「のび〜るタイム」で、長期休暇中の居場所になる。東京・清瀬市「ピッコロのおうち たんぽぽ」

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階段にずらりと並ぶ子ども向けの本

西武池袋線「清瀬駅」より10分ほど歩いていくと、薄黄色とカーキの一軒家が現れます。ここは「ピッコロのおうち たんぽぽ」。2023年5月に、地域の子どもたちの放課後の遊び、学び、多世代交流の場として開設しました。

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たんぽぽカラーの一軒家

運営するのは、1997年から清瀬市で子育て支援活動をする「NPO法人子育てネットワーク・ピッコロ(以下、ピッコロ)」です。家族まるごと支援を掲げて、子どもの送迎やファミリーサポート事業、放課後児童クラブの運営などを行い、長年、地域の子育てを下支えしてきました。

たんぽぽは、地域の子どもが誰でも安心して利用できる居場所としてオープンし、3年目。現在は月・水・金曜の週3日、13〜19時まで開所しています。利用の多くは近隣に住む小学生。子どもであればおやつも夕食も無料です。

長期休暇は「のび〜るタイム」で家庭を支える

たんぽぽの特徴の一つが長期休暇中の特別運営です。普段の開所時間に加えて、11時から利用できる「のび〜るタイム」を設けています。

「長年の子育て支援活動から、長期休暇の子どもの居場所が足りていないことを把握していました。のび〜るタイムは、初年度から実施しています」

と話すのは、事務局の古谷康予さん。たんぽぽの運営スタッフでもあります。

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古谷さん

のび〜るタイムは登録制で、定員1日10名。1回500円、昼食付きで、13時以降も希望すればそのままたんぽぽを利用することもできます。

普段は近隣に住む小学生の利用が中心ですが、長期休暇になると、遠方利用も増加。放課後児童クラブを利用していない低学年や、利用対象外となってしまった高学年が中心です。

「週3日の開所に合わせて仕事のシフトを入れている保護者もいます。朝たんぽぽに車で送り届けて、仕事へ行き、夕方にお迎えに来られています」

長期休暇中、子どもが家にいると仕事にも出かけづらくなります。そうした家庭にとって、たんぽぽは心強い存在です。

「給食がないと、カップラーメンや冷凍パスタなどを昼食に食べて栄養が偏りがちです。たんぽぽでは、栄養士が調理した手作りの昼食を提供していますので、長期休暇中の栄養補完としても役立てているのかなと思いますね」

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栄養士が作るある日の夕食。1日30食を作り、子どもは無料、大人は500円で提供している

また、仕事をしていない場合でも、「1日中子どもと家にいるのはしんどい」と利用するケースもあります。

「長期休暇は親子関係が密着しやすいですよね。そのため、子どもとお母さんが一緒に来ることもあります。お母さんもたんぽぽの運営をお手伝いしてもらいながら、たわいもないことをお話して、ストレス解消になっているようです」

猛暑で減少する子どもの居場所

13時からは通常通りのたんぽぽのため、近隣の子どもたちの利用も増えます。長期休暇中は毎回20名ほどが集まり、賑やかです。

「近年、暑くて公園でも遊びづらくなりました。学区内に児童館があるといいのですが、たんぽぽ周辺にはありません。遠出しづらい低学年の利用が多く、たんぽぽが友達との待ち合わせ場所にもなっています」

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放課後に拠点で遊ぶ子どもたち

学校の友達と会えなくなる長期休暇。たんぽぽに行けば誰かいる。そんな期待が自然と子どもたちの足をたんぽぽに向かわせます。

「子どもが誰かに会いたいと思った時に会える場所になってきているのかなと思います。利用があってもなくても、オープンしていることが大切だという気持ちで、扉を開け続けています」

地域団体とのネットワークを生かした運営

たんぽぽの運営は、地域のボランティアサークルやご近所さん、行政など、様々な人の手によって成り立っています。そうした関わりはピッコロが28年の活動で培ってきたネットワークがあってこそ。

「開所時から、多くの方に助けをいただいています。子ども食堂の運営団体や他の居場所とも連携して、お互いに合うご家庭やお子さんを紹介し合うこともあります。ありがたいことに、ご近所さんが朝早くのゴミ出しを協力してくれていますし、『電気がつけっぱなしだよ』と電話が来ることも(笑)」

長期休暇中は、子どもたちが楽しい時間を過ごせるようにと、スイカ割りやフルーツポンチづくり、紙芝居の読みきかせなど、イベントもたくさん用意しています。そこにも、地域の方もボランティアとして運営に携わってくださっていますね。

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地元企業のご協力のもと開催した、お煎餅焼きイベント。初めての煎餅づくりは大成功!

「たんぽぽは誰でも利用できます。そのため、開所当初は、本当に必要な人に支援が届いているのか、葛藤もありました。しかし今では、ラベリングをすることなく、行政や支援機関では出会えない、手を差し伸べられない家庭との接点を持てることが、たんぽぽの良さだと考えています」

服が綺麗で、習い事をしていて、一見複雑な背景を抱えているかわからない子どももいるそう。しかし、「週3回利用しているということは、何かしらあるのかもしれない」、「たんぽぽがあることで予防になっているのかもしれない」と想像しながら、子どもたちと接しています。そして、要支援家庭の子どもがいたら、行政や専門機関に共有する。そうした役割をたんぽぽは担っています。

家庭をまるごと支える居場所として

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「今日の夕飯は何?」とキッチンに子どもが尋ねにくることもある

「朝お母さんと喧嘩したからゆっくりしてから帰るね」「友達と夕食はたんぽぽで食べようと約束したんだ」など、子どもたちは様々な理由からふらっとたんぽぽを訪れます。

そんな子どもたちを、どんな時も「おかえり!」と笑顔で迎えるスタッフの存在が、子どもたちにとって大きな支えになっているのでしょう。

「ご飯を食べる。おかわりをする。叱られる。そんな風に当たり前に過ごせて、当たり前のように自分が行っていいと思える居場所でありたいです。そして、困ったらたんぽぽに来て、『助けて』と言ってもらえる存在になりたいですね」

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玄関で「いってらっしゃい」と子どもを見送るスタッフ

取材:北川由依


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