まちを見守ってきた建物が生まれ変わる。下町っ子が集う児童館「山王こどもセンター」

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住宅が並ぶ路地の一角

大阪市西成区。かつては日雇い労働者のまちとして、全国各地から人が集まったこの地で長年活動しているのが、「山王こどもセンター(以下、センター)」です。
はじまりは1964年。ドイツ人のエリザベス・ストローム宣教師が、自宅で子どもを預かったところから、運営組織を変えながら現在まで子どもの居場所であり続けています。

これまで築80年を超える古民家を拠点に活動していましたが、2022年7月に建て替え工事のため取り壊しになりました。2023年からは、同じ場所で新しい建物に生まれ変わり、子ども第三の居場所としてリニューアルオープンする予定です。

古民家の取り壊し前日、別れを惜しみながらも、新たな建物に期待を寄せるスタッフと子どもたちに会いに行ってきました。

西成で58年、活動を続けてきた社会福祉法人

「こんにちは〜」。細い路地を進んで拠点の前に着くと、子どもたちが元気に挨拶してくれました。

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縁側で思い思いに過ごす子どもと保護者。

ここが「山王こどもセンター」。新開筋商店街の裏手にある路地の一角にあります。
道に開かれた縁側で遊んでいたのは、センターに通う近所の子どもたちと保護者。小学生を中心に、中学生から大学生まで幅広い年代が出入りしています。

今から58年前、ストローム宣教師の自宅から始まったセンターは、彼女の帰国後、地域の子どもたちの学童保育の場所として生まれ変わりました。一時、財政難から閉鎖の危機にも追い込まれましたが、保護者や地域住民など有志による寄付やボランティアによって継続し、1996年には法人格を取得。2011年にはセンターの裏側に、就労継続支援B型事業所「山王おとなセンター」を開設し、こどもセンターを巣立った障がい児が大人になった後も通える居場所をつくってきました。

そんなセンターは老朽化のために、2022年夏から建て替えを予定しています。

昔から続く遊びのプログラムが生み出す繋がり

「ふっとした時に立ち寄りたくなる。実家みたいな場所なんじゃないかな」。そう語るのは、田村幸恵さん。2020年から施設長を務めています。

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施設長の田村さん。

児童館として地域内外から子ども達が集まってきます。子ども達の背景はさまざま。時に学校に行きたくない子ども達の過ごす場所にもなっています。

宿題をした後は、曜日ごとのプログラムを実施。1時間から1時間半かけて、「ボールあそび」や「集団あそび」などを楽しみます。なかでも夜のプログラムとして「ミニ運動会」「くらやみかくれんぼ」や「ざぶとん陣取り」が人気とのこと。

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職員が得意とする分野を子どもたちと楽しむ時間も設けています。過去には習字の時間や英語の時間、身体を使って遊ぶ時間などがあったそう。大学で美術を学んだ田村さんは、「ものづくりプログラム」を担当し、今は、OBの現役美大生にバトンタッチ!

「プログラムのベースは昔から変わらず同じです。だからかつて通っていた中高生や大人がふらっと訪れても、すぐに打ち解けることができます。遊びを通じて、今と昔が繋がるんですよね」(田村さん)

1998年からは人権教育のプログラムとして「社会を知ろう」を年1回開催。年度ごとにテーマを決め、これまでアイヌ民族、釜ヶ崎の労働者、LGBT、性教育や障がいなどについて学んできました。

「年に一回のプログラムで、子どもたちの心にどっしり入っていくわけではありません。忘れるだろうし、日常に流れていくでしょう。でも色々な人がいることが体感として残って、社会に出たときに、子ども時代の点と点を結びつけていける大人になってほしいなと思うんです」(田村さん)

建物に刻み込まれる「おかえり」の空気感

センターに来れば、年代に関わらず誰もが子ども時代のようにありのままでいられる。そんな魅力がここにはあります。そうした居場所づくりを作りたいと考える人は多いはず。センターではどうやって、今の状態をつくってきたのでしょうか。

スタッフとして働く新家茜さんは「こちらから手綱を外さないという想いを働き手が共有しているからこそ作り上げられる雰囲気があると思います。そして、建物が積み重ねてきた年月ではないか」と考えます。

