日本財団ジャーナル

行政、民間団体、有識者で考える子どもたちの学びや成長を支える支援。必要なのは、組織の壁を超えた横のつながり

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日本財団の呼びかけによりオンラインで開催された「『子ども第三の居場所』にかかる官民合同会議」の様子
この記事のPOINT!
  • 家庭をめぐる問題は多様化、複雑化し、子どもたちはさまざまな困難に直面している
  • 日本政府では、行政やNPOなどと連携し、子どもと家庭両方の支援の充実に努めている
  • 子どもの学びや成長を支えるためには、組織の壁を超えた“横のつながり”が重要

取材:日本財団ジャーナル編集部

食生活や生活リズムの乱れ、学習の遅れやネグレクトなど、いま日本の子どもたちはさまざまな困難に直面している。

子どもと家庭をめぐる問題は多様化、複雑化し、地域のつながりも希薄になる中で、安心して過ごせる居場所がなく、孤立してしまう子どもも少なくない。

日本財団では、子どもたちが安心して過ごせる環境で、自己肯定感、人や社会と関わる力、生活習慣、学習習慣など、将来の自立に向けて生き抜く力を育む「子ども第三の居場所」(別ウィンドウで開く)を全国各地に展開している。

2016年から始まった同プロジェクトも5年目を迎え、2021年1月に、これまでの取り組みの中で生まれた実践モデルの共有や、成果・課題、今後の展望について、政府、自治体、⺠間団体、有識者などが意見交換を行う官⺠合同会議が開催された。

今回は、官民合同会議の中で、政府関係者より報告のあった現状の子ども支援策についてまとめた。

時代と共になくなりつつある子どもの居場所

「かつて日本では、子どもは社会の宝と言われ、路地裏からは子どもたちの元気な笑い声が聞こえてきました。私が子どもの頃も、日が暮れると近所のおじさんやおばさんたちが、早く帰りなさいと声をかけてくれたものです。しかし近年、子どもたちの居場所がなくなりつつあります。日本財団では、これまでも、そしてこれからも子どもたちの居場所をつくる事業に力を入れていくつもりです。『子ども第三の居場所』は、その中心プロジェクトとも言えるものです。本日は、これまでの成果を共有しつつ、政府の施策などについても改めて内容を認識し、官民問わず、この重要な問題について話をしていけたらと考えています」

日本財団の笹川陽平(ささかわ・ようへい)会長の挨拶で始まった「『子ども第三の居場所』にかかる官⺠合同会議」。子ども第三の居場所事業の成果について見る前に、まずは、現在政府で行っている子ども支援策とそれに対する有識者の意見を見ていきたい。

今回、政府から参加したのは、内閣府政策統括官(政策調整担当)付参事官(子どもの貧困対策担当)の飯田剛(いいだ・ごう)さんと、厚生労働省社会・援護局地域福祉課生活困窮者自立支援室室長の唐木啓介(からき・けいすけ)さん、文部科学省総合教育政策局男女共同参画共生社会学習・安全課課長の石塚哲朗(いしつか・てつろう)さんである。

支援を必要な家庭に届けるために

「子どもの貧困率は2012年に16.3パーセントを示し、その後は下がり続けてはいますが、2018年は13.5パーセントとなっており、いまだ厳しい状況が続いています。それを踏まえ、政府では2013年に『子どもの貧困対策の推進に関する法律』を公布し、その翌年に『子ども貧困対策に関する大網』をつくりました。その中では、『教育の支援』『生活の支援』『保護者に対する就労の支援』『経済的支援」の4つを柱とし、さまざまな対策に取り組んできましたが、2020年には法律を改正(別ウィンドウで開く)し、対策の進展状況を踏まえた新たな大綱を策定しました」

政府の取り組みについて語るのは、内閣府の飯田さん。

子どもの貧困率の推移を示す折れ線グラフ。相対的貧困率は、平成9年(調査対象1997年、調査1998年)14.6%、平成12年(調査対象2000年、調査2001年)15.3%、平成15年(調査対象2003年、調査2004年)14.9%、平成18年(調査対象2006年、調査2007年)15.7%、平成21年(調査対象2009、調査2010年)16.0%、平成24年(調査対象2012年、調査2013年)16.3%、平成27年(調査対象2015年、調査2016年)15.7%、平成30年(調査対象2018年、調査2019年)15.4%。子どもの貧困率は平成9年(調査対象1997年、調査1998年)13.4%、平成12年(調査対象2000年、調査2001年)14.4%、平成15年(調査対象2003年、調査2004年)13.7%、平成18年(調査対象2006年、調査2007年)14.2%、平成21年(調査対象2009、調査2010年)15.7%、平成24年(調査対象2012年、調査2013年)16.3%、平成27年(調査対象2015年、調査2016年)13.9%、平成30年(調査対象2018年、調査2019年)13.5%。
相対的貧困率(※)、子どもの貧困率共に2012年をピークに下がってはいるが、2018年の子どもの貧困率は13.5パーセントとなっている。内閣府提供資料
  • 相対的貧困とは、その国の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯のことを指す

