「やりたいことは、今すぐやりなさい」ノーベル平和賞ムハマド・ユヌス氏が、日本の若者に伝えたこと

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2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏と学生たち

取材: 日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 今の若者は、柔軟な発想と世界中の人々とつながれるテクノロジーという力を持っている
  • より良い社会をつくるためには、さまざまなことに疑問を持ち、まず行動することが大切
  • 若者は未来の担い手ではなく、「今」のリーダーとして行動することが求められている

バングラデシュの経済学者で実業家でもあるムハマド・ユヌス氏。1983年に貧困層を対象にした低利・無担保融資を行うグラミン銀行(別ウィンドウで開く)を創設し、生活に窮する多くの人々の自立を支援したことで知られる。2006年にノーベル平和賞を受賞。その名は世界中に広まることとなった。

そんなユヌス氏が、2019年11月14日、日本の高校生たちに会いに日本財団に現れた。東京国際フォーラムにて11月29日から12月1日にかけて開催された「ソーシャルイノベーションフォーラム2019(以下、SIF2019)」(別ウィンドウで開く)の登壇者を含む20人の高校生・海外留学生と対話するためだ。

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それぞれの自己紹介の後、積極的に他校の生徒とコミュニケーションを交わす学生たち

「マイクロファイナンス」「ソーシャルビジネス」が生まれた背景

「バングラディシュの貧しい人たちの生活を立て直す『極めて少額の融資(マイクロファイナンス)』は、私のわずかなポケットマネーから始まりました。スタートは、それこそ皆さんと同じ『お小遣い』レベルの金額だったのです」とユヌス氏は語り始めた。

この「マイクロファイナンス」は過去に存在しなかった言葉であり、その取り組みは極めてエキサイティングな冒険だったという。やがて多くの人の応援を受け、マイクロファイナンスを専門に行うグラミン銀行が設立された。そして現在、マイクロファイナンスはアメリカや日本など世界中に広がる大きなムーブメントになっている。

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日本財団の会議室に集まったユヌス氏と学生たち

「もう一つ私が取り組んでいるのは、貧しい人たちのためにビジネスを創り出すこと。健康、水、衛生、住宅など、貧しい人々が抱える問題を解決するための会社を設立してきました。皆さん、利益の追求ではなく人々の問題を解決することを目的にすると、ビジネスは全く違うものになることをご存知ですか?」

ユヌス氏はいたずらっぽく笑うと、こう続けた。

「極めてエネルギッシュかつ効率的なものになるのです。実際に私たちは、この手法でさまざまな問題を解決してきました。そしてこの新しいビジネスに、『ソーシャルビジネス』という名前を付けたのです」

ユヌス氏は、株主への配当を行わない、社会の問題を解決するということを目的にした、新しい思想のビジネス「ソーシャルビジネス」の生みの親である。現在においては、大企業から若い世代まで、幅広い世代がソーシャルビジネスの起業に取り組んでいる。

ユヌス氏は、世界中の学生が集まるソーシャルビジネスコンテストを開催しており、例えば「安全な水にアクセスできない」という問題を解決するビジネスの設計などが競われる。

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ユヌス氏の話を熱心にメモをとる学生たち

「きれいな飲み水が無い地域にどうやって安全な水を供給するか…。若者たちは、斬新な素晴らしいアイデアを提案してくれます。私たちはその中からベストなモデルを表彰し、それがビジネスとして実行されます。同様のコンテストは、世界中のさまざまな企業や団体が開催しており、ソーシャルビジネスを始めるチャンスは数多くあるのです」

スピーチの最後に、ユヌス氏はこう締めくくった。

「皆さんのような新しい世代の人たちが、これからどんな新しいアイデアを創り出していくのか?どんな行動で世の中を変えてくれるのか?私は非常に注目し、期待しています」

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真剣な表情で学生たちに語りかけるユヌス氏

大切なのは「今、目の前の人にいる人のために行動すること」

対話の会では、学生からの質問が多く寄せられた。

SIF2019の特別企画「ユメジツゲン大会」(別ウィンドウで開く)に登壇した、広尾学園高等学校の池田 遥(いけだ・はるか)さん。池田さんはSIF2019の場で、同学園のメンバーと共に中高生を中心とした若者の「社会を変える」挑戦を応援する組織「i stand」の創設を発表した。「i stand」は、これから一年を通して、全国の中高生が思い描く「社会を変える」アイデアを募集し、同じ立場である中高生が選び、そのアイデアの実現に向けて企業やNPOと共にサポートする。

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広尾学園高等学校の池田さん

「私も学生のアイデアを集め、自分たちでそれを審査し、企業とコラボレーションしてビジネスを実行するコンテストを計画しています。ただ、社会のために活動することは、なかなか容易ではないとも感じています。ユヌスさんは、どのように自分のモチベーションを保ってきたのですか?」

池田さんからの質問に対し、「大事なのは、完璧主義にならないこと」と回答するユヌス氏。

「そして、何かビジネスを生み出そうと思ったら、まず始めてみることです。完璧な計画なんてありません。やっているうちに、いろいろな課題にぶつかり、それを乗り越えるたびにあなたのプランはより現実的で洗練されたものになるのです。その過程や自分自身の成長を楽しむマインドも大事にしてくださいね」

