日本財団ジャーナル

社会のために何ができる?が見つかるメディア

【障害とビジネスの新しい関係】「見えない」体験がつながりを生む。参天製薬が取り組む共生社会の懸け橋づくり

写真:左はブラインドサッカーを体験する視覚障害のある子どもと手をつなぎ指導するスタッフ。右は小学校で行われたブラインドサッカー体験会の様子
Santenでは、社内外に対し視覚障害への理解を促し、支援するためのプログラムを実施している
この記事のPOINT!
  • 参天製薬では、社内外への「Blind Experience(見えない経験)」プログラムを展開し、視覚障害への理解を促進
  • 「見えない」体験を通し自ら工夫を重ねることで、視覚障害への理解が深まる
  • “見える”と“見えない”の壁を溶かし、誰もが活躍できる社会づくりを目指す

取材:日本財団ジャーナル編集部

この連載では、企業における障害者雇用や、障害者に向けた商品・サービス開発に焦点を当て、その優れた取り組みを紹介する。障害の有無を超えて、誰もが参加できるインクルーシブな社会(※)をつくるためには、どのような視点や発想が必要かを、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。

  • 人種、性別、国籍、社会的地位、障害に関係なく、一人一人の存在が尊重される社会

取材を行うのは、日本財団で障害者の社会参加を加速するために結成された、ワーキンググループ(※)の面々。

  • 特定の問題の調査や計画を推進するために集められた集団

今回は前回(外部リンク)に続き、目のスペシャリティ・カンパニーとして製薬の枠を超え、見える人と見えない人のつながりをつくる参天製薬株式会社(外部リンク)(以下Santen)の取り組みを紹介する。

社内外で展開している、視覚障害への理解促進プログラム「Blind Experience(ブラインド・エクスペリエンス)」(外部リンク)について、執行役員の森田貴宏(もりた・たかひろ)さん、企画本部CSR室室長の中野正人(なかの・まさと)さん、同部署所属で、NPO法人スーダン障害者教育支援の会(CAPEDS)代表理事のモハメド・アブディンさんにお話を伺った。

「見えない」体験で、視覚障害への理解を深める

奥平:日本財団ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。Santenさんが掲げるビジョンの一つ、「障害の有無に関わらず交じり合い、いきいきと共生する社会」を実現するために実施しているプログラム「Blind Experience」の詳細について教えてください。

中野さん:「Blind Experience」は、見える人が「見えない」体験をすることで視覚障害者の方々を理解し、その苦労や課題を認識すると同時に、「自分たちには何ができるか」を考える時間をつくることを目的とするプログラムです。もともとは、私たち自身が視覚障害への理解を深めるために、社員を対象に始めました。

写真
「Blind Experience」を体験するSantenの社員の皆さん

奥平:社内に取り入れることで、どのような変化がありましたか。

中野さん:目に関わる事業に携わる当社の社員でも、無意識に視覚障害者に対して「かわいそう」「何かしてあげないと」といったバイアス(偏った視点)を持っていたのですね。実際に、アブディンさんのように視覚障害のある社員と一緒に働くことで、決してかわいそうな人ではない、実は見える人と同じようにいろんなことができるのだと心から理解することで、意識や行動が変わっていきました。そこで、この事例をもとに、「Blind Experience」を広く社会にも提供していけたらと構想を広げていきました。

ブラインドサッカーを通して、コミュニケーションを学ぶ

奥平:社会に向けてとは、具体的にどんなことをされているんですか。

中野さん:日本ブラインドサッカー協会(JBFA)(外部リンク)インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーション(IBF Foundation)(外部リンク)と長期パートナーシップ契約を結び、ブラインドサッカーを支援すると共に、楽しみながら「見えない」体験をする機会を社会に向けて提供しています。主に小学校などの教育現場が中心ですが、要請があれば社会人や企業に向けても展開しています。また、ブラインドサッカーを通じて視覚障害のある子どもたちを支援する活動などにも取り組んでおり、子どもたち自身や、親御さんたちのネットワーク形成にも力を入れています。

写真:ブラインドサッカーを体験する視覚障害のある子どもと、手をつなぎ指導するスタッフ
Santenが支援する、視覚に障害がある子どもたちが、スポーツに触れ、学校以外の場で日常的にスポーツに取り組むきっかけとなる場を提供する「ブラサカキッズキャンプ」(外部リンク)。©JBFA
写真
小学校で行われたブラインドサッカー体験会の様子。社外における「Blind Experience」の一環だ

奥平:視覚障害のある方が参加できるスポーツはいろいろあると思うのですが、なぜブラインドサッカーなのでしょうか。

中野さん:まず、サッカーが世界中で愛されているスポーツであること。ブラインドサッカーは現在、世界約60カ国で親しまれている競技です。また、ブラインドサッカーは見える人と見えない人、双方がいないと成立しないスポーツなのです。4名の視覚障害者プレーヤーに加えて、パスなどの指示を出すガイド(コーラー)やゴールキーパーとして健常者が同じフィールドに立ちます。「Blind Experience」では、見える人がアイマスクをして視覚障害者の方と一緒にプレーしながら、「見えない」体験をしてもらいます。

