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【障害とビジネスの新しい関係】セガサミーグループがエンタテインメントで切り開く、多様性に満ちた社会づくり

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後方左から、セガサミーホールディングス広報の夏目さん、同社の執行役員・サステナビリティ推進室室長で特例子会社セガサミービジネスサポートの代表を務める一木さん。前方は日本財団ワーキンググループの奥平さん(真ん中)。セガサミーグループを代表するキャラクター「エイリやん」(左端)、「ソニック」と一緒に
この記事のPOINT!
  • 企業におけるダイバーシティ&インクルージョン推進には社員が共感し、団結して取り組む姿勢が必要
  • リーダーが旗振り役となることで、インクルーシブな組織づくりが加速する
  • 多様性の理解を促し、エンタテインメントを通じて全ての人に感動体験を届ける

取材:日本財団ジャーナル編集部

この連載では、企業における障害者雇用や、障害者に向けた商品・サービス開発に焦点を当て、その優れた取り組みを紹介する。障害の有無を超えて、誰もが参加できるインクルーシブな社会(※)をつくるためには、どのような視点や発想が必要かを、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。

  • 人種、性別、国籍、社会的地位、障害に関係なく、一人ひとりの存在が尊重される社会

取材を行うのは、日本財団で障害者の社会参加を加速するために結成された、ワーキンググループ(※)の面々。今回は、ゲームや遊技機の開発・販売、リゾート開発・運営などを行う総合エンタテインメント企業セガサミーグループ(外部リンク)の取り組みについて紹介する。

  • 特定の問題の調査や計画を推進するために集められた集団

セガサミーグループでは、「感動体験を創造し続ける~社会をもっと元気に、カラフルに。~」というミッションのもと、障害者だけでなく多様な人々が活躍できる社会づくりに力を入れている。

特例子会社(※1)の社員たちによるボランティア活動や、バリアフリーeスポーツ大会の開催、障害者のアート制作活動の支援など、多角的な視点でダイバーシティ&インクルージョン(※2)に取り組んでいる。

  • 1.障害者の雇用促進、雇用の安定を図るために設立された会社
  • 2.人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり

セガサミーホールディングス株式会社の執行役員・サステナビリティ推進室室長で、特例子会社セガサミービジネスサポート株式会社の代表取締役社長を務める一木裕佳(いちき・ゆか)さん、セガサミーホールディングス広報室の夏目義嗣(なつめ・よしつぐ)さん、セガの国民的パズルゲーム「ぷよぷよeスポーツ」ディレクター・中島玄雅(なかじま・はるまさ)さんの3人にお話を伺った。

全ての人の人生に彩りを添える

奥平:日本財団ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。まず、セガサミーさんのグループミッションである「感動体験を創造し続ける~社会をもっと元気に、カラフルに。~」という言葉の意味について教えてください。

夏目さん:代表取締役社長グループCEOの里見治紀(さとみ・はるき)がミッション(存在意義)、ビジョン(ありたい姿)、ゴール(具体的目標)からなる「ミッションピラミッド」を策定しており、ミッションについては社員に次のようなメッセージを共有しています。

「感動がなくても人は生きていけるけれど、感動のない人生はつまらない。感動は一人でもできるけれど、多くの仲間と体験し、共感が生まれたときにその感動は何倍にもなる。私たちセガサミーグループは、共感が溢れる社会を製品やサービスを通じて生み出し、世界中の人々の生活に彩り(カラフル)を添えていくことが使命である」

画像:セガサミーグループミッション
Value(価値観・DNA):創造は生命(いのち)×積極進取
Mission(存在意義):感動体験を創造し続ける〜社会をもっと元気に、カラフルに。〜
Vision(ありたい姿):Be a Game Changer
Goal(目的):Beyond the Status Quo〜現状を打破し、サステナブルな企業へ〜
2024年3月期:経常利益450億円、ROE10%増

Competency(革新者おん行動特性)
S.S.FIVE(SEGA SAMMY 5つの力)
セガサミーグループが掲げるミッションピラミッド

カラフルという言葉には「多様性」という意味も込められています。

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セガサミーグループを束ねる里見社長の思いについて語る夏目さん

一木さん:私たちの願いは、年齢や国籍や性別、障害の有無にかかわらず、いろんな背景を持つ全ての方々に、セガサミーグループの製品やサービスを通じて幸せになってもらうこと。より多くの方に感動体験を届けるためには、グループ全体におけるダイバーシティ&インクルージョンの推進が必須だと考えています。

奥平:素晴らしいメッセージですね。

一木さん:企業のトップがダイバーシティ&インクルージョンの推進に熱い思いを持ち、社内外へ発信することが社員のウェルビーイングにつながると同時に、企業の発展にもつながっていると考えます。当社の社長でグループCEOの里見はLGBTQ(※1)の理解促進のために自らレインボーパレード(※2)に家族全員で参加したり、育児支援のために企業内保育園を設けたりと、早い段階からダイバーシティ&インクルージョンに積極的に取り組んできました。

