【現地レポート】福島県、水に浸かった学校 授業や部活動に影響
東日本を縦断し、東北地方を中心に広い範囲で記録的な大雨をもたらした台風19号によって、福島県では全国で最も多い32人が亡くなりました。このほかにいわき市では2月、50~90代の男女4人が台風19号としては県内初の災害関連死に認定されました。

県内で床上浸水に遭遇した人たちの感想は「じわりと畳が浮いてきた」という人もいれば「あっという間に水に浸かった」という人もいます。台風19号の大雨では、阿武隈川のような大規模な河川だけでなく、中小河川もいたるところで氾濫しました。河川からあふれ出した水が、 住宅をのみ込む様子は それぞれの場所によって異なりました。
いわき市で4人が亡くなった平窪地区に住む山登ユカさんは「電気が切れて静かに水が上がってきた」と話します。山登さんは水に浸かりかけた車から、警報が鳴り響いている様子を覚えています。そこから車で5分ほどの農家、福田國浩さん(92)は「あっという間に水が来た」と言います。福田さん宅は2メートル以上の水に浸かりました。
職員室の床に泥、児童も被災

川からあふれた水は学校も襲いました。
被災から4カ月後の2月中旬、郡山駅から車で約15分の郡山市立永盛小学校を取材しました。郡山市では、福島県を南北に流れる阿武隈川とそこに流れ込む支流のところどころで堤防が決壊し、6人が亡くなり、約2万世帯が浸水しました。永盛小は阿武隈川とその支流、笹原川に挟まれた場所にあります。
永盛小は10月13日朝、台風による大雨の影響で校舎や体育館の1階は浸水し、中に入ることができませんでした。水が引いた翌朝、体育館ではグランドピアノがひっくり返り、1階にあった職員室や1年生の教室では、教材やパソコンなどの備品が散乱していました。大知里重政(おおちり しげまさ)校長(57)は「1階は床に2センチくらい泥が溜まって、私物も含めてほぼ全滅。指導要録などが入った金庫も水浸しですべて廃棄するしかありませんでした」と振り返りました。流れ込んだ水には一部汚水も混じっていました。

児童の暮らしも直撃しました。永盛小では全校児童約300人のうち、約半数の児童の自宅が床上浸水。約4分の1は床下浸水でした。全体の7割が浸水被害を受けたことになります。被災から10日後の23日になって、ようやく近隣の4校に分かれて授業を再開しました。2月中旬までに3年生以上は永盛小での学校生活になっていましたが、1、2年生計4クラスの児童はまだ近隣校から戻っていませんでした。

届いた暖房機 進む復旧
それでも、復旧は進みつつあります。浸水でいたんだ体育館の床を削る工事は終わり、取材をした日は3年生2クラスが体育の授業をしていました。寒い時期に体育館を暖めるために使われる大型暖房機「ジェットヒーター」も水害で使えなくなってしまいましたが、日本財団の支援で新しいものが届きました。3年生を担任する齋藤友美教諭(29)は「子どもたちが暖かく過ごせます。卒業式も安心して迎えられます」と話します。

ほかにも市内では、郡山駅の北西にある赤木小に、阿武隈川の支流の逢瀬川から水が流れ込み、校内の水位計は約160センチに達しました。堤防沿いにある小泉小では、門扉やフェンスが倒壊しました。これらの学校でも、被災した備品を日本財団が支援しました。
強豪ラグビー部のグラウンド冠水

阿武隈川から離れたいわき市も深刻な被害を受けました。市中心部に近い県立磐城(いわき)高校のラグビー部のグラウンドも台風によって使えなくなりました。太平洋に注ぐ好間川から溢れた水が約2メートルの高さまで達したのです。
約1万8,000平方メートルのグラウンドに汚水を含む川の水が流れ込みました。雑菌などの危険性を考えて、表面から10センチまで土を入れ替えることになりました。照明用の分電盤も取り換えました。
さらに影響が大きかったのはトイレです。ラグビー部は東北大会の常連の強豪で、男女あわせて約20人の部員がいます。グラウンドにあったトイレが使えなくなったため、歩いて15分かかる学校のトイレを使わざるを得なくなってしまいました。週末の試合となると、保護者らも訪れます。
そこで日本財団の支援で簡易トイレが設置されました。2年生の松崎宙大(ひろと)さん(17)は「トイレが復旧して、今は練習に集中できています」。部員たちは被災した経験をばねに練習に励んでいます。

子どもたちに遊び場を
被災した子どもたちがストレスを発散する場をつくる活動もあります。NPO法人「子どもが自然と遊ぶ楽校ネット」はいわき市や郡山市の公園で、手作りの遊具を週末を中心に設置しています。外遊びの楽しさを伝え、体を動かす中でコミュニケーションの機会を作り出す狙いがあります。

県営いわき公園では2月中旬、樹木に1本のベルトの上を綱渡りのように歩く「スラックライン」やターザンロープが設置されました。この日は幼児や小学生約70人が遊具を使って遊んでいました。見守り指導にあたっていた遠藤八十八さん(74)は「遊びを通じて元気を提供したい」と話していました。