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【障害とビジネスの新しい関係】自発的に仕事も学びも。セガサミーグループが考える障害者と共に成長する組織の在り方
- 障害者雇用の現場は単純作業や軽作業が多く、スキルアップやキャリア形成につながりづらい
- セガサミーグループの特例子会社では、障害のある社員の先を見据えた能力開発プログラムを実施
- 一人ひとりの能力を伸ばし働き続けられる環境づくりが、企業全体の成長につながる
取材:日本財団ジャーナル編集部
この連載では、企業における障害者雇用や、障害者に向けた商品・サービス開発に焦点を当て、その優れた取り組みを紹介する。障害の有無を超えて、誰もが参加できるインクルーシブな社会(※)をつくるためには、どのような視点や発想が必要かを、読者の皆さんと一緒に考えていきたい。
- ※ 人種、性別、国籍、社会的地位、障害に関係なく、一人ひとりの存在が尊重される社会
取材を行うのは、日本財団で障害者の社会参加を加速するために結成された、ワーキンググループ(※1)の面々。前回(外部リンク)に続き、「感動体験を創造し続ける~社会をもっと元気に、カラフルに。~」をミッションに掲げ、ダイバーシティ&インクルージョン(※2)を推進するセガサミーグループの取り組みを紹介する。
- ※ 1. 特定の問題の調査や計画を推進するために集められた集団
- ※ 2.人種や性別、年齢、障害の有無といった多様性を互いに尊重し、認め合い、誰もが活躍できる社会づくり
特例子会社(※)のセガサミービジネスサポート株式会社では、障害のある社員の特性に合わせた能力開発に力を入れている。2020年に代表取締役社長に就任した一木裕佳(いちき・ゆか)さんの舵取りによるものだ。その根底にある思いとは何か。
- ※ 障害者の雇用促進、雇用の安定を図るために設立された会社
先を見据えた能力開発プログラム
奥平:日本財団ワーキンググループの奥平真砂子(おくひら・まさこ)です。セガサミービジネスサポートさんではユニークな能力開発プログラムを実施されているそうですね。
一木さん:現在、東京事業所ではオフィスクリーニングチームとオフィスアシスタントチームに分かれて仕事をしているのですが、チームごとに方針を立てて、オフィスクリーニングチームは1日の業務時間の内30分間を社員の能力開発に充てています。
一木さん:オフィスクリーニングチームには100マス計算や、大人の塗り絵、パソコンのブラインドタッチ、時事問題をテーマにした作文など、日替わりで多種多様なプログラムを実施しています。社会適応力の向上と、自立を支援する目的で行っているもので、仕事に対する理解力や集中力、細かい作業などのトレーニングになり、一人ひとりの得意を見つけクリーニング業務以外のキャリア開発につなげていくためでもあります。月に一度の社員研修も、この能力開発の時間を使用しています。
一木さん:また昼休みの1時間は、セガが開発したパズルゲーム「ぷよぷよeスポーツ」を自由にプレーできるというルールにしています。「ぷよぷよ」は画面上から落下する、同じ色の「ぷよ」(キャラクター)を揃えて消していくパズルゲームですが、動体視力や瞬間判断力、指先の運動能力などのトレーニングにもつながります。
能力開発にグループ会社の製品を取り入れているのは、社員にセガサミーグループの一員であるという帰属意識を高めることと、グループ社員であることを誇りに感じてほしいという思いもあるんです。
奥平:それはとても良いアイデアだと思います。ところで、赤い紙粘土を丸めていた社員の方がいらっしゃったのですが、何をされていたのですか。
一木さん:全国のアンパンマンミュージアムの中にあるパン屋さんを、グループ会社であるセガトイズが運営しています。あの粘土は、そのパン屋さんで売られているアンパンマンの形をしたパンの鼻とほっぺをイメージしていて、均等に生地をちぎって丸めるトレーニングをしています。同じ大きさのきれいな小さい球体を作るって本当に難しいんですよ。まだセガトイズと何の交渉も約束もないのですが、もし彼らにそれがうまくできたら、その先の未来にパン作りのお仕事に就く夢を描くこともでき、可能性は未知数ですが、業務領域の創出につながるといいなと思って取り入れています。
奥平:社員の方の先のことを見据えて取り組まれているところが素晴らしいですね。皆さんの様子も本当に楽しそう。
