日本財団ジャーナル

【10代の性と妊娠】お金がなくても子どもを産み育て教育を受けさせられる、フランスの子育て支援(連載第5回)

写真:路上で若者に声をかける路上エデュケーターたち
フランスの路上エデュケーターは地域に密接に関わり、若者を中心に家族全員を継続的に支援する
この記事のPOINT!
  • 日本の福祉サービスは本人による告知・申請が必要な場合が多く、制度に親しみが薄い当事者に届かないことがある
  • フランスでは、時間軸で見ても空間軸で見ても子育て支援が何重にも用意されており、専門職に見守られ子どもが育つ
  • 子どもの権利を尊重し、子どもだけでなく親も支える仕組みが、国や社会を豊かにする

取材:日本財団ジャーナル編集部

いま日本では、「予期せぬ妊娠」による10代女性からの相談が増えている。2021年1月にも栃木県小山市で、女子高生が商業施設のトイレで男児を出産後殺害するといった悲しい事件が起きた。

連載「10代の性と妊娠」では、妊娠相談窓口を行う支援団体や関係者への取材を通して、予期せぬ妊娠の背景にある問題、それを解決するためのヒントを探る。

今回は、フランスで長年児童福祉の取材に携わるライターの安發明子(あわ・あきこ)さん(別ウィンドウで開く)に取材。先進国の中でも高い出生率を誇るフランスの優れた子育て支援策について話を伺った。

福祉現場からの声がより良い福祉をつくる

「フランスでは、ある家庭に問題があると感じたら、地域のソーシャルワーカーがその家族を旅行に誘って、一緒に時間を過ごす中で話を聞くこともあるんです」

安發さんが話してくれた、フランスの児童福祉の一例に衝撃を受けた。

どことなく行政のイメージがある「福祉」という言葉と娯楽である「旅行」が組み合わさるところに驚きを覚えると共に、支援を必要とする家庭に対し学校や地域のソーシャルワーカーが迅速に連携して対応する仕組みが用意されていることに、感心させられた。

そして、何より福祉が血が通った温かいものとして感じられた。

安發さんは日本の大学を卒業した後は生活保護のソーシャルワーカーとして働いていた。

「フランスと日本の福祉の大きな違いは、日本は政府主導で公務員が福祉を実施してきたのに対し、フランスではソーシャルワーカーたちがそれぞれ自分の追求したいテーマを持っていて、問題の分析から、現実に即した支援の提案まで担い、ボトムアップで法律改正までつなげていく点だと思います」

写真
フランスの児童福祉に詳しい安發さん

フランスでは、福祉を担う専門職たちが自らの使命として支援を必要としている人がいないか目を配り情報をキャッチし、相手に合った方法で働きかけ福祉につなげ支援できる関係性を築く。

日本では、福祉制度は用意されているものの、福祉サービスを利用するには本人による申告・申請が必要な場合が多く、“支援を必要としている”当事者にとって利用しづらい。そして当事者が抱える問題が福祉制度に反映されるのに時間がかかる傾向にあると、安發さんは言う。

フランスと日本の児童保護に関する仕組みの違いを示す図。[日本]政府(シンクタンク・研究者など)→県、政令指定都市、福祉事務所、児童相談所→県の施設、民間施設(実施主体)で指示が下され実施されるTOP DOWN型。[フランス]県の施設、民間団体(実施主体)→国、県、家族手当金庫(財源。各々で決められる)へ問題意識の共有を促す。新しい取り組みの提案。また民間団体(実施主体)→福祉事務所、児童相談所(コーディネート)へ取り組みのPR。専門性に合った受け入れの可否の決定権あり。国、県、家族手当金庫、福祉事務所、児童相談所→児童保護に関する国・県立研究所→政府(厚生労働省、文部科学省)へ要望が上がり、また研究者が国、県の研究費で調査→政府へ調査結果を報告し、実施されるBOTTOM UP型。
フランスと日本の児童保護に関する仕組みの違い

