島の子どもたちに体験活動の機会をつくる。香川「NAOSHIMA SAILORS CLUB」

香川県・直島。古い町並みとアートが融合した国際的な観光地として知られるこの島には、約2,900人が暮らしています。
小学校は島に一校のみで、児童数は約120人。そのすぐそばに、子ども第三の居場所「NAOSHIMA SAILORS CLUB(ナオシマセイラーズクラブ)」があります。
注目すべき点は、居場所が放課後児童クラブ(学童保育)の役割を担いながら、島内で機会不足となっている様々な体験活動を提供していることです。
運営するのは、「島での子育て環境をより良いものにしたい」という思いを共有する母親たちが集まり、2020年に設立された「一般社団法人キッズポート」。居場所を訪問すると、理事の並河怜さんが出迎えてくれました。

島ならではの子育て課題
人気観光地として国内外から観光客が訪れる直島。2010年に瀬戸内国際芸術祭が初開催されて以降、会期中(3年に一度の実施)に訪れる観光客は年々増加しており、2025年には、33万人を超える人が直島を訪れました。
そんな直島に並河さんが暮らし始めたのは2010年のこと。「当時はコンビニもなかった」という島で、子育てをすることになったことがキッズポートの立ち上げ、そして後の居場所運営に繋がりました。
「島では、子どもがスイミングやピアノを習いたいと言っても、船に乗って高松市か岡山県に行き、そこからさらに車で移動する必要があります。保護者が働いていると船の時間等の関係上、通うのが難しい場合もあります」
そんな課題感から生まれた居場所では、離島での体験機会の提供を目的とした様々なプログラムを実施しています。

島ならではの体験プログラム
なかでも子どもたちに人気なのが、東京から演出家を迎えて実施する3カ月の演劇プログラム「直島こども劇団」と、子どもたちがメニューの企画や調理、配膳などの運営を担う子ども食堂「MEAL&MEET」です。
「島ではクラス替えがなく、幼稚園から中学校までの12年間、ほぼ同じメンバーで育っていきます。演劇で日常の自分とは異なる役を演じることで、新しい自分に出会うことができています」

また、「MEAL&MEET」では、企画・運営を子どもたちがクルーとして担当。食文化の理解から献立づくり、調理、接客など食にまつわる全般に関わりながら、お客さんを迎えます。
「ごはんを通して、人や文化との出会いと交流をすることを目的に始めました。予約制で、居場所に関わる方だけではなく、誰でも食べに来てもらえる食堂です」

他にも、STEAM工作やアートワークショップなど、子どもたちの学びや創造を刺激する活動が盛りだくさん!
そうしたプログラムを支えるのが、スタッフ一人ひとりのスキルや経験です。SAILORS CLUBのスタッフは、教員免許や保育士資格を持っている人、芸術系大学の卒業生、アクセサリー制作をしている人、海外で生活していた人など、多才な人が集まり、子どもたちの成長に関わっています。

たくさんの人に出会ってほしい
体験はプログラムだけにとどまりません。「子どもたちにたくさんの人と出会ってほしい」という思いから、居場所に併設する形でカフェ「Baiten」を運営しています。
Baitenでは、乳製品・卵・グルテンフリーの体や環境に優しい焼きドーナツや、珈琲やジュースなどのドリンクを販売。国内外の観光客がふらっと居場所を訪れ、子どもたちと交流するきっかけになっています。

「個性的な建物なので、なんだろうと不思議に思った観光客がふらっと訪れてくれます。先日もフランスから来たファミリーが来た際、ドーナツを食べながら、居場所の子どもたちと遊んで帰っていきました。それも旅の一つの思い出になったらいいなと思っています」
時には、地元のおばあちゃんがドーナツを買いにきたついでに、子どもたちとおしゃべりを楽しんで帰っていくことも。居場所が開かれていることで、「子どもにとっても色々な人と交流できるきっかけになっている」と並河さんは話します。
町と一体となった運営体制
2023年度から25年度までの日本財団の助成期間を終え、今年度からは直島町地域こどもの生活支援強化事業として運営を継続しています。
かつて、島内には放課後児童クラブ(学童保育)がありましたが、「NAOSHIMA SAILORS CLUB」を開所する際に、町が運営する放課後児童クラブから、子どもの居場所に一本化。開業前の段階から町役場と相談をし、助成終了後の運営体制も含めて検討を重ねながら、二人三脚で島の子育て環境の向上に取り組んできました。

「時代が変わって、私が島に移住した時よりも共働き世帯が増えました。観光客の増加に伴い、ご自身でゲストハウスや飲食店を運営される方が増えるなど、働き方も多様化し、預かりニーズは増えています。そのため、居場所では一年を通しての預かりだけではなく、長期休暇のみの短期預かりや、数時間だけの一時預かりなど、それぞれニーズに合わせた使い方が出来るようになっています。保護者にとっても子どもにとっても選択肢がある状態を大切にしたいです」
開設当初は小学生対象でしたが、直島町地域こどもの生活支援強化事業になったことで、利用対象が中高生まで広がりました。「今後ますます地域のいろんな人に関わってもらいながら運営していきたい」と並河さんは、語ります。
「NAOSHIMA SAILORS CLUB」は、自分で舵をとって人生の航海に出てほしいという願いを込め、「SAILORS = 船乗り」と名付けられました。ただ子どもを預けられる場所ではなく、多様な体験ができる居場所で過ごした子どもたちが、どのような未来に船出をするのか楽しみです。
取材:北川由依
「子ども第三の居場所」に興味をお持ちの方は、ぜひ子ども第三の居場所プロジェクトページをご覧ください。