  • 1.レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれた時に自身の性別に違和感がある)、クエスチョニング(自身の性別、好きになる相手の性別が分からない)の英語の頭文字を取った性的少数者の総称
  • 2.性的少数者が差別や偏見にさらされることなく、前向きに生活できる社会の実現を目的に行われる活動の一つ
写真:セガサミーグループがダイバーシティ&インクルージョンに取り組む思いについて話す一木さん
自ら立てた目標に「善は急げ」の姿勢で取り組む一木さん

奥平:社長自らが積極的に取り組まれているんですね。セガサミーさんは日本財団がグローバル・インパクト・パートナーとして連携する障害者の社会参加を推進する世界的な運動「The Valuable 500(ザ・バリュアブル・ファイブハンドレッド)」にも署名されていますが、その理由を教えていただけますか。

一木さん:全てのステークホルダーの方々に、ダイバーシティ&インクルージョンにおける私たちの姿勢を伝えることが大切だと思いました。また、(加盟している)他の企業の方も親会社のCEOが署名されているということですので、皆さまとつながりを持つことで、グループ全体の取り組みがさらに前進するのではという期待もあります。社員のご家族の方にも、こんな企業で働いているんだと誇りに思ってもらえたらうれしいですね。

社員だけでなくその家族にも多様性の理解を促進

奥平:では、一木さんが代表を務める特例子会社セガサミービジネスサポートさんの取り組みについて教えてください。

一木さん:セガサミービジネスサポートは、宮崎県からスタートした会社です。宮崎事業所は「フェニックス・シーガイア・リゾート」のランドリー工場を運営していまして、ホテル客室のリネン類やルームウェアなどのクリーニング業務を行っています。宮崎事業所はリゾートのバリューチェーンにしっかりと組み込まれ、リゾートの価値を高める上で欠かせない存在ですし、サービスの品質が高いと評価をいただき、今では地元の企業からもお仕事をいただけるようになりました。東京事業所は、私がセガサミーホールディングスに入社した2020年7月に立ち上げました。

写真:笑顔で質問する奥平さん
日本財団ワーキンググループの奥平さん

奥平:東京事業所ではどういった障害のある方が、どのような仕事をされているのでしょうか。

一木さん:精神障害と知的障害のある社員が働いています。データ入力など事務作業を中心とするオフィスアシスタントチームと会議室などの除菌・清掃を行うオフィスクリーニングチームがあり、それぞれの職場で全員が活躍しています。

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パソコン入力作業を行うアシスタントチームのメンバー
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除菌作業を行うオフィスクリーニングチームのメンバー

一木さん:ただ、私たちは障害のある方を雇用するだけで十分だとは考えていません。セガサミーグループのミッションを達成するには、グループ会社に属する社員の一人ひとりがダイバーシティ&インクルージョンに対する理解を深め、共生社会の実現に向けて力を併せていくことが重要です。そのためにグループ社員を対象にしたさまざまな研修やセミナーを実施しているのですが、2021年の秋には強化施策として、この本社ビルをベースにしたリアルとオンラインのハイブリッド形式で2週間にわたって「セガサミー・サステナブルウィークス」を開催することにしました。

サステナブルウィークスはグループ社員向けのポータルサイトを通じて積極的に情報を発信し、障害者理解推進の他、LGBTQ理解推進、アンコンシャスバイアス、環境、人権、コンプライアンス、サプライチェーンなどなど幅広い分野にわたるサステナビリティに関するセミナーやイベントを展開します。障害者理解推進の領域では体験型ワークショップの他、障害者アートの展覧会やパラコンサートといったイベント、そして、ご家族に障害者のいらっしゃる社員に向けて、国や地域が行っている公的支援制度などさまざまなお役立ち情報について紹介するセミナーも開催予定でして、ご家族と一緒に都合の良い時間に録画視聴もできるよう準備しています。

エンタテインメントを通じて全ての人の心を豊かに

奥平:大変興味深い催しですね。セガサミーグループさん内だけで開催するのは、惜し過ぎます。私もぜひ参加してみたいです。ところで、社会に向けてのインクルーシブな取り組みとしては、どのような活動をされているのですか。

夏目さん:一例ではありますが、老若男女・運動の得意不得意にかかわらず誰もが楽しむことができ、健康寿命を延ばせるスポーツとしてダーツを普及する「スポーツダーツプロジェクト」を2019年よりスタートしました。小学校や老人福祉施設などでのダーツイベントの実施や、障害者就労支援施設と連携しダーツ教室を開くなどの活動も行っています。

写真:指導スタッフがダーツをする様子を教室で見守るたくさんの子どもたち
小学校で行われたダーツイベントの様子

夏目さん:また、さまざまな芸術文化の向上、発展に対する支援活動を行う「セガサミー文化芸術財団」では、2020年12月に「ダンスのアクセシビリティ(※)を考えるラボ ~視覚障害者と味わうダンス観賞編~」プロジェクトを立ち上げ、視覚障害者視点での新たなダンス表現の開拓や、作品の可能性を探っています。

  • 「アクセスのしやすさ」「利用しやすさ」などの意味があり、高齢者や障害の有無に関係なく、さまざまな人が利用しやすい状態やその度合いのこと

奥平:グループ企業を挙げて、いろいろと取り組まれているのですね。そういえば、「ぷよぷよeスポーツ※」という人気のパズルゲームが、色覚多様性のある方に対応されたと耳にしました。

