行政主導で市内3拠点を開設。沖縄・うるま市「b&gかっちんふぇーばる」の事例にみる、拠点連携のススメ

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b&gかっちんふぇーばるで、学習プログラムで、片栗粉に水を足して『ダイラタンシー』という不思議な現象を楽しむ子どもたち

日本財団が子ども第三の居場所の第一号を開設したのは2016年のこと。以来、全国各地にモデルが広がり、2022年10月時点で準備中も含めると全179拠点が生まれてきました。

同一市内に複数拠点があるケースも増え、以前よりも横のつながりを作りやすくなりました。しかし、一口につながりと言っても、異なる運営団体が相互理解をして連携するまでには相応の時間がかかるという声も聞かれます。

そんな声とは裏腹に、沖縄県うるま市は行政主導で3拠点を開設。横の連携をすることで、後続の拠点運営がスムーズに始まったという話を聞きました。

うるま市では2019年度に2拠点が開所され、2020年度には市内3拠点目となる子ども第三の居場所「b&gかっちんふぇーばる(以下、かっちん)」での受け入れが始まりました。運営団体の一般社団法人 HOMEおかえり代表の赤平若菜さんは、「先にあった2拠点のいいとこ取りをした」と話します。

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うるま市の第3号拠点「b&gかっちんふぇーばる」

うるま市3拠点目として開所

「かっちん」は2020年7月開所。うるま市の3拠点目として始まりました。現在、登録者は26名。一日15名ほどが利用します。利用する子どもの約8割がひとり親世帯ですが、一般世帯からも利用したいという声が上がり、優先順位を考えながら受け入れをしています。さまざまな事情を抱えた世帯の利用があることで、「差別や偏見を受けることなくバランスが取れている」と赤平さんは考えています。

軸になるのは4つのプログラムです。

一つ目は食育。家庭できちんと食事を摂れておらず、食べていてもお惣菜やカップ麺、お菓子などでお腹を満たしている場合が多いことから重視しています。

二つ目は畑づくり。また食育から派生して、敷地に小さな畑をつくり、季節ごとに野菜を栽培することにも意欲的です。もちろん収穫した野菜は、拠点の食事に使って子どもたちの口に入ります。

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うるま市の特産物である黄金芋を育てる子どもたち。芋の葉は味噌汁に入れて食べた

三つ目は学習プログラム。勉強についていけない子ども、苦手意識があり嫌いになってしまった子どもが多いことから、月1回、遊びを通した学習プログラムを取り入れています。片栗粉を水で溶かしてみる実験をしたり、お店屋さんごっこでお金の計算を学んだり。毎年、6月23日の慰霊の日に合わせて当時の動画を見ながら、戦争について一緒に考える機会も設けています。

そして最後が書道。スタッフの一人が師範の資格を持っていることから、子どもが集中して取り組むものとして月1回実施しています。

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書道をする子ども

これら4つを軸としながら「かっちん」は、子どもの生きる力を育んでいます。

みんなで外食に出かけるスペシャルなイベントも

また、ハロウィンやクリスマスなどの季節行事に加え、「かっちん」では年に何度か子どもたちを外食に連れて行く機会を設けています。

訪れるのは、回転寿司や沖縄そば屋、鉄板ステーキ店、ホテルのバイキングなど。日頃外食をする機会が少ない子どもにとって、お店で食べる経験にもなり、食事のマナーを教える機会になっているそうです。

「食生活が満たされていない多子世帯の子どもが、回転寿司に連れて行った際、「ありがとう」ってすごい笑顔で言ったんです。小学2年生の子どもですよ。私にとっては当たり前の食事だけど、その子にとっては特別なことなんだと思うと涙が出ました」(赤平さん)

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赤平さんは、市役所で児童虐待のケースワーカーとして働いたのち、「HOMEおかえり」を立ち上げた

継続した関わりで変化する子どもの様子

拠点を開所して今年度は3年目。さまざまな関わりの中で、子どもにも変化が見られ始めています。

「最初は情緒不安定で、お試し行動をしたり感情をぶつけてきたり。1年目の終わりごろから、少しずつ信頼関係ができてきたかなと思えるようになりました。2年目からは人との関わりの中で思いやりの心を持ったり感情をコントロールできたりする姿を見る機会が増えましたね。そしてようやく3年目でその子の長所を伸ばしてあげられる状態になりましたね」(赤平さん)

室内遊びばかりだった子どもが、外で思いっきり遊ぶようになったり。言葉を発することができなかった子どもが、挙手して発言をしたり司会をしたいと言い出したり。継続的な関わりをしてきたからこその変化が生まれています。

また、学校とも必要に応じて連携しながら運営をしています。連携がスムーズに行っているのは、先に開所した2拠点が行政や学校との関係性を築いてきてくれたことが大きかったと振り返ります。

「わからないことは全部聞ける」関係性

実は「かっちん」は開所前から、先に開所した「b&gうるまわいど(以下、わいど)」と「b&gからふる田場(以下、からふる)」と連携してきました。早い段階で繋がることができたのは、3拠点ともうるま市が主導で拠点開設に動いていたことが大きなポイントになります。

拠点マネージャーは、定期的に集まりミーティングを実施。「新型コロナウイルス感染症の対策をしながら、子どもを安全に受け入れるには?」「行政との連絡はどれくらいの頻度でやっている?」などを相談し合い、互いのノウハウや経験則をシェアしてきました。

「気軽になんでも話せる関係なので、心強いです。雑談からもさまざまな気づきがあります。行政や学校との連携の流れを『わいど』と『からふる』が作ってくれたから、私たちはスムーズに連携できました」(赤平さん)

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左:b&gうるまわいど、右:b&gからふる田場

「からふる」で流行ったコマ遊びが、「かっちん」や「わいど」の子どもたちにも大人気になったり。2022年度には3拠点合同で長野県へ旅行に出かけたりする予定。同じ地域の中で顔の見える距離感でいることで、一つの拠点だけではやりづらい活動の広がりが起こっています。

三者三様、異なる拠点の色

「『わいど』は子ども一人ひとりに寄り添った生活習慣や学習習慣の環境づくりをしている印象です。『からふる』はとことん子どもに寄り添って、子どもがやりたいことを応援する姿勢ですね。どちらも見させていただき、『かっちん』は両方のいいところを受け取って、メリハリをつけるところと、子どもの自由にさせるところとどちらも取り入れています」(赤平さん)

そうした違いも楽しみながら、お互いの良いところを認め合い、取り入れることで、各々の拠点の活動を底上げすることにも今後ますます繋がりそうです。

運営団体が異なる中での連携は、子ども支援方針の違いによる連携の難しさもありますが、各拠点に特色があることで、子ども一人ひとりにあった拠点を案内できる、ノウハウを共有できるなどのメリットもあります。地域に複数の子どもの居場所をつくる際には、連携についてもぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

「からふる」の取り組みについては、以前記事でもご紹介しました。

取材:北川由依