団地ごとに居場所があったらいいな。多摩ニュータウン諏訪団地、子どものひろば「リバティ」

東京都多摩市、稲城市、八王子市、町田市にまたがる多摩丘陵につくられた、多摩ニュータウン。1965年から2006年まで約40年にわたって開発された、国内最大級のニュータウンです。その一つである多摩ニュータウン 永山・諏訪エリアは、「京王永山駅」「小田急永山駅」から徒歩15分ほどのところにあります。
団地にある「諏訪名店街」の一角にあるのが、子どものひろば「リバティ」。多摩市を拠点に保育園、学童クラブ、子ども家庭支援センター「たまっこ」などを展開する、社会福祉法人こばと会が運営しています。

衣食住を大切にした「リバティ」の居場所づくり
リバティは2022年1月に開所。週4日・朝8時から20時まで開いています。朝早くから開けているのは、「不登校の子どもも生活リズムを整えられるように」との考えからだと、リバティを運営するスタッフの櫻田さんは話します。
利用は登録制で、現在は140名ほどが登録。利用者はリバティのある永山・諏訪エリアの団地に住む子どもが中心ですが、子どもの居場所を求めて多摩市内はもとより市外からも保護者の送迎や電車・バスを乗り継いで足を運ぶ子どももいます。
拠点は2階建て。1階は誰でも気軽に立ち寄れるカフェになっていて、コーヒーなどでほっと一息つくことができます。2階はワンルームの広い空間で、勉強したりおもちゃで遊んだり、くつろいだりと、子どもたちは思い思いの時間を過ごすことができます。
スタッフのみなさんは、基本的には見守りの姿勢で子どもに接し、子どもたちの意思をどう引き出すか、汲み取るかに心を砕いているそうです。


食事提供と生活習慣確立の二本柱
リバティの活動の中心は、食事提供です。拠点に来る子どもは、スタッフ手作りの食事を必要に応じて朝食・昼食・おやつ・夕食を食べることができます。
拠点に来たらまずは手洗いうがいをする、食事中はスマホを見ない、食べ終わったら片付けをするなど、最低限のマナーや共同生活ルールも合わせて伝え、生活習慣の改善にも取り組んでいます。
また、配食サービスにも力を入れ、週100食ほどを提供しているとのこと。週1回は無料で、2回目以上は1食150円(8食分チケット1,000円)でうけています。配達はせず、基本的にリバティまで取りに来てもらう形での対応です。

そもそも食事提供を始めたのは、拠点の開所から遡ること6年前の2016年。お腹を空かせていたり、親の仕事が遅くて一人でご飯を食べたりしている子どもの存在を知ったこばと会が、自治会などに声をかけて有志のメンバーを募り、法人の保育園や小学校のランチルームを借りて子ども誰でも食堂「ハーモニーカフェ」を開催してきたことに始まります。
2020年には、リバティと同じ場所に「地域食堂ハーモニーカフェ」をオープン。地域の人の交流スペースとして親しまれていました。しかし、コロナ禍を迎え、子ども食堂は中断。代わりにハーモニーカフェを拠点に配食を始めたことが、今のリバティの活動に繋がっています。
2022年からは子ども第三の居場所としてリバティを運営。これまでの活動が実り、利用する子どもの「食事と生活習慣の確立はできてきた」と櫻田さんは振り返ります。
学習支援と体験活動の強化を目指す
一定の手応えを感じつつも、今後は学習支援と体験活動に力を入れていきたいと考えています。
「ステップファミリーで家に居たくない、3Kに大人6名・子ども2名で住んでいるが生活リズムが違うので落ち着いて勉強ができないなど、様々な困難を抱える子どもがいます。勉強ができないために、学校に行きたくないという子どももいるので、拠点で日常的な学習習慣が身につくような支援をしていきたいです」
また、子どもの心身の成長に繋げるため、体験活動の機会も増やしていく予定です。
「親が子どもの頃に体験活動の経験がないと、想像ができず自分の子どもにもさせることができない悪循環に陥ります。家庭ではできない体験活動を提供できるようにしていきたいです」
現在、リバティでは体験活動として地域のお祭りに出店したり、花壇の草取りをしたり、ウクレレや尺八の演奏会を開催したりするなど、近隣住民の繋がりを大切にしたイベントや催しを実施しています。


そうした関わりの中で、リバティを利用する子ども同士がお互いを認め合い、受け止め合える関係性ができたり、地域交流から社会性が育まれたりしているのだとか。
不登校だった子どもが自信をつけて学校へ行くようになったり、友達と円滑なコミュニケーションが取れるようになったりと、少しずつ良い変化が見られています。
全国各地の団地に子どもの居場所を
多摩ニュータウンは高齢化が進み、小学校の生徒数も年々減っています。そのため、子ども向けの支援が十分に行き届かず、安心して過ごせる居場所はどんどん少なくなっているそうです。そんな中、リバティは多摩市内では数少ない子ども第三の居場所だからこそ、移動時間がかかっても市内各地からの利用者が跡を立ちません。

「地域の困りごとに対応できて、セーフティネットから落ちないようにするのが居場所の役割だと思います。リバティなら何かあったら気軽に来れて、相談してもらえます。財団の支援によって、人件費を捻出することができ、運営基盤を整えられたことはとてもありがたいです」

リバティを利用する子どもの保護者からは「一人で留守をするのが難しい子どもにとって、親の仕事や用事の時に頼れる場所」「自宅でゆっくり過ごせない娘にとって、家族と離れて落ち着ける場所になった。自分らしさを取り戻しつつある」など、団地の中に居場所があるからこその声が届いています。
「団地に一つとまでは言いませんが、中学校区に一つずつ、小さくてもいいので居場所があるといいですよね」と櫻田さん。今後は、子ども支援に止まらず家庭支援も視野に入れながら活動を広げていきたいと考えています。全国各地にある団地の先進事例として、今後の展開も楽しみです。
取材:北川由依