科学のベースは「食」である!「試行錯誤」にこそ学びがあるとするROCKET流の学び方

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サイエンス教室「小麦の達人になろう!」で実験に熱中する子どもたち

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 「知っている」と思っているものも、本当の意味で知っているとは限らない
  • 疑問を感じたら実践し、成功や失敗を繰り返しながら「試行錯誤すること」にこそ学びがある
  • これからの時代は、常識をうのみにせず、納得できる人生を自分で選び取る力が必要だ

「異才発掘プロジェクト ROCKET」(以下、ROCKET)とは、日本財団と東京大学先端科学技術研究センターが2014年に始めたプロジェクトだ。ユニークであるが故に学校になじめない。そんな子どもたちに新たな学びの場や自由な学びのスタイルを提供し、支援し続けることで、日本の未来を担う人材を育てる取り組みである。


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そんなROCKETは、今後より多くの子どもたちが参加できる仕組みもつくるため、地域の子どもたちが参加できるオープンプログラムを実施している。今回は、2019年5月31日に開催された、小麦粉を使って科学を学ぶサイエンス教室「小麦の達人になろう!」を取材した。「小麦粉」が、どのように「子どもの教育」とリンクするのか。当日の様子とともに、プログラムの講師である福本理恵(ふくもと・りえ)さんのお話をお伝えしたい。

その正体を知っているか?子どもたちの小麦粉探求が始まる

子どもたちがどれほど小麦粉を知っているかの確認から教室はスタートした。「小麦粉でできた食べ物は知ってる?」と福本さんが聞くと、「パン、クッキー、ケーキ、うどん、パスタ!」と、子どもたちは元気にさまざまな食品を挙げた。「小麦粉」の存在を知っていて、それによってどんな食べ物が生まれるか、みんな理解しているようだ。

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「小麦粉は古くからある食材で、昔から人間が食べている」と福本さん

しかし、今日の講義は「小麦の達人」になることが目標。これだけではまだまだ達人とは言えない。「なぜ1種類の粉でいろいろな食べ物が作れるのか?」という疑問から「小麦粉探求」が始まった。

「みんなは小麦粉を知っているって言ったよね。じゃあ、どれが小麦粉か見分けられるかな?」と、10本の小瓶を福本さんは子どもたちに見せた。

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小瓶に入ったさまざまな粉を、眺める子どもたち

「この匂いは知ってる!でも何か思い出せない…」「甘い!ザラメ糖かなあ?」と、それぞれに入った粉の匂いを嗅ぎ、少し舐めてみたりして、子どもたちは頭を悩ませていた。

小瓶に入っていたのは、ベーキングパウダー、コーンスターチ、ホットケーキミックス、コーンミール、お好み焼き粉、そば粉、デュラム粉(クスクス)、片栗粉、グラニュー糖、米粉の10種類だ。

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福本さんの質問に対し、積極的に手を挙げる子どもたち

「小麦粉はないの?」と不思議そうな子どもたちだが、実はホットケーキミックスとお好み焼き粉は小麦粉でできている。こういった「知っているようで、知らない」小麦粉の姿を子どもたちは再発見した。

続いて、小麦粉を使った食べ物を試食することに。小さく4種類にカットされた“何か”を、カッターで切ったりマイクロスコープで見たり、食べたりしながら観察した。それぞれの弾力やきめの細かさ、味をじっくり調べ、子どもたちは結果をワークシートに記入していく。

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小麦粉でできた4種類の“何か”。子どもたちは、パン?ケーキ?などと考えながらこれまでにない視点で食べ物と向き合う
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マイクロスコープでじっくり観察する子ども

「なんだか酸っぱい!」「甘い!メロンパンの中身かな?」「これは空洞がいっぱいある!」

思い思いの研究タイムを楽しんだ子どもたち。4種類の食べ物の正体を突き止めるべく、五感をフルに使っているようだった。

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それぞれの正体を予想する子ども

正解は、Aがスポンジ生地、Bがフランスパン、Cが食パン、Dがシフォンケーキだ。

全て小麦粉でできているこれらを「どう分類できるかな?」と福本さん。「Cは漢字を使っていて、あとはカタカナ!」と予想外の意見が挙がりつつも、子どもたちは核心に迫っていく。

「実はA・DとB・Cに分類できるんだよ。前者は薄力粉を使っているから“軟質”になって、後者は強力粉を使っているから“硬質”になるんです」

そして、と福本さんは続ける。

「両者の違いは“グルテン”の量にあります。ケーキは少なくて、パンは多いんです」

同じ小麦粉なのに、薄力粉と強力粉に分けられる。「名前は知ってるけど、どっちも小麦粉だって知らなかった!」と、新たな発見に子どもたちは驚いた様子だった。

ここから子どもたちは実際に強力粉と薄力粉を使った実験をすることに。

パンを作りたい場合は強力粉、ケーキを作りたい場合は薄力粉を選び、これにベーキングパウダーと水をセットでもらう。決められた以下条件の下、作り方の指導は一切なし。どう作るかは子どもたちが自分で考えるのだ。

