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【増え続ける海洋ごみ】海ごみを価値ある製品に変える。廃棄漁網由来のかばん作りから見えた問題解決の糸口

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写真左から女優・タレントの鉢嶺杏奈さん、日本財団・笹川会長、小泉進次郎環境大臣、兵庫県鞄工業組合・由利昇三郎理事長
この記事のPOINT!
  • 日本から年間2〜6万トン排出される海洋プラスチックごみのうち、漁網・ロープ等の漁業ごみが容積ベースで約3割を占める
  • 漁師、素材・製造メーカーの協働による、廃棄漁網素材から製造したかばんが誕生
  • 廃棄漁網の資源活用が進むことで、海洋への不法投棄防止や回収を促す効果が期待できる

取材:日本財団ジャーナル編集部

現在、世界中で大きな問題となっている海洋ごみ。

環境省の調査によると、日本の海岸に漂着している海洋プラスチックごみのうち、漁網・ロープといった漁業ごみが約30パーセント(容積)を占める。また、ブイやその他の漁具を含めると50パーセントを超える。

漁具・漁網は海洋ごみの中でも特に自然分解されにくく、600年以上も海の中を漂い続けると言われている。

図表:漂着ごみの種類別割合(容積)※プラスチック類のみ


漂着ごみの種類別割合(容積。※プラスチック類のみ)を示す円グラフ。
漁業ごみ:漁網・ロープ26.2%
事業ごみ:ブイ8.9%
生活ごみ:飲料用ボトル12.7%
生活ごみ:その他プラボトル類6.5%
事業ごみ:発泡スチロールブイ14.9%
漁業ごみ:その他漁具2.6%
生活ごみ:容器類0.5%
生活ごみ:カトラリー0.5%
生活ごみ:ポリ袋0.3%
その他:26.9%
出典元:2016年・環境省による国内10地点での漂着ごみ調査

日本財団は、2020年7月に海洋プラスチックごみ対策を目的に、複数の企業が協働するためのプラットフォーム「ALLIANCE FOR THE BLUE(アライアンス・フォー・ザ・ブルー)」(外部リンク)を結成。石油化学、素材・消費材・包装材メーカー、小売企業、リサイクル企業など、プラスチックバリューチェーンを構成する多岐にわたる業種の企業と共に、海洋ごみによる海への負荷を軽減するための商品開発・共同研究・社会実験に取り組んでいる。

そして2021年7月、廃棄漁網由来の再生原料を用いて開発したかばんの発表会と展示会を開催した。

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廃棄漁網から生まれたリュックやトートバッグ、ショルダーバッグなど

漁業者と5社の連携により生まれた廃棄漁網由来のかばん

「日本財団では、世界中の科学者や研究団体とネットワークを組み、「海と日本PROJECT」(外部リンク)の一環として実施する海洋ごみ対策事業「CHANGE FOR THE BLUE」(外部リンク)を推進するなど、さまざまな視点から海洋ごみ問題の解決に向けて取り組んできました。そして今回、兵庫県鞄工業組合さんのご協力のもと、廃棄漁網からファッショナブルなかばんを製造することができました」

発表会の冒頭で、日本財団の笹川陽平(ささかわ・ようへい)会長が登壇し、挨拶を述べた。

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日本財団の海洋ごみ対策における取り組みを語る日本財団・笹川会長

続いて、今回のプロジェクトから誕生したかばんをすでに愛用している小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)環境大臣が登壇し、国が推し進める海洋ごみ問題への取り組みについて語った。

「環境省も海洋ごみ問題に積極的に取り組んでいます。また、2021年の通常国会で『プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律案』(外部リンク)が成立したことで、今後、プラスチックを取り巻く環境は大きく変わるでしょう。単なるリサイクルではなく、ごみだったものに付加価値をつける『アップサイクル(※)』商品が増えていくことで、皆さんが前向きに環境問題に取り組むきっかけになるよう、日本財団さんのプロジェクトを応援しています」

  • 廃棄物に付加価値をつけて別の製品に生まれ変わらせるリサイクルの形
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愛用する廃棄漁網由来のかばんを手に登壇した小泉環境大臣

今回、かばんの製造を担当したのは日本一のかばんの生産地・兵庫県豊岡市を拠点とする地域ブランド「豊岡鞄」。その活動を束ねる兵庫県鞄工業組合・理事長の由利昇三郎(ゆり・しょうざぶろう)さんは、欧米ではSDGs(※)が当たり前になりつつある中、日本の企業としてどう取り組むかを模索していたと言う。

  • 「Sustainable Development Goals」の略。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標
写真:廃棄漁網由来のかばんを手に登壇する兵庫県鞄工業組合・由利理事長
廃棄漁網由来のかばんへの期待を語る兵庫県鞄工業組合・由利理事長

