日本財団ジャーナル

「ゆるいつながり」が居場所をつくる。新型コロナで気付いた、生活困窮家庭への支援の形

写真
こどもの居場所作り@府中が毎月1回実施しているフードパントリーの様子
この記事のPOINT!
  • 新型コロナウイルスの影響で、いまだ全国で半数以上の子ども食堂の再開目処が立っていない
  • NPO法人むすびえでは、子ども食堂の活動再開を支援するための基金を設立
  • 「困ったときはお互いさま」の心で支え合うゆるいつながりが、やさしい地域社会をつくる

取材:日本財団ジャーナル編集部

新型コロナウイルスの感染拡大が、子どもたちの「食」や、地域とのつながりを脅かしている。

地域住民や自治体などが無料または低価格で子どもたちに食事を提供する「子ども食堂」への影響は大きく、全国約4,000カ所ある中の半数以上はいまだ活動再開の目処が立っていないという。

多くの子ども食堂ではフードパントリー(食品配布)や宅食(弁当の配達)など、形を変えて子どもたちやその家庭への支援を行っているが、その活動を続ける中で「コロナで収入が減った(無職になった)」、「子どもの休校措置で食費がかさんで困っている」など、低所得者世帯等の暮らしの厳しさが浮き彫りになっている。

これを受けNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」(別ウィンドウで開く)は、子ども食堂を支援するための「むすびえ・こども食堂基金」(別ウィンドウで開く)を設立した。

今回は、その基金の助成先団体の一つ「こどもの居場所作り@府中」(別ウィンドウで開く)の活動を通して、ウィズ・コロナ時代における子ども食堂の在り方や、生活困窮家庭への支援について考えたい。

資金や人手不足に苦しむ子ども食堂再開を応援したい

「学校の休校要請が出てから、すぐに子ども食堂の運営団体の皆さんから『私たちはフードパントリーを始めます』など、違う形で子どもたちを支援しようという声が上がりました。その声を聞き、『私たちにも何かできることを』という思いに駆り立てられたんです」

そう語るのは、全国の子ども食堂への支援を通して「誰も取りこぼさない社会」を目指す、むすびえの新型コロナウィルス対策緊急プロジェクト・リーダー・三島理恵(みしま・りえ)さん。

むすびえでは、各地域の子ども食堂ネットワーク(中間支援団体)がより活動しやすくなるためのサポートを展開し、子ども食堂を応援する企業・団体と子ども食堂をつなぐと共に、子ども食堂の意義や実態を社会へ伝え、理解を広げる調査・研究なども行っている。

写真
むすびえの新型コロナウィルス対策緊急プロジェクト・リーダーを務める三島さん。自身も子育ての真っ最中

「経済的に困窮している家庭にとって、給食は大切な栄養源でした。しかし、新型コロナウイルスの影響で給食がなくなり、子ども食堂の活動も余儀なく休止となってしまった。少しでも子どもたちの力になれればと、一部の子ども食堂がいち早くフードパントリーや宅食による支援を始めました。そこでむすびえでも、3月5日より企業・団体に向けて食品等の提供や寄付を呼びかける緊急プロジェクトを立ち上げたんです」

むすびえで全国の子ども食堂にアンケート調査を行ったところ、資金や人手の確保に苦心している団体が多いということが分かった。

そこで、食品だけでなく資金面の不安も解消できればと、新型コロナウイルス対策緊急支援プロジェクト「むすびえ・子ども食堂基金」を設立した。ホームページやクラウドファンディングを活用して個人や企業に寄付を呼びかけ集まった資金を元に、これまで(2020年8月22日時点)全国260団体に対し助成を行っている。

「基金には全国からたくさんの申請をいただいていて、本当に多くの方が、工夫を凝らしながら思いを持って活動をされているご様子に、大変感銘を受けました。申請いただいた全ての団体を応援したい気持ちを持ちながら、その思いは叶っていませんが、ご応募いただいた皆さまに、心から敬意を表します」

また、この「むすびえ・子ども食堂基金」は、日本財団とタレントの稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんによる「新しい地図」が立ち上げた新型コロナウイルス対策プロジェクト「LOVE POCKET FUND(愛のポケット基金)」(別ウィンドウで開く)の助成先第1号でもある。

食材・弁当の配布や家への配達を行う「今日をしのぐ」活動助成と、食支援に加えて相談活動や地域と連携した事業を行う「明日をひらく」活動助成の2つの手段を通じて全国67団体に支援を届けた。