いざという時に頼れる窓口がたくさんある

「フランスでは、子どもの福祉を守る役割を専門職に託し、学校や地域に多く配置しています。学校では、学科を担当する教師ではなく児童福祉の専門職が子どもや家族とやりとりをします。生活全般に目を配る教育相談員、中学生から家庭の経済力に応じた奨学金や学校に行くためのコートや靴を買う費用の手続きをするソーシャルワーカーをはじめ、揉め事や恋愛相談を担当する仲裁専門家や、宿題をみる担当、心理士といった多くの専門職が子どもたちを見守ります。学校の外では、学校や家で話しづらい悩みについて相談できる路上エデュケーターや、SNSで相談できるネットエデュケーター、安全に家出できるシェルター、婦人科検診や避妊法や中絶が無料で利用できる家族計画センター、生活費や就職活動費も受け取れる若者向け就労支援機関など、親の許可を必要とせず子ども自身が選び利用できるたくさんの窓口があるのです」

パリ郊外セーヌ・サン・ドニ県の中学校における大人たちの役割と専門家の配置を示す図。中学生を複数の大人たちや専門家が時には連携しながら支援する。[教員]学科担当。週15〜18時間の教科のみ。クラブ、チューター、補習授業は別契約。[教育相談員2人]欠席、遅刻、生活全般を担当。生徒と保護者に直接会う。[教育アシスタント]休み時間と放課後担当。チューターの役割を担うことが多い。[監視員]休み時間と放課後の担当。宿題も教える。[路上エデュケーター]学校関係者に話しにくい相談、地域や家庭の問題について相談できる。[仲裁専門家]揉め事や恋愛相談を専門とする。[ソーシャルワーカー]学外の機関とのやりとり、家庭の経済的状況に応じた支援を担当。[校長]法律の確認、校内立ち入り禁止、退学の会議を開く。[心理士][看護師]もいる。また[警察・裁判所]は、学校には法律の確認をしに来る。けんかや被害を受けた生徒がいると校長は連絡義務がある。未成年の被害者がいる場合は被害届けがなくても出動する。
パリ郊外セーヌ・サン・ドニ県の中学校における大人たちの役割と専門家の配置
地域における若者を取り巻く福祉資源を示す図。若者を複数の福祉機関が時には連携しながら支援する。[学校]ソーシャルワーカー、教育相談員、心理士。[地域の家]パソコン利用、習い事、学習塾、イベント、週末のお出かけ企画、旅行。[若者情報センター]エデュケーター、心理士(アルバイト、ボランティア情報、免許講習)。[ティーンエイジャーの家]心理相談、体重や対人関係などテーマ別の会。[シェルター]72時間保護、その間に家族間調整。[若者就労支援]ソーシャルワーカー、心理士(現金給付、就労支援、研修)。[ネットエデュケーター]SNS上で相談を受ける。[家族計画センター]婦人科医、心理士、パートナー間アドバイザー(無料診察、相談、避妊具提供、性教育など。[地区ソーシャルワーカー]家族全員をフォロー。[路上エデュケーター]継続的に地域の若者をフォロー。また[児童相談所・在宅教育支援][各種電話相談]もあり。[その他]各種地域の団体。各種特化した団体(ネット、ゲーム、暴力被害・加害等)、[警察]予防・安全・家族保護斑もいる。
地域における若者を取り巻く福祉資源。若者自身が選び、相談できる支援窓口(公的財源により運営)が充実している(パリ市、セーヌ・サン・ドニ県)

SNS上で悩みを相談できるネットエデュケーターは性の悩みを打ち明けられる機会が多くあるという。家族計画センターでは避妊具・避妊薬が無料で受け取れ、検診を受けたり、中絶も無料で受けられたりする。

中学生は性教育を受けることになっているが、それを行うのは家族計画センターの資格を持った職員だ。

性教育は「愛と性のある人生についての教育」という名前で行われており、学校から10人単位でセンターを訪問し、そこで十分議論できる機会になっている。それは、いつか自分が情報に触れたりリスクのある場面に直面したりするときに、一度議論してあれば自分で立ち止まり考え、相談をすることができると考えられているからである。

