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子どもの言葉に深く耳を傾け、気持ちに寄り添う。子どもの自殺予防のために親ができること

イメージ写真:娘の話を静かに聞く母親
増える子どもの自殺の背景にある複雑な問題。子どもを守るために親ができることとは?
この記事のPOINT!
  • 2023年、小中高生の自殺者数は暫定値で500人を超え、統計開始以来2番目の多さに
  • 子どもの自殺のサインに気付くためには、普段から観察し、信頼関係を築くことが重要
  • 大人自身が自分を大切にし自分を認めることが、子どもにとっても生きやすい社会につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

若者の自殺者数が増加傾向にあります。厚生労働省が2024年1月に公表した2023年における全世代の自殺者数(暫定値)は2万1,818人(※)。そのうち小中高生の自殺者数は507人と、2022年の514人(確定値)に次いで過去2番目の多さとなりました。

日本では特に、学校の新学期が始まる4月、9月に、子どもの自殺が増えるといわれています。親であれば誰しも、子どもが平穏無事に生きることを望みますが、自殺を防ぐためにどんなことができるのでしょうか?

今回お話を伺うのは、親子のさまざまな悩みのカウンセリング・サポートに取り組む家族カウンセリング研究所(外部リンク)代表の柿澤一二三(かきざわ・ひふみ)さん。4人の子どもを育てる母でもあり、今から約10年前に子どもが命を絶とうとした経験もお持ちです。

子どもが無意識に発するSOSサインに気付くためにはどうすれば良いのか、サインを受け取ったあとどのような行動をすれば良いのか、お話を伺いました。

取材に答えてくれた柿澤さん。家族カウンセラーとして活躍するほか、自治体や教育機関などで講演活動も行っている

自分の価値を感じられず、悩みを抱えた若者が増加

――若者の自殺が増えてきていますが、その傾向について柿澤さんはどのように捉えていらっしゃいますか?

柿澤さん(以下、敬称略):社会の中の順位付けに悩み、息苦しさを感じている若者が多いように感じています。

カウンセリングに訪れる子どもを見てもそう思いますし、私は今、僧侶になるために駒沢大学の仏教学部と東京仏教学院に学生として通っているのですが、10代、20代の若者とやりとりをしていても、そのように感じることが多々あります。

話しを聞いていると、親から「成績は上位じゃないとだめ」「就職もとにかくいいところに」と言われていたり、家族の中で理想とされている人物像からはみだせないと感じていたりして、それが負担や悩みにつながっている若者が多い気がします。

取材に答えてくれた柿澤さん。家族カウンセラーとして活躍するほか、自治体や教育機関などで講演活動も行っている

――親も自分に自信がないから、自分のようになってほしくないという思いから、子どもに過剰に期待をかけているケースもありそうです。

柿澤:そうですね。認められたり、褒められたりした経験がほとんどないという保護者も決して少なくありません。その自信を補うために子どもに過度な要求をしてしまう……。カウンセリングでも、子どもの問題を解決するために訪れた保護者の方に、問題の根源があったということがよくあります。

――小中高生の子どもたちは、4月や9月頃に自殺してしまうことが多いと聞きますが、その原因をどう分析されていますか?

柿澤:自殺を考える子どもたちは急に行動に移すのではなく、「死のう」「でも生きよう」を繰り返しながら生きています。

そんな中、何かが引き金になるわけですが、学校は、多くの子どもにとって楽しいばかりの場所とは言えず、お友だち同士の付き合いに疲れたり、先生の顔色をうかがったりとストレスを感じる場でもあります。

そんな学校に行く日が近づいてくることが引き金となり、自殺を選ぶ子どもが多いのではないでしょうか。

――自殺の原因が学校にあることが多いということなのでしょうか?

柿澤:全てのケースについて分析するのは難しいですが、そうとは言えないと思います。多くの場合、自殺の原因は1つではなく、学校での人間関係、学業、親との関係などさまざまな要因が積み重なっていると私は考えています。

そしてもし積み重なっていたとしても、家庭にストレスがあるなら学校、学校にストレスがあるなら家庭というように、どこかに逃げ道があればいいのですが、どこにも逃げ道のない子どももいます。

そういうときに何か1つのきっかけによってストレスがコップからあふれるように限界がきて、自殺という道を選ばざるを得なくなってしまう、と私は思います。

――自殺を考えている子どもが発するサインには、どのようなものがあるのでしょうか?