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実験セット。説明書などはなく、自ら実験方法を探る
  • 水の追加はOK(ただし、足した分量は正確に記録しておくこと)
  • 混ぜ方は自由。ゴムベラでも泡立て器でも、手でもOK
  • 加熱はレンジで1分間のみ
  • チャンスは2回だけ。3回目は皆の検証結果を見てから作る
  • 何ミリリットルの水を追加したか、どの器具を使い、何回混ぜたか、実験のプロセスをワークシートにしっかり記録する

いよいよ実験スタート。

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水をボウルの中に投入。実際に粉と混ぜ合わせてみると「案外少ない!」と子どもたち
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夢中になって実験に取り組む子どもたち
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混ぜ合わせた生地がレンジの中で膨らむ様子を観察する子ども
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「硬いかな?」と福本先生に相談する子ども

分量を予測しながら水を足したり、ベーキングパウダーと薄力粉をふるいにかけて丁寧に混ぜたり、出来上がった生地を少しずつ型に入れてきれいに整えたり…。実験の過程には子どもたちの個性が光る。どうすればいつも食べているようなパンやケーキが作れるのか、試行錯誤していた。

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細かな検証の跡が残る、子どもたちのワークシート

これからに生かしたい!子どもたちが学んだ検証の楽しさ

全員が2回ずつ実験を終えたところで、それぞれの作品を並べて検証することに。

「ゴムみたいな食感になった…」「生焼けになっちゃう」「ケーキっぽくできたかも」と、子どもたち。各々水をどれだけ足して、何回混ぜたか、その結果、どんな食感になったか。子どもたちの実験結果をヒアリングした。

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実験結果に興味津々な子どもたち

そしてここで、福本さんから新たなヒントが。

「小麦粉に含まれる“グリアジン”と“グルテニン”に水を加えてこねることで、網目状の“グルテン”が生まれます。このグルテンの網目に、加熱されたベーキングパウダーのガスが入ることで膨らむんです」

グルテンの網目は、こねる回数や水の量で変わってくる。目指す硬さを実現するには、どうすればよいのか

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焼き上がる作品を見守る子どもたち

最後の1回、新たなヒントを下にパンやケーキを作る子どもたち。

そしていよいよ全て焼き上がるも、今回の作品の中には最終的に「正解」と言えるものはできなかった。しかし1回目に比べ、どれも普段食べているパンやケーキと格段に近づいた。

「今日わかったと思うけど、みんなが“知っている”と思っていることも、案外本当の意味では知らないものです。そのためにも、実際に手を動かして検証を重ね続けてください。そうすれば今日みたいに“知識”が“知恵”に変わるはずだよ」と福本さんは子どもたちに語りかける。「みんながそれぞれ興味を持つことも同じ。達人を目指して頑張れ!」と締めくくった。

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教室の最後に配られた小麦の達人認定証

ここで今日の感想を子どもたちにインタビュー。彼らは小麦粉の実験を通して、どんな学びを得たのだろうか

[檜垣大峯 (ひがき・たいほう) くん]

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将来は科学者になりたいという大峯くん

——今日のプログラムに参加した理由は?

大峯くん:実験の対象は小麦粉だったけど、これもいつか僕の大好きなサメを研究する上で生きてくると思ったからです。一見海と関係ないイベントやプログラムも、未来につながるはずだから。それに、新しい場で人との新しいつながりをつくることも大事だと思っています。

——今日の感想は?

大峯くん:全体的にずっと楽しかったです。特に、3回目に焼いたケーキが軟らかくできたのはうれしかった。

——将来の夢や目標を教えてください

大峯くん:海中を車に乗っているように簡単に移動できる、潜水艦を開発することです。人間の未来を海底に広げたい!

[辻田大知(つじた・だいち)くん]

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将来はYouTuberになりたいという大知くん

——今日のプログラムに参加した理由は?

大知くん:実は料理が得意でよく作るんです。最近はオムレツやホワイトソーススパゲティを作りました。これまでも小麦粉は使ってきたのですが、正体を知らないなと気づいて…。きちんと知りたいと思って、今日は参加したんです。

——今日の感想は?

大知くん:小麦粉の概念が壊れた!一番びっくりしたのは、同じ小麦粉でも水の量や混ぜ方で全く別物になったこと。今日学んだことは、これから料理する上でも生かせそうです。そしてパン作りにも挑戦したいと思いました。

——将来の夢や目標を教えてください

大知くん:得意な料理を生かして、料理YouTuberになりたいです!

[高橋真也斗(たかはし・まやと)くん]

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今はドングリの研究に夢中だと言う真也斗くん

——今日のプログラムに参加した理由は?