大綱のポイントは、子どもの生活や取り巻く環境に応じて包括的かつ早期に対策を講じる必要があること。また、子育てや貧困はいまだ家庭の自己責任という考えも根強く存在している中、その背景にはさまざまな要因があることを踏まえ、国や自治体、NPO等が密接に連携し総合的に取り組んでいく必要があることを挙げている点だという。

現在特に力を入れている支援策として、「幼児教育の無償化」「私立高校の実質無償化」「真に必要な子どもたちの高等教育の無償化」といった教育面での支援に加え、ひとり親家庭の子どもの生活や学習支援、その親に対する就業や学び直しの支援といった、ひとり親家庭への取り組みがある。政府においても、新型コロナウイルス感染症を踏まえた対策も同時に進めているという。

「子どもたちの現在や未来が、生まれ育った環境によって左右することがないようにしなくてはなりません。しかし子どもの貧困問題は、貧困だと気が付かないケースや、地域での孤立、情報不足などさまざまな問題が複雑に絡まり合っています。NPO団体などと協力しながら、支援を進めていきたいです」

内閣府が提示する、子どもの貧困対策における地域ネットワークの整備・活用のイメージ図。貧困家庭の問題としては「子ども・家族に貧困である自覚がないので、自分から支援を求めない」「貧困の自覚があっても、周囲の目を気にして表に出せない」「頼れる親戚も近隣付き合いもなく、地域の目が届かない」「国や自治体の情報が届かず、社会的に孤立しやすい」といった問題が挙げられる。それに対し、内閣府(地域子供の未来応援交付金)および文部科学省・厚生労働省は自治体と共に、さまざまな施策・事業を組み合わせて支援。企業や国民は子供の未来応援基金(子供の未来応援国民運動)に寄付・理解。その寄付金をもとにNPOなどの団体・公益法人などが草の根で子どもたちを支援。子どもたちに寄り添い支援するNPO等の役割が重要であると共に、学校、福祉部門、地域住民、NPO等による連携した取り組みが重要。そのために地域ネットワークの整備・活用が必要である。
見えにくく、さまざまな課題を抱える子どもの貧困に対しては、地域ネットワークの整備・活用が必要。内閣府提供資料

拡大している子どもの学習・生活支援事業

次に説明をした厚生労働省の唐木さんは、「貧困の連鎖を止めるためには、子どもと家庭、両方への支援が重要である」と強調する。

『生活困窮者自立支援制度』(別ウィンドウで開く)は2015年に第2のセーフティネットとして、生活困窮に至る前の方々を支援する制度として開始されました。自立相談事業や住居確保給付金の支給などといった事業の中の一つとして、『子どもの学習・生活支援事業』を展開しています」

子どもの学習・生活支援事業は「貧困の連鎖の防止」を目的とし、子どもの将来の自立に向けた包括的な支援と、世帯全体への支援の2つを掲げ、生活困窮家庭の子どもを取り巻く学習面、生活面、親の養育面といった課題解決に取り組んでいる。

「学習習慣の習慣づけや高校中退防止を含む学習支援、学校・家庭以外の居場所づくりを通しての生活習慣・育成環境の改善、進路選択等の就労支援なども行い、子ども本人と家庭の双方にアプローチすることで、子どもの将来の自立を後押しします」

子どもの学習・生活支援事業を実施する自治体は、NPOや株式会社、社会福祉協議会などへ委託する形で毎年増加傾向にある。支援事業による勉強会や体験学習に参加した子どもたちから「楽しい、ほっとできる」「新しい友達ができた」「勉強したいという気持ちが前より強くなった」などポジティブな声が届いているという。

子どもの学習・生活支援事業の様々な取組事例。1.地域:北海道帯広市、人口規模:10〜50万人、運営形態:委託、事業形態:集合、特徴:居場所づくりを重視、小中学生のニーズに対応。2.地域:宮城県岩沼市、人口規模:3〜5万人、運営形態:委託、事業形態:集合+訪問、特徴:隣接大都市(仙台市)の資源(NPO、スタッフ)を活用。3.地域:埼玉県越谷市、人口規模:10〜50万人、運営形態:委託、事業形態:集合+訪問、特徴:近接市と相互利用可能な学習教室。4.地域:東京都足立区、人口規模:50万人〜、運営形態:直営+委託、事業形態:集合+訪問、特徴:「居場所を兼ねた学習支援」を週6日展開。5.地域:東京都杉並区、人口規模:50万人〜、運営形態:委託、事業形態:集合+訪問、特徴:小学生から高校生まで学習支援・居場所提供。6.地域:新潟県南魚沼市、人口規模:5〜10万人、運営形態:委託、事業形態:集合+訪問、特徴:柔軟な対象設定(小1〜20歳、塾を利用していない世帯)。7.地域:愛知県刈谷市、人口規模:10〜50万人、運営形態:直営、事業形態:集合+訪問、特徴:教員OBの活用、愛知教育大学との連携。8.地域:三重県鳥羽市、人口規模:〜3万人、運営形態:委託、事業形態:集合、特徴:離島でのサテライト方式の展開。9.地域:広島県東広島市、人口規模:10〜50万人、運営形態:委託、事業形態:集合+訪問、特徴:訪問・送迎の実施 学生ボランティアの活用。10.地域:沖縄県、人口規模:都道府県、運営形態:直営+委託、事業形態:未記入、特徴:体験学習やイベント実施。福祉事務所との連携。
自治体における子どもの学習・生活支援事業のさまざまな取り組み事例。厚生労働省提供資料

