ゆくゆくは、ここが町の中心地。子どもも大人も、中の人も外の人も集う、埼玉・横瀬町「NAZELAB」

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ボードゲームをする子どもたち。

池袋から西武池袋線・秩父行に乗って最短73分。埼玉県横瀬町は、都市から電車一本で繋がっているとは思えないほど自然豊かな地域です。

駅から徒歩10分ほどの場所に、2022年7月、コミュニティモデルの子ども第三の居場所が誕生しました。一般社団法人タテノイトが運営する「NAZELAB(ナゼラボ)」です。

「NAZELAB」は、学校でも家でも塾でもない小中学生の学びの場。「サイエンスや自然体験から「知」の探究と自発的学びを駆動する」をテーマにしており、現在は約14名の小学生から中学生までが利用しています。

理学博士の知識や経験を活かしたプログラム

「NAZELAB」の特徴は、なんと言ってもサイエンス体験の機会が多いこと。東京工業大学大学院理工学研究科地球惑星科学専攻 博士課程を終了した代表理事の舘野繁彦さん、そしてパートナーであり同じく博士(理学)の舘野春香さんが運営していることから、身近にサイエンスの面白さを感じられる環境です。

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ガラス張りで明るい室内。木の温もりも感じられる空間です。

拠点を訪れると真っ先に目に飛び込んでくるのが、壁一面に並べられた本。宇宙や工作、昆虫などさまざまな題材の本が子どもたちを迎えます。どれもカラフルでイラストも多く、子どもたちが思わず手を伸ばしてしまうようなものばかり。拠点にいる子どもたちも気の赴くままに本に触れ、読み始める姿が印象的です。

また、拠点の奥には実験スペースがあり、顕微鏡や工具が揃っています。舘野さんが研究に使っていた岩石も展示してあり、「これはなんだろう?」と思わず質問したくなるような配置です。

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子どもたちの「なぜ?」を引き出すため、あえて岩石の説明は置いていないとのこと。

大人も楽しめる仕掛けがいっぱい

そうした環境の中で、子どもたちは思い思いの時間を過ごしています。拠点のオープンは、平日の週3回。
過ごし方のスケジュールは定められていないため、本を読む子ども、友達と折り紙をする子ども、大人も巻き込んでボードゲームを楽しむ子どもなど、さまざまです。

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2階には壁一面の本に囲まれた空間に机や椅子が並んでいる他、キッチンやトレイもあります。

また休日には、サイエンス系はもちろん、まちづくり、歴史など幅広いテーマでイベントが開催されていて、拠点を利用する子ども以外にも子どもから大人までさまざまな人が集います。

「NAZELAB」の設計を手がけた建築家による「〜建築設計のお仕事体験〜 自分らしく生きるための家を作ろう」、JAXA宇宙科学研究所で活躍する研究者による「小惑星リュウグウが教えてくれたこと」、子育て支援者による「無理しなくても大丈夫!友達づきあいがラクになる授業」など、一流の研究者や実践者によるイベントも頻繁に開催されています。

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「〜建築設計のお仕事体験〜 自分らしく生きるための家を作ろう」の様子。「”断面図”を描くか模型で表現すること」がお題に出され、一人ひとりが自分の理想の家をつくりました。

7月の拠点オープニングイベントには、横瀬町長も出席。「町長に伝えてみよう!横瀬にあったらいいな あんなモノ こんなコト」と題して、子ども大人も一緒にこれからの横瀬町についてアイデアを出し合いました。

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イベント時は、階段が座席に早変わり。

「科学実験ワークショップ」ではドライアイスを使った実験やペットボトルロケットなど、大人も「やってみたい!」と思えるような企画も。
「NAZELAB」の場のつくり方やイベントの企画の立て方を見ていると、「子ども向けのイベント」ではなく「子どもも一緒に楽しめるイベント」であることが伝わってきます。

