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稀世の写真家が映し出す日本の「地域」に高校生たちは何を感じとる?高校生のためのフォト&ビデオコンテスト参加者交流会
- 日本財団では、高校生による高校生のためのフォト&ビデオコンテストを開催中
- 参加者交流会で、写真家エバレットさんが高校生たちに日本の魅力と撮影のこだわりについて語った
- 地元の魅力を知ることは、心の豊かさにつながり、暮らしを楽しくしてくれる
取材:日本財団ジャーナル編集部
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、自由な外出や旅行が制約され、日本全体が活気を失いつつある。こんな時だからこそ、高校生たちにこれまで気付かなかった“地元”の魅力を再発見してもらい、地域を元気にしてほしい。
そんな想いから開催されることになった、日本財団主催の「地元に全集中!高校生フォト&ビデオコンテスト」(別ウィンドウで開く)。ただいま作品募集中で、応募は4月4日(日)が締め切りとなる。
今回は3月21日に行われた、コンテストに参加する高校生たちのオンライン交流会の模様をレポート。京都に在住し日本をテーマに写真を撮り続けている写真家のエバレット・ケネディ・ブラウンさんを迎えた講義を受けて、参加者各々が自分の暮らす地域の魅力を考え、どんな写真を撮って世の中に発信したいのか、アイデアを共有し合った。
大変な時だからこそ、地元の可能性に目を向けて
「地元に全集中!高校生フォト&ビデオコンテスト」は、「高校生地域活性化プロジェクト委員会」(別ウィンドウで開く)を構成する5人の高校生が運営をしている。この交流会は、参加者同士のつながりが生まれ、地元の魅力を再発見できる場になればと彼らが企画したものだ。
交流会は、高校生地域活性化プロジェクト委員会の中から、石河(いしこ)さん、溝畑(みぞはた)さん、金居(かない)さん、森岡(もりおか)さんの4人が参加し、司会進行を務めた。
「コロナ禍で大変な状況が続きますが、この交流会を機に別の地域の人と触れ合い、アメリカ人であるエバレットさんの目に映る日本の魅力、外国人ならではの視点を通して、多くの学びや気付きが得られる場になればと考えています。自分が暮らす地域の魅力を見つけて発信したり、あるいは地域が抱える課題を見つけて取り組んだり、皆さんが地元を元気にするための行動につながる場になることを願っています」
開会の挨拶の中で、コンテストの運営メンバーをサポートしてきた日本財団の福田(ふくだ)さんは、交流会に込めた思いを語った。
アイスブレイク後、写真家で日本文化研究者でもあるエバレットさんの講義が行なわれた。
エバレットさんは、1988年から日本に移住。EPA通信社(※1)の日本支局長として活躍後、幕末時代の写真技法である湿板光画(しっぱんこうが※2)を用いて、全国を旅しながら日本の伝統風俗を撮り続けている。
- ※ 1.ドイツのフランクフルトに本部を置く世界有数の報道写真通信社
- ※ 2.フィルムではなく薬品を塗ったガラス版に画を造影させる写真技法
今回は、2020年11月にクラウドファンディングにより出版された島根県を舞台とした写真集『Roots of Shimane』の制作背景や、日本の魅力、撮影する際に大切にしている点などについて語られた。
日本の地域には魅力的な風景や文化がある
「今回は写真を撮る技術的なことよりも、感性を磨くことの大切さについて話したいと思います」
そう口火を切ったエバレットさんは、『Roots of Shimane』を手に、島根への想い、撮影中に出会ったさまざまな人や風景について聞かせてくれた。
「ぼくは学生の頃、明治時代に小泉八雲(こいずみ・やくも※)が島根の失われた文化についてまとめた作品『日本の面影』を読んで感動し、いつか行ってみたいと思っていました。これは130年も前に書かれた本ですが、不思議なことに島根には、ここに書かれている文化が今もたくさん残っているんですね。地元の人が知らないような場所や、古い文化を受け継いでいる若い人たちにもたくさん出会いました。ぼくは何よりも、島根の人たちに『この地域には、こんな素晴らしい文化があるんだよ』と伝えたいという想いでこの写真集を作りました」
- ※ 怪談」など知られる明治時代の作家で、日本研究家としても有名
写真集に収められているのは、地元の人たちも知る人が少ない遺跡、5歳にして伝統芸能の石見神楽(いわみかぐら)を舞うことができるという少年、3世代続く鍛冶職人…。湿板光画はシャッタースピードが遅いため、被写体が人物の場合だと長ければ数十秒間静止してもらわなければならない。その間に被写体人物の内面が浮き彫りにされるのだという。
神秘的で、どこか懐かしさも感じさせる写真に感動した高校生たちから、エバレットさんへさまざまな質問が寄せられた。
「写真を撮影する上で難しいところや、こだわっているのはどこでしょうか?」という質問に、エバレットさんは「以前、ぼくが報道カメラマンだった頃は、決定的な瞬間をつかむためにネタを追いかけるのが仕事でした。いまはそれとは真逆で、自分の思い込みで「撮る」のではなく、まず目の前にある人や物をどうやって“写す”かをじっくり考えます。被写体が人物であれば、その人の話を聞いてコミュニケーションを深めてから撮影しています」と回答した。
「エバレットさんから見て、日本人はどういう民族でしょうか?」という質問には、「縄文時代からいろんな民族が集まっている日本は、各地域に魅力的な文化がたくさんあると思います。それは海外の人にとっても魅力的に映るので、地域の人がその土地で育まれた文化に注目して、その物語をご自分たちで伝えられるようになるといいなと思います」と答えたエバレットさん。
