各拠点の子どもの特性にあった関わりを可能にする「トリプルP」
日本財団では、第三の居場所の運営の質を高めるため様々な研修を実施しています。今回ご紹介するのは、拠点のスタッフ向けに実施する「トリプルP(前向き子育てプログラム)」です。
子どもの良い面を伸ばす「トリプルP」
トリプルPとは、オーストラリアのクイーンズランド大学で開発されたた、子育てのためのプログラム。現在世界25カ国以上で導入され、子どもの良い面に注目して関わる子育て方法として広がっています。
日本財団では、クイーンズランド大学でトリプルPを学び、現在はトリプルP認定トレーナーとして活躍する大河内美和さんを講師にお招きし、研修を実施しています。
トリプルPの名前は、「Positive」「Parenting」「Program」の3つのPから来ています。科学的なエビデンスに基づいたプログラムを導入する国が増える中で、トリプルPはそのエビデンスの多さから支持されてきました。
大河内さんは、トリプルPの特徴を、「対象を限定せず、子育てに困っている人も困っていない人も、子育て家庭全てに有効な関わり方を紹介できること」と話します。
また子育て手法としての特徴は、「子どもが日常の様々な問題に対して、より建設的かつ効果的に対処し、子どものライフスキルを伸ばすためのプログラムであること」と続けます。中でも、ダメな行動をやめさせるのではなく、もっと良い行動をできるようになるために手本を示したり褒めたりと積極的に関わることから、前向きなプログラムと呼んでいるそうです。
支援者ならではの関わり方
日本財団では、世界中で支持されるトリプルPに関する研修を、第三の居場所の運営者に向けて実施してきました。
「日本財団が主催する研修は対象が親ではなく支援者(拠点スタッフ)になります。親ならできることが、支援者だと難しいこともありますから、他所の人でもできる子どもとの関わり方をお伝えするようにしています」
その一つが、一貫性ある行動をすることです。
「拠点のスタッフは、日によって入れ替わります。対応する人によって、言っていることが違ったら子どもは戸惑いますよね。だから拠点として一貫した関わりをすることが大切です」
子どもは大人の言動をよく見ています。「この人は厳しいから言うことを聞こう」、「この人なら少しくらい甘えてもいいや」と人によって行動を変え、抜け道を考えるようになることもあるでしょう。しかし、それではスタッフ各々が子どもと良い距離感を保つことはできません。関わるのがどのスタッフであっても、1日の過ごし方は同じ流れ、良いこと悪いことの判断は同じであることを心がけてほしいと、大河内さんは伝えています。
大人が変わると子どもも変わる
この日訪れた研修では、拠点には発達障害のある子どもも通っており、日々の行動改善にスタッフが手を焼いているという相談が寄せられました。それを聞いて大河内さんは、「子どもが拠点に通う間に、全てを良くしようと思わなくていい」と答えます。
子どもの改善が、自分の肩にのしかかっていると感じている支援者はたくさんいます。しかし、長いスパンで見た時、拠点にいられるのは極わずかな時間です。
「子どもが通う数年の間に、何かを成し遂げなくてはならないと思わなくていい。それよりも、できているところ、できるようになったことをたくさん褒めてください。もし拠点がなかったら子どもはどうなっていたかをベースに考えて、比べてみましょう。拠点で過ごす中で、何かしら前向きな変化があればそれだけで大きな変化ではないでしょうか」
最後に、大河内さんは第三の居場所に期待することを話してくれました。
「世界的にも、地域での子育てが大切と言われる時代になりました。第三の居場所は、複数の子どもと複数の大人がいるまさにコミュニティの縮図です。家庭とは違う、地域だからこそできることがあるはず。居場所が地域の子育て拠点のように育っていくといいですね」
トリプルPには、大人数のセミナー形式、少人数向けのワークショップ、個別相談など多様なプログラムがあります。日本財団では、各拠点のニーズに合わせてトリプルPの研修を継続的に実施し、スタッフそして子ども達にとって前向きな変化があるようサポートしていきます。
取材:北川 由依
日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。