一木さん:ご家族の方から「明るくなった」「家で仕事の話をするようになった」という声もいただきます。7月には、楽天の特例子会社である「楽天ソシオビジネス」さんと、電通の特例子会社である「電通そらり」さんとの3社合同で「ぷよぷよeスポーツ大会」を開催しました。各社社内予選を行い3名ずつ代表選手を選出しオンラインで対戦したのですが、楽天さんの司会が抜群に上手で面白くて、障害のある社員も指導員も一緒になって、大盛り上がりしました。
奥平:特例子会社同士でつながりがあるんですね。
一木さん:今回のぷよぷよ3社対抗戦も、コロナで長い間、社員が不安でつらい思いをし、多くの我慢をし、楽しい時間を持ててないから、何かみんなが笑顔になれることをやろうよ!という話から始まったんです。
楽天ソシオビジネスの川島社長と電通そらりの清水社長は、女性同士ということもあり、いろんなことを相談させてもらっていて、アドバイスをいただいたりいろいろと情報交換をしています。特例子会社の集まりの世話人や社長勉強会などご一緒させていただくことが多く、いつも「障害者雇用はどう変わっていくべきなのか」とか「新しいことに積極的に挑戦しよう!」とか話しているんですよ。
一人ひとりの「やってみたい」を叶えるために
奥平:一方で、オフィスアシスタントチームの皆さんはどんな能力開発を行っているのですか。
一木さん:オフィスアシスタントチームの社員には、グループ社員が自由に参加できる企業内大学「セガサミーカレッジ」(※)のプログラムの中から、自分が興味あるものを積極的に受講してもらっています。
- ※ 新入社員から各階層別のコースと、手上げ式参加型(道場)コースがあり、知識・スキル等の習得やグループの結束を強める場を提供するセガサミーグループ社員専用のビジネススクール
奥平:企業内大学も設けられているのですね。どのようなプログラムを用意されているのですか。
一木さん:経理や事務、マネジメント、マーケティング、コミュニケーションに関する講座など種類は多岐にわたります。オフィスアシスタントチームの社員は学びたいという意欲が高くて、喜んで受講しています。グループ内の全ての社員に教育を受ける機会が設けられているのですから、障害の有無にかかわらず学びたいという意欲を応援していきたいですね。社員の将来につながるスキルを磨けると同時に、社員が成長することで会社も成長することができますから。
奥平:セガサミーさんは、社員の方を本当に大事にされていらっしゃる。
一木さん:私は定期的に特例子会社の社員全員と1対1で面談を行っているのですが、その際に「パソコンの仕事をしてみたい」など挑戦したい仕事のことや、将来の夢や悩み事など、いろんな話をじっくり聞きます。そして、彼らの夢や希望を1つでも叶えるために、会社として何ができるか。そう考えながら、指導員と一緒に能力開発プログラムづくりに取り組んでいます。
奥平:オフィスクリーニングチームは、ユニフォームもカラフルでおしゃれですね。
一木さん:特例子会社の中で日本一おしゃれなユニフォームを作ろう!とこだわりました(笑)。何より、社員みんなに楽しみながら働いてもらいたいなと。夏は速乾性があってサラサラの着心地でシワになりづらく洗濯が負担にならない素材のTシャツを3色用意して、その日の気分で好きな色を選べるようになっています。セガサミーカラーのブルー、グリーン、そして女性社員の気持ちを考えて白を加えた3色で、ブルーとグリーンの色選びにもかなりこだわりました。宮崎事業所は汗をかいて透けてしまうことを考慮して、社員の希望を聞いて3色目の白の代わりにピンクとグレーの2色から好きな色を選んでもらうようにしました。女性社員は圧倒的にピンクを選んだので、やはり希望を聞いて良かったなって思いました。
パンツも裾の長さを自分好みに自由に簡単に変えられるように、内側にスナップボタンが10個付いてあるものを採用しました。エプロンはシアトル系コーヒー店風のロゴ刺繍で高級感のあるものを作りました。でも、あえてエプロンは着る際に最も手間がかかる面倒なものを選びました。毎日ユニフォームをきちんと着ることも、順序立て作業や左右対称判断、リボン結びや脱いだ後のきれいな畳み方の徹底など、トレーニングにつながるように工夫しています。
奥平:何事も「楽しみながら」は、大事なことですよね。
