【現地レポート】福島県いわき市、コメ農家を学生ボランティアが支援

台風被害にあった福島県いわき市の農家は、まだ復旧のただ中にありました。川からあふれ出した水は、田んぼや畑にたくさんのごみや石を運びました。その撤去作業などに東京や埼玉、新潟などから学生ボランティアが力を注いでいます。2月中旬、大学生たちの作業を取材しました。

写真:駐車場で担当者からボランティアの注意事項などを説明される大学生たち
ボランティアの注意事項などの説明を受ける大学生たち 

田んぼにまばらにある石や、水路を埋める土。いわき駅から車で10分ほどの、のどかな田園風景がひろがる下平窪地区では、一面に広がる田んぼのいたるところに大小の石が散らばっていました。昨年10月の台風19号によって、近くの夏井川があふれ、上流やその支流などから運ばれて来た石が田んぼに残ったのです。

写真:公民館で昼休憩時に学生ボランティアに被災当時の様子を説明する鈴木さん
昼の休憩時に学生ボランティアに被災当時の様子を説明する鈴木さん(左) 

田んぼを一反歩(約300坪)持つ鈴木京子さん(61)は「水が引いた後は鼻をつく臭いが漂い、バイクや灯油缶などが残っていました」と説明します。大きな災害ごみを撤去した後には、砂利のような大小の石が残りました。

この時期は例年、田んぼの土を深く掘り起こし、上層と下層の土を入れ替える田おこしをします。「天地返し」とも呼ばれ、豊かな田んぼにするための重要な作業です。しかし、たくさんの石があると、トラクターの後部に付けた爪はすぐに傷み、作業が続けられません。鈴木さんは「一度稲作を休んでしまうと、再開には長い時間がかかります。今年、コメの作付けができるかどうかの見通しは立っていません」と話しました。

写真:田んぼからスコップを使って表面に広がった石などを取り除く学生ボランティア
田んぼの表面に広がった石などを取り除く学生ボランティア 

20人が作業、石やごみを除去

この日、聖学院大(埼玉県)や立正大(東京都)から集まった20人を超える学生ボランティアは、スコップなどを使って、田んぼから石やごみを集めて、土のう袋に詰めこみました。周辺の別の地区でも、農水路に詰まった泥を取り除き、納屋を片付けました。

関西から参加した立命館大3年の廣澤孝駿(たかとし)さん(21)は「ボランティアにニーズがあるのか、テレビなどで報じられても実感ができなかった。でも実際にやると、多くの人に対してできることがあると実感できました」と話しました。薬学部で薬剤師となって人の役に立ちたいという廣澤さんは、この経験をもとに進路を考えたいそうです。

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廣澤孝駿さん 

日本財団学生ボランティアセンター(通称:Gakuvo)は災害が起きると、学生ボランティアを募ります。Gakuvoを運営する宮腰義仁さん(40)は「現状の復旧状態から考えるとまだまだボランティアの継続的な支援が必要です。学生が長期休暇を取れるシーズンには継続的に学生がボランティアとして応募できる機会を作っていきたいです」と話しています。

写真洗浄 被災前の暮らし実感

Gakuvoでの活動をきっかけに学生ボランティアとして、10月の被災からすでに3度いわき市を訪れた学生もいます。新潟青陵大(新潟市)の立川菜月さん(20)は台風がいわきを襲う様子をテレビで見て、「実際に現地の人と関わって、何か力になりたい」と思い、11月にボランティアに応募したそうです。

大学のボランティアセンターを運営する学生スタッフでもある立川さん。学生にボランティアの魅力を伝えるために、実際に体験していて、色んな人たちと出会うことで夢中になりました。現地で活動するうちに、被災地では1、2週間の長期で動ける人材が必要とされていることを知り、大学が休みになって長期の活動ができる時期を待って参加しました。

写真:テーブルの上に、水に浸かったアルバムを並べて、写真を切り出す立川さんたちの様子
アルバムから写真を切り出す作業をする立川さん(左) 

2月中旬は小名浜地区にある旅館だったという空き家の一室で、写真洗浄の専門家であるピースボート災害支援センターの鈴木省一さん(42)の指導のもと、立川さんら3人のボランティアが水に浸かってしまって汚れた写真を洗浄し、黙々とアルバムから写真を切り出していました。3人が午前中に切り出した写真は、1軒分のアルバム20冊分。思ったより時間がかかりました。

写真:テーブルの上に、水に浸かったアルバムを並べて、写真を切り出す3人のボランティア
アルバムから写真を切り出す作業をする3人のボランティア 

写真洗浄はボランティアでやろうとしても長い時間がかかるし、被災者にとってはそれぞれ家族の思い出と向き合う大切な時間をつくります。鈴木さんは被災者向けの講習会を開いて、家族自身の手によって作業することを勧めています。

立川さんは「被害にあった方々には家族がいて、実際に生活していたことを実感できました。ボランティアに参加する人が少しでも増えるように、この経験をほかの大学生にも伝えたいです」。アルバムが山積みの中で、作業は続いていました。


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