柿澤:大きく言うと「普段と違う」何らかの変化が出てきます。

例えばいじめに悩んでいる子どもでよくあるのは、学校に持っていくランドセルやバッグの中が汚れていることや、教科書に落書きをされてること。仲の良かったお友だちと遊ばなくなる、その子のことを話さなくなる……。保護者の方の目を見て話していた子どもが目を見なくなったり、話したくないといってすぐに部屋に戻ってしまったりするようなケースもあります。

生活面の変化でいうと、あまりご飯を食べなくなったり、逆にすごく食べるようになったりすることも……。部屋の片付けができなくなる子どももいますね。脳と部屋は一致しているともいわれていて、頭が混乱した状態だと部屋の片付けも難しくなりやすいんです。

イメージ写真:河原にひとりぼっちで座り込む子ども
子どもに現れるさまざまな変化を見逃さないことが、自殺予防につながる

――さまざまな変化が現れるのですね。

柿澤:はい。ただ明確な自殺のサインというものが存在するわけではなく、「普段と違う」というのが大きなポイントになるため、変化に気付くためには、ふだんから子どものことをよく観察しておく必要があります。

またもし気付けなかったとしても、困っている事や悩み事を親に話す信頼関係性があるかどうかがとても大事だと思っています。

――どうすれば信頼関係性が築けるのでしょうか。

柿澤:ふだんから子どもの話を、共感的に聞いてあげることが重要だと思います。

親は良かれと思って、「こうしてみたらいいんじゃない」などとつい自分の意見やアドバイスを押し付けてしまうんですよね。そこをぐっとこらえる。「そうだったんだね」「大変だったね」、そういった言葉がけがとても大切です。

もう1つ意識してほしいのが、親が先走って解決しようとしないことです。「○○先生にこんなこと言われた」と子どもから聞くと「じゃあ、私が学校に話してあげようか」などと言って、行動してしまいがちですよね。

でも子どもは、解決を望んでいるのではなくて、ただ大変さを吐き出したいだけ、といった場合も多いんです。親子の関係性は急にできるものではないので「共感的に話を聞く」「早まって解決はしない」ことを、ふだんから意識してもらえればと思います。

――解決をしてあげることが親の役目だと思っていたのですが、そうではないんですね。

柿澤:もちろん中には解決することが必要な場合もあります。ただ、第一に子どもの心のケアを優先する、問題の解決と心のケアを分けて考える、というのが大前提だと思っています。

まずは子どものつらい気持ちを素直に受け止めて、心のケアに努める。それを受けて子どもがどう行動したいのか意思が見えてきたら、その意思を尊重する。親が勝手に判断して物事を進めるのは、子どもとの信頼関係を損ねかねません。

自分に置き換えて考えてみるといいですよね。上司に対する不満を同僚に話したのに、その内容を同僚が上司に勝手に伝えていたらきっと困ると思うんです。

――確かにそうですね。

柿澤:子どもが親を信頼できると思ってくれて初めて、いざというときに話したい相手として選ばれるのではないかと思います。そういった関係性が築けていないと、子どもは悩みがあっても親に黙って、自分で解決しようとしますし、自分で解決できないと感じたときに自殺という道を選ぶことにもつながりかねません。

サインを受け取ったら、ほどよい距離感で心の回復に努める

――なるほど。ただ頭で分かっていても、子どもに相談されたときに、そういう行動がとれるのか……。

柿澤:難しいですよね。実は私もその理論は分かっていたのに、今から10年前に大失敗していますから。当時、末の娘が中学1年だったのですが、ちょうど8月31日の夜に「明日学校に行きたくない」と言い出したんです。

夏休み中の娘の行動を振り返ってみると、ふだんの娘と比べ行動力も落ちていて何もしていないことが多く、元気がない様子でした。宿題をやっている様子もなかったので、私はとっさに「宿題ができていないから学校に行きたくないんでしょ」とつい言ってしまい、娘が悩んでいることに気付けませんでした。

次の日、娘は結局学校には行ったのですが、夕方になっても家に帰ってこなくて、その時初めて大変なことをしたと感じました。

急いで通学で利用する駅に向かったところ、階段で立ち尽くす娘を発見しました。何をしているのか尋ねると「次の電車に飛び込もうと考えていた」と泣きながら話してくれました。本当に間一髪でした。

よくよく聞くと娘は学校の友人関係で1学期から悩んでいたということだったんです。

――そんなことがあったのですね……。

柿澤:その時娘が言っていたのが、飛び込もうとした時に私の顔が浮かんだと……。大失敗をしてしまったのですが、死を意識した瞬間に私を思い浮かべてもらえたのは、信頼関係を少しでも築けていたからなのかなと思います。

――そこからどのようにして、娘さんは回復していったのですか?

柿澤:半年ぐらいは学校へは行かずに家にいたのですが、自分がやりたいことをとことんやらせました。私も仕事の都合がつく時は、一緒にカラオケに行ったり、映画を見に行ったり……。そのうち元気になると、転校することにはなりましたが自ら学校に通うようになり、今では立派な社会人です。

娘からは「あの時、お母さんに無理にでも学校に行きなさいと言われていたとしても、絶対に行かなかったと思う。好きなことをやらせてくれたおかげで、元気が戻ってきた」と今でも言われます。

――楽しんでいるだけの子どもを見るとつい不安になって、何かをするように言ってしまいそうです。

柿澤:親子でずっと家の中にいると、お互い苦しくなってしまうのではないでしょうか。

子どもの年齢にもよりますが、親がべったりと張り付いてフォローをするより、つかず離れずの距離感で、子どもがただぼーっと過ごしたり、ゲームや漫画を楽しんだりするといった自由な時間を過ごせる方が、元気を取り戻すためにはとても大事だと思います。

よく子どもが心の不調を抱えていたり、不登校になったりしたときに、仕事を辞めて向き合おうとする方がいらっしゃるのですが、私はおすすめしません。むしろ仕事をされていない方には、就職を勧めることもありますね。

親も子どもも自由な時間が持てる、ほどよい距離感を意識してみてください。

――では、もし子どもからストレートに「死にたい」と言われたときは、どんなことを伝えればいいでしょうか?