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学生たちの質問にユーモアを交えて回答するユヌス氏

他にも「より良い社会をつくる活動のためには、どんなことを大切にすれば良いか?」という学生からの質問に対し、若さを「弱点」ではなく「強み」だと捉えることが大切だと説く。

「若者たちの思考は新鮮で柔軟です。また、2019年に10代の皆さんは、さまざまな『テクノロジー』という巨大な力を持っています。例えば、スマートフォンですぐに遠く離れた人と連絡をとれる皆さんと、手紙でメッセージのやりとりをしていた10代の頃の私の差を考えてみてください。皆さんは人類の歴史上、最も力がある世代であり、それはアラジンの魔法のランプを持っているようなものです。

しかしランプをこすって願い事を言わなければ、ジニー(ランプの魔神)も活躍しようがありません。ですから、皆さんに大切にしてほしいことは、さまざまなことに疑問を持つこと、そして大胆になることです。世界は皆さんが望むように変えることができます。ぜひ、自分はこの世界をどんなものにしたいのか、自分には何ができるのか?ということを常に考えてみてください」

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N高校の三橋(みつはし)さん

「ここにいる皆さんは、一人一人が十分にパワフルな存在。社会のために何かをしたいと思ったら、いきなり大きく始める必要はありません。まずは、例えば『10人の人に水を配るアイデア』を考え、それを実行してみましょう。すると、それを見ていた人があなたの協力者となって、やがてそれが世界に広まり問題が解決されるのです。つまり、必要なのはアイデアとそれを繰り返し実行すること。それさえすれば世界に大きなインパクトを与えることができるのです。だからまずは、自分自身にフォーカスしてください。自分に何ができるのかを考え、自分が正しいと思うことをやれば良いのです。皆さんは『未来のリーダー』ではなく、まさに『今リーダーとして行動すること』が求められているのです」

自分のポケットマネーでマイクロファイナンスの仕組みをつくり出し、グラミン銀行を創立したユヌス氏。今も世界中を周って、人々に行動することの大切さを伝えている活動家ならではの力強い言葉に、学生たちは刺激を受けた。そして、まず自らの力で何かを始めようと、決意を新たにしたように見えた。

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「皆さんには力がある。未来ではなく、今リーダーになるべきだ」と語りかけるユヌス氏

ムハマド・ユヌス氏との対話会で学生たちが得たもの

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広尾学園高等学校の「i stand」の皆さん。写真左から横崎さん、高志さん、池田さん、小林さん

「ユヌスさんの『若者には力がある』という言葉にとても励まされました。『i stand』の創設に向けて計画を進めていく中で自信を失うようなこともあったのですが、これからも自分の想いを貫いていけそうです!」と語るのは広尾学園高等学校の池田さん。また、高志(たかし)さんや横崎(よこざき)さんは「ユヌスさんの『環境問題のような国際的な問題は、世界の国が共同で解決に当たる必要がある』「『日本が抱える問題はいずれ世界の問題になる』というお話を聞き、私たち若い世代はより一層、国際的にコミュニケーションをとる必要があると思いました」と、国境を越えたつながりの大切さについて思いを語った。

「ユヌスさんの『自分が正しいと思ったことは、例え一人でも取り組んでいこう』という言葉にとても刺激を受けました。ユヌスさんから受け取った力強いメッセージを、私たちから同世代に発信していけたらと思います」

そんな小林さんの言葉には、日本の未来を担う若者たちの心強さを感じた。

SIF2019の特別企画「自分で国や社会を変えられる?」(別ウィンドウで開く)に登壇した早稲田大学2年生のホーさんにも、ユヌス氏との対話会の感想をうかがった。

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ベトナム出身で早稲田大学生のホーさん

「私は大学でソーシャルビジネスの勉強をしています。グラミン銀行をはじめ、さまざまなソーシャルビジネスに取り組んでいるユヌスさんと実際にお会いできたのはとてもうれしかったです!またユヌスさんが触れた海洋汚染や気候変動については、私自身緊急に対応する必要があると感じています」

年齢を感じさせないパワーと情熱に満ちたユヌス氏のスピーチに始まり、その言葉に触発された学生たちの質問にユヌス氏が全力で回答する、非常に濃密な1時間となった。「君たちは人類史上、もっとも力を持つ世代だ。君たちは遠い未来のリーダーではない。まさに今、リーダーになることを求められているのだ」という彼の言葉は会場にいた全ての学生に勇気を与え、「自分にも何かしらできることがあるはず」とチャレンジ魂に火をつけた。若い彼らのアクションが、楽しみだ。

撮影:新澤 遥

〈プロフィール〉

ムハマド・ユヌス

1940年、バングラデシュ生まれ。1983年にマイクロファイナス(無担保の小口融資)を提供するグラミン銀行を創設。農村部の貧しい人々の自立を支援することで同国の貧困軽減に大きく貢献し、2006年にグラミン銀行と共にノーベル平和賞を受賞した。「貧困のない世界を作る」「3つのゼロの世界――貧困0・失業0・CO2排出0の新たな経済」など、著書多数。
グラミン日本 公式サイト(別ウィンドウで開く)

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