「いま私たちが課題と感じているのは、事業に関する周知の難しさや、子どもや保護者へ直接接する事業の担い手を確保することですね」と唐木さん。

「また、新型コロナウイルスの影響で、勉強会などを中止せざるを得ない状況であるため、子どもたちへの学習支援や保護者へのサポート方法についても模索していく必要があると考えています」

現在は、フードバンク等を活用した食事の提供、タブレットやモバイル、Wi-Fi機器等の購入補助をはじめ、地域ネットワークを総動員した支援対象児童の見守り強化事業にも力を入れていると話す。

学校をプラットフォームとした総合的な対応

文部科学省の石塚さんからは、子どもの幼児期から高等教育まで切れ目のない教育費負担の軽減を目指す支援策(別ウィンドウで開く)と併せて、学校をプラットフォームとした総合的な子どもの貧困対策の取り組みについて説明があった。

「子どもたちの集う学校を、貧困対策のプラットフォームにできたらと考えています。学校における学力保障や進路支援をはじめ、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーによる教育相談、NPO等による学習支援、家庭教育支援の充実など、地域の教育資源を活用した子どもの貧困対策の推進に取り組んでいます。また、学校と地域が連携・協働し、地域全体で(不登校児童も含む)全ての子どもたちの学びや成長を支える仕組みづくり(別ウィンドウで開く)に取り組んでいます」

文部科学省が推進する「地域全体で未来を担う子どもたちの成長を支える仕組み」を示す図。「学校教育」と「社会教育(地域学校協働活動※公民館等の活動を含む)」が活動に応じて連携・協働することが必要。そこに「家庭教育」も加わり、地域全体で子どもたちの成長を支える。社会教育の活動内容としては、「学校支援」「土曜日・放課後活動」「まちづくり」「地域活動」「子どもの学習支援」「家庭教育支援活動」など。想定する地域住民・団体等は「PTA」「社会教育関係団体」「教育NPO」「大学等」「研究機関」「民間教育事業者」「文化団体」「スポーツ団体」「企業・経済団体」「労働関係機関・団体」「福祉関係機関・団体」「警察・消防等」「地域の青少年」「地域の成人」「地域の高齢者」。より多くの、より幅広い層の地域住民、団体が参画し、目標を共有し、「緩やかなネットワーク」を形成。
文部科学省が推進する「地域全体で未来を担う子どもたちの成長を支える仕組み」。文部科学省提供資料

それぞれの話に共通しているのは、どれだけ制度が充実しても、それを支援を必要としている家庭にしっかりと届けなくては成果が上がらないということ。支援策に取り組むだけでなく、制度が利用しやすく、分かりやすくて伝わりやすい工夫の必要性を感じた。

“横のつながり”づくりが問題解決の鍵に

官民合同会議には、日本財団や政府関係者の他に、日本財団と共に子どもの居場所づくりに取り組むB&G(ブルー・アンド・グリーランド)財団(別ウィンドウで開く)をはじめ、大学教授、NPO団体などの有識者も多数参加した。

「B&G財団では、390もの自治体で470カ所の海洋センターを展開しています。その中でも、大切だと感じているのは、各自治体の関係者の方とのネットワークや、日本財団との連携など、“横のつながり”です。国も民間もさまざまな努力をしていると思いますが、そういったものをつなげていくことが、さらに大きな成果につながるのではないでしょうか」

そう語るのはB&G財団理事長の菅原悟志(すがわら・さとし)さん。また、NPOや社会的企業のアクションチームをつくり、制度改革やさまざまなセクターとの協働を通じて、より多くの社会課題解決事例の創出を目指す特定非営利活動法人新公益連盟(別ウィンドウで開く)代表の白井智子(しらい・ともこ)さんも、連携することの重要性について説く。

「子どもたちへの支援事業の実施を、現在のような自治体が手を挙げる方式いわゆる努力義務という形で任せていると、リーダーの首長などのやる気に左右されます。日本のどこにいても子どもたちがしっかりとしたサポートが受けられるように、全自治体に貧困の連鎖を防ぐ取り組みを義務化する。そのような制度を、ここにいる皆さんと連携することで実現できればと思っております」

「政府、民間が一体となった大きな横のつながりをつくる」ための足掛かりとなった、今回の官民合同会議。後編では、「子ども第三の居場所」を日本財団と共に運営してきた、埼玉県戸田市と広島県尾道市で目覚ましい成果を上げている実践モデルと、今後の展望について紹介したい。