あわてずにゆっくり来いと…。「ゆいごん川柳」受賞者が打ち明ける妻への思い

取材:日本財団ジャーナル編集部

この記事のPOINT!

  • 遺言作成に対し7割の人が無関心。作成した人はわずか5%しかいない
  • 「ゆいごん川柳」は遺言の大切さや必要性を広めるための活動の一環
  • 遺言を川柳にすることで、自分が伝えたい相手や残したい思いに気付く

「遺言」に関する正しい理解と、人生の最期について大切な人と話し合うきっかけをつくろうと、日本財団は1月5日を「遺言の日」と定めている。これに伴い行っているのが「ゆいごん川柳」の募集だ。

第3回目となる今回も、家族への愛情が伝わるものから、思わずクスッと笑ってしまうものまで、バラエティーに富んだ作品が日本全国から届いた。応募総数1万724作品の中から見事受賞した4作品の紹介と共に、川柳に込められた思いについて、受賞者の声をお届けする。

作成者はわずか5%。後悔しないよう書いておきたい遺言

遺言(ゆいごん)は、家族や大切な人たちに向けて自分の意思を残すために書くもの。自分が何を考え、何を思い、大切な人にどうあってほしいのかを伝えるための手段だ。また、残された家族が揉めないように財産や形見分けの配分について記すためのものでもある。

そんな重要な役割を果たす遺言だが、2017年に日本財団が60歳以上の男女を対象に行った「遺贈に関する意識調査」では、遺言書の作成について無関心な人が7割、 作成済みの人はわずか5%で20人に1人しか作成していないことが分かった。

図表:遺言書の準備状況

遺言書の準備状況を示す円グラフ。作成済み4.9%、作成検討中4.1%、関心あり18.3%、合計27.3%が遺言書の準備に前向き。無関心72.6%。
遺言書の作成に前向きな人は3割近くいたが、実際に作成した人は5%に満たない

そこで、遺言の大切さや必要性を広く社会に向けて周知することを目的にスタートしたのが「ゆいごん川柳」だ。老後の不安や進まない終活、家族へのメッセージなど、ユーモアあふれる作品を日本全国から公募し、表彰している。

川柳にすることで浮き彫りになる、遺言で残したい自分の思い

第3回の受賞作品に触れる前に、これまでの大賞作品を講評と併せて紹介しよう。

第1回大賞作品

『ゆいごんは 最後に書ける ラブレター』

さごじょうさん(30代)

〈講評〉遺言を恋文と同格にするのは思案のしどころだが、本当は遺言は自分が死んだあと言い残す文章とか言葉で財産の分配を揉めないよう書き残すことである。この作品の中七「最後に書ける」が本人しかかけないことを強調している点が目立っている。

第2回大賞作品

『こう書けと 妻に下書き 渡される』

あーさままさん(59歳)

〈講評〉遺言の下書きを妻から渡される夫には、もう夫の威厳も父の威厳も何もありません。丸裸で無防備なお父さんにくすっと笑ってしまう一句ですが、そこに見えてくるものは…。遺言の下書きを渡す妻の夫への絶大なる信頼と、そうかそうかとその通りに書く夫の妻への真っ直ぐな愛情です。このゆるぎない信頼と愛こそが本当の遺言ではないでしょうか。

第1回は応募総数5,868作品の中から、第2回は1万4,597作品の中から選ばれたもので、いずれも妻への愛情が伝わってくる心温まる作品だ。

「ゆいごん川柳」で芽生えた遺言作成に対する興味関心

それでは、いよいよ第3回の大賞作品と入賞作品を紹介しよう。

写真:大賞1作品と入賞3作品
右から大賞作品、入賞3作品

第3回大賞作品

『あわてずに ゆっくり来いと 妻に宛』

茶唄鼓/ちゃかどんさん(65歳)

〈講評〉自分の死期を予測し遺言を書いたのでしょう。黄泉(よみ)から妻に呼びかけているような作品です。ゆっくりだから僕が亡くなっても「長生きしてほしい」との思いやりが感じられる。このような遺言は珍しいです。お金や財産、資産についての遺言が多い中で、妻だけに送る人間愛が感じられる作品です。ひと味違った遺言だと思います。

第3回入賞作品

『下書きを 妻に見つかり 書き直す』

本間奏さん(56歳)

