目的は食事提供ではなく、居場所づくり。子ども食堂から始まった大阪・泉佐野の「キリンの家」が目指すもの。

写真:キリンの家で水取さんと勉強をする子どもたちの様子

集合住宅が立ち並ぶ、大阪・泉佐野市の佐野台。団地を抜けると現れる長屋の一角に「キリンの家」はあります。2017年、月1回の子ども食堂の実施から始まった任意団体が、拠点を構え、2021年には法人化。同年11月からは子ども第三の居場所としても活動をスタートしました。その変遷の背景には、どのような思いや地域のニーズがあったのでしょうか。

スナックに挟まれた長屋の一角

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「キリンの家」の両隣は現役のスナック。子どもたちと活動時間が異なるため、子どもの声も気にする必要がなく伸び伸びと過ごせているそう。

白やグレーを基調とし、大きな窓のある「キリンの家」はとても明るい印象。中からはいつも元気な子どもの声が聞こえてきます。

それもそのはず。現在、日中は不登校の子どものためのフリースクール、16時以降は学校帰りの子どもが立ち寄る居場所として運営されていて、土日もイベントや食事提供などを実施していることから、「キリンの家」が稼働していないのは月に1〜2日あるかどうかなんだそう。

「子どもの喜ぶ姿や子どもの笑顔を見るのが好きなんです」と語るのは、「キリンの家」を運営する特定非営利活動法人キリンこども応援団の代表理事である水取博隆さん。

子ども好きが高じて、現在の活動を始める以前も、自身の子どもが通う小学校のPTA活動で積極的にコミュニケーションをとっていました。現在の活動に至る転機は、不安定な子どもの変化に気づいたこと。

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水取さん

「市の縄跳び大会に出場するため毎週子どもと接していたら、不安定な子どもがいることに気づき、関わる大人が話を聞いたり認めたりなどして接することによって安定していく変化を目の当たりにしました。その時に、定期的に信頼できる大人と会うことが、子どもの心の安定に繋がると気づきましたね」

2017年、PTAの仲間を中心に小学校の保護者同士で子ども食堂をスタート。当初から「目的は食事提供ではなく、居場所づくりだ」との共通認識のもと、月1回、地域の集会所を借りて食事の提供を始めました。

もともと子どもたちから「オッチャン」と呼ばれ、親しまれていた水取さんが主催するとあって、子ども食堂は大人気。1日で170名もの人が利用した日もあったそうです。

一方で、一人ひとりの子どもと丁寧なコミュニケーションが取れないことから、「居場所になっているのだろうか」と疑問をいだきます。

同時に新型コロナウイルス感染症のまん延で集会所が借りれなくなったことから、「今こそ子どもたちには居場所が必要だ」と考え、2020年11月、現在の拠点を借り受けます。

拡張工事によって、子どもたちと理想の時間を過ごせるように

コロナ禍でもできることからやっていこうと、「キリンの家」は食材提供やテイクアウト形式の子ども食堂に取り組み始めました。また、2021年11月からは子ども第三の居場所の仲間入り。もともと長屋一軒分だったところを、隣の空き店舗2軒分もリノベーションして拡張。日本財団の助成金を使うことで、25㎡から75㎡まで居場所を広げました。

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(左)長屋一軒分で活動していた頃の様子(右)隣の店舗を拡張工事する前の様子

「余裕のある空間で、子どもたちとゆっくり過ごせています。進路相談、恋愛相談、お家の相談などもしてもらえるようになりましたね」

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保護者の有志で立ち上がった組織のため、保護者のコミットが強くボランティアも多数。

現在は食事支援に加えて、受験にあわせた学習支援や、小学生にはプログラミングワークショップ、高校生向けにはウクライナ侵攻学習など、子どもの年齢にあわせたプログラムを提供しています。

なかでも目を引くのが、「お兄ちゃん・お姉ちゃんスタッフ」と呼ばれる中学生によるプロジェクト。2021年度は、3名のお姉ちゃんスタッフが、コミュニティラジオで週1回・3カ月、計13回のラジオ放送を経験。テーマ決めから構成づくり、台本、放送までを自分達の手でやり遂げました。

「3人には『校則を変えたい』という願いがありました。三つ編みやツーブロックはダメなど、先生もダメな理由を明確には答えられず、昔の校則がそのまま残ってしまっていました。そこで彼女たちはテーマを『校則』に決めて、毎週ゲストを呼び考えを深めることに。ラストの放送では、生徒会・保護者・先生を巻き込んだ校則検討委員会を作り、話し合いの場を設けたらいいのではないかと案を出し、意見をまとめてました」

まとめた意見を大人が学校に提出するのではなく、子ども達が動き出します。その後、3人のうち1人は生徒会に立候補。今は会長として、校則を変えるべく動き続けています。

「公立中学校それぞれで校則が違うのはおかしい、と近隣5つの生徒会を巻き込んで一気に校則を変えようと動いています。学校やご家族の関わりもよかったのだと思いますが、子どもが自分のやりたいことを踏み出せるような後押しをできた事例になったんじゃないかなと思います」

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コミュニティラジオ放送するスタジオの様子

今年度は12人のお兄ちゃん・お姉ちゃんスタッフが、「TDLプロジェクト」に取り組んでいます。「東京ディズニーランド(TDL)に行きたい!」という願いを叶えるため、月1回「こどもカフェ『COCCHA』」をオープン。売上を旅費に当てて、みんなでディズニーランドへ行く目標を立てています。

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2022年5月から月1回オープン。初日は70名を超えるお客さんが駆けつけました。食器やエプロンは、地元の支援者からの寄付で賄われています。

「試作から調理、接客、さらには運営まで、すべてを子ども達が担います。ディズニーランドへ行くためには売上が必要ですが、地域の方が利用してくれるからこそ売上が立ちます。利益と感謝のバランスを考える必要があり、本当の意味での職業体験の機会になっていると思いますね」

自分で一歩踏み出せる子どもになってほしい

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曜日によって利用する学年が決まっているため、子ども一人ひとりとじっくり会話ができます。

子どもたちのやりたい気持ちを大切にして、チャレンジができるように背中をそっと押す「キリンの家」のみなさん。背景には、「自分で踏み出せる子ども」を育てたいという「キリンの家」が目指す理想があります。

「自分のやりたいことを、ちゃんと『やりたい』と言える。前向きに、自分で踏み出せる子どもが理想ですね。居場所運営はまだ一年目ですが、子どもは信頼できる大人と過ごすことで、自己肯定感が上がり、失敗を怖れずチャレンジできるようになることを感じています。子どもたちが大人になった時、『佐野台出身なんだね!』『キリンの家出身だから活躍できるんだね』と言われるようなモデルケースになりたいですね」

拠点としてはまだ一年目ですが、「目的は食事提供ではなく、居場所づくり」との水取さんの言葉にあるように、日本財団が作りたい拠点と重なり合うビジョンに向けて一歩ずつ積み重ねてきている団体です。今後の活動の広がりにも期待しています。

取材:北川由依

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