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熱いプレゼンが繰り広げられた、高校生による高校生のためのフォト&ビデオコンテスト。受賞の決め手は圧倒的地元愛!
- 高校生フォト&ビデオコンテスト「地元に全集中!」は、企画・運営も参加も高校生主体のイベント
- 全国の高校生たちが地域の魅力を切り取った、地元愛あふれる品が集まった
- 写真や動画はコミュニケーションツールの一つ。ファインダーを通して地域の新しい魅力に気付く
取材:日本財団ジャーナル編集部
新型コロナ禍で日本全体が不安を抱え、先が見えづらい今、高校生が地元の魅力を再発見し、地域を、そして日本を元気にしてほしい。
そんな想いのもと、高校生地域活性化プロジェクト委員会(別ウィンドウで開く)と日本財団が一緒に企画した高校生フォト&ビデオコンテスト「地元に全集中!」の本選が、2021年5月5日に開催された。
このコンテストは、2021年3月1日から4月4日までの期間、全国の高校生を対象に、地元の魅力についてSNSを通じて募集。参加者交流会(別ウィンドウで開く)や予選審査を経て、当日は最終選考に残った作品のプレゼンテーションが、入選した高校生自身により行われた。
高校生目線で見る「地域」の魅力
審査員を前に、地元の歴史や名物をはじめ、撮影を通して再発見した地元の魅力、撮影に用いたテクニックについて語る高校生たち。その作品のポイントと、作品に対する審査員の評価をご本人の言葉で紹介したい。
【フォト部門】11作品
『新居浜太鼓祭り』
中矢愛斗(なかや・まなと)さん/愛媛県
中矢さん「私が暮らす愛媛県の『新居浜太鼓祭り』は四国三大祭りの一つとして知られ、毎年秋の風物詩になっています。祭りの日は、54台もの豪華絢爛な太鼓台が町を練り歩きます。撮影にあたって工夫したポイントは、下からのアングルで撮影することで、見る人に迫力を感じてもらえるように努めました」
審査員「素敵な写真ですね!地域の独特の祭りの様子がとても伝わってきます。背負っている人の表情が映っていたらもっと迫力が出たんじゃないかと思います」
『日本のカリフォルニア?』
伊藤颯真(いとう・そうま)さん/神奈川県
伊藤さん「私が暮らす鎌倉の隣にある逗子は自然豊かな地域。古墳など歴史的な建造物もあります。この写真では、海外のようなヤシの木をマジックアワー(一日の中で最もドラマチックに空の色が変化する時間帯)に撮影しました。ポイントは右下に富士山を入れ、この一枚に逗子のたくさんの魅力を一枚に収めたことです」
審査員「神奈川県民の私は、写真を見て『逗子だ!』って気が付きました。写真の真ん中にヨットのマストが入っているところも逗子らしいですね。明日は晴れそうな夕焼けがとてもきれいです」
『ノスタルジックという言葉が似合う場所を見つけた』
永田仁二(ながた・しんじ)さん/愛知県
永田さん「私が住む手筒花火や鬼祭りなどが有名な豊橋市は、日本でも数少ない路面電車が走る街です。多くの車を画角に収め、線路を走る車と電車を対比させることで非日常感を演出。色味も暖かくすることで、どこか懐かしい感じが出せたんじゃないかと。曲がった線路は、困難の先には真っ直ぐな明るい道が開けることを表現しました」
審査員「ノスタルジックというより、まるで海外の風景ですね。豊橋市にこんな非日常的な風景があるんだと、鉄道好きの私としてもプレゼンを聞いていて乗りに行きたくなりました」
『毎日通る道』
ケイティさん/東京都
ケイティさん「この場所は、私が登下校の時に通る道です。私が暮らすお台場は埋立地で、周りが海で囲まれた素敵な場所。きれいな海と白いレインボーブリッジの組み合わせが写真映えする、お気に入りの風景です。左に映る五輪のモニュメントはオリンピックの開催に合わせて設置されたのですが、見るたびに私を元気にしてくれます」
