渋谷区と日本財団が考える「子育て論」。今必要なのは、地域全体で子どもの成長を支える仕組み

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左から日本財団・笹川順平常務、渋谷区の長谷部健区長

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 「渋谷区こどもテーブル」は地域ぐるみで子どもを育てる取り組み
  • 複雑化する子どもの問題は、家庭だけでなく周りの大人たちみんなで支える必要がある
  • 購入代金の一部が寄付される日本財団チャリティー自販機で、持続可能な子どもたちのサポートを目指す

文化やファッションなど、最先端のトレンドを世界に向けて発信し続ける、東京・渋谷区。今この街では、昔ながらのコミュニティーや人々のつながりに立ち戻って、地域ぐるみで子育てをするプロジェクトが行われている。

その名も「渋谷区こどもテーブル」(以下、こどもテーブル)。2016年11月に本格的に始動したこのプロジェクトは「子どもの居場所は、学校や家庭だけではない。地域の力で、もっと子育てを豊かにしていこう」というコンセプトのもと、食事や学習支援、アイデアを凝らしたワークショップなどさまざまなプログラムを、子どもたちに向けて提供している

この取り組みを、2017年に締結した「渋谷区×日本財団 ソーシャルイノベーションに関する包括連携協定」に基づき、日本財団が3年間支援することに。資金だけでなく、子どもサポートプロジェクトで培ったノウハウなどを提供することで、「こどもテーブル」が継続的に運営できるようサポートする。

写真:料理づくりに夢中の子どもたち
「こどもテーブル」では、こども食堂、遊びの活動、学習支援などがさまざまな団体によって開催されている

今回は、渋谷区の顔とも言える長谷部健(はせべ・けん)区長と日本財団の笹川順平(ささかわ・じゅんぺい)常務理事が「これからの子育て」をテーマに対談を行った。そこから見えてきた、現代の子どもたちが抱える課題や解決策とは。

画一的なやり方では子どもにかかわる問題は解決できない

長谷部区長:子どもたちを巡る問題は、年々複雑化しています。家が貧しく満足に食事がとれない子どももいれば、裕福でも家庭や学校に居場所がない子どももいる。核家族化や情報テクノロジーの進化が進み、問題が個人のレベルにまで落ちてきているのです。

特に渋谷区は多様で、街ごとの雰囲気も違えば、そこに住んでいる人たちの特色もかなりバラバラ。ですので、何か政策を打つにしても、その地域らしさが反映されたものでなくてはならないのです。

笹川常務:確かに社会構造自体が変わってきていますよね。子どもにかかわる問題は、家庭だけで解決しようとしない、という考え方も大切だと思います。地域やボランティアといった周りの大人たちで支えて、子どもたちに愛情や夢、自信などを与える必要があるでしょうね。

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2019年1月に新設された渋谷区新庁舎で語り合う、日本財団の笹川常務(左)と渋谷区の長谷部区長(右)

長谷部区長:僕は渋谷区の出身なのですが、親たちが当番制で子どもの面倒を見る、「原宿おひさまの会」という代々木公園で行われる青空保育に参加していたんです。他人の親に褒められ、時には叱られ、たくさんの地域の大人に支えてもらいながら育ちました。

笹川常務:それ、とてもいいですね!

長谷部区長:自分の親の言うことは聞きにくいけど、近所のおばちゃんやおじちゃんの言う事なら素直に聞けたりするものですよね(笑)。そういった自身の経験も「こどもテーブル」の構想につながりました。

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大人になって今でも青空保育でお世話になった人たちとつながりがあると言う長谷部区長

「テーブル」からコミュニケーションが生まれる

笹川常務:先日、笹塚の「こどもテーブル」に訪問させていただいたのですが、本当に刺激的で学びが多かったです。場所からして面白い。高架下の細い路地を通っていくとプレハブみたいな場所があって、最初は「ここか!」とびっくりしたのですが、中に入るととても明るくて、みんなが笑顔で素敵なパワーに満ちていたんです。大きなお金をかけずとも、こういう面白い空間を作れるんだなって感心しました。

長谷部区長:渋谷は土地が限られているので、そういった土地活用は地域の方も身についているんです。

笹川常務:高架下なので、うるさくしても近所から文句が出ないところもいいですね。

長谷部区長:たくさん子どもたちが来ていましたか?

笹川常務:100人くらいいました。それだけ場所が足りてないってことなのかな……あ!もうひとつ人が集まる理由が分かったんです。僕はカレーが大好きなんですが、そこで食べたカレーがこれまで食べた中で一番おいしかったんです。後で聞いたら、カレー屋さんを営んでいた方がボランティアで作られているのだとか。

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訪問した「こどもテーブル」の感想を語る笹川常務。現在渋谷区に設置されている「こどもテーブル」は60カ所ほど。今後、100カ所を目標に設置していく

長谷部区長:自分が持っている特技や長所を、誰かのために役立てられるのも地域ならではの取り組みですよね。他にもおじいちゃんが将棋を教えたり、おばあちゃんが編み物を教えてくれたり。渋谷にはいろんな人がいるから面白いんです。

笹川常務:笹塚の「こどもテーブル」には、子どもの支援に関心がある大学生の女の子たちもボランティアとして参加していたのですが、彼女たちにとっても、良い経験の場になりますよね。笹塚のような取り組みが増えると、確実に地域のコミュニティーも広がっていくのだと実感しました。

長谷部区長:笹塚の場合は100人規模の大きな「こどもテーブル」なんですが、3、4人といった小さな規模のものもあります。大人数が苦手な子どもでも参加しやすいようにしているんですね。

企画もたくさん面白いものがあります。先日、原宿の「こどもテーブル」に参加してきました。原宿は昔「穏田(おんでん)」という地名で、忍者たちが暮らしていたといわれているんです。その「こどもテーブル」ではプロの忍者を招き、1日かけて忍者について学ぶというワークショップを開き、多くの子どもたちが参加しました。忍者人気のすごさを実感しましたね。

笹川常務:原宿の歴史を知ってほしい企画者の意図と、忍者について学びたい子どもたちの思いが、良い具合にマッチしたんですね!

