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投票は「政治へのラブレター」。「目指せ!投票率75%」プロジェクトが説く選挙に参加することの意味
- 新型コロナ禍をきっかけに、若者や現役世代の政治に対する関心が高まりつつある
- 「目指せ!投票率75%」プロジェクトでは約4万5,000人の声を集め、主な政党へ提出
- 投票は「政治へのラブレター」。選挙に参加して、自分たちが生きやすい社会の実現を
取材:日本財団ジャーナル編集部
2021年10月31日は衆議院選挙の投開票日。選挙のたびに若者の政治に対する関心や投票率の低さが話題になるが、今回は少し風向きが違うようだ。
日本財団が2021年9月中旬に全国の17歳~19歳の男女1,000人を対象に行なった18歳意識調査「コロナ禍と社会参加」では、新型コロナウイルスの感染者が国内で確認された2020年1月以降とそれ以前を比べると33.9パーセントの人が政治や選挙が自分に影響すると感じることが増えたと答えるなど、政治への関心の高まりが見受けられる。
また、選挙の早い段階から大学生などが主体となって討論会などを開催したり、俳優やアーティストらが若者に投票を呼びかける動画を配信したりと、若者の声を政界へ届けようという動きも活発になっている。
「目指せ!投票率75%」プロジェクト(外部リンク)もその一つ。同プロジェクトでは、若者や現役世代が関心のある政策分野についてアンケート調査を行い、集計結果から「みんなの争点10+」を設定し主な政党へリアルな声として届け、回答を求めた。
今回は、プロジェクトの発起人で、困窮家庭の子ども・子育て支援に取り組む特定非営利活動法人キッズドアの理事長・渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)さんに、いま若者や現役世代が政治に望んでいること、それを実現するために何が必要か、話を伺った。
新型コロナ禍で浮き彫りになった暮らしと政治のズレ
「目指せ!投票率75%」はその名の通り、日本の投票率を75パーセントに上げることを目的に立ち上げられたプロジェクト。実行委員には、キッズドアの渡辺さんをはじめ、選択的夫婦別姓制度を推進する選択的夫婦別姓・全国陳情アクション事務局長の井田奈穂(いだ・なほ)さん、LGBTと社会をつなぐ場づくりに取り組む特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズなどの代表を務める松中権(まつなか・ごん)さん、若者の声を政治に反映させるために活動する一般社団法人日本若者協議会代表理事の室橋祐貴(むろはし・ゆうき)さんなど、さまざまな角度から社会課題に取り組んできた8人のメンバーが名を連ねる。
国際的な研究機関である民主主義・選挙支援国際研究所が世界各国の議会選挙の投票率を調査したところ、194の国と地域のうち日本は139位(※)ということが分かった。
- ※ 出典:民主主義・選挙支援国際研究所(The International Institute for Democracy and Electoral Assistance)。各国の国家立法機関の選挙で二院制の場合は下院の選挙、二段階制の場合は二番目の選挙の投票率が対象。2020年の最新値
中でも若年層の投票率は低く、前回(2017年)の衆院選では10代が約40パーセント、20代が約34パーセント、30代が約45パーセント。一方で最も多かったのは60代の約72パーセントだった。
少子高齢化が加速する中で、これからの日本を支える若者や現役世代の思いを政治に反映していきたい。そのためにも一人ひとりに与えられている「1票」の大切さに気付いてほしい。そんな想いから「目指せ!投票率75%」プロジェクトは立ち上げられた。
「通常時でも子どもにまともにごはんを食べさせることが難しい家庭は、コロナ以降、ますます大変な状況に陥っています。キッズドアでは子どもたちの支援に加えて、国に対しても何度も追加の現金給付のお願いをしてきました。一人ひとりの政治家の方は、私たちの声に耳を傾け『何とかしなくては』と言ってくださるのですが、なかなか実現しない。国は少子化対策と言いながらも、子どもたちの問題を後回しにしているんじゃないか、優先順位を上げるためにできることはないか、と考えた時に、若者や現役世代の声を政治に反映させることが重要だと考えたのです」
「親が仕事を失い、学費が払えなくなってしまった」
「休校になり、家庭内で居場所がなく孤立している」
「勤務先が休業になったが、非正規雇用社員は休業手当が支給されない」
「突然仕事やアルバイトを解雇され、仕事が見つからない。生活費に困っている」
新型コロナウイルスが感染拡大する中、子育て世帯の支援活動に取り組んできた渡辺さんたちは、そのような声をたくさん耳にした。この状況を何とかしてほしいと訴えても、国は一向に動いてくれない。中には、声を上げる気力さえない当事者もいたと言う。
若者・現役世代の声を集めた「みんなの争点+10」
こうした若者や現役世代のリアルな声を集めて政治に届けるべく、「目指せ!投票率75%」プロジェクトでは2021年8月にオンラインアンケート調査を実施。回答数目標の5,000人をはるかに上回る4万4,629人が参加し、そのうち女性が約80パーセント、世代別では10~30代までの若年層の割合が4分の3を占めるなど、選挙への関心度の高さが伺える結果に。
「コロナ禍は、若者をはじめ多くの人にとって政治が『自分ごと』であることに気付くきっかけになったのかもしれません」と渡辺さんは推測する。