「今回の取り組みを通して、持続可能な社会に変えていくために、ものづくりを行う企業としての責任を改めて感じています。豊岡では学生かばんも多く作っていますので、この廃棄漁網を再生した生地で作ったスクールバッグを学生さんたちに使ってもらえたら、子どもの頃からSDGsという言葉を身近に感じ、ものを大切にする習慣が身に付くのではないかと期待しています」

廃棄漁網由来の再生原料を用いたかばんの製造を通して、SDGsの12番目の目標である「つくる責任 つかう責任」の重要さを感じ、多企業連携による海洋ごみ対策の取り組みに大きな可能性を見出したと、由利さんは話す。

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展示会場を視察する小泉環境大臣(中央)と笹川会長(左)、製法について説明をする由利さん

廃棄漁網を原料とした再生素材を使って糸や布地、パーツに加工

発表会で行われたトークセッションでは、廃棄漁網を使ったかばんの開発に携わったリファインバース株式会社(外部リンク)常務取締役の加志村竜彦(かしむら・たつひこ)さん、住江織物株式会社(外部リンク)経営企画室グループリーダーの増田大輔(ますだ・だいすけ)さん、モリト株式会社(外部リンク)執行役員・事業戦略本部の森弘義(もり・ひろよし)さんの他、女優・タレントの鉢嶺杏奈(はちみね・あんな)さん、一般社団法人ALLIANCE FOR THE BLUE(外部リンク)代表理事の堀口瑞穂(ほりぐち・みずほ)さん、日本財団の海野光行(うんの・みつゆき)常務理事がパネリストとして参加。

進行役を、ソーシャルデザインをテーマとするウェブマガジン「greenz.jp」(外部リンク)を運営するNPO法人グリーンズの理事・編集長である兼松佳宏(かねまつ・よしひろ)さんが務めた。

開発する上で最もこだわったのが、全ての工程におけるトレーサビリティ(透明性)だと言う。

かばんの素材となっているのは、北海道厚岸町の有限会社山本漁網が収集した使用済み漁網を原料に、リファインバースが製造したナイロン用再生ペレット(※)。それを使って、住江織物が紡糸・織布を、モリトがかばん作りに必要な布やボタン、テープなどを手掛け、兵庫県豊岡市のかばん製造メーカーがさまざまな製品に仕上げている。

  • 工業原料を加工しやすいように数ミリメートル程度の粒子状に再生したもの
豊岡鞄ができるまでを示す図
1.廃漁網の回収。2.分別・洗浄・減容(北海道の漁師・山本漁網が漁師から使用済み漁網を回収、分別、洗浄、減容)
3.裁断・加熱・ペレット化(リファインバースが、回収漁網を原料とした 再生ペレットを製造)
4.紡糸・織布・加工(住江織物がペレットを紡糸・織布。漁網由来の布を制作。モリトが鞄づくりに必要な布・ボタン・テープなどを製作)
5.最終製品に活用(豊岡鞄。廃漁網由来の布から鞄を製造)
1〜5の工程に携わる組織や人をALLIANCE FOR THE BLUEの取り組みでつなぐ
廃棄漁網を使ったかばんが完成するまでの仕組み

日本財団の海野常務理事は、山本漁網の協力なくしてこのかばんは完成しなかったと話す。

「漁師さんたちにとって、使用済み漁網の回収や洗浄は非常に手間がかかる作業です。はじめはなかなか理解を得られなかったのですが、交渉を続ける中で『どうやって子どもたちに豊かな海を引き継ぐことができるか』『海に生かされている漁師としての誇りを子どもたちにどう示すか』と問いかけた時に、皆さんの考え方や姿勢が変わり、積極的に参加してくださるようになりました」

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当日はオンラインで北海道より山本漁網の皆さんも登場
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かばんの素材となる漁網や再生ペレット、糸やボタンも展示

製品化に至るまでの道のりは容易ではなく、長年にわたってプラスチックの再生に取り組んできたリファインバースの加志村さん、住江織物の増田さんは「漁網に付着している、目に見えない不純物を除去するのに苦労した」と口を揃えた。

「横糸にペレットから出来た糸、縦糸に色を付けたポリエステル繊維を使って布地を織るのですが、不純物が残っていると製糸する際に布地が切れてしまうことも。苦労はありましたが、住江織物のラインナップにはない商品が出来たことに感激しています」と増田さん。

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廃棄漁網由来のかばん作りで苦労した点について話すリファインバースの加志村さん
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再生ペレットから出来た糸を手にする住江織物の増田さん

モリトの森さんは「試行錯誤を重ねましたが、ボタンなどのパーツも含め、かばん作りに必要な資材を、廃棄漁網を再生した素材で作ることができたのは大きな実績」とし、自分でもこのかばんを早く買いたいと笑顔を見せた。

