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介護した嫁も立派な…。時代を映す「ゆいごん川柳」に込められた受賞者が「いま」伝えたい思い

写真:台所で仲良く料理をする嫁姑
「ゆいごん川柳」に垣間見える家族の形、社会の変化
この記事のPOINT!
  • 60歳以上の男女で遺言書の作成に関心があるのは約2割とわずか。作成した人は全体の3.4パーセントにとどまる
  • 「ゆいごん川柳」は、遺言の大切さや必要性を広めるために始まった取り組み
  • 遺言を通じて「ありがとうの気持ち」を五・七・五にまとめることで、「今」自分が一番伝えたい家族や周囲への思いに気付く

取材:日本財団ジャーナル編集部

愛する家族やお世話になった人への最後のメッセージである遺言(ゆいごん)。日本財団では、遺言の大切さを知ってもらうきっかけにしたいと1月5日を「遺言の日」と定めている。

この「遺言の日」に合わせて毎年実施しているのが、ゆいごん大賞「ゆいごん川柳」(別ウィンドウで開く)だ。

2021年で第5回目を迎えた「ゆいごん川柳」のテーマは「ありがとうの気持ち」。2020年10月2日から11月4日までの応募期間に集まった8,809作品の中から、最優秀賞と入賞作品が選ばれた。

見事受賞した4作品の紹介と共に、川柳に込められた思いについて、受賞者の声をお届けする。

遺言書の作成に関心が低い60・70代

今では耳なじみのある言葉となった「終活」。

「自身の人生の終わりに向けた活動」という意味で、遺言書の作成や身の回りの整理、財産相続などを行うことを指す。「死」と向き合うことで、最後まで自分らしい人生を送るための準備とも言える。

中でも、遺言書の作成は大きな役割を持つ。家族や大切な人たちに向けて、自分が何を考え、何を思い、大切な人にどうあってほしいのかを伝えるための手段であり、残された家族が揉めないように財産の配分について記すためのものでもある。

日本財団では、2020年11月27日~11月28日にかけて60歳~79歳までの男女2,000人を対象に、遺言書の準備状況や遺贈(※)に関する調査(別ウィンドウで開く)を実施した。

  • 遺した財産を遺言書によって相続人以外の者に渡すこと

調査では、58.2パーセントが終活に興味があると回答したものの、すでに公正証書や自筆証書遺言書を作成している人はわずか3.4パーセント、近いうちに作成しようと思っている人は13.9パーセントにとどまった。

その一方、すでに遺言書を作成している人が遺言書を書いてよかったと思うこととして最も多かったのは「気持ちの整理になった」で、44.8パーセントを占めた。

図表:財産の相続に関する遺言書の作成状況

財産の相続に関する遺言書の作成状況を示す横棒グラフ。遺言書は作成しておらず、今後も作成しない42.7パーセント、まだ遺言書は作成しておらず、しばらく作成するつもりはない35.4%、まだ遺言書は作成していないが、エンディングノートは作成した4.7%、まだ遺言書は作成していないが、近いうちに作成しようと思っている13.9%、既に自筆証書遺言書を作成している2.1%、既に公正証書遺言書を作成している1.3%
遺言書の作成に興味がある人は約2割と、まだまだ関心が低い

五・七・五の言葉に、大切なものが見えてくる

川柳とは、江戸時代中期に生まれた「五・七・五」の音数律を持つ定形詩で、俳諧連歌(はいかいれんが※)から派生した近代文芸の一つ。同じ「五・七・五」の俳句とは異なり、季語などの約束がなく、駄じゃれや人情を感じさせる自由さを持つ。

  • 連歌の一体で、洒落(しゃれ)や奇知、または俗語を用いたユーモアの効いた連歌のこと

ここからは、これまでの大賞受賞作品、その講評について見ていこう。

第1回大賞作品

『ゆいごんは 最後に書ける ラブレター』

さごじょうさん(30代)

〈講評〉遺言を恋文と同格にするのは思案のしどころだが、本当は、遺言は自分が死んだあと言い残す文章とか言葉で財産の分配を揉めないよう書き残すことである。この作品の中七「最後に書ける」が本人しかかけないことを強調している点が目立っている。

