日本財団ジャーナル

マスクの寄贈、感動体験の提供。ソニーが取り組む次世代の子どもたちへの支援

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ソニーが提供する「感動体験プログラム」のVR空間「Warp Square」で異文化体験をする子どもたち
この記事のPOINT!
  • ソニーが中国・無錫市から寄贈されたマスク5,000枚を全て学童施設に提供
  • ソニーの「感動体験プログラム」は「子どもの教育格差の縮小」を目指す取り組み
  • ソニーグループの技術やコンテンツを活用した多様なワークショップを提供し、子どもたちの創造性や好奇心を育む

取材:日本財団ジャーナル編集部

新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るい、日本でも感染者が増え続けている。医療現場や教育現場をはじめ、全国的なマスク不足が続く中、日本財団が運営する「第三の居場所」宛に2,000枚ものマスクが寄贈された。

「第三の居場所」(別ウィンドウで開く)とは、経済的な問題や家庭の事情により教育や体験機会に乏しく生きにくさを抱える子どもたちが、一緒に勉強したり、遊んだり、温かいごはんを食べたりといった社会性や基本的な生活習慣を身に付けることで、将来に必要な「自立する力」を育む場所である。

そして、マスクの贈り主は、半導体やテレビなどのエレクトロニクス分野をはじめ映画、音楽、ゲームのエンタテインメント分野や金融事業といった幅広い事業を展開するグローバル企業「ソニー株式会社(以下、ソニー)」(別ウィンドウで開く)。この一連の背景には、ソニーと中国・無錫市との親交、ソニーが力を入れる子どもたちの教育格差是正(ぜせい)の取り組み、日本財団とのパートナーシップなどがあった。

分断された世界をつなぐもの

ペストに、スペイン風邪、SARSやMARS…。これまで人類を恐怖に陥れてきた感染症は多い。しかし、新型コロナウイルス感染症ほど世界を分断し、人々の生活を変えたものはないかもしれない。

感染者数の増加が止まらないアメリカやヨーロッパの大都市では、国家間・都市間の移動はもとより、外に出て人と会うこと自体を禁止する「外出禁止令」が実施されている。離れて暮らす家族や、友人、恋人との接触も、感染リスクがあるため難しい。同じく日本でも、緊急事態宣言が発令され、政府から外出自粛が求められている。

目に見えないウイルスによる感染リスクや、失業や廃業などによる経済的な打撃、そしてこの状態がいつまで続くか分からない状況で、メディアを賑わすのは気が滅入る話題ばかりだ。そんな中、明るいニュースが届いた。

中国・無錫市に工場を有するソニーが、新型コロナウイルス感染症が拡大する最中に無錫市へ贈ったマスク4,000枚と17万元(約250万円)のお礼として、無錫市から寄贈されたマスク5,000枚を全て、「第三の居場所」のほか子どもたちのために活動するNPO団体に提供をしたという話である。

「社内で使い道が検討された結果、せっかくなら、本当にマスクを必要としている方々に使っていただこうということで外部団体への提供が決まりました」

そう語るのは、ソニーのサステナビリティ推進部CSRグループ・シニアマネジャーの岡田康宏(おかだ・やすひろ)さん。

「ソニーは、2018年より子どもたちの教育格差縮小に向けた取り組みを行ってきました。ソニーの教育支援活動において連携させていただいている団体さまにマスクを提供し、学校や自宅以外の居場所を必要とする子どもたちのために使ってもらうことについては、寄贈元である無錫市にも賛同いただきました」

ソニーが無錫市からマスクを受け取った時に、届いたダンボールに貼られた中国から日本への激励の言葉に多くの社員が感銘を受けたという。

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無錫市からソニーへ届いたマスクが入った段ボール

一衣帯水 「日中両国は、一衣帯水の間にある隣国であり」

源遠流長 「日中両国は、長い伝統的友好の歴史を有する」

隔海相望 「日中両国は、海をはさんで向かい合う」

櫻花満開 「桜満開を迎える」

衆志成城 「一致協力すればいかなる困難にも克服できる」

戦疫必勝 「疫病との戦いに必ず打ち勝つ」

「中国も日本も互いに困難に見舞われる中、現地で工場を設立して以来数十年にわたって深い関係を構築してきた無錫市からマスクと共にこの漢詩をいただき、非常に勇気づけられました。この国境を超えた温かい支援のメッセージとマスクを、多くの子どもたちに届けることができうれしく思います」

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ソニーから寄贈されたマスクに感謝の意を表する日本財団・笹川会長
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ソニーから寄贈されたマスクを「第三の居場所」に向けて発送作業を行う日本財団職員

マスクを贈られたNPO団体からは、「今、一番必要だったマスクを贈ってくれてありがとう」「とてもスピーディにマスクを届けてくれた」「このマスクを通して、ソニーさんと中国・無錫市の国境を超えた結び付きや、大変なときでも誰かを思いやる心の大切さを子どもたちに伝えることができました」といった、多くの感謝の言葉が届いているという。

国境封鎖や都市間の移動の禁止、外出自粛といった物理的に分断された世界ゆえに、人と人が思いやる気持ちが結束力を高め、困難に立ち向かう強さと勇気を与えくれたに違いない。

教育格差をなくすために。ソニーの挑戦

2018年より子どもたちの教育格差縮小に向けた取り組み「感動体験プログラム」(別ウィンドウで開く)を行ってきたソニー。その理由を岡田さんはこのように語る。

「教育格差とは、経済的な事情や地理的な制限により、子どもたちが健やかに成長していくために必要な、基礎学力もさることながら、体験機会に差が出てしまうことです。現在、日本では7人に1人の子どもが相対的貧困(※)状態にあるとされています。また、都会と比べて過疎化や高齢化が進む地方では、多様な人や価値観に触れる機会が少ない状況にあります。そういった教育格差、体験機会の差をなんとか解消できないか、という想いからソニーの取り組みは始まりました」

