会づくり、『助けを求めたら応えてくれた』『不安な気持ちが和らいだ』といった経験をしてもらう仕組みではないでしょうか」

私たち一人一人にもできることはある。それは「困っている人に思いを馳せ、少しでもいいから行動してみる」ことだと松島さんは話す。
おてらおやつクラブのロゴにもそんな思いが込められている。
「ロゴには、子どもの笑顔を包み込むように支える手が描かれています。地域や社会のみんなで子どもを育てていきたいという願いと共に、おすそわけの輪(一縁)が五縁にも十縁にも広がっていってほしいという団体の想いを込めています。もし輪に加わるきっかけがほしいという方は、おてらおやつクラブのメールマガジン(外部リンク)やLINE(外部リンク)に登録していただければ、子どもたちへの支援に関するいろんな情報が手に入りますので、ぜひ活用してみてください」

ちなみにおてらおやつクラブの支援の輪には、募金や食品・日用品の寄贈、ふるさと納税、ボランティアといったいろんな方法で参加できる。おすそわけには、お米やお菓子、缶詰などの加工品、マスクや生理用品、文房具や歯ブラシなどの消耗品を主に受け付けている。詳細は支援の案内ページ(外部リンク)を参照してほしい。
またこの記事を見て、おすそわけを受け取りたいという個人の方は、おすそわけの案内ページ(外部リンク)を参照いただきたい。
最後に松島さんは、おてらおやつクラブの活動にかける想いについて語ってくれた。
「これまで活動を続けてこられたのは、いまも昔も変わらず、仏さまへの信仰のため、大切な人の供養のためにおそなえしてくださる方がいるから。その習慣を守っていくためにも、私自身が僧侶としておそなえを受け取るに足る存在であり、お寺の役割を続けなければいけないと。その想いを貫いてこそ、おてらおやつクラブの活動にも活きてくると強く思っています」

人は誰しも1人では生きていけない。ましてや子どもは大人が守るべき非力な存在だ。親だけに責任を負わせるのではなく、地域のみんなで支えていくことが子どもの貧困問題をなくすためにもっとも必要なことだと考える。ぜひあなたも、慈悲の心を持っておてらおやつクラブの活動に参加してほしい。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
松島靖朗(まつしま・せいろう)
奈良県安養寺(浄土宗)住職。1975年奈良県生まれ。2010年、浄土宗総本山知恩院にて修行を終え僧侶に。2014年に全国のお寺の「おそなえ」をおすそわけする「おてらおやつクラブ」の活動を始める。その活動が認められ、浄土宗平和賞、グッドデザイン大賞などを受賞。
認定NPO法人おてらおやつクラブ(外部リンク)
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