審査員「ここが登下校で毎日通る道だなんて、羨ましくなりました。青い海と空が一面に広がって、ここから新しい1日が始まるのだと思うと、元気が出ますね。私もぜひ足を運んでみたいと思います」
『梅香る旧済生館」
早坂七斗(はやさか・ななと)さん/山形県
早坂さん「山形市にある旧済生館本館は、明治11年(1878年)に設立された病院です。写真には額縁代わりに梅の木を入れて和と洋の調和を演出。ノスタルジックさが出るよう色味を調整しました。私が暮らす山形県の中心部には明治から大正、昭和初期にかけて建てられた建築物がいくつも残っており、どこか懐かしい街並みをつくり出しています」
審査員「梅と旧済生館本館の和洋の対比がとても魅力的ですね。明治からこれまでいろんな物語をたどってきたのだろうなと、とても想像をかき立てられる作品だと思います」
『港をつなぐ船」
津田真帆(つだ・まほ)さん/香川県
津田さん「香川県にある大島の玄関口・大島港を撮影しました。美しい海と緑に囲まれた大島ですが、島内にはハンセン病回復者の療養所があり、かつて国の政策で隔離された暗い歴史があります。手前の白線はハンセン病の後遺症で目が不自由になった方のために作られた盲導線。そんな大島を日本一輝く島にしたいと私は活動しています」
審査員「根深い偏見と差別にさらされてきた悲しい歴史を持つ大島と、それを物語る白線。その一方で、海や自然が美しく今はオープンになった大島を切り取った、深く考えさせられる写真だなと感心させられました」
『今日の夕陽です』
ラッキーさん/和歌山県
ラッキーさん「私の地元である湯浅町は、古来より熊野街道の宿駅として栄え、醤油の発祥地としても知られています。観光スポットといえば古い街並みが残る歴史的建造物群と、端崎(はしざき)。端崎は磯の多い海岸となっており、釣りと夕陽を目的に多くの人が訪れます。和歌山県の朝日・夕陽100選にも選ばれました」
審査員「オレンジ色がパワフルで深みがあり、湯浅町の歴史や産業を象徴するような写真ですね。ちょうど岩礁に夕陽が沈んでいく構図も見事だと思います。明日も頑張ろうという力をもらえる作品ですね」
『景色が綺麗です』
大久保心奈(おおくぼ・ここな)さん/鳥取県
大久保さん「鳥取県大山町にある大山寺という1300年の歴史を持つ由緒あるお寺で、2020年の秋に撮影しました。手前に映る手水鉢(ちょうずばち)は1761年に作られたもので、このお水は飲むこともできます。大山寺はご先祖に会えるお寺としても知られており、私も今は亡き大好きな祖母の香りを感じることができました」
審査員「色とりどりの紅葉が美しいですね。お話の内容と併せて、大久保さんの温かい気持ちが伝わってきます。手水鉢の水に映る景色が幻想的で、とても印象に残る作品ですね」
『鹿と私』
中村亜瑞美(なかむら・あずみ)さん/奈良県
中村さん「この写真は奈良公園で撮影したもので、友達の手に持つカメラに鹿が興味を引かれている瞬間を押さえました。鹿と友達が触れ合う二人だけの優しい空気感を写しとることができたんじゃないかと。今回地元を撮影することで、自然が豊かで由緒ある史跡や文化財も多い、奈良の魅力と向き合うことができました」
審査員「すぐに『奈良』ということが分かる非常に被写体の強い作品ですね。友人が鹿と戯れているのか、それとも追い込まれているのか、いろんな想像が膨らむストーリー性豊かな作品だと思います」
『黄金色に照らす』
荒木愛翔(あらき・まなと)さん/宮崎県
荒木さん「地元・延岡の秋の風物詩『鮎やな』の様子を、朝早く逆光を利用して撮影しました。『鮎やな』は、川の一部をせき止めて鮎を捕る伝統的な漁法です。太陽の強い光で南国・宮崎を象徴すると共に、『鮎やな』に使う木材と藁がしっかり見えるように撮ることで、自分が愛する宮崎の文化を伝えたいと思いました」