柿澤:取り乱したり、「それはだめ」と返したくなったりするかもしれませんが、保護者の方の対応が最後の砦になるかもしれないので、少し冷静になってほしいなと思います。

最初に伝えてほしいのは感謝の気持ちです。言わなくても死ぬことだってできる中で気持ちを伝えてくれたこと、その相手に自分を選んでくれたことに対して感謝を伝えるんです。

そこから徐々に聞く体制に入っていくことが大事だと思います。自分の意見や思いを伝えるのではなく、ただただ話を聞いてあげる。もしくは抱きしめてあげる。子どもの苦しい世界をのぞき、全部を受け止めなくてはいけないわけですから、親にとってもそれは試練だと思います。

でも受け止め続けることで子どもの苦しみが軽くなって、生きる希望が見えてくるんですよね。あなたの苦しみから逃げないで、一緒にいるよというメッセージを伝えてほしいと思います。

イメージ写真:娘を優しくなぐさめる母親
感謝を伝えたあとは、じっくりと話を聞くことで子どもの苦しみはやわらいでいく

自殺予防の対応で推奨されている「Talkの原則」というものがあるので、これも意識しておくといいと思います。

  • Tell:言葉に出して心配をしていることを伝える
  • Ask:「死にたい」という気持ちについて、素直に尋ねる
  • Listen:絶望的な気持ちを傾聴する
  • Keep safe:安全を確保する

――なるほど。事前に知っておくことで、いざというときに対処できそうです。

柿澤:はい。ただ自殺対応が難しいのは、その最後のサインが「死にたい」という言葉で現れるだけではないということです。

私は父親を自殺で亡くしています。父は暴力を振るう人で、私も母もその被害をずっと受けてきました。会社を経営していましたがバブルの崩壊があって、会社もうまくいかなくなってしまい、死にたい気持ちをずっと抱えていたんですね。

死ぬ直前に私が父からもらった電話では、いつものように強い口調で小言を言われたのですが、本当は気付いてもらいたかった、助けてもらいたかったんだと思います。

電話口で言われた強い言葉とは裏腹に、遺書にはか弱い文字で「弱いお父さんでごめんね」と書かれていました。私も気付くことはできませんでしたが、こういうサインもあることを知っておくといいかもしれません。

大人がまず自分を受け入れて、自分自身を大切にしてほしい

――若者の自殺を増やさないために、私たち一人一人ができることはどんなことでしょうか?

柿澤:私は仕事を通してずっと「家族」に向き合ってきたので、家庭側から考えることが多いのですが、やはり家庭内で良好なコミュニケーションが取れる環境を整えることだと思います。

そうすることで社会に出てからも、周囲の人と良好な関係性が築けるようになる。家庭の中でけんかばかりしていたら、社会に出てもうまくいかなくて当然だと私は思います。

子どもが自分の命を大切にするためには、大人がまず見本を示すことが大事だと語る柿澤さん

――家庭以外の場面でもできることは、ありますでしょうか?

柿澤:子どもたちが自分を大切にすることがとても重要で、そうなってもらうためには、まず大人が見本を見せる必要があると思います。

皆さんには、自分に優しくしていますか? と問いたいです。

もちろん頑張らないといけないときもありますが、頑張れない自分、褒められない自分、できない自分がいて当然で、そんな弱い自分を見せることが、子どもがどんな自分でも愛せることにつながっていくと思っています。

編集後記

子どもの自殺を防ぐには、ふだんからフラットで何でも話せるような関係を築くことが重要です。そのためには、子どもの声に深く耳を傾ける姿勢と、大人でも悩みを抱え苦しんでいる姿を隠さずに見せることが、子どもを生きやすくする上で大切だということが分かりました。

子どもも大人も「自分を大切にできているか」という問いを持ち続けることが、自殺のない社会につながるのだと感じた取材でした。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

柿澤一二三(かきざわ・ひふみ)

家族カウンセリング研究所代表。親子の関係に長年悩んできた経験からカウンセラーを志し、現在までに10代から70代の1,000人以上の子育て・親子・夫婦関係のさまざまな悩みのカウンセリング・サポートを行う。2男2女の母。4人の子育て経験と家族心理学のスキルを融合させた独自のノウハウを講演などで伝えている。家族相談士・日本メンタルヘルス協会公認カウンセラー、コモンセンスペアレンティングトレーナーなどの資格を持ち、現在は駒沢大学の仏教学部、東京仏教学院に在学中。僧侶として修行中でもある。
家族カウンセリング研究所 公式サイト(外部リンク)

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