日本財団ジャーナル

【妊娠SOS。相談窓口のリアル】「妊娠したことを相談しづらい」地方ならではの実情。必要なのは、いつでも気軽に相談に乗ってくれる「便利な大人」(連載第2回)

写真:スマートフォンを眺める若い女性
地方では「妊娠したかもしれない」という不安を抱えていても、誰かの目が気になり相談できずにいる若者も少なくない
この記事のPOINT!
  • 地方では、妊娠に関する不安を抱えていても、周りの目が気になり相談しづらい環境にある
  • 「思いがけない妊娠」をすることが問題なのではなく、「助けて」と声に出しづらい社会の方に問題がある
  • 「いつでも」「気軽に」相談できる「便利な大人」に徹し、一人でも多くの子どもや若者が幸せになれる社会を目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

いま日本では、妊娠をきっかけに社会の中で孤立してしまう女性が、若年層で目立っている。特に最近では、新型コロナウイルスによる休校などの影響で、10代女性からの妊娠相談が急増しているという。

日本財団はこれまでも妊娠SOS相談窓口(別ウィンドウで開く)への助成を行ってきたが、こうした背景を受け、2020年7月より妊娠SOS相談窓口推進事業(別ウィンドウで開く)に着手。思いがけない妊娠をした女性に必要な支援を行うことで、生まれてくる子どもの未来を守ると共に、より良い子育て環境の実現を目指している。

批判されたり、タブー視されたりすることが多い「思いがけない妊娠」。それは本当に、当人だけの問題と片付けてしまってよいのだろうか。

連載「妊娠SOS。相談窓口のリアル」では、妊娠相談窓口を行う支援団体への取材を通して、思いがけない妊娠の背景にある問題、それを解決するためのヒントを探る。

今回は、2019年より広島県にて妊娠に関する相談支援窓口「にんしんSOS広島」(別ウィンドウで開く)を運営する森川身江子(もりかわ・みえこ)さんに話を聞いた。

「思いがけない妊娠」から見える地域差

「ニュースなどでは、新型コロナウイルスによる自粛の影響で、若者の思いがけない妊娠が増えていると報道されていますが、広島では、緊急事態宣言を境にガクッと相談件数が減りました」

広島県で、思いがけない妊娠に関する相談窓口を運営する森川さんは、緊急事態宣言以降の相談件数の減少に危惧している。

2020年3月くらいまでは取り組みに対する認知度が高まり、ちょっとした悩みや不安などによる問い合わせも増え、相談件数は増加の傾向にあった。しかし2020年5月には、その3分の1程度になったという。

写真
広島における若年妊娠に関する状況について取材に応じてくれた、にんしんSOS広島の森川さん

「新型コロナウイルスの感染者に対する差別と似ているところもある気がします。東京のような大都市では、感染者の特定などはされにくいと思いますが、広島では地域によってはすぐに特定されてしまい、ツイッターなどで拡散されてしまう可能性が高いんです。SNSを頻繁に利用する中高生なら、大人よりも一層敏感になるかもしれません。思いがけない妊娠で苦しんでいる若者が増えていなければ良いのですが…」

にんしんSOS広島では、当事者から要望があれば、相談員が希望する場所まで足を運んで、実際に会って話をすることもある。

『にんしんSOSながの』(別ウィンドウで開く)を運営する長野県の方とお話しする機会があったのですが、長野でも相談件数の激減という似たような現象が起きていたそうです」と、森川さんは言う。

人と人との距離が近いのが地方の良いところとも言えるが、一方でその距離感が誰かに生きづらさを感じさせたり、傷つけてしまったりする可能性もあるのだろう。

森川さんは、思いがけない妊娠をしてしまった女性を取り巻く環境や、彼女らに向けられる社会の目線にも疑問を抱いている。

「まず、『妊娠してはいけない!』と若年層の妊娠を否定しながら、子どもたちに性教育を始めるタイミングが遅い気がします。私たちに問い合わせがくる相談の半数以上が、性に関する知識不足によるもの。中には性行為をすれば妊娠する可能性があることを知らない子すらいます。さらに、日本では女性が自主的に避妊をすることが難しい。海外では、女の子が避妊用のピルを購入するのは珍しいことではありませんが、日本では学生がピルを購入するなんて不可能に近いですよね?若年層の性行為に対する社会の目線が厳しく、気軽に相談できる人がいないところにも課題があると考えています」

森川さんの指摘どおり、日本の若年を取り巻く現状には矛盾を感じてしまう。思いがけない妊娠は、当事者だけの問題ではなく、日本の性教育や、若者の性行動に対する社会の在り方を見直す必要があるのではないか。