第2回大賞作品

『こう書けと 妻に下書き 渡される』

あーさままさん(59歳)

〈講評〉遺言の下書きを妻から渡される夫には、もう夫の威厳も父の威厳も何もありません。丸裸で無防備なお父さんにくすっと笑ってしまう一句ですが、そこに見えてくるものは…。遺言の下書きを渡す妻の夫への絶大なる信頼と、そうかそうかとその通りに書く夫の妻への真っ直ぐな愛情です。このゆるぎない信頼と愛こそが本当の遺言ではないでしょうか。

第3回大賞作品

『あわてずに ゆっくり来いと 妻に宛』

茶唄鼓/ちゃかどんさん(65歳)

〈講評〉自分の死期を予測し遺言を書いたのでしょう。黄泉(よみ)から妻に呼びかけているような作品です。ゆっくりだから僕が亡くなっても「長生きしてほしい」との思いやりが感じられる。このような遺言は珍しいです。お金や財産、資産についての遺言が多い中で、妻だけに送る人間愛が感じられる作品です。ひと味違った遺言だと思います。

第4回大賞作品

『かあさんを 頼むと父の 強い文字』

もみじさん(58歳)

〈講評〉夫婦でもいずれはどちらかが先に逝きます。父さんが遺言に「くれぐれも母さんを頼む」と家族に念を押して頼んでいます。下五の「強い文字」という表現は愛していた妻への思いを如実に表しています。

各年でテーマは違うが、どれも長い年月を共に過ごしたパートナーへのメッセージであるところに、夫婦の絆の強さを感じさせられる。ユーモアにあふれながらほろりとさせられ、深い愛情がひしひしと伝わってくる。

時勢を映し出す「ゆいごん川柳」

それでは、第5回の大賞作品と入賞作品と共に、新たに設けられた日本財団遺贈寄付サポートセンター賞も紹介する。思わず納得させられる講評にも注目していただきたい。

写真
左から大賞作品、入賞3作品、遺贈寄付サポートセンター賞1作品

第5回大賞作品

『介護した 嫁も立派な 相続人』

風信子さん(60歳)

〈講評〉民法で相続人は配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹となっています。したがって息子と結婚した女性(嫁)は介護に尽くしても相続人ではありませんでした。民法改正により、2019年7月1日以後、特別寄与料の制度が設けられ、相続人以外の親族で被相続人に対して特別な寄与をした者はその貢献が考慮され、相続人に対して特別寄与料を請求できるようになりました。長年の介護の苦労が法的にも報われますね。

第5回入賞作品

『コロナ禍で 遺言までも オンライン』

岳司さん(76歳)

〈講評〉遺言とオンライン。秘密にする遺言の内容をオンラインで公開するのはいかがなものかと思われますが、コロナ禍で親族が集まるのが無理な場合はやむを得ない方法かもしれません。

『書いとけと コロナ背を押す 遺言書』

しんちゃんさん(75歳)

〈講評〉今回のコロナ禍で誰がいつどこで感染するか分かりません。残された家族のために遺言書を書いておくのも安心のため、家族もそれを望んでいるでしょう。

『遺言は 争族予防 ワクチンだ』

あっちゃんさん(70歳)

〈講評〉家族が争うのを予防するために遺言を書くことはとても大事だと訴えている句。遺言をワクチンと比喩が効いています。

第5回遺贈寄付サポートセンター賞作品 

『寄付をした 父の遺影に キスをする』

さごじょうさん(38歳)

〈講評〉財産分与について揉めるよりもとあっさりと世のために寄付をした父。そんなお父さんのような人が増えています。子どもたちも立派な父だったと誇らしく、思わず遺影にキスをしました。

法改正も影響しているのか、今回初めて、パートナー以外に向けた作品が大賞に選ばれた。しかも息子さんの配偶者に当てられたものだという点も、心を温かくさせられる。

また、新型コロナウイルスによる社会の影響が作品に現れている点も非常に興味深い。「死」を身近に感じさせ、終活もオンライン化を意識するなど、まさに川柳は時代を映す鏡とも言える。