そのようにして、ゆくゆく若者たちが家族計画センターを訪れる機会を暴力被害経験のチェックとケアにも活用している。それは、虐待や暴力の被害に遭ったことのある女性は自尊心が低くなっている分、望まない性にも応じてしまいやすいからだそうだ。

また、赤ちゃんをとっさに殺してしまった女性たちへの研究から、幼少期の辛い経験が癒されていないケースが多いことが分かっており、「親になる準備」として家族計画センターで心のケアができるようにしている。

日本で予期せぬ妊娠に苦しむ女性には「家や学校どこにも居場所がなく、誰にも相談できず、気が付いたら産むしか選択肢がなかった」というケースも多い。相談できる場所がいくつもあり、気にかけてくれる大人に出会えることは、予期せぬ妊娠から若者を守るための糸口になるのではないか。

写真:ベンチに座る若者に笑顔で声をかける路上エデュケーターたち
いつでも相談できるよう若者たちと継続した関係を築く路上エデュケーター

子どもを守れば守るほど、将来困難を抱える大人を減らせる

フランスではお金を理由に出産や養育を諦める女性はいないと、現場の職員は言うそうである。

「フランスでは、妊娠健診や出産が無料です。3カ月半からの保育は収入の1割の負担で受けられ、教育も3歳から無料、大学・大学院の学費は年間3万円です。県から支給される奨学金も返済不要の給付型のため、家庭の経済状況に左右されず教育を受けられるようになっています」

税金の使用用途に占める割合は教育が一番高く、二番目は児童福祉である。また、企業からも税金控除となる寄付金が福祉分野に多く集まっているという。

これも、福祉現場にいるソーシャルワーカーたちの継続的な活動と発信があったからだと安發さんは話す。

「現在につながる福祉活動を始めたのはキリスト教の団体や社会活動家たちで、国は福祉制度をつくる際に、こういった人たちがすでにしていた福祉活動に業務委託するようになりました。今でも福祉の実施主体の3分の2は民間であり、それぞれの取り組みの間で競争原理が働き、より良い福祉の在り方が模索され、人材が育ってきたという背景もあります」

フランスの児童福祉制度においては予防に力を入れ、「多くの大人で子どもを育てる」といった考え方に重きが置かれているという。

「実際、私がフランスで出産する時も、妊娠中の検診の後に同じ診察室でソーシャルワーカーとのカウンセリングの機会が設定されていました。日本からの移民夫婦で他の家族が近くにいない、夫はサービス業で夜間や休日は不在、その場合はこんな制度が利用できますよと、丁寧に教えてくれました。1日1時間家事育児をサポートしてくれる人が定期的に来てくれる健康保険で利用できるサービスなどです。自分たちに孤立リスクがあることなど、カウンセリングを受けるまで気が付きませんでした。たくさん助けられる経験をしたからこそ、専門職というものへの信頼ができ、何かあったら相談しようと思うようになったと思います」

出産後退院時に処方箋が出され1日おきに助産師が様子を見に訪れるようになり、赤ちゃんの体重が一定に達すると助産師、児童保護専門医、心理士などがいる妊産婦幼児保護センターに引き継がれ、3日に1回、週1回、やがて月1回と保育園に入るまで継続的なチェックを受ける。保育園にも3歳から始まる義務教育の学校にも児童保護の専門家が配置されている。