写真:妊娠したかもしれないとお腹を抱える女子高生
日本の若者の性に対する知識不足も思いがけない妊娠の大きな要因の一つ

心掛けているのは、適度な距離感の「便利な大人」

「相談者の中にも、『私なんて…』と自分を攻めてしまう人や、(性交渉の)相手に対して『嫌だ』と言えない人が多くいます。思いがけない妊娠で深刻な事態にならないための鍵となるのが、自己肯定感や自尊感情なのではないでしょうか」

森川さんに話を伺う中で何度も出てきたのが「自己肯定感」「自尊感情」という言葉。

相談者と向き合う中でも、自己肯定感や自尊感情が高い若者ほど、森川さんたちの言葉を素直に受け止め生活に生かすことができ、逆に低いとネガティブにとらえて問題を改善する行動に結びつかないケースも多いという。

「だからこそ、妊娠したかもしれないと不安を抱える若者には、優しい言葉やポジティブな言葉でちゃんと伝えることが大切だと思っています」と森川さんは話す。

「『空気を読む』という言葉があるように、日本では相手に対してどう思っているのか『口に出さなくても伝わるよね』 で片付けられる場面も多い。ですが海外では、親子間であっても『愛しているよ』『あなたのことが大好きだよ』と伝えます。そういった、言葉にして伝えることって何よりも大切なのではないかと、この仕事を通じて感じていますね」

秘密厳守で、思いがけない妊娠に関する相談を受けるにんしんSOS広島では、特に言葉の扱い方には気を付けているという。

「私たちは相談者に対し、相手が話しやすくなる言葉、気持ち良くコミュニケーションが取れる言葉を選ぶようにしています。男の子の相談者もいますが、友達のような口調で話すと、途中で電話を切らずにしっかり話してくれることが多いですね。またうちの職員の中には、発する言葉だけでなく、髪を染めるなど見た目が明るい者もいます。行政の窓口などで話すときは、嫌な顔をされることもありますが、そういう眼差しって、私が関わった困難な問題を抱える女性たちに向けられているものと似ている気がするんですよね。だから、職員が体感することは大切で、相手の立場を感じながらできるだけ若者に寄り添った支援を心掛けています」

かといって、身内のような近い存在ではなく、適度な距離感を保った「便利な大人」でありたいと語る森川さん。

「身内のように距離感が近くなり過ぎると、かえって人間関係にストレスを感じてしまう若者も少なくありません。にんしんSOS広島が一番尊重しているのは『相談者の気持ち』。だから私たちは、相手の気持ちを感じながら適度な距離感を保つことを心掛けています。ちょっと困ったときにすぐに電話がつながって、気軽に相談に乗ってくれる大人のほうが、彼女たちの役に立つと思っていますので」

にんしんSOS広島では相談内容に合わせて、性に関する正しい知識を伝えたり、行政や病院など関係機関を紹介したりするだけでなく、時には一緒に訪問することもあるという。

「一方的に連絡を待つだけでなく、時には私たちの方からも連絡を入れて状況を確認するなど、当事者たちが『孤立した』『たらい回しにされた』と感じないよう、いつも心掛けています」

にんしんSOS広島の公式サイト(別ウィンドウで開く)より

当事者の気持ちに寄り添い、尊重する

「妊娠をしてしまったかもしれない」

「病院に行けない」

「育てることができない」

にんしんSOS広島には、妊娠に関するさまざまな相談が寄せられている。

「世の中に、思いがけない妊娠で悩んでいる若者が、まだたくさんいるんじゃないかと思っています。にんしんSOS相談窓口(別ウィンドウで開く)は全国にあるので、今後は私たちの存在についてもっと広く知ってもらえるような取り組みも必要だと考えます」

妊娠を通じて、女性やその家族、関係者それぞれが納得のいく幸せをつかんでほしいと語る森川さん。

「妊娠をすることが問題なのではなく、『助けて』と声に出せない社会の方に問題があるのではないでしょうか。私たちはこの活動を通じて、若者たちが『助けて』と言える環境と社会をつくっていきたい。そして便利な大人として支えることで、一人でも多くの子どもや若者たちが幸せになれるように努めて行きたいです」

〈プロフィール〉

にんしんSOS広島(にんしんエス・オー・エスひろしま)

2018年1月に事業スタート。思いがけない妊娠や、妊娠したかもしれないといった、悩みを抱えている人が安心して匿名・ニックネームで相談できる、広島県より産前・産後母子支援事業の委託を受けた相談窓口。医療・福祉などの専門職スタッフが在籍し、相談内容に応じて面接やアドバイス、関係機関のサービスや窓口の紹介、同行訪問など、相談者に寄り添った支援を行なっている。
にんしんSOS広島(別ウィンドウで開く)

連載【妊娠SOS。相談窓口のリアル】

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