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宿題をし、お風呂に入り、歯磨きをして眠る。当たり前の習慣こそ子どもたちの自立する力を育む

写真:料理を囲んで一緒に食事をする2人のスタッフと2人の子ども
「第三の居場所」では、子どもたちとスタッフが一緒に食卓を囲む
この記事のPOINT!
  • 日本には、経済的な問題から教育や体験機会に乏しい子どもが7人に1人存在する
  • 「第三の居場所」では、知識や習慣を身に付けることで、子どもの自立する力を育てる
  • 声を上げられずにいる保護者や子どもを地域でサポートする仕組みづくりが必要

取材:日本財団ジャーナル編集部

日本財団ジャーナルの記事「日本の子どもの7人に1人が貧困という事実。いま『第三の居場所』がなぜ必要なのか?」(別ウィンドウで開く)でも紹介したが、今の日本において7人に1人の子どもが相対的貧困(※)の状態にある。経済的な余裕のなさから、子どもたちの健やかな成長に必要な教育や体験の機会が不足する傾向にある。

  • 相対的貧困とは、その国の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯のこと

そういった子どもたちに居場所を提供し、自立して生きていく力を育む取り組みが、日本財団の推進する「子ども第三の居場所」(別ウィンドウで開く)プロジェクトだ。「第三の居場所」づくりは、さまざまな困難を抱えた保護者や子どもたちを支えるコミュニティとなるべく、全国100カ所の拠点整備を目標としている。

今回は、拠点のマネージャーを務める職員に、子どもたちへの寄り添い方、将来の展望などを取材した。

「第三の居場所」は誰でも頼れるコミュニティ

「第三の居場所」のマネージャーは多忙だ。施設を建てる場所探しから始まり、運営の手続き、職員の募集まで行う。集まったスタッフはベテランの元保育士や、市内の大学で教育課程に所属する学生がメインである。

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「第三の居場所」施設内に飾られた絵画。部屋の中は明るい雰囲気に包まれる
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「第三の居場所」の本棚にずらりと並ぶ、絵本や図鑑。たくさんの本が子どもたちの好奇心や探究心を育む

拠点に通う子どもたちの中には、施設の方から誘いを掛けた子どもたちもいる。経済的に余裕のない家庭では地域社会とのつながりが乏しくなりがちで、子育てを相談できる相手がいなかったり、行政が提供する有益な生活情報が得られなかったりする。そのため、地域側からも情報発信し、時には直接声をかける必要があるのだ。

子どもたちは「第三の居場所」でどのような時間を過ごしているのだろうか。

「みんなで遊び、おやつを食べ、スタッフに宿題を見てもらいながら終わらせます。その後は一緒に晩ごはんを食べ、歯磨きをする。勉強し、健康的な食事をとるといった一般的な生活習慣を学ぶ場になっているんです」

写真:キッチンで夕食の準備をする2人のスタッフ
第三の居場所では、毎日心を込めてスタッフが夕食を準備する

「第三の居場所」は、当初、通っている子どもたちの学力を上げることに注力していた。学力を上げることで未来の選択しや可能性が広がり、貧困の連鎖を断ち切る手段になると考えたからだ。しかし実際に拠点を運営する中で、学力以外にも重視するべきものがあることが分かってきたという。

「例えば少し苦手な相手と仲良くなったり、不得意な集団行動に挑戦してみたり。そういった“楽しくないこと”をやり遂げた先にある達成感や喜びを知ることも、子どもたちには大切なんです」

立ちはだかる壁も頑張れば突破できる!という成功体験が、子どもの心を大きく成長させるのだ。

2019年4月には、「第三の居場所」に通う子どもたちを対象に、親元から離れて1泊2日のキャンプを行うプログラムを実施。自立する力を育むことを目的とし、普段とは違う自然豊かな地に出かけて、友達やスタッフと共同生活を送った。テント張りに海遊び、食事作り、キャンプファイヤーと初めて尽くしの体験で達成感を味わい、自信を身に付け、ひと回りもふた回りも成長した。

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楽しみながらテントを張る子どもたち
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キャンプファイヤーで、みんなで一緒に歌う子どもたち

また、拠点マネージャーは、常日頃から「どのようにライフスキルを子どもたちに身に付けさせるか」という難題にいつも試行錯誤している。

「人に魚を与えると1日で食べてしまう。しかし人に釣り方を教えれば、その人は生涯食べていくことができる」

中国に伝わるこのことわざを、この職員は子どもたちと接する上で大切しているという。

「ここに来れば頼れる大人がいて、きちんとした食事もできる。しかし中学に上がると同時に、子どもたちはここを卒業しなければなりません。だから、その先も健全に生活するための知識や習慣を身に付けさせることが大切だと思うんです」

たとえ親の帰りが遅くても、1人できちんとした食事を用意できること。宿題を済ませ、お風呂に入り、歯磨きをして眠ること。単純なようで難しいこれらの生活習慣を身に付けることは、子どもたちの自立につながる。

「いつまでもそばに大人がいるわけじゃない。だからこそ子どもたちには、自立に必要な力をきちんと身につけさせてあげたいと思っています」

安心して頼れる社会が必要

「第三の居場所」には、具体的にどのような家庭環境の子どもたちが訪れるのだろうか。

まず、保護者が就労状況に問題を抱える家庭である。遅くまで残業しないと生活できない環境にあるシングル家庭の場合、子どもは一人きりで長い時間を過ごさざるを得ない。また収入を増やすため、子どもを預けてしっかり就活をしたいと考えているシングル家庭も困っていることが多い。

放課後児童クラブに預けることを考える人もいるが、同施設は就労証明書がないと利用できないことが多く、「第三の居場所」へ行き着く家庭も多い。

「『第三の居場所』は遅くまで開いていますし、就労証明書も必要ありません。実際に利用したことで仕事にしっかり集中でき、正社員に登用された親御さんもいらっしゃいます」

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「第三の居場所」では、親も安心できる栄養バランスのとれた手作りの料理を提供

次に、さまざまな理由から養育が難しい保護者が助けを求める場合もある。子どもとの接し方が分からない、自身が発達障害であるなど、状況は家庭によって千差万別だ。

「まだまだサポートが不足していると思います。例えば子どもがほとんど一人きりで生活していても、辛いことがあって学校に行けない状態でも、自ら声を上げることのできる家庭がどれだけあるでしょうか。誰もが安心して頼ることのできる社会的なセーフティネットをつくる必要があると思います」

声に出せないだけで、本当は支えを求めている。そんな保護者や子どもに寄り添える仕組みが必要だと職員は語る。

「第三の居場所」に訪れる子どもたちは、職員にとって妹や弟、もしくは自分の子どものような存在だ。彼らが生きづらさを抱えることなく生きられる世の中を目指し、「第三の居場所」の職員は “居場所”として寄り添い続けている。

撮影:永西永実

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