日本財団と共にプロジェクトを牽引するALLIANCE FOR THE BLUEの堀口さんは、さまざまな業態・業種の企業をつないでかばんが完成した「いまからがスタートだ」と語る。

「このかばんを消費者の方の手元に届けなければ、持続可能なモデルにはなりません。今後は、こうした協働プロジェクトから生まれた商品に、新たに作成した商標『Product for the Blue(プロダクト・フォー・ザ・ブルー)』のロゴを付けて、消費者の方々に環境配慮型の商品であることを伝えていきたいと思っています」

写真:廃棄漁網由来のかばんに付けられた「Product for the Blue」のロゴデザインが入ったタグ
「Product for the Blue」のロゴデザインは、かばんのタグに採用されている

取り組みの成果や今後の展望について尋ねられると、「通常、ものづくりには数年かかるケースが多い中で、今回は半年という開発スピードで取り組むことができ、原料を供給する側としてもワクワクしました。今後もスピード感を持って製品数を増やすと同時に、私たちは再生ペレットの品質向上に引き続き取り組みます」と加志村さん。

増田さんは「これまでは自社で環境に配慮することと経済合理性の両立を進めてきましたが、大きな枠組みの中でパートナーと協働することで、新たなアップサイクル商品の開発、販売を進めることができるでしょう。今後も積極的に参画したいと思っています」と期待を寄せる。

モリトの森さんは今後の展望として3つのポイントを挙げた。

「まずは再生ペレットを使った製品づくりに今後も力を入れること。2つ目は、日本全域の廃棄漁網を回収して、再生させる仕組みをつくること。3つ目は、今回協働いただいた『豊岡鞄』の拠点である豊岡の海をきれいにすること。清掃活動や啓蒙活動を通じて、これからの環境問題改善に貢献できればと思っています」

一方で、今回のようなスピード感がなければ、海洋ごみ問題が悪化する速度には追いつけないと堀口さんは厳しい表情を見せる。

プロジェクトの抱負を語るモリトの森さん
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プロジェクトの展望を語るALLIANCE FOR THE BLUEの堀口さん

「今後はさらに協働企業を増やして、漁師さんが集めてくださったものを次の資源に変えると同時に、用途の開発や資源の使い先を増やしていきたいですね。ネットや決済技術も進化しているので、アジアやヨーロッパに向けても、クラウドファンディングやEコマースなどを活用して、オンラインで簡単に購入できる仕組みもつくっていきたいと考えています」

女優・タレントの鉢嶺さんは「商品を買う時は、その背景に目を向けることが改めて大切だなと思いました。最近、自分の行動や選択が、子どもの未来に影響を与えるということを日々感じています。私たち大人が、子どもたちの将来のためにできることを判断していくことが求められますよね。家族や子どもを大切に思うように、地球を大切に思うことが、守っていくことにつながるのではないでしょうか」と、消費者の視点で会場に集まった報道陣に向けて呼びかけた。

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女優・タレントとして活躍する鉢嶺さん

企業をつなぎ、連携を強めることで、海洋ごみ問題の解決へ

日本財団の海野常務理事は、ALLIANCE FOR THE BLUEに参加する企業の個々の強みを生かしながら、プロジェクトを加速させていきたいと語る。

海洋ごみ問題解決のための糸口を示すサイクル。小売業→生活者→回復・資源化→製造(素材)→製造(包装)→製造(最終製品)→小売業。業界の垣根を越えて協業し、ニーズ、品質、価格のバランスを取る。
洋ごみ問題の解決には、さまざまな企業の知見や技術を活かした商品、サービス開発が求められる

「いま、人類にとって一番の課題は環境問題です。地球の7割は海ですから、海が抱える問題を解決しなければ地球の環境問題は解決しません。私たちのもとには、多くの企業から『この問題に取り組みたいが何をしていいか分からない』『自分たちの技術を何かに使えないか』という声が届きます。こうした企業の皆さんの思いを結び付けて、形になったものが今回ご紹介した廃棄漁網由来のかばんです。アップサイクルのモデルケースとしてさらに進めていくだけでなく、漁網以外の海洋ごみの再生など、新しい視点でも協働企業の方々と追求していきたいと思っています。消費者の方々には実際に商品を使っていただいて、環境問題に対して考え、アクションを起こすきっかけになればうれしいです」

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多くの人に廃棄漁網由来のかばんを使ってほしいと語る海野常務理事

今回展示した製品は2021年10月1日から豊岡鞄のオフィシャルショップ(外部リンク)および公式オンラインストア(外部リンク)で販売される。環境に良いだけでなく、普段使いするかばんとして軽量かつバリエーション豊か、そしてファッション性に優れているのも魅力だ。

美しい海に思いを寄せながら、ぜひ手に取ってみてほしい。

撮影:十河英三郎

特集【増え続ける海洋ごみ】

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