学校だけが居場所じゃない!16歳の不登校画家が見つけた自分らしい学びの形

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一度筆をとると寝食も忘れて絵を描き続ける濱口瑛士くん

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 学校になじめない子どもたちを外の世界へと連れ出したプロジェクト「異才発掘プロジェクト ROCKET」
  • 学校だけが学ぶ場所ではない。外に出て、自分の頭で考え、肌で感じるという学びの形
  • 子どもたちに一人ひとりに何が必要かを考えて、遠くから見守ることも大人の役目

小学生、中学生の不登校児童生徒数は現在14万人以上といわれ、年々増加傾向にある。また、日本財団の調査で、学校になじんでいない、不登校傾向にある中学生が約33万人に上ることも明らかになっている。日本財団は、そうした子どもたちを支援する「異才発掘プロジェクト ROCKET」に取り組んできた。ROCKETを通じて自分自身の能力を磨き上げ、画家、絵本作家として活躍する16歳の濱口瑛士くんに話を聞いた。

障害を受け止め、16歳にして「絵本の出版」という夢を実現!

まずは瑛士くんの最近の活躍ぶりを紹介したい。物心ついた頃から絵を描くことが好きだったという彼の幼い頃からの夢は絵本作家になること。独自の世界観と緻密な描写は、子どもが描いたものとは思えないものばかりだ。

絵画
瑛士くんが12歳の時に描いた作品『mono frontier ~目を凝らすべし~』

12歳にして初の作品集発表の機会を得て、15歳で中学生時代の絵をまとめた2冊目を出版。さらに16歳となる2018年に初めての絵本『ダビッコラと宇宙へ』を発表した。早くも夢を叶えてしまった、“スーパー16歳”と言っても過言ではない。

絵本
左から初めて手がけた絵本『ダビッコラと宇宙へ』と、挿絵を描いた絵本『ともだちってどんなひと?』

小学生にして作品を発表し始めた瑛士くん。この時、彼は学校には通わなくなっていた。

不登校となった要因の一つは、「ディスレクシア」という学習障害。人によって症状が異なり、瑛士くんの場合は、本を声に出して読んだり、文字を書いたりすることが思うようにできない。

作文やレポートが壁に張り出された時には、「字が汚い」「ひらがなしか書けない」とからかわれることもあった。そのため学校では「お前みたいに勉強ができないやつは、ホームレスになるんだ」などといわれのないいじめを受けるようになり、小学4〜5年生の頃には学校から足が遠のいた。

瑛士くんの母・園子さんは当時、瑛士くんから学校での状況を聞きながらも「親として、“子どもが学校をリタイアする”ことを認めることができなかった」と言う。しかし、ついに通学時に腹痛などの身体症状が現れるようになり、身体を壊してまで通う必要はないと思い至る。そうして彼の「学校に通いたくない」という意思を受け入れた。

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母親と対話しながらインタビューに答える瑛士くん

“実践こそが学び”。人生を変えた、ROCKETとの出会い

不登校であったことについて「親が許してくれたとしても、子どもの仕事(勉強)をしていないことに罪悪感はあったんです」と瑛士くんは話す。そんな彼が前を向くきっかけとなったのが、「異才発掘プロジェクト ROCKET」(以下、ROCKET)だった。

ROCKETは、日本財団と東京大学先端科学技術研究センターが2014年に始めたプロジェクト。突出した能力はあるものの不登校傾向にある小・中学生の継続的な学習保障や生活をサポートし、将来の日本をリードする若者を支援する取り組みだ。

ROCKETの説明会に参加した園子さんは、ここでなら瑛士くんを受け止めてくれるかもしれないと期待を覚えた。しかし、想像以上に参加者が多く、周りの親たちが自分の子どもを猛アピールする姿を見て、「瑛士が選ばれるのなんて無理…」と不安を感じたという。そんな話を母親から家で打ち明けられた瑛士くん。それでもROCKETの活動を知り、もっといろんな世界を見てみたいという思いを抱いていた彼に「ROCKETに入りたい。これだけ辛い思いをしているんだから、絶対に受かるはず」と、どこからともなく湧く自信があった。

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当時を笑顔で振り返る母・園子さん

その自信は現実となる。瑛士くんが書類選考で提出した絵がROCKETのスタッフの目に留まったのだ。その画力に惹かれたプロジェクトマネージャーである日本財団職員の「この絵を描いた子に会ってみたい」という思いから、瑛士くんは面接へと進んでいった。

「面接でいじめのことを話したら『友だちは無理に作らなくていい。自分が好きなことを続けていればこれから自然と仲間ができていくはず』と言われ、すごく安心できたのを覚えています」

そして面接を無事に通過し、瑛士くんは第1期スカラー候補生として新たなスタートを切った。面接で言われたように、ROCKETでは多くの「仲間」と出会うことできたと言う。

