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視覚障害者に特化した展示会「サイトワールド」。主催者に聞く、当事者の生活は変化した?

サイトワールドのロゴ
「サイトワールド」は、世界で例をみない視覚障害者に特化した総合イベント。2023年は3,560人が来場した
この記事のPOINT!
  • 「サイトワールド」は、視覚障害者用機器の展示や講演会などを行う総合イベント
  • 視覚障害者の生活は便利になる一方、情報格差や買いたい機器が買えない収入の問題も
  • 小さな共感を持つことから、障害の垣根を越えた社会の実現につながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

テクノロジーの進化により、視覚障害者の生活は便利になってきました。

靴に装置を取り付け、スマホと連動させることで目的地までのナビゲーションを行う歩行誘導システム「あしらせ」(外部リンク)や、文字認識だけでなく顔認識までできる眼鏡にとりつけるデバイス「OrCam MyEye」(外部リンク)など、技術の進歩には目を見張るものがあります。

そんな視覚障害者向けの最新機器や技術が一堂に会する総合イベントがサイトワールド(外部リンク)です。2006年より毎年11月に開催されており、直近では3日間で3,560人が参加。多くの視覚障害の当事者やその関係者が集まりました。

テクノロジーの進化によって視覚障害者の生活はどう変わったのでしょうか? 実行委員長であり、ご自身も視覚障害者である荒川明宏(あらかわ・あきひろ)さんにお話を伺いました。

サイトワールドの実行委員長を務める荒川さん。手元にあるのは点字と音声で情報を出力できる装置

さまざまな工夫や配慮がされた視覚障害者向け総合イベント

――「サイトワールド」開催のきっかけを教えてください。

荒川さん(以下、敬称略):きっかけとなったのが、福祉機器の開発を行っているケージーエス株式会社(外部リンク)で当時社長を務めていた、榑松(くれまつ)さんの「海外には視覚障害者向けのイベントがあるのに、日本にはない。日本でもやろう」という一声でした。

私も運営メンバーの1人として第1回から携わっており、2016年からは榑松さんに代わって、実行委員長を務めさせてもらっています。

「サイトワールド」の特徴は、展示会だけでなく講演会やシンポジウムなども行い、総合イベントという形をとっている点です。

サイトワールド会場の様子
会場にはボランティアが適所に配置され、サポートを行っている。画像提供:サイトワールド実行委員会

――障害者向けの展示会というと国際福祉機器展(外部リンク)が1974年から開催されています。視覚障害に特化したイベントを開催したのには、何か理由があるのでしょうか?

荒川:国際福祉機器展は会場が広すぎて、視覚障害のある人が行くにはハードルが高いんですよ。さらに展示されているものは、高齢者や肢体不自由者向けのものも多く、視覚障害者向けの機器は一部でしかありません。そういった問題を解決するような形で「サイトワールド」は立ち上げられました。

特に会場選びにはこだわりましたね。視覚障害者がアクセスしやすい場所にあり、場内も周りやすく、ある程度の広さがあることが必須条件でした。

2006年から変わらず、錦糸町(東京・墨田区)のマルイ8階にある、すみだ産業会館サンライズホールで行っています。あの会場が見つかったのは本当に幸運だったと思っています。

――実際に足を運ばせてもらいましたが、駅前からビルの前まで、サポートするスタッフの方がいらっしゃったり、床に点字ブロックが貼られていたりと、さまざまな配慮がされていましたね。

荒川:はい。コンセプトとして、「視覚障害者が1人でも来場できる」ということを大事にしています。そのため、スタッフの確保が必要で、2023年の開催では150人くらいの方にボランティアとして参加していただきました。

――イベント開催にあたって工夫をしている点はありますか?