奥平:そうだったんですね!ブラインドサッカーのゴールキーパーが見える人だということを初めて知りました。

写真
日本財団ワーキンググループの奥平さん

堀内:日本財団ワーキンググループの堀内佳美(ほりうち・よしみ)です。本当に素晴らしい取り組みですね。ただ、少し気になったのですが、突然目が見えなくなる体験を、嫌がったり怖がったりする子はいたりしませんか。

写真
日本財団ワーキンググループの堀内さん

アブディンさん:JBFAさんが主催する小・中学校向けダイバーシティ教育プログラム「スポ育」(外部リンク)という活動をSantenがパートナーとしてサポートしています。視覚を遮断して行う体験型のプログラムなので、アイマスクをしながら体操したり、5歩だけ歩いてみたりと慣れるところから始めています。参加者に「怖くなったらすぐにマスクを外してね」と声を掛けたり、どうしても怖い場合は、アイマスクしている友たちに指示出しをしたりする役割をお願いしています。チームメンバーとコミュニケーションを取りながら行うアクティビティなので、どちらの役割になっても、障害者の立場に立ったコミュニケーションを学べると考えています。

写真
20年来のブラインドサッカー選手でもあるアブディンさん

中野さん:これまで多くの子どもたちに「見えない」体験をしてもらいましたが、怖いと訴えた人はほとんどいませんでした。子どもたちの感想の中には、視覚障害に対する理解が深まり、意識が変わったという声の他に、「目を大切にしようと思った」というものもありました。自然と目の健康啓発にもつながっているのですね。

森田さん:余談ですが、眼科の先生方も学会イベントにおいて「Blind Experience」を体験されたことがあるんです。先生方は「『視覚障害で困っている方々を助けたい』という本質に立ち返ることができた」という感想をお持ちでした。こんな風に、さまざまな方に体験していただくことで、それぞれの立場で理解し、考え、行動につながっていくのではないかと思います。

堀内:子どもたちだけでなく、眼科医の方に理解していただくことはすごく意義がありますね。

写真
「Blind Experience」を体験した眼科医の皆さんからの反響を語るSanten・執行役員の森田さん

健常者と障害者の壁を壊し、誰もが活躍できる社会に

奥平:今後、Santenさんの「Blind Experience」やインクルージョン推進はさらに発展していきますか。

中野さん:はい。これまでは現場で直接触れ合い、体験していただくことが中心でしたが、新型コロナウイルスの影響もあり、大勢で集まることが難しい状況が続いています。今後は、オンライン上でアブディンさんをはじめ視覚障害のある方による講演会や、ブラインドサッカーに加え、さまざまなコンテンツを活用したワークショップなど、新しい形の「Blind Experience」にも取り組んでいきたいと考えています。

アブディンさん:もちろん、直接集まって触れ合い、コミュニケーションを取ることも大切にしていきたいです。やはり「見えない」ことを言葉だけで伝えるには、どうしても限界があります。子どもたちにブラインドサッカーをプレーしてもらいながら、工夫のポイントやヒントをあげると、「さっきよりできるようになった!」という成功体験を提供することできます。こうした経験を経て子どもたちは、見えなくても工夫をしながら生きていくことができるんだ、と、自然に正しく理解する。子どものうちに学ぶことで、大人になったときの行動も変わると思うのです。

奥平:子どもの頃からいろんな人と接していれば、自然にダイバーシティを受け入れるようになりますね。

森田さん:今回のパートナーシップでは、「“見える”と“見えない”の壁を溶かし、社会を誰もが活躍できる舞台にする」という共通のビジョンを掲げています。ブラインドサッカーを出発点に、パートナーシップを広げながら、誰もが同じように活躍できる社会をつくっていきたいと考えています。

イラスト:Santen、日本ブラインドサッカー協会、インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーションが目指すビジョン。“見える”と“見えない”の壁を溶かし、社会を誰もが活躍できる舞台にする。
〈共体験でそれぞれの個性や強みを理解する〉
・ブラサカ ユース リーダーシップキャンプ
・学校教育文脈へのブラサカ導入
・新たなブラインドサッカー体験
・ブラインドサッカー国際親善試合
・視覚障害者と青眼者の交流イベント
・目に携わる医療関係者とのブラサカ連携
〈見えるに関するイノベーションを創出する〉
・イノベーションハブ(プロダクト開発/サービス開発)
・アイケアサロン
・スポーツキャラバンホスピタル
〈視覚障害者のQOLを向上する〉
・視覚障害者の新たな雇用創出
・視覚障害者のアーティスト活動の普及
Santenと日本ブラインドサッカー協会、IBF Foundationがパートナーシップによって目指す未来のビジョン

特集【障害とビジネスの新しい関係】