「僕自身が楽しいと思えること、学びたいことをイベントにしています」と舘野さん。だからこそ、子ども第三の居場所でありながら、結果として大人も集まる場所になっていることに納得です。

探究活動は、始まりも終わりも自己決定。

さりげなく置かれた地球の歴史を刻む岩石の数々。
いつでも実験に取り掛かれるラボスペース。
子どもの興味を引くように、壁一面、表紙を見せる形で並べられた本の数々。

こうした環境づくりは、舘野さん達が専門とする「地球惑星科学」の普及活動の実践者であることが大きく影響しています。

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タテノイト代表の舘野さん

「拠点は、本と体験の往復を大切にして作りました。両方セットであることで、興味関心は深まっていくと考えています。探究活動は、与えられるものではなく、始まりも終わりも自己決定。納得いくまで探究することで得られる満足感は、自己効力感、自己肯定感の向上にもつながります。そのための自然発生的なきっかけ作りを心がけています」

イベントで専門家の話を聞いて、「なぜ?」と思ったことはすぐに調べられるように本を置き、本を読んでいて「どういうことだろう?」と疑問に思ったことは、舘野さんをはじめとする大人やイベントで質問をする。そうした反復ができる環境で多くの時間を過ごす子どもたちはどのような大人に育っていくのでしょうか。オープンしたばかりのため、利用する子どもたちにまだ大きな変化は見られませんが、今後が楽しみです。

「NAZELAB」がある一角が町の中心地になる

7月にオープンした「NAZELAB」は、現在、申請時に計画していた野外調理場も建設中。ダッチオーブンや羽釜などを設けて、子どもが食へ興味を持てるようなアプローチもしていきます。

「タテノイトは、拠点から車で10分ほどのところで「森のようちえん・タテノイト」を運営しています。以前、サマーキャンプを行った際に、子どもたちが自分達で役割分担をしながら料理する姿を見ました。野外調理場ができることで、子どもたち同士やご近所さんとのコミュニケーションが生まれる機会にもなると思います」

野外調理場は、業者に任せるのではなく子どもたちと一緒にDIYをします。ペイント作業を任せたり、建築の基礎についてクイズを出したりしながら作り上げていく予定です。

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工場だった建物をリノベーションした「森のようちえん・タテノイト」。保育園とカフェが一体となった施設を拠点に、子どもたちは森や川で遊んだり畑を耕したりして過ごしています。
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拠点の前のスペースに設置予定の野外調理場。料理メニューも、当日の食材をみながら子どもたちで決定。本で調べながら作ってもらう予定です。

「NAZELAB」は旧JAちちぶ横瀬支店の駐車場に建てられています。同敷地内にはJAの建物がリノベーションされて、横瀬町が運営するオープンアンドフレンドリースペース「Area898(はちきゅうはち)|」やコワーキングスペース付きコミュニティ施設「LivingAnywhere Commons横瀬(通称:LAC横瀬)」があります。

「Area898」は横瀬町民による横瀬に関わる人たちの場としてつくられ、町の人が出入り。「LAC横瀬」は、全国を旅するデジタルノマドの利用が中心で、「LAC横瀬」をきっかけに横瀬町に初めて訪れる人も多いのが特徴。そこに、「NAZELAB」がオープンしたことで、子どもから大人まで、そして町の中の人も外の人も集まる横瀬町の中心になりつつあります。

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手前の黒い建物が「NAZELAB」。奥のオレンジ色の建物に「Area898」と「LAC横瀬」が入居しています。

「今も『Area898』や『LAC横瀬』を訪れた人が、『NAZELAB』にふらっと遊びに来ることもあります。野外調理場ができれば、一緒にご飯を作ったり食べたりして、より混ざりやすくなるはず。定期的にやっていれば、道を通った人が『何をやっているの?』と訪れるかもしれません。横瀬町には商店街がないから、町の中心がありません。だからここが、子どもからお年寄りまで交われる一角になればいいなと思います」

取材:北川由依

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