  • その国の等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯のこと。経済的な困窮を要因とした衣食住の余裕のなさに加え、経験や体験の機会が乏しく、さまざまな面で不利な状況に置かれる傾向にある

現在、ソニーが取り組む「感動体験プログラム」は、子どもの創造性と好奇心を育むための取り組み。NPO・NGOなどの外部団体と協力し合うことで、体験機会を子どもたちに届けている。日本財団とも2019年度にパートナーシップを締結し、全国の「第三の居場所」で実施している。

特筆すべきは、ソニーグループの技術やコンテンツを活用した多様なプログラムの数々。4Kのプロジェクターを使用したVR空間「Warp Square(ワープスクエア)」(別ウィンドウで開く)の中に入り世界各地を巡る異文化体験や、初めてでも簡単に使えるIoTプログラミングブロック「 MESH™(メッシュ)」(別ウィンドウで開く)を活用したワークショップ、アニメーション作家を迎えて自分が描いた絵が動き出す「オリジナルアニメワークショップ」(別ウィンドウで開く)、他にもミュージカル体験などがある。

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VR空間「Warp Square」で異文化体験中の子どもたち

「変化の激しい時代を生き抜くには、子どもたちが自分で問題を発見したり、クリエイティブに考えたりする力を身に付けることが重要です。この『感動体験プログラム』では、そのために必要とされるSTEAM(スティーム)領域(※)のプログラムに力を入れています」

  • Science(科学)の「S」、Technology(技術)の「T」、Engineering(工学)の「E」、Arts(芸術)の「A」、Mathematics(数学)の「M」の頭文字をとったもの。先生に教えてもらうのではなく、子どもたちが自分で学び、理解していく実践的な経験に重きを置いている
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IoTプログラミングブロック「MESH™」を使った工作ワークショップを体験する子どもたち
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「MESH™」を使った工作ワークショップで自分のアイデアを形にする子ども

プログラムに対する反響は大きい。「MESH™」と箱やコップなどの素材を組み合わせる工作ワークショップを体験した「第三の居場所」(別ウィンドウで開く)の子どもたちからは、「大きくなったら、プログラミングや何かを作る人になりたい!」「できないことが、できるようになってうれしかった」「空を飛べるようなプログラミングをやってみたい!」などたくさんの声があった。後日行ったアンケートでは、80パーセント以上の子どもが、「理科」や「ものをつくること」が好きになったと答えた。

図表:「MESH™」ワークショップ受講後の「理科」「ものづくり」に対する感想

MESHワークショップの感想を示す円グラフ。「とても好きになった」と回答した子どもが50パーセント。「少し好きになった」と回答した子どもが30パーセント。「参加する前と変わらない」と回答した子どもが14パーセント。「好きにならなかった」と回答した子どもが3パーセント。無回答の子どもが3パーセント。
アンケートで「とても好きになった」と答えた子どもが過半数。ソニー「感動体験プログラム」資料より引用

「私たちが『感動体験プログラム』と名付けた背景でもあるのですが、ソニーの存在意義とは『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』こと。今後もより多くの子どもたちに、感動の体験を届けられたらと考えています」

新型コロナウイルス感染症で教育の機会を奪われないために

ソニーが行っている新型コロナウイルス感染症に対する社会的貢献は、マスクの寄贈だけではない。子どもたちへの「MESH™」の無償貸し出しに加え、2020年4月2日には、「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」(別ウィンドウで開く)を立ち上げた。主に医療、教育、クリエイティブ・コミュニティの領域における支援を中心に、総額1億ドル(約108億円)を充てることを発表している。

「最前線で新型コロナウイルス感染症と戦う医療関係者や、外出自粛や休校などの影響を受けている子どもたちなどのために、ソニーとして何かできないかという思いで基金が設立されました。さまざまなパートナーとも連携しながら幅広い支援を実施し、今影響を受けているたくさんの方々が感動を分かち合う世界を取り戻すことに少しでも貢献できればと考えています」

日本財団がインド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツと日本の若者(17〜19歳)各1,000人を対象に、2019年9月下旬から10月上旬にかけて行った18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別ウィンドウで開く)では、他の国に比べて日本の若者が、国の未来に希望を持てていないという結果が出た。

図表:自分の国の将来について

自分の国の将来についてどう思うかを示す横棒グラフ。中国は良くなる96.2%、悪くなる0.1%、変わらない1.1%、どうなるか分からない2.6%。インドは良くなる76.5%、悪くなる7.3%、変わらない5.6%、どうなるか分からない10.6%。ベトナムは良くなる69.6%、悪くなる9.3%、変わらない2.5%、どうなるか分からない18.6%。インドネシアは良くなる56.4%、悪くなる11.7%、変わらない4.5%、どうなるか分からない27.4%。アメリカは良くなる30.2%、悪くなる29.6%、変わらない11.3%、どうなるか分からない28.9%。イギリスは良くなる25.3%、悪くなる43.4%、変わらない11.6%、どうなるか分からない19.7%。韓国は良くなる22%、悪くなる26.7%、変わらない19.7%、どうなるか分からない31.6%。ドイツは良くなる21.1%、悪くなる35.5%、変わらない14.9%、どうなるか分からない28.5%。日本は良くなる9.6%、悪くなる37.9%、変わらない20.5%、どうなるか分からない32%。

ソニーの取り組みが、新型コロナウイルス感染症による未曾有の国難を支えるだけでなく、日本の子どもたちに希望を与え、未来を明るく照らしてくれることを期待せずにはいられない。