  • 2018年にセガよりリリースされた国民的アクションパズルゲーム

中島さん:はい。「ぷよ」と呼ばれるキャラクターを同じ色の4つ以上揃えて消していく「ぷよぷよ」にとって、色はとても重要な要素です。色覚多様性(※)への対応については以前よりお客さまからさまざまなご要望をいただき、「ぷよ」の形状を選べるようにしたり、色味の違う「イロガエ」という「ぷよ」の種類を用意していましたが、ゲーム機器の性能の問題で本格的な対応ができずにいました。ですが、ようやく時代が追いついて本格的な仕様対応が可能となり、2020年8月にアップデートといった形で「色覚調整機能」をゲーム内に実装することができました。

  • 眼の特性の1つで、色の判断や区別がつきにくい色があることを言う。日本人男性では20人に1人、女性では500人に1人の割合で色覚多様性があると言われている
画像:「ぷよぷよeスポーツ」のプレイ画面
色覚多様性に対応した「ぷよぷよeスポーツ」

奥平:どうやって色の対応をされているのですか。

中島さん:今回対応した色覚多様性対応ですが、赤が感じづらい1型2色覚、緑が感じづらい2型2色覚、青が感じづらい3型2色覚の3タイプの色覚に対応させていただきました。まず最初に各タイプに対応したフィルターを用意し、フィルター機能をONにすることで、各タイプに対応した(「1型2色覚」「2型2色覚」「3型2色覚」)フィルターを画面上に設定し、判別しにくい色味を判別しやすくなるように対応しました。

さらに、フィルタリング機能だけでは十分ではないと考え、フィルターの鮮明度を追加で調整する「色ちょうせい」という機能も用意し、フィルターの鮮明度を10段階から微調整していただき、個人に合わせより見やすい色味を探してもらえるように対応させていただきました。また調査の結果、「ぷよ」設置時に消えるぷよぷよが点滅するという演出があるのですが、この点滅によって見えていた「ぷよ」が見えにくくなるということも分かったため、「ぷよ」の設置時の点滅効果もカットしました。

画像:おぷしょん
左側が色ちょうせいメニュー
フィルター:画面は「ON」の状態
色ちょうせい:画面は「1型2色覚」の状態
色のつよさ:画面は「10」の状態
コマンド:L1+R1+L2+R2
せっていボタン
右側には、ぷよの種類とゲーム画面のカラーが表示(コメントで「ぷよの色や画面の色を、ちょうせいするよ!コマンド入力で色変えをすぐに反映します」と表示)
もどるボタンと決定ボタン
「おぷしょん」の「色ちょうせい」機能では、色覚の特性に応じてゲームの発色を調整できる

中島さん:最終調整では、商品やサービスを実際に色覚多様性者の方に直接見ていただき、問題ないかどうかの確認と、何かしら問題点があった場合の改善のご提案をいただきたく、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)様にご監修、ご協力いただきました。そこに行きつくまでにも、我々「3色覚者」でも色覚多様性者の見え方が分かる特殊なメガネやモニターなどを使って、「見える?」「見えない?」など試行錯誤を繰り返し、万全の準備をしたつもりでしたが、実際に見ていただくことで調整が足りない部分や、我々が気にもしていなかった箇所をご指摘いただき再調整するなど、非常に助かりました。本当に苦労しました。

奥平:なるほど。あまりゲームをしたことがないので、色覚多様性がゲームに影響を及ぼすことを初めて知りました。ユーザーさんからはどのような反響がありましたか。

中島さん:当事者の方からSNSなどを通じて感謝の言葉をいただいたり、実際にプレーを楽しめるようになったという、うれしいご報告もいただいています。

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「ぷよぷよeスポーツ」のディレクターを務める中島さん

奥平:中島さんの今後の展望はありますか。

中島さん:色覚多様性には、今回対応した3タイプだけでなく、白と黒でしか見えない1色型色覚など、今回フォローしきれなかった型をお持ちの方もいらっしゃいます。私としては現状の対応だけで満足せず、一人でも多くの方にプレーしていただくために、改善を重ねながらさまざまな仕様対応に挑戦していきたいですね。

奥平: eスポーツはトレンドなので、今後きっと役に立ちますね。

中島さん:そうですね。いずれ色覚多様性者の方から「ぷよぷよeスポーツ」のプロが誕生したら、私たちとしても開発した甲斐がありますね。

一木さん:エンタテインメントは、誰かと一緒に喜びを分かち合えたり、ゲームの中では違う人にもなれたり、全ての人の心を豊かにできる素敵なもの。私たちの取り組みの根底にはダイバーシティがあり、社員の一人ひとりに浸透していくことで新たなアイデアが生まれ、会社にとっても社会にとってもプラスに作用していくと考えています。

奥平:エンタテインメントやゲームにはいろんな可能性があるんですね。私は手に障害があり指を使った作業が苦手なので、次はぜひ、色だけでなく音声対応もお願いしたいです!

撮影:十河英三郎

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