長谷部区長:大人も子どももみんなで一つの「テーブル」を囲んで、ご飯を食べたり、何かに取り組んだりすることから、会話やコミュニティーが生まれてくるのだと考えています。

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「景丘の家」で開催されている、囲炉裏を囲んだこども食堂の様子

東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて

笹川常務:東京2020大会では、渋谷区でもさまざまな競技が行われますが、子どもたちにこんな機会を提供したい、といった思いがあれば教えてください。

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東京2020大会について語る長谷部区長。渋谷区では、卓球、ハンドボール、パラ卓球、パラバドミントン、車いすラグビーの5つの競技が行われる予定

長谷部区長:できるだけ子どもたちには本番を見てほしいですね。そういった機会づくりにも取り組んでいますが、チケットに限りがあるのも事実。全員が会場で観ることはできなくても、競技についてもっと触れてほしいという思いから、3年前から 「THE SHIBUYA SERIES(ザ・渋谷シリーズ)オリンピック・パラリンピック競技リアル観戦事業」 という取り組みを始めました。渋谷区で開催される競技を知ってもらうため、子どもたちにその競技のボランティアや応援に参加してもらうようにしています。

これは子どもたちにも、選手側にも良い影響がありました。子どもたちは、これまで会ったことがないプロ選手と触れ合うことができ、選手側としても名前を呼んで応援してもらうことにより、一層闘志が湧き、競技の認知度も上がります。この取り組みは、 東京2020大会後も続けていきたいですね。

笹川常務:僕にも子どもがいるのですが、「この子たちにとって何が大切なのか」をよく考えるんです。それで、思い至ったのが「幅の広さ」です。いろんな経験をし、知らない世界を知っていくことで、子どもたちは成長していくのだと思います。

元サッカー日本代表監督の岡田武史(おかだ・たけし)さんが主催する無人島キャンプなども素晴らしいですよね。日本財団が全国で推進する「第三の居場所」に通う子どもたちに、この前参加してもらいました。子どもたちがチームを組んで無人島へ行き、自分たちだけの力で生活を送るキャンプなのですが、最初は不安な顔をしていた子どもも、最後は自信に満ちあふれた顔で戻ってくる。新しいことに挑戦することで、自分の新たな可能性にも気づけるのですね。

長谷部区長:それは素晴らしいですね!渋谷には、海とか大きな川もありませんが、街に教えてもらえることも多いんです。僕自身、子どもの頃に夕暮れ時の明治神宮のこんもりと茂った森を見て、闇の怖さを知りました。

笹川常務:いつか渋谷と、地方の子どもたちをつなぐプロジェクトをしてみるのも面白そうですね。

長谷部区長:それはいいアイデアですね、ぜひ考えましょう!

持続可能な子どもたちのサポートを続けるために

笹川常務:子どもへの投資は未来への投資ともいえます。日本財団では、そんな子どもたちへのサポートを続けていくために、ボートレースの収益金や皆さまからの寄付金を活用させていただいています。ドリンクを購入すると1本につき10円が寄付される「日本財団チャリティー自販機」のプロジェクトもその1つ。現在全国に約7,400台設置されており、1年間で2億6,000万円の寄付金が集まっています。

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誰もが気軽に協力できる仕組みづくりが大切と語る笹川常務

長谷部区長:チャリティー自販機は良いアイデアですよね!渋谷区でも導入して、継続的に子どもたちをサポートしていくつもりです。

笹川常務:渋谷区と日本財団が一緒になって仕組みづくりをし、その成功モデルを全国に広めていければと考えています。

長谷部区長:渋谷区の掲げるスローガンは「ちがいをちからに変える街」。いろいろな人々が暮らし、さまざまな価値観の変化を見続けてきた渋谷だからこそ、この新しい取り組みを積極的に進めていけたらと思っています。

笹川常務:これからの時代は、貧富の差や、学歴の差よりも、一人ひとりの生き様や、いろんな人を理解しようとする姿勢が大切になってくるのだと考えています。そういった社会づくりに少しでも貢献していきたいですね。今日は、ありがとうございました!

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「景丘の家」に設置された日本財団チャリティー自販機。渋谷区に設置された自販機の寄付金を活用し、「こどもテーブル」の活動を永続的にサポートする仕組みをつくる

撮影:佐藤潮

〈プロフィール〉

長谷部健(はせべ・けん)

1972年3月、渋谷区神宮前に生まれる。博報堂を退職後、ゴミ問題に関するNPO法人green birdを設立し、原宿・表参道から全国90カ所(海外含む)でゴミのポイ捨て根絶に関するプロモーション活動を実施。2003年に渋谷区議会議員に初当選。以降、3期連続当選。2015年渋谷区長に当選し、現在に至る。

笹川順平(ささかわ・じゅんぺい)

1975年2月28日、東京生まれ。慶応義塾大学卒業後、三菱商事株式会社に入社し、ODAの仕事に従事する。2005年にハーバード大学院を修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。2017年7月、日本財団の常務理事に就任。2児の父。

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