〈講評〉遺言は誰もいないところで書くもの。どんな理由かわかりませんが、妻にその下書きが見つかった。慌てて書き直したところを見ると、文の中身はさぞかし妻にとって満足なものではなかったのでしょう。

第3回入賞作品

『遺言の 父の癖字が 愛おしい』

イナバウアーの白兎さん(67歳)

〈講評〉遺言を見て、父さんの癖字だとありありとわかる文字でした。思わず愛おしさが溢れてきたのでしょう。左肩上がりや丸字などその人の癖は直らないそう。これは確かに本人の書いたものだとの証しにもなります。

第3回入賞作品

『遺言を 書いた私が 生き残り』

伊藤進さん(78歳)

〈講評〉遺言は先に逝(い)く人が残る人に書き残すものです。その遺言を書いた人が生き残った。逆の状態となったケース。このような状態はあまりないと思いますが、こんな例もあるということかもしれません。

今回、受賞者にインタビューすることができた。作品にどのような思いが込められているのか、まずは大賞を受賞した茶唄鼓/ちゃかどんさん(以下ちゃかどんさん)の声からお届けしよう。

写真:短冊2枚と筆1本と硯
遺言を川柳にすることで、自分や家族に対する本音に気付く

「文章を書くことが好きで毎日ブログを書いているんです」と言うちゃかどんさん。川柳は10年来の趣味で、「ゆいごん川柳」はネットを通じて見つけたそう。大賞を受賞したことをブログに掲載したところ、たくさんのコメントが集まり嬉しかったという。家族や友人もとても喜んでくれたそうだ。

受賞作『あわてずに ゆっくり来いと 妻に宛』については「大方講評でいただいた通りです。妻が年下なので、彼女には健康に長生きしてほしいなという思いを込めて書きました。とはいえ、僕もあと半世紀は生きるつもりですけどね」と笑いながら話す。

遺言は作成しているのか尋ねると「実はまだ書いていないんです。遺言といえば財産や資産の分配をするためのものというイメージが強くて、あまり関心がありませんでした。だけど今回の受賞を通して考えが変わったので、遺言について少しずつ調べてみようと思っています」とのこと。ゆったり生活を送りつつ、遺言にも前向きに取り組んでいくと語った。

続いて、入賞者の中から本間泰さんに話を伺った。

小学生から高校生まで、幅広い年齢の子どもたちが通う学習塾を運営している本間さん。手が空いた時間に、新聞や「公募ガイド」を通して川柳や俳句を応募しているそう。

受賞作『下書きを 妻に見つかり 書き直す』については「なぜだかピンと来て、思うままに書きました」とのこと。実際の体験ではないようだ。まだ遺言を書いていないという本間さんだが、毎年大みそかになると、いざというときのため、残しておきたい“思い”を日記に書きつけていると言う。

「家族に残してあげられるものはありません。でもいざという時に周りが困らないよう、伝えておくべきことを毎年日記に書いているんです」

これから大学生になるお子さんと、社会人として独立したばかりのお子さんを持つ本間さん。近いうちに夫婦だけの生活になるそうだが、目標は「生涯現役」とのこと。

「子どもたちが通ってくれる限り、学習塾は続けるつもりです。それから趣味の川柳や俳句も、一生楽しめたらいいなと考えています」

入賞者の中からもう1人の方の声をお届けしよう。伊藤進さんだ。

かつて新聞記者だった伊藤さんは文章を書くことが好きで、頭の体操を兼ねて今も物書きをしている。今回は、購読している「公募ガイド」を通して「ゆいごん川柳」に応募したそうだ。受賞作品『遺言を 書いた私が 生き残り』には「いつまでも若々しく生きていきたい」という思いを込めたそうだ。

「講評にあるとおり、遺言は大切な人に向けて書くものですよね。今回の作品はそこを逆手にとって、“遺言を書いておきながらも、誰かに開いてもらうこともないくらい元気に生きていたい”という願いを表現しています」

遺言はまだ書いていないそう。「でも興味は昔からあるので、近々書いてみようかなと考えているところです」とのこと。これからも大好きな文章を書きつつ、余生を楽しみたいと話してくれた。

人生はいつ、何が起こるから分からないもの。万が一のことが起きてしまってからでは、残された人に思いや願いを伝えることはできなくなってしまう。人生に後悔を残さないためにも、遺言の準備を始めてみてはいかがだろう。

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