荒川:点字の案内板や、点字を読めない人のためにデイジー(※)のガイドブックを作成し、視覚障害があっても会場全体を把握できるようにしています。

  • 視覚障害者の読書のために開発されたデータ形式で、Digital Accessible Information System(アクセシブルな情報システム)の略。対応する機器やアプリで再生が可能
会場に設置された点字の案内板。画像提供:サイトワールド実行委員会

荒川:あとは盲導犬を連れて来場する人も多いため、盲導犬用のトイレの場所も配置しました。

一般的に盲導犬はトイレの際、お尻にビニール袋をつけ、指示をされた場所で排泄するように訓練されてはいるのですが、どこでその指示を出すかという問題があるんです。

会場のビルには、外に休憩スペースがあるので、その横に盲導犬のトイレ用スペースを設置しました。

イメージ画像:盲導犬を連れて歩く人

荒川:また、出展企業に対してお願いしているのが「来場者の方には、説明が終わったら次に何が見たいかを確認し、その人を次のブースまで案内してもらう」ということです。そうすることによって、視覚障害者が迷うことなく、展示内容をまわることができるからです。

生活が便利になる一方、情報格差が拡大

――来場された方の声で印象的だったものはありますか?

荒川:「初めてこういった展示会に来たので、こんなに便利なものがあるとは思わなかった」という声や、「視覚障害者がこんなにいるとは思わなかった」という声が印象的でした。

人間というのはどうしても悩んでいると視野が狭くなりがちで、「こんな悩みを持っているのは自分だけだ」と考えてしまうことがあると思うのですが、「サイトワールド」が交流の場となり、仲間の存在に気付けたのではないかと思います。

――これまで展示された機器の中で、もっとも印象的だったものはありますか?

荒川:2023年度も出展されていましたが、「OrCamMy Eye(オーカムマイアイ)」という機器です。眼鏡の横につける機器で、カメラが内蔵されており、文字の読み上げや顔認証、商品の識別なども行えるんです。

OrCam MyEyeを使用する人
「OrCam MyEye」は内蔵カメラが視覚情報を読み取り、音声として出力できる(画像は姉妹品の「Orcam My Reader2」)。画像提供:ケージーエス株式会社

荒川:例えば私がイベント会場で働いているとして、スタッフに急遽お願いしたいことがあっても、近くに誰がいるか分からないので指示が出せません。でも、「OrCam My Eye」にスタッフの顔を登録しておけば、その人が通ったときに「OrCam My Eye」がスタッフ名を読み上げてくれるんです。

私も購入して使っていますが、とても感動しました。

――そんなに便利な商品が出ているのですね。普及はしているんですか?

荒川:そこまで普及はしていないと思います。「OrCam My Eye」は定価が約30万円で、自治体によりますが、補助金制度を利用できるんです。私の場合自己負担は10万円くらいでした。この金額を高いと思う人が多いのではないでしょうか。

――補助金制度が充実すれば、もっと多くの方が購入できそうですね。

荒川:そうですね。ただ本当に問題なのは、補助金制度ではなく10万円を捻出するのも難しい視覚障害者の収入の現状だと思います。

私は一般企業で4年間、障害者雇用で働いていましたが、収入を増やしていくのはとても大変でした。また「働ける場がない」「就職してもコミュニケーションの取り方が難しく辞めてしまう人も多い」など、課題が山積みです。

障害があっても職場で活躍できるような環境がもっと整備され、好きなものを自分で買えるくらいの社会になってほしいと思います。

――スマホが普及したことや、便利なアプリが増えたことによって、視覚障害のある方の生活はかなり便利になったのではないでしょうか?

荒川:そうですね。例えばスマホが普及する前は、視覚障害者が部屋でお金を落としたら見つけることは至難の業でした。今は目の見える人にビデオ電話をかけ、画面を通して自分の代わりに探してもらうことができるわけですね。

先ほどご紹介した「OrCam My Eye」なども含め、本当に生活は便利になったと思います。

ただ一方で機器を使いこなせない方もいて、視覚障害者内でも情報格差は広がっていると思います。「サイトワールド」では機器を使いこなせるようになるための体験会なども行っているので、苦手意識を持たずに、活用してもらえるとうれしいですね。

小さな共感が、社会を動かしていく

――他にも荒川さんから見た、視覚障害者の方の生活における変化はありますか?