「LOVE POCKET FUNDにご協力いただいた皆さんをはじめ、たくさんの人や企業が子どもたちのことを気に掛けてくれている。そのことが日々支援の現場で奮闘する運営団体の方たちにとって大きな励みになっています。各地から届く感謝の声を、今度はいかに支援いただいた皆さんに届けるか、というのも私たちの大切な役割だと痛感しています」

ゆるやかなつながりで見えてきた悩みや不安

今回、むすびえ・こども食堂基金の助成団体の一つ、こどもの居場所作り@府中が実施するフードパントリーにお邪魔することができた。

こどもの居場所作り@府中では、毎月1回、東京・府中市内にある他の子ども食堂と連携を取りながら児童扶養手当、就学援助、生活保護受給世帯を対象にフードパントリーを行っている。

この日、用意された食品はお米やパンといった主食類に、野菜や調味料、缶詰、お菓子など。助成や寄付金で購入した食材のほか、地域の企業や商店からの寄付された食品もたくさんある。

写真
こどもの居場所作り@府中のフードパントリーで配られた1家族分の食材
写真
フードパントリーで配られる食材を手に持つ、ボランティアとして参加した地域の民生委員

利用者の中には顔なじみの家族も多く、運営スタッフは訪れる一人一人に食材が詰まった袋を手渡しながら、「元気だった?」「暑かったでしょう。お茶を飲んで一休みしていきませんか?」と声を掛けていた。

こどもの居場所づくり@府中の代表・南澤(みなみさわ)かおりさんは、こども食堂を中止してフードパントリーを始めてから、改めて気付かされたことがあると言う。

「通常の子ども食堂では、各家庭の事情を聞く機会はほとんどなかったのですが、フードパントリーをきっかけに個別にやりとりをする機会が増え、それぞれの家庭が抱える深刻な状況を知って驚きました。コロナで仕事がなくなったり、収入が減ったりした方もいますし、お子さんの学校のことや、終わりの見えない状況の中で不安を抱えている親御さんがたくさんいらっしゃいます。個別の支援が必要だと感じたため、フードパントリー開催日にはカフェのような気軽な感じで、スクールソーシャルワーカーによる相談会も行うようになりました」

写真
こどもの居場所づくり@府中の代表を務める南澤さん

フードパントリーをスタートしたばかりの頃は、心配するあまりスタッフが「何か相談事はありませんか?」と前のめりになり、利用者を驚かせてしまったこともあるという。

しかし、この日は利用者がリラックスした表情でスタッフやソーシャルワーカーと言葉を交わす姿が数多く見られた。こんな風にゆるやかにつながり続けることが大切だと確信したという南澤さん。

「日頃、困っていると自覚していなくても、何気ないおしゃべりの中で本音がこぼれることがあります。フードパントリーは食品の受け渡しの場だけではなく、利用される方にとって、ゆっくり話を聞いてもらうことで力を取り戻す場所にもなっていることを、都度実感しています。でも、それはふだんの子ども食堂という場があるからこそできた活動だと思っています」

「困ったときはお互いさま」の心がやさしい社会をつくる

こどもの居場所づくり@府中では、7月から規模を縮小して子ども食堂も再開している。全国で活動を再開する子ども食堂が増えつつあるが、まだ活動を見合わせている運営団体も少なくない。

「万が一、子ども食堂から感染者が出た場合、世間には全国の子ども食堂が“危険な場所”とみなされてしまうかもしれません。そのような事態が起こらないように、子ども食堂の団体の皆さんには感染対策を記したリーフレットなども配布していますが、今後、安心・安全な環境で『居場所』としての子ども食堂を継続していくためにどんな取り組みをしていけばいいのか、専門家から各子ども食堂に対し直接アドバイスを送るような仕組み作りが必要だと思っています」

むすびえの三島さんは、新型コロナのような有事の際にもいつでもオンラインでつながれるよう、子ども食堂のIT化に向けた支援も進めていきたいと話す。

活動を再開したとある子ども食堂の様子

子ども食堂のもっとも重要な役割は「子どもたちやその家族が、地域とつながる」こと。「ここに居ていいんだ」「一人じゃないんだ」と安心できる居場所をつくること。そのためには、困ったときにお互いを支え合える社会づくりが必要だと、三島さんは語気を強める。

「私自身、今はたまたま支える側にいるだけで、今後、病気になったり、被災したりする可能性はあります。自分がいつ支援される側になってもおかしくないと思っています。子ども食堂ができることは限られていますが、子ども食堂の皆さんの活動を知ると、私が困ったときに助けてもらえそうと思えて、安心感を得ることができます。そういう意味では、支えられてもいます。誰もが困ったときに『困った』と言える社会、そしてその声を聞いた人が、自分のできる範囲で手を差し伸べることができる社会をつくっていきたいと思っています」

撮影:佐藤潮