ROCKETでは、科学技術や芸術、スポーツなどさまざまなジャンルの分野で活躍するトップランナーによる講義やディスカッション、料理や工作など身近なものを題材にした実践型プログラムを提供している。

時には海外にも行く。これは一般的な修学旅行のようにすべて段取りが組まれたものではない。例えば、現地では目的地のみ聞かされ、そのルートや手段もその場で自分たちが決めるといった感じだ。ROCKETの仲間たちはストレートに発言をぶつけ合うため、いさかいが起こることは日常茶飯事。

「どのタクシーに乗るかを決めるだけでもケンカになります。でも何台か乗ってみることで、どれが安いか、どんな乗り心地かがわかり、次に選ぶ時の選択基準を持つことができる。旅はそういったチャレンジの連続で、実践こそが学びだと気づきました」と瑛士くんは話す。

写真:ROCKET研修旅行でアウシュビッツ収容所を見学中の瑛士くんを含む子どもたちと先生
ROCKET研修旅行でポーランドのアウシュビッツ収容所を訪問(2016年)

また、「先生たちも“子どもたちが困らないように手を差し伸べる”ことがほぼない」のだとか。

以前、目的地に向かうタクシーに1人だけ乗れなかった時、ROCKETの先生から「瑛士は歩いておいで!」と指示されたそう。一般的な教育では、大人が1人残って次のタクシーを待つだろう。瑛士くん自身も、「なんで自分だけ!」と最初は憤りを覚えたが、歩いていると、車では見逃していただろう街並みを見ることができ、どんどん想像力が湧いてきた。

この時、「ROCKETの先生たちは、手を差し伸べずとも一人ひとりに何が必要かを考えて、遠くから見ていてくれるんだ」と感じたそうだ。

さらに瑛士くんはこう語る。「これまでは知識があればいいと思っていたんです。でも本で学んで知ったつもりになっているだけだったんです。例えるなら、りんごを食べずに味を知った気になっていたようなもの。自分の目で世界を見て、自分の体を使って挑戦することで初めてわかる。その実践こそが勉強なんです」と。

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研修先での思い出を語る瑛士くん

絵に変化を与えた、トップランナーからの刺激。そして次のステップ、高校へ

瑛士くんの絵は、日々変化している。それまでは黒いペンで1日何百枚も書いていたが、色づけを始めたのは、ROCKETを通して“新しいことに挑戦すること”が大切だと感じたからだと話す。

「トップランナー講義で一流の方々が日々努力や挑戦している話を聞いて、楽しく落書きを続けるのではなく、挑戦しながら作品として仕上げることに意味があると思うようになりました」

絵画
瑛士くんが14歳の時に描いた作品『貧しい人は幸いである』
絵画
同じく14歳の時に描いた作品『euphoria』。瑛士くんはROCKETの活動をきっかけにさまざまなイベントや個展を開くようになった。

絵本へのチャレンジも大きな刺激になった。これまでは1枚描くごとに画風が変化しても問題はなかったが、絵本の場合はストーリーがあるからそうはいかない。これに関してもトップランナーのひたむきに努力してきた姿勢が刺激となって、逃げずに向きあい、作品として完成したという。

学校以外での学びや気づきは、今の瑛士くんに大きな影響を与えている。

2018年に義務教育を終えた瑛士くんは、春から通信制高校へ進学をしたのだ。学校がすべてと思っていた小学校時代は学校がつらかったが、ROCKETを通じて、「学校だけが居場所じゃない」ことに気づいたからこそ、高校入学を決めることができたという。「今の自分ならスクーリング(短期間の教室での授業)も大丈夫と思えて。でも、絵本の制作が忙しいのを理由に、まだ通っていません…。でもそろそろ本当に行かないと!」と笑いながら話す。

園子さんは、親も学校を“あきらめる勇気”が必要だと話す。「学校の成績だけがすべてじゃない。そこを一度あきらめたことで、私たち親子はより良い関係を築くことができたんです。この子がいてくれる、それだけで十分なんです」と瑛士くんに微笑みかける。

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

濱口瑛士(はまぐち・えいし)

少年画家。2002年東京都世田谷区生まれ。「異才発掘プロジェクトROCKET」第1期スカラー候補生。3歳頃から絵を描き始め、物語を作ることも得意。2015年に初の作品集『黒板に描けなかった夢〜12歳、学校からはみ出した少年画家の内なる世界』(ブックマン社)、2017年には2作目の作品集『書くこと と 描くこと』(ブックマン社)を出版。2018年6月には初めての絵本『ダビッコラと宇宙へ』を雑誌MOE(白泉社)にて発表し、11月に単行本として刊行された。同年出版の赤木かん子・著『ともだちって どんなひと?』(埼玉福祉会)では、挿絵を描いている。
公式サイト「濱口瑛士の世界」(外部リンク)

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