アンケートで、投票の際に重視する政策を20以上の選択肢から複数回答で聞いたところ、最も多かったのが「現役世代の働く環境を改善」で76.3パーセント、次いで「コロナ対策」が69.8パーセント、「子育て環境の改善」が61.5パーセントだった。
これらの結果を踏まえて、得票率の高かった上位10項目に、いま社会的に関心が高いと考えられる3項目を加えた「みんなの争点10+」を2021年9月24日に発表し、大きな注目を集めた。
「ハラスメント問題が1位になるとは思っていなかったので驚きました。今回の調査結果は、若者・現役世代による『デモ』とも言えるのではないでしょうか。改めて、たくさんの女性や若い世代の方たちがいま、本当に苦しんでいるんだなと感じます」
アンケートの選挙参加を問う質問に対しては「必ず投票する」と答えた人が72パーセント。「投票する予定である」の21パーセントを含むと、90パーセント以上の人が選挙へ参加する意向であることにも驚かされる。
一方で「投票しない」「投票できない」「分からない・迷っている」と回答した人に対してその理由を尋ねたところ、「投票したい候補者・政党がいないから」「選挙や政治がよくわからないから」という回答が多い点にも注目したい。
「例えば、みんなの争点の上位にある『ハラスメント問題』や『投票しやすいシステムの整備』について、どの政党も公約には掲げていないんですね。若い世代にとって各政党が打ち出す争点は、生活に直結していないから興味が持てないんです。いまの選挙の在り方は、Tシャツがほしいのに、ほしくもないスーツを並べられて『この中から選べ』と言っているようなもの。有権者が本当に知りたいこと、重視していることを、政治家の方たちにも知ってもらうために、各政党へ『みんなの争点10+』を提出し、回答(外部リンク)をいただきました」
現時点で国会に議席を有する8政党中6政党から回答があり、一つひとつの争点に対する向き合い方に各党の特徴が表れている。
「とても分かりやすく回答していただいて、ありがたいですね。有権者の方にとっては、どの政党・候補者に投票するか検討する大きな材料になりますし、政治家の方たちにとっては国民の生の声を聞いていただく良い機会になったと思います」
投票は「政治へのラブレター」
日本国憲法では「国民主権」、つまり、国民が国の政治を決定する権利がある、と定められている。
「政治家は私たちの代弁者。投票することは『あなたに変えてほしい、あなたならきっと変えてくれるはず』と思いを込めてラブレターを送ることでもあると思うんです」
いまの政治と国民の心がかけ離れているのは、お互いのことを理解していないからと渡辺さんは言う。本来の民主主義を取り戻すためには、政治家が人々の暮らしに寄り添い、関心を持つと同時に、若者や現役世代も「自分たちの声は届く」「投票することは無駄じゃない」と意識を変える必要がある。
「政治家の方たちに向けて、いまの若い方たちが抱える問題や現状をお話すると『知らなかった』と言われることが本当に多いんです。『仕事を選ばなければ働き口はあるだろう』と言う人もいますが、働きたくても働けない事情を抱えた人がいることや、出産にかかる費用がないから子どもを産めない家庭が多いことも知らなかったり…。価値観自体に大きなズレを感じます。もっと若者や現役に近い世代の方、女性の政治家の方たちに活躍してほしいものです」
これまでなかなか変化がなかったものをひっくり返すのは、決して簡単なことではない。
だから、衆院選を終えた後も「目指せ!投票率75%」プロジェクトの活動は続く。
「若い世代の方たちも、国に対して伝えたいことがたくさんあるはずなんです。2022年には参院選が控えていますが、みんなで国を良くするために考え、話し合い、自分たちの声として争点を政党に直接届けることを続けていきたいと思っています」
渡辺さんに、若者や現役世代が投票に行くために、身近にいる大人ができることはないか尋ねてみた。
「選挙に行けない理由の中に、アルバイトや家庭の事情、投票所が遠いことなどを挙げる方が少なくありません。例えば、店長さんが声をかけて『選挙に行ってきていいよ』とアルバイトの時間を融通してあげるとか、地域の人が乗り合いバスのように『これから投票に行くけれど、一緒に行かない?』と声をかけるとか、安心して投票に行ける環境をつくってあげられるといいかもしれませんね」
自分と同じ考えを持つ政党や候補者が当選すれば、その後の政治の動きにも自然と興味が湧くだろう。また、たくさんの若い世代から支持された候補者は、「絶対に変える!」と高い志を持って課題解決に取り組むのではないだろうか。
まずは参加しなければ何も変わらない。自分たちの想いを届けるための大切な一票を投じてほしい。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
渡辺由美子(わたなべ・ゆみこ)
2009年に特定非営利活動法人キッズドアを設立。日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し活動を広げている。子どもへの学習支援や居場所運営に加え、2020年より新型コロナウイルス感染症の影響を受けた日本全国の困窮子育て家庭への支援を開始。内閣府「子供の貧困対策に関する有識者会議」構成員。一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会副代表理事。著書に『子どもの貧困~未来へつなぐためにできること~』(水曜社)がある。
特定非営利活動法人キッズドア コーポレートサイト(外部リンク)
目指せ!投票率75%プロジェクト 公式サイト(外部リンク)
目指せ!投票率75%プロジェクト 公式ツイッター(外部リンク)
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