荒川:これは少し残念な変化なのですが……。同行援護制度(※)によって、視覚障害者と障害のない方がふれ合う機会が減ってしまったと思っています。

出かける際、お店の側から「支援者さんがいないと困る」と言われることも増えました。結果的に視覚障害者が1人で出かけたり、困ったときにその場にいる方に助けてもらったりすることがしにくくなり、本当の意味での自立を妨げている状況になっているのではないかと思っています。

  • 2011年、障害者自立支援法の改正により、視覚障害者の移動支援サービスとして創設。移動に著しい困難のある視覚障害者などが外出する際に、支援員(ガイドヘルパー)が同行し、移動に必要な情報を提供と移動の援護などを行うこと。支援員は同行援護従業者養成研修を受けることが義務付けられている
イメージ画像:白杖を持って歩く人

荒川:視覚障害者を誘導するのに制度や資格は必要ありません。困っている人がいたら助け合えればいいと思うんです。誘導も一度やってみるとそんなに難しくないということが分かっていただけると思います。

制度があることによって、そういった機会を奪いかねないのが残念ですね。

――視覚障害者に対する社会の変化はどのように感じていますか?

荒川:この20年くらいで、視覚障害者に対して優しい社会になったと思っています。私はずっと1人であちらこちらに行ってきたので、それがよく分かります。

以前だったら街中で助けてほしいことがあったときは5回、10回と声をかけてやっと誰かが止まるという感じだったんですよ。それが今では1、2回で皆さん足を止めてくださる。1回通り過ぎても、「あれ、もしかして声をかけられたの、私ですか?」と戻ってきてくれる人も多いですから。

社会の変化について話す荒川さん

――なぜそのように変わっていったのでしょうか?

荒川:あくまで私の想像ですが、パラリンピックがテレビで放送され、フィーチャーされるようになり、障害者を身近に感じられる機会が増えてきたからではないかと思います。

こういった変化はポジティブに受け止めつつ、一方で働く場という意味での社会、要するに労働という点から見ると、相変わらず視覚障害者にとって不利になっていることはとても大きな問題だと思っているので、そこが変わっていけばいいと思っています。

例えば「サイトワールド」にも一般企業で働いているマネージャークラスの人に来てもらって、「こういったツールがあるなら、うちの会社のこの仕事を任せられるかもしれない」という視点で見てもらえるといいなと思いますね。

――私たち一人一人が障害のある方を理解し、よりよい社会をつくるためにできることはどんなことでしょうか?

荒川:表現がちょっと難しいのですが、まず前提として知ってもらいたいのは、目が見えないからといって別に不幸でも、かわいそうでもないということです。便利なものが増えてきたこともあり、目が見えないだけで、日常生活の中でできることはたくさんあります。

それを知ってもらうのは別に難しくなくて、目が見えないということを擬似的に体験してみるくらいでいいと思うんです。例えば家で電気を消して、目隠ししてご飯を食べてみるといった体験です。多分食べるのがかなり難しいと思いますが、工夫をすれば食べられる方法に気が付くこともあるかもしれません。

「目の見えない人ってこんな感じなのか」という、小さな共感が社会を変える一歩につながっていくと思っています。

編集後記

「サイトワールド」は視覚障害者向けのイベントですが、「一般の人にもぜひ来場してほしい」と話す荒川さん。2024年は11月1日(日本点字の日)~3日の3日間、開催されるようです。

会場に訪れる人や最新のテクノロジーに触れることで視覚障害のある方の生活が想像できたり、身近に感じられたりする機会となるはず。その経験が小さな共感を生み、社会の障壁をなくしていくことにつながるのではないかと思います。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

荒川明宏(あらかわ・あきひろ)

1966年生まれ。9歳のころに失明。日本ライトハウス情報処理学科卒業後、一般企業にシステムエンジニアとして入社。視覚障害者向けソフトの開発、営業を行う。1999年に株式会社ラビットを設立。その他にサイトワールド実行委員長、日本盲人社会福祉施設協議会常務理事、視覚障害者支援総合センター評議委員を務める。
サイトワールド 公式サイト(外部リンク)

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