専門家の配置 親と子どもを見守る「ミルフィーユ状の福祉構造」を示す図。1層目〈妊娠中・産後〉[妊産婦幼児保護センター]妊娠検査時、生後8日、9カ月、24カ月検診情報全チェック。ベビーマッサージなどを開催。妊娠中から全ての赤ちゃんをチェックし親へのサポートを行う。属する専門家:児童保護専門医、保育士、助産師、心理士パートナー間アドバイザー。〈3カ月半〜3歳未満〉[保育園、保育アシスタント、ベビーシッター]給料の1割の金額で合うものを選ぶことができる。属する専門家:心理士、看護士、医師。〈3歳〜16歳〉[3歳から義務教育]3歳以降は全員の福祉を常にチェックすることができる。必要であれば他の機関につなげる。属する専門家:看護師、心理士、ソーシャルワーカー、教育相談員。〈17歳〉[ティーンエイジャーの各種支援機関]。2層目[福祉事務所]地区ソーシャルワーカー、心理士が相談に来た人だけでなく家族全員を支援。[児童相談所]学習障害治療費、勉強机代など。3層目[家族手当基金(児童手当)]家事育児の専門家である家族支援テクニシャンの家庭への派遣、養育費の請求と立て替えや離れて住む親や親戚との面会実施、親子クラブ活動、家族旅行代等。4層目[地域]地域の家(無料学習塾、習い事、親のためのクラブ活動、文化コミュニティごとのイベントなど開催)、民間団体の運営する福祉事務所、その他専門特化した機関(例:無料のスーパーマーケット。助産師などが相談に乗る)、他 。「届ける福祉」が張り巡らされている。5層目[「親であることの支援」専門機関]子どもと親の家/全国2,000カ所(3歳未満の子どもを遊ばせながら心理士や精神分析家に気軽に相談できる場所)。親学校(親が相談できる場所。カフェのような空間で心理士とお茶をしながらの相談。ゲームや反抗期のようなテーマで数週連続で同じメンバーで専門家に会い問題解決を目指す会)。親の家(親が習い事をしたり、整体など自分をケアする時間をとる場所。エデュケーターや心理士と話すことができる)。他:学校で困難を抱える子どもとその親の支援を継続的にする機関、家庭内の問題解決をする機関。
フランスの子育てに関する専門家の配置。出典:地域保健2021年3月号より

「子どもを守れば守るほど、将来、行動障害や精神的な医療が必要な大人や、住居や社会保障のお金が必要な大人を減らすことができる。教育やケアを受けた子どもは受けない子どもより、より良い未来をつくることができる」

安發さんが教えてくれたのは、パリ市児童保護部門の職員の言葉。このような考え方がフランスには浸透している。

子どもの権利に対する、日本とフランスの考え方の違い

「日本の特徴として親の子どもに対する権利の強さがあります。フランスでは子どもの権利が尊重されるよう専門職が配置され、必要な場合は司法も利用しています。子どもは親の所有物ではなく、全ての親は子どもの『養親』に過ぎない。親がより良く子どもをサポートできるよう、親をサポートする。みんなで親と子どもを支えようという考えがあるように感じます」

子どもを社会の宝とし、子どもたちの未来を優先して考えるフランス。全てが正解かどうかは国がたどってきた歴史や文化も違うため言い切れないが、結果それが国を豊かにし、多くの人が生きやすい社会につながっているように思える。

予期せぬ妊娠を自己責任とするのではなく、当事者である女性や生まれてくる子どものことを優先して考え、社会全体で支える。予期せぬ妊娠が起きないよう、幼少期から思春期の子どもたち全員をケアする。そのような取り組みが広がれば、悲しい事件は繰り返されずに済むだろう。

日本財団はこれまでも妊娠相談窓口への助成を行ってきたが、2020年7月より妊娠SOS相談窓口推進事業(別ウィンドウで開く)に着手し、相談窓口の新設や体制を強化。予期せぬ妊娠で悩む女性に必要な支援を行うことで、生まれてくる子どもの未来を守ると共に、より良い子育て環境の実現を目指す。

写真・資料提供:安發明子

〈プロフィール〉

安發明子(あわ・あきこ)

大学時代に、日本とスイスの児童自立支援施設、児童養護施設、少年院等を調査し、卒業後、生活保護ワーカーとして働く。その後、大学に戻り、日本とスイスの施設で育つ子どものルポルタージュ『親なき子』出版。2011年渡仏。パリとパリ郊外の児童養護施設、不登校支援校等でフィールドワーク。社会福祉教育分野の通訳・コーディネーターとして活動。「現代ビジネス」などで記事を執筆している。
安發明子 公式サイト(別ウィンドウで開く)

連載【10代の性と妊娠】