子どもにとって大切な、大人との関わり。

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焼けたフランクフルトを食べる児童

はじめに

はじめまして。今回、「第三の居場所」を取材することになった岩田といいます。肩書きはグラフィックデザイナーですが、デザインも言葉も写真も表現として同じ目的を持つものと捉え、こうした取材活動もしています。
記事は、とある支援施設で開かれたバーベキュー会で僕が見聞きしたことを書き写すようにまとめたものです。取材者にとって、現場の現実がすべてです。これを読む方にとって、何かしら考えるきっかけになればと思います。

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年下の子にコーラを注ぐ児童

話を聞いてくれる大人の存在|コウキくんの事例

バーベキューの準備が始まると、子どもたちは欲しいジュースを尋ね合い、紙コップに注ぎ合った。年上の子が年下の子に、年下の子が年上の子に。
コウキくん(仮名・小1)も同じように、年上の子のコップにジュースを注いだ。そうした動きが自然と起きている。
コウキくんは両親のいざこざで、虐待を受けて育った。自分を守るために自己表現をしなくなり、学校生活でも嘘を繰り返す日々が続いていた。心配した先生が昨年11月、「第三の居場所」へと繋いだ。この拠点に来たころは声を出して喋ることはおろか、大人と目を合わすこともなかった。そんな彼もこの2、3カ月でめざましく変わってきている。
「喋るようになったし、自己決定もできるようになってきた。今は、こんなにイヤって主張できるようになったんやぁ、っていうくらいワガママ爆発、自己解放中です」と、拠点マネージャーは話す。
彼は普通の子が2歳から4歳で通過する第一次反抗期を、7歳の今、駆け足で迎えている。一度は傷つき失いかけた成長の道筋を、子どもらしい力で取り戻そうとしている。

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お肉を食べる児童

早ければ2週間くらいで拠点に慣れ、子どもは変化の兆しを見せていく。それは「大人との距離が変わることで子どもは変わっていく」のだと拠点マネージャーは言う。
「大人との距離がこんなに近くなることが、まずないと思うんですね。自分のそばにいてくれて自分の話を聞いてくれて。何食べる?とか、宿題する?とか問いかけてくれる経験があんまりない子たちなので。何より自分の存在が確認できて、嬉しいんだと思います」

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お肉が焼けるのを待つ児童

情報を届ける難しさ

しかし、難問がある。
こうした拠点の活動を知ってもらうため、近隣の小学校、教育委員会、児童相談所、思いつく限りの場所に累計1,000部のチラシを配布した。それでも、チラシを見た家庭からの直接の応募はなかった。多くは学校からの問い合わせから始まった。そこから子どもと会い、親御さんと面談する機会を得るために試行錯誤する。そんな流れで拠点利用へと辿り着くケースばかりだ。
支援を必要とする家庭ほど、どういう受け皿があるかを知らない。苦しい生活の中で、そうした情報に触れることのできる機会が少ないためだ。
拠点マネージャーは言う、「制度に関する知識や、他人との繋がり、また将来の生活を考えるゆとりがないと、情報って流れてこないですよね。町内会とも友だちとも繋がりがない。新聞もとっていない。インターネットや何かしらのツールの網から漏れてしまった人は、自分を助けてくれる制度や人がどこにある・いるのかがわからない。こうなると私たちもそこにどうやって繋がっていいのかがわからない。それであれこれと、ジグソーパズルをつくるように…」
ユウセイくん(仮名・小4)の家がまさにそうだった。ある日、拠点にふらっと彼が訪ねてきた。「おやっ?」と思い話を聞くと、母子家庭の子だった。

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並べられた子どもたちの靴

親御さんに情報を届ける|ユウセイくんの事例

「ここだとご飯が食べられるから、できたら来たいんやけど…」と彼は言った、「7時までにお母さんが迎えに来れないから、僕、やっぱり来れないよ」
聞くと、7時に迎えに来られないどころか、母親は生活費のため夜勤で泊まりの仕事もしている。子どもだけで一夜を過ごす日も多いという。
拠点マネージャーは母親宛に手紙を書き、ユウセイくんに持たせた。しかし、母親からの連絡はなかった。

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折り紙で遊ぶ児童

しばらくたったころ、子どもたちと遊んでいたら再びユウセイくんと出くわした。
「お母さんに手紙、渡してくれた?」
「渡したけど…俺、来ていいんかなあ」
「いいよ、おいで、おいで」
翌日、ようやく母親と会うことができた。
聞くと、行政が運営する月5,000円の学童保育もお金を支払えずやめざるを得なかったという経済的な課題を抱えていた。「この拠点も、利用したらお金がかかると思い込んでいた」と母親は打ち明けた。
そんなユウセイくんも今、拠点では大人に見てもらいながら、同時に年長役として年下の子を見ている。自分の役割が生まれ、緊張感をもって成長を始めている。

取材・文・写真:岩田和憲

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