「いつでも行ける場所ってありそうでありません。『誰でもウェルカムです』と言ったところで、気軽には行けないし、居心地の良い場所はすぐにつくれません。センターで毎日繰り返されている「遊び」が人と人とを繋げ、ここの建物が、年月をかけて誰でも来れるような環境をつくってきたからこそ生まれている雰囲気があるのだと思います」(新家さん)

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スタッフの新家さん。

子どもも大人も一丸となった建て替えのアイデア出し

2023年には新しい建物に生まれ変わるセンター。今までの良いところは次の建物にも繋ぎながら、子どもたちにとって安心・安全な場所になるようにと願いを込めて、準備を進めてきました。

設計段階から子どもたちには、建物が生まれ変わることを伝え、何度もワークショップを実施しながら、子どもたちの意見やアイデアも取り入れています。なぜなら、今の建物がなくなることは寂しいことではあるけれど、子どもたちに前向きに捉えてほしいという思いがあったからです。

「建て替えを、大人が勝手に決めた計画だと思ってほしくないんです。だから、今の建物の好きなところ、変えたいところ、新しい建物であったら嬉しいことをみんなで話し合いました」(新家さん)

写真:新しい建物の完成予想図と、子どもたちの書いた利用イメージ図
新しい建物は、裏にある「山王おとなセンター」と繋がったものになる予定です。完成予想図を見ながら、ポストイットなどを使って意見を出し合いました。

「隠れられるスペースがほしい」「自動販売機を設置したい」「屋上にハンモックを置きたい」「赤ちゃんが過ごしやすいように畳の部屋がほしい」など、子どもたちからは利用シーンをリアルに想定したアイデアがたくさん出たそうです。
なかでも、ハンモックについては実現に向けて子どもたち自らがバザーを開催。売上金を貯めて購入するという目標を立てています。

写真左:バザーのシフト表。写真右:バザーで店頭に立つ子供たち
子どもたち自らバザーのシフトを組んで店頭に立ち、接客や販売をしています。

「企画を立てて、商品を集めて、販売する。バザーの責任者として自覚を持ちながら動いている子どもたちを見て、すごく嬉しくなりました。新しい建物も、自分達が過ごす場所なんだってことを理解していて、この場所に入り込んでくれているんだなって」(新家さん)

子どもにとっても保護者にとっても安心安全な場所に

現在の建物は、古いため鍵をつけられず個室がありませんでした。しかし、新しい建物には個室を設けるため、プライバシーの守られた環境で保護者とも話をすることができるようになります。

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引っ越し準備中の2階。古い家のため個室はなく、保護者とゆっくり話をすることがままならなかった。

「2022年春に日本財団さんの子ども第三の居場所に採択されて、資金面の援助のみならず、全国の「子ども第三の居場所」の運営者が集まる研修やe-ラーニングを通して、子どもと保護者にとって安心・安全な居場所づくりのために必要なことがたくさんあることを学びました。ちょうど新しい建物になるので、求められる基準に準じた運用をしていきたいです」(田村さん)

「これまでやってきたことを守りながらも、個室ができることで、保護者とも深いコミュニケーションが取れるようになるでしょうし、個別の学習支援もやりやすくなります。一つひとつに濃く、深く取り組めるようになると思いますよ」

写真左:取り壊し前の床に書かれた子どもたちとスタッフからの感謝のメッセージ「ずっとみんなを守ってくれてありがとう!!これからもこの場所で皆を美馬載ってください」の文字。写真右:取り壊し前の床に書かれた子どもたちとスタッフからの感謝のメッセージ。「今まで私達を守ってくれてありがとう!!みんなで遊んだり、クリスマス会やハロウィンが楽しかったです。」「センターはとても楽しくてくるたびにたのしみにきていました。ありがとうだいすき」の文字。
取り壊し前。床に書かれた、子どもたちとスタッフからの感謝のメッセージ。

建物が生まれ変わることを機に、センターができることも増えそうですね。2023年に完成した際、子どもたちがどのような反応をして、どんな使い方をしていくのか、そして拠点のあるエリアがどう変わっていくのか、今から楽しみです。

取材:北川由依

寄付の状況 2022年7月末現在
8億855万8,641円
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日本財団は、「生きにくさ」を抱える子どもたちに対しての支援活動を、「日本財団子どもサポートプロジェクト」として一元的に取り組んでいます。