審査員「とても地元愛が伝わる内容でした。この『鮎やな』が設置されると、秋が訪れたんだなと感じられるところも素敵ですね。伝統文化をしっかり残していきたいという荒木さんの想いが強く伝わってきました」
『桜の木の幹の横向きの筋みたいなやつ、あれ好き』
山本創真(やまもと・そうま)さん/奈良県
山本さん「奈良県で最大規模を誇る佐保川の桜並木を撮影しました。川路聖謨(かわじ・としあきら)という江戸時代の武士によって植えられ、川路桜とも呼ばれています。ライトアップもされ、朝、昼、夜と違う表情を見せてくれるのも魅力。桜の幹の質感や川に向かって伸びる枝の力強さを伝えたくて、この構図になりました」
審査員「夕暮れ時のきれいで温かな写真ですね。構図もとても面白いと思います。ただ、もう少し地域の様子や雰囲気が分かる要素があると良いなと感じました。来年の桜の季節に、ぜひチャレンジしてみてください」
【動画部門】3作品
『奇跡の風景』
山本直輝(やまもと・なおき)さん/兵庫県
山本さん「全て兵庫県丹波市で撮影したもの。冒頭に流れる雲海はいろんな条件が揃わないと見ることはできません。また、最後の田園で苗が稲に成長する過程は2カ月かけて撮影し、丹羽のさまざまな顔を見ることができます。昔は窮屈に感じていた地元ですが、高校に進学して離れてみるととても恋しく感じています」
審査員「映画やドラマのオープニングを見ているようで『これから何が始まるのだろう?』とワクワクさせられました。1年かけて撮影された作品だということで、とても地元愛を感じる素晴らしい作品だと思います」
『Do you know Iwatsuki doll?』
渥美翔(あつみ・しょう)さん/埼玉県
渥美さん「さいたま市岩槻区は、古くから人形産業が盛んです。動画に英語字幕を入れることで、コロナ収束後、外国人の方が岩槻を訪れ活性化してくれるんじゃないかと期待しています。また撮影には、人形生産を手掛ける企業や博物館など多くの方にご協力いただきました。岩槻の魅力を10年、100年残していきたい、そんな思いで作成しました」
審査員「普段見過ごされがちな地域の伝統に光を当てることはとても重要なことです。渥美さんのような取り組みをもっと日本中に広めたい。多くの若者が地元を盛り上げる参考になる作品だと思います」
『国宝 − 高田本山専修寺』
内藤柊晴(ないとう・しゅうせい)さん/三重県
内藤さん「三重県にある高田本山専修寺は日本を代表する木造建築の寺院で、4年前(2017年)に国宝に選ばれました。この専修寺の目と鼻の先に、私たちの高校はあります。学校には月に1度高田本山を参詣する行事があり、生徒はあまり喜んでいません(笑)。ですが、高田本山のあるこの古い街並みは、多くの人に親しまれていま」
審査員「自分たちが普段過ごす街のエリアからの歴史的建造物への場面転換がとてもいいなと感じました。下から迫るように建築物を写すアングルも面白い。『そうだ、三重行こう!』と思わせてくれる作品でした」
賞作品の発表。決め手は、圧倒的な地元愛
最終選考に残った全ての作品について、高校生たちの地元愛、撮影にかける想いに触れたところで、まずは写真部門の優秀賞、最優秀賞に選ばれた作品を、審査員の受賞理由と共に紹介しよう。
写真部門 優秀賞
『毎日通る道』
ケイティさん
審査員「日常の中にあるひとコマを高校生視点でうまく切り取れていたと思います。手前に砂浜を入れることで、臨場感が出ていました。よく見ると、雲の白さと海の中の石が構図的に似ていて、引き込まれます」
『ノスタルジックという言葉が似合う場所を見つけた』
永田仁二さん
審査員「路面電車という地域の文化的な被写体を横ではなく、縦の画角で撮影する構造が良かったです。手前のカーブもちょっとしたアクセントになっています」
『日本のカリフォルニア?』
伊藤颯真さん