一木さん:そうなんです。本社ビルがものすごく広くて迷いやすいこともあり、東京事業所を立上げて、彼らが入社したばかりの頃は「2人1組になってビルの中で一番安い500ミリリットルのお水を買ってくる」ゲームなどを企画して、楽しみながら自分たちのオフィスの位置を覚えてもらうといったこともしました。ランチにはとても大きな社員食堂やお弁当やパンを買えるたくさんのコンビニや飲食店、フードトラック、出張販売など多くの選択肢があるので、お得でおいしい好きなランチを毎日楽しんでもらうために、小さなメモ帳とペンを渡して本社ビルのマイマップ作りをしてもらいました。ビルの中を探検しながら自分なりのチェックポイントを記して覚えてもらったんです。初週は迷子続出でしたが、それもとても楽しかったみたいで、入社時にありがちな不安を自然に取り除くことができたと思います。
手を取り合いながらインクルージョンを推進
奥平:一木さんはいろんな視点からダイバーシティ&インクルージョンを進めているんですね。他にも取り組まれていることはありますか。
一木さん:ミネソタ大学、ウィスコンシン大学、東京大学、広島大学の研究者の方々と障害者雇用におけるソーシャルインクルージョンの日米共同研究を行っています。
障害者雇用に関する国際カンファレンスで自社の取り組みについて講演させていただいた際は、「日本の特例子会社の仕組みは素晴らしい!」と感想をいただいたり、海外メディアから取材申込があったりと、日本の障害者雇用に興味を持っていただけてとてもうれしかったです。
またMASHING UPという「インクルーシブな社会づくり」を目指すカンファレンスのアドバイザリーボードを務めているのですが、障害者雇用に関するパネルディスカッションに登壇させていただき、より多くの方々に理解を深めていただけるようお話をしています。
奥平:特例子会社は日本ならではの障害者雇用システムですよね。本社が特例子会社をつくって障害者雇用率だけをカバーしようとする企業も中には見られ、一部批判的な意見もあるようですが。
一木さん:私は、特例子会社の良さは、指導員や人事など、障害のある方がお仕事をする上で必要なあらゆるエキスパート人財を育てられること、またそのノウハウをグループ会社の現場に伝えられることにあると思っています。セガサミービジネスサポートでは、グループ適用企業各社の人事の担当責任者が取締役に就任し、月に一度の取締役会で障害者雇用に関する国や経団連の情報などを共有し議論する機会を設けています。そして自社での直接雇用における施策の検討を推進してもらうという流れとなっています。
奥平:確かに、特例子会社の良さと言えますね。一木さんは経団連が主宰する「障害者雇用制度見直し検討ワーキンググループ」にも参加しているそうですが、どんなことを話し合われるんですか。
一木さん:分かりやすく言うと、国の政策や制度に対して、企業側の意見を取りまとめて実現を働きかけていきます。経団連では数百人規模の障害者を雇用する大手企業の方々とそれぞれが抱える課題や改定案などを議論しながら、国に対する要望をまとめます。委員の皆さんは特例子会社社長だけでなく親会社の方もいらっしゃるので、それぞれの立場でのご意見や考えを伺うことはとても勉強になります。議論を通じて現在の制度の詳細を理解し、これから国がどう変化していくのかをいち早く感じ取ることができるので、先々を想定しながらより良い形で障害者雇用を進められるのではと考えています。
奥平:まだまだ障害者雇用が進んでいない企業も多いですが、一木さんから見て企業はどのような視点を持つべきだとお考えですか。
一木さん:私がお話するのもおこがましいですが、いつも大切にしているのは「共感」を得ることです。障害者雇用や理解推進を含めたダイバーシティ&インクルージョンやサステナビリティを担当する部門は、トップから言われたことを単に実行するだけでは、素敵な広がり方はしないと思うんですね。
私たちは今後、グループ横断でダイバーシティ&インクルージョンをさらに進めていきますので、まずはグループ内で共感を得ることが重要だと思っています。そのために私は、2020年からグループ企業のトップの方々にお会いして、皆さんのお考えを伺い、各社の要望にどう応えることができるか、施策検討の際の重要事項として捉えています。また、私たちの力だけではできることが限られますので、他の企業の方々とも連携して、一緒に取り組めるプロジェクトを進めていきたいと考えています。
いつかはこうした取り組みがセガサミーグループのカルチャー、文化として根付き、障害の有無に関係なく共に働き、笑い、幸せを感じることができるよう、みんなで楽しみながらアイデアを出し合って、1つひとつ形にしていけたらいいなと思っています。
撮影:十河英三郎
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。