真也斗くん:僕はドングリを研究していて、その研究に使える道具を探していたんです。そこで、今日の実験ではどんな道具が出てくるのかを知りたくて参加しました。

——今日の感想は?

真也斗くん:すっごく面白かった。小麦粉は知ってるけど使ったことなかったし、実際に実験できたのはいい経験でした。それから、今日使ったマイクロスコープはドングリの研究に使えそうだと思っています。

——将来の夢や目標を教えてください

真也斗くん:まだ特にありません。だけど、ドングリの研究は納得するまでとことん続けたいです。

人生は実験と同じ。情報をうのみにせず、自ら“検証”してほしい

「ROCKET」のプロジェクトリーダーであり、今日のプログラムを考案・講師を務めた福本さんにお話を伺った。「食」をベースに心理学や教育を研究する彼女はなぜ、これまでとは違うアプローチで子どもたちに学びを伝えているのだろうか。

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明るく優しい笑顔で子どもたちと接する福本さん

「勉強で、人は幸せになるだろうか?未来の選択の幅は広がるけど、本当に幸せに直結するのか?」

心理学や教育学を学んだ福本さんは、いつからかそんな思いを抱いていた。

「そうして行き着いたのが“食”だったんです。おいしいものを食べて笑うこと、これは日常的なことだから忘れられがちだけど、とても根源的な“幸せ”の一つです。そして文化も科学も、全ては“食べたい”という人間の欲求から発展したと私は感じています」

そうだとすれば、これまで学んできた心理学や教育のベースにも「食」があるのではないか。そう考えた福本さんは、食、心理学、そして教育を掛け合わせた学びを開発するに至った。

今回取材した「小麦の達人になろう!」に、その哲学は生きている。しかし、なぜあえて「小麦粉」を選んだのだろうか。

「小麦粉は500年ほど前から人間が食べているもので、とても身近なもの。それに、小麦粉は学びや実験に展開させやすい食材なんです。小麦という植物を育て、道具を使って粉にし…と、プロセスがある。さらに、完成品を使って作れる料理の幅がとても広い」

そしておいしいパンを作るため、先人は脈々と検証・実験を続けた。その果てにグルテンが発見され、それをコントロールする術を人は手に入れたのだ。

「出来上がったものを食べただけでは何も気付かないでしょう。だけど今日の実験を通じて、小麦粉の面白さと歴史を感じてほしかった。先人もきっと同じように試行錯誤していたであろうことに、少しでも気付いてくれたらうれしいですね」

福本さんが作るプログラムはどれも“決まったルート”がなく、子どもたちの発想を自由に生かすことを重視している。自分の思い付いたことを実践し、成功や失敗を繰り返しながら「試行錯誤すること」にこそ学びがあると、福本さんは考えているからだ。

プログラムを作るために、彼女は実験道具やパワーポイント、ワークシートを用意しているだけではない。

「そもそも、私も小麦の達人ではなかったのです(笑)。なので、私自身もプログラム作成チームのメンバーたちと勉強しつつ、どんな実験だったら子どもたちが楽しめるかを考えました」

実践者の大人たち自らも実験を繰り返し、つまずきそうなポイント、出てきそうな質問などをくまなくチェックするのだという。プログラムは非常に綿密に練られ、デザインされている。

「プログラムの中で、こちらがきちんと準備したと思っても、子どもは予想外につまずいたり、思いがけない質問もあったりするんです。それが講師である私としては、とても楽しいですね」

そんな彼女がROCKETを通して子どもたちに伝えたいことは、「自ら責任を取りながら、納得できる道を選ぶ力をつけてほしい」ということ。

「人生って、正解がないですよね。そして今世間的に正しいとされていることが、必ずしも正しいとは限らない。それは例えば『大学は進学すべき』という“常識”であってもそう。世間の常識をうのみにせず、疑問を感じたなら“実験”してほしいんです。違う道を選んでもいい。そうして“検証”を重ねて、より良い人生へ自分を導けるような、そんな幸せな人になってほしいと、私は思っています」

この記事を読んでROCKETが気になった方は、ぜひホームページ(外部リンク)でチェックしてみてほしい。きっと夢中になれる新しい学びに出会えるはずだ。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

福本理恵(ふくもと・りえ)

東京大学先端科学技術研究センターの交流研究員を経て、東京大学大学院博士課程に進学。心のメカニズムを探るべく認知能力(モノの捉え方)についての研究を行う。自身の体調を崩したことをきっかけに、日々の食の重要性を再確認し、「種から育てる子ども料理教室」のカリキュラム作成および運営に携わる。2014年からは東京大学先端科学技術研究センターにて、農と食から教科を学ぶ「Life Seed Labo」を企画、「異才発掘プロジェクトROCKET」のプロジェクトリーダーとしてカリキュラム開発に携わる。

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