新聞部に所属する高校生から寄せられた「一目でその時の状況を伝えるために、どのような思いをもって写真を撮ればよいのでしょうか?」という質問に対しては、「デジタルカメラならたくさん撮影ができますから、上や下、縦位置や横位置、寄ったり引いてみたり、いろんな角度から撮って、周りの友達の意見を聞くのもいいと思いますよ。でも最後は、自分はどれが好きかを考えてみて。答えは自分の中にあります」と技術的なアドバイスも送った。
高校生たちの目に映る、多様で豊かな地元の魅力
エバレットさんの講義を受けて、高校生たちはグループに分かれてディスカッションを展開。それぞれが地元で紹介したいものを選び、自分の地域ではどのような写真が撮れるかを考え、発表した。
埼玉県出身の渥美(あつみ)さんが伝えたいのは、岩槻人形。
「ぼくが知ってほしい地域の魅力は、さいたま市の伝統工芸品である、岩槻人形(いわつきにんぎょう)です。さいたま市岩槻区は、ひな人形の生産量日本一の場所なんですが、世間にはあまり知られていない。写真や動画を通して、その魅力を伝えたいです」
和歌山県海南市で暮らす森(もり)さんは、日本の原風景ともいうべき地元の光景を伝えたいと熱を込めて話す。
「ぼくが住んでいる地域は農業が盛んなのですが、農家さんの高齢化が進んで後継者不足が問題になっています。農家さんが廃業すると耕作放棄地が増え、過疎化が進んでしまう。せっかく畑があるのだから、農業をやりたいという人を地元に呼び込むために、この場所の魅力を発信していけたらいいなと思いました。周りには山とみかん畑しかないような場所ですが、ぼくはこの景色が大好きなんです」
香川県高松市の津田(つだ)さんが紹介したいのは、3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭。
「世界的に注目されている芸術祭で、全国からたくさんの人が訪れるのですが、地元では行ったことがあるという人が少ないんです。世界だけでなく、もっと身近な人にも瀬戸内国際芸術祭の魅力が伝えられるような写真を発信したいです」
同じく香川県高松市の平井(ひらい)さんは、社会問題にもなっている瀬戸内海の海洋ごみをテーマに取り上げた。
「瀬戸内海はきれいな海だと言われていますが、その裏側で私たちの生活の中から発生したごみや、漂着ごみが、海の環境に影響を与えています。私も小学6年生の時に学校で習って初めて知ったのですが、コンテストを通してこの問題を、地元の人にも発信できたらいいなと思います」
エバレットさんは一人ひとりの話に耳を傾け、「とても素晴らしいですね!その思いを写真にのせて発信してください」と笑顔で励ました。
社会問題、伝統、美しい景観…。話を聞いているだけで、高校生たちの地元愛がひしひしと伝わってきた。
視点を変えると新しい地元の魅力が見えてくる
閉会の挨拶で、福田さんとともにコンテストをサポートする日本財団の冨樂(とみらく)さんは「エバレットさんや高校生の皆さんの話を聞いて意識が変わった」と話す。
「私は伊勢の出身なのですが、伊勢にも外から評価されているけれど、地元の人が知らない良さがあると感じています。その魅力は地元の人が発信しないと伝わらないということを私自身も再認識していて、今回のフォト&ビデオコンテストがその伝達手段になるのではないかなと思います」
また、実行委員の石河さんは「住んでいると景色に見慣れてしまって、地元のいいところって何だろう?と考える機会ってあまりなかったなと思いました。交流会を通して、地元の魅力や自分の想いを写真に込めて発信していけたらなと思いました。この交流会での経験を、皆さんの今後の活動にも生かしていただけたらうれしいです」と感想を述べた。
同じく実行委員の溝畑さんは、最も心に残ったこととして、「写真の力の大きさを感じた」と話した。
「そこにあるものを撮るのが写真だと思っていたけれど、エバレットさんから、写真も陶芸のように薬品で遊ぶなど、写すものをどう表現するのかが大事というお話を聞いて、写真に対する見方が変わりました。島根県のお話で聞いた『県民気質』という言葉も印象的で、私も改めて地元の特徴や、気質について考えてみたいと思いました」
最後に、エバレットさんが改めて高校生たちにエールを送った。
「日本の社会には都会の暮らしに憧れる傾向がありますが、リモートワークができるようになって、都会に住まなくても仕事ができる時代です。これからは地方での魅力的な暮らし方、古い文化を大切にする『懐かしい未来』のような暮らし方が広まるかもしれません。自分が住んでいる地域を知ることは、心の豊かさにつながります。掘り起こせば起こすほど、個人の生活も楽しくなるでしょう。まずは面白いなと思うものをどんどん撮影してみてください。頑張ってください!」
高校生フォト&ビデオコンテストは、4月4日(日)が作品の応募締め切りとなり、4月18日(日)に予選、5月5日(水)に本選を開催。最優秀賞の1作品には3万円分のクオカード、優秀賞の3作品には1万円分のクオカードが贈られる。
「ぜひ応募して、地元のために使って地域を、そして日本を元気にしてほしいですね」と運営メンバーの溝畑さんは話す。
地元に全集中!高校生フォト&ビデオコンテスト(別ウィンドウで開く)
全国各地で暮らす高校生たちの目には、今、どんな景色が映っているんだろう。コンテストに集まる作品を通して彼らが見る景色を、心待ちにしたい。
求む地元愛!高校生による高校生のためのフォト&ビデオコンテスト開催中。高校生の力で日本をもっと元気に
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。