続いて、受賞者のうち4名の方に作品に込めた思いや受賞後の変化について話を聞いたので、紹介したい。

「人や時代を映す川柳の魅力にはまり、時折の受賞を励みにいろいろな公募にチャレンジしています。ゆいごん川柳も、第1回からの参加です」と話すのは、見事大賞を受賞した風信子さん。

「介護をしてくれた嫁に遺言で報いるという川柳は以前にもあります。今回あえてこのテーマを選んだのは、違った視点も織り込みたかったからです。遺言は、全ての相続人へのメッセージ。法定相続人ではない嫁を相続人にすることを他の相続人も快く受け入れてもらい、みんなでお嫁さんに感謝できたら、という想いを『立派な』という言葉に込め、説得力を持たせようとしました」

まさに残された家族の関係をつむぐ、遺言の意味合いを感じさせられる言葉だ。

「大賞という素敵な賞をいただき、大変驚きました。この川柳が私の友人をはじめ『介護の嫁』として日々奮闘されている方々へのエールとなり、さらに遺言や相続を検討するきっかけになればうれしいです」

実際の遺言書についてはこれから作成する予定だと言う、風信子さん。息子さんの配偶者以外にも、ヘルパーさんなどたくさんの人たちに支えられてきたので、そういった福祉の世界で奮闘する方たちへの遺贈寄付も検討したいと話す。

写真:杖をつく高齢者の手を取る介護士の手
遺贈寄付は、遺言によって自分の遺産を寄付する人生最後の社会貢献とも言える

新型コロナ禍で巣ごもり状態の中で「ゆいごん川柳」の募集を知り、気晴らしに以前に詠んでいた川柳を再開したという入賞者の岳司さん。

「遺言書は家族へのラブレター。相続などについては、文章でしっかり残しておくべきですが、できれば直接伝えたい思いなどもあります。コロナ禍で難しいのなら、オンラインで伝えるのも一つの手段なのではないかと思いました」

岳司さんは遺言書をすでに作成済みとのこと。エンディングノートも毎年見直しているという。

入賞者のしんちゃんさんも、新型コロナ禍が遺言書を書き始めるきっかけになったと話す。

「今まで遺言の記事や話題には関心があったのですが、本気になって書いてみようという気には、なかなかなれませんでした。ですが、コロナ禍で突然亡くなった方の記事などを目にし、自分の年齢や持病が有ることを考えると他人事とは思えなくなりました」

「死」を意識し、遺言書が身近な問題になったという。

「『書いとけと コロナ背を押す 遺言書』という自分の川柳どおり、書き始めてはみたものの、あれもこれもとなってしまいますね。時々見直して、完成させていきたいです」

新型コロナウイルスに感染しないように十分に気を付けつつ、再び孫や子どもたちに会える日を楽しみにしていると語ってくれた。

遺贈寄付サポートセンター賞を受賞したさごじょうさんは、15年以上の公募歴を誇り、サラリーマン川柳などでも入賞するほどの経歴を持つ。第1回「ゆいごん川柳」の大賞受賞者でもある。

「『寄付をした 父の遺影に キスをする』という川柳は、トラブルになりがちな相続について、『いっそのこと寄付をしてしまえば争いは無くなるのでは』と思い、作りました。僕はまだ、現役世代ですが、遺言は大切だと思っています。忙しい日もありますが、川柳は死ぬまで続けていきたいですね」

家族や周囲で支えてくれる人への感謝の気持ち、家族に自分のメッセージを伝える手段、いざというときのための遺言の重要性、相続の在り方、生涯を通して続けていきたいこと…。新型コロナ禍の中、「ゆいごん川柳」を通して、各々の大切なものが見えてきたようにも思える。

家族、そして自分のためでもある遺言書。書こうと思っているけど一歩が踏み出せないという人は、無料相談(別ウィンドウで開く)などもあるので検討してみてはいかがだろうか。そして、その思いの丈を言葉に乗せて、次回の「ゆいごん川柳」にチャレンジしていただきたい。

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