審査員「逗子に行きたくなりました。何よりも構図が素晴らしい。青とオレンジの境界線と、ヤシの木の丈が合っているのもすごいですね。プレゼンも分かりやすくて、とても良かったです」
写真部門 最優秀賞
『梅香る旧済生館』
早坂七斗さん
審査員「まず、説明がとても分かりやすかった。地域の遺産である建物を、梅の花を額縁に逆光で撮った構図にもセンスを感じますね。写真を通して伝えたいことがストレートに伝わる作品です」
最優秀賞を受賞した早坂さんは、審査員の言葉を受けて、「僕自身写真を始めて1年ですが、このような大きな賞をいただけてうれしいです。これからも、山形県の魅力を発信していきたいと思います」と喜びを語った。
続いて動画部門の優秀賞、最優秀賞を紹介する。
動画部門 優秀賞
『国宝 − 高田本山専修寺』
内藤柊晴さん
審査員「チームワークを感じる作品でした、これからも地域の魅力を発信し続けてください!」
『奇跡の風景』
山本直輝さん
審査員「動画の撮影技術や完成度も素晴らしく、最優秀賞でも…と、とても悩みました」
動画部門 最優秀賞
『Do you know Iwatsuki doll?』
渥美翔さん
審査員「動画の技術面において誰にでもトライできそうなこと、地元の人との交流があること、英語の字幕を付けて多くの人に伝わる形に仕上げたことが、大きな評価につながりました」
最優秀賞を獲得した渥美さんは、「言葉では言い表せないほどうれしいです!取材先の社長さんや学芸員さんからは、完成したら作品を見せてください、期待しています!と言われていたので、この後すぐに報告したいと思います」と、満面の笑みを浮かべて語った。
そして、当初予定されていなかったが、新たに審査員特別賞が贈られることになった。
審査員特別賞
『港をつなぐ船』
津田真帆さん
審査員「道路の白線の構造もいいですが、何よりも、ハンセン病差別の問題に取り組む津田さんの思いが込められた、大きな意味がある作品だと感じました」
審査員のコメントを受けた津田さんは「あきらめていたら特別賞をいただき、思わず泣いてしまいました。これからも、大島の歴史を知ってもらう活動を頑張っていきたいと思います」と、笑顔で意気込みを語った。
約4時間にわたって開催された高校生フォト&ビデオコンテスト「地元に全集中!」。審査員を務めた写真家のエバレット・ケネディ・ブラウンさんは「地元の人が地元の魅力をどこまで感じているのかが日本の地域課題。だから、皆さんが新鮮な目で地元の魅力を伝えることに大きな意味があると思います」と感想を述べた。
同じく。審査員を務めたフジテレビジョンの映画制作部プロデューサーの小原一隆さんは「今回、発表されなかった他の作品も全て個性があり素晴らしいものでした」と語る。NPO法人フリー・ザ・チルドレン・ジャパン代表理事の中島早苗さんも、「この場に参加し、さまざまな写真や動画を見ることができて良かったです。写真や動画の持つ力を感じました。高校生主体のイベントって良いですね!」と振り返る。
最後に、審査員を務めた日本財団の吉倉常務理事は次のように語り、イベントを締めくくった。
「魅力あふれる作品ばかりで、それぞれ新しい気付きが得られました。写真や動画はコミュニケーションの一種なのですね。家に帰ったら私もカメラを探して、地域の魅力を探しに行きたいと思います。今回はオンラインの開催となりましたが、コロナが収束したら、また皆さんと現地でお会いできたらと思います」
普段何気なく眺めている風景、歩いている道も、少し目線を変えるだけで全く違って見えてくる。そんな大切なことに気付かされた、高校生たちによる作品とプレゼンテーション。日本の地域にはたくさんの魅力的な場所があると、これから先の楽しみと希望を見出したイベントだった。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。