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「お祭り」で投票率向上!一般社団法人UMFが仕掛ける「社会課題×エンターテインメント」
- 若者の投票率が低いのは「政治が分からない」ではなく、そもそも政治に対する興味が薄い
- 政治に関心を持ってもらうには、関わり方・楽しみ方を伝える必要がある
- エンターテインメントの力で選挙をお祭りにして、若者の政治への関心と投票率向上を目指す
取材:日本財団ジャーナル編集部
2020年11月1日実施の、大阪市を廃止し4つの特別区に再編する「大阪市廃止・特別区設置住民投票」。この投票を盛り上げるべく、前日と当日の2日にわたり大阪市中央公会堂とサンケイホール ブリーゼを会場に「マツリゴトOSAKA 2020」(別ウィンドウで開く)が開催された。「♯政(マツリゴト)を祭に」をテーマに、無料で楽しむことができるイベント(11月1日は投票者のみ参加可)だ。
司会を芸人のぜんじろうさんが務め、アーティストによるライブの他、ジャーナリストの堀潤さんと学生らが参加するパネルディスカッション、学生らによる社会を良くするためのプレゼン大会なども実施。盛大なお祭りとなった。
主催する一般社団法人「UMF」(別ウィンドウで開く)は、若者がエンターテインメントの力で社会課題に「つい、参加してみたくなる」仕組みづくりで注目を集めている。
今回は、代表の高村治輝(たかむら・はるき)さんに、「マツリゴトOSAKA 2020」をはじめとする活動内容と共に、社会課題を解決するために多くの若者を巻き込むためのヒントについて話を伺った。
「お祭り」でより良い社会に
「University Music Festa.(ユニバーシティ・ミュージック・フェスタ)」の略称である「UMF」は、大学に入ったばかりだった高村さんが「ずっと好きだった音楽をやりたい」と一念発起でDJを始めたことをきっかけに、その名の通り「音楽フェス」を開催する学生団体として設立された。
当初は社会課題とは無縁で、クラブなどでDJイベントを重ね800人規模をコンスタントに動員。次第に規模も大きくなり仲間が増えていく中で、もっと自分のやりたいことを追求し、たどり着いた形が、今の「社会課題 × エンターテインメント」である。
活動の根幹には「音楽で世界を変えられる」という想いがあり、「興味のあることや好きなことを、しっかりと熱量を持って一人ひとりに伝えれば、心を動かすことができ、行動を変えられる」という信念を、設立当初から抱き続けている。
「お祭り(フェス)の好きなところは、参加している人がお互いのことを受け入れ合い、みんなが好きなことに真っすぐで、自分らしくいられること。例えば、さまざまなアーティストが出演している音楽フェスでは、それぞれのファンが互いにリスペクトし合って、初めて聴いた音楽でも声援を送り、世代を問わず感想を語り合ったりしています。音楽や好きなもので通じ合うことができ、互いに受け入れ合える環境があるからこそ自分らしくいられるというのは、フェスならではでしょう。実際にフェスを開催してみて、誰でもステージに登っていい時間を設けた時に、引きこもりだった子がステージでダンスを披露して盛り上がる場面もありました。その子の周りに人が集まって、仲間が増えていく光景は今でも鮮明に覚えています。その時、音楽やエンタメのパワーを目の当たりにしました」
「お祭りは人間がつくれる最高の空間」と熱く語る高村さん。最高の空間をつくり上げるべく各地でフェスの開催を重ねていくうちに、全国の自治体や青年会議所から「うちでも開催してほしい」というオファーが届くように。その中で政治や社会が抱える課題と若者との関係性が希薄だと感じたという。
「『若い力を借りたい』『盛り上げてほしい』というお声掛けをいただき、力になれることがあればと、社会課題を伝えるイベントなどのお手伝いをする機会が増えました。そこで分かったのは、大都市に比べて地方ではイベントを開催しても若者が集まらずに困っているという地域格差。そして、何百万円も税金を使って大規模なイベントを行っているにもかかわらず、若者へのアプローチが、実際のニーズとマッチしていないという現状でした。『選挙に行こう』と呼び掛けても、そもそも選挙に興味がない。『SDGsが大事だ』と銘打っても、SDGsの認知度が低い。若者が関心のないテーマを大々的に打ち出したイベントには、行こうと思わないのは明白です。そうしたイベントに僕たちUMFが参加して、音楽イベントなどを開催したところで盛り上がらない。もどかしさを感じるようになりました」
自分たちならもっと違う方法で社会課題にアプローチできる。そう感じた高村さんは、「お祭り」というエンターテインメントを通してより良い社会を築くというビジョンを掲げ、2019年10月に一般社団法人UMFを設立した。
政治は週刊漫画と同じ。伝え方一つで関心が変わる
全国で取り組まなければいけない政治や社会課題と、培ってきたエンターテイメントの掛け合わせは、高村さんの音楽的ルーツともリンクする。
「僕は、好きなレゲエやヒップホップのアーティストが、政治を音楽にして声を上げていることに疑問を持っていました。なぜそこまで声を上げて、政治に関わるのだろうかと。気になって、ディグって(掘り下げて)いくうちに、気付けば政治や社会課題に興味を抱くようになっていました。自分がそうであるように、興味のあることが入り口となれば参加しやすいのではないか。そこで、レゲエアーティストのCHEHON(チェホン)さんと『韻波句党(インパクト)』という、投票の啓発につなげるミュージックビデオを制作したところYoutubeで10万回、TikTokでは40万回以上再生されるほど話題となりました」
「社会課題 × エンターテインメント」のテーマを掲げて取り組んだ活動が支持され、次世代の起業家を支援するビジネスプランコンテスト『みんなの夢AWARD』(別ウィンドウで開く)では第11回(2020年3月開催)のファイナリストに選出。また、CHEHONさんとのミュージックビデオの制作や、2019年6月に実施した18歳から27歳までの男女2,000人を対象としたアンケート調査「18-27歳政治意識調査」(別ウィンドウで開く)などの活動が高く評価され、地方自治体の議会・首長などや地域主権を支える市民などの優れた活動を表彰する「マニフェスト大賞」(別ウィンドウで開く)に、2,800件以上の応募の中から優秀賞に選ばれた。
この「18-27歳政治意識調査」の結果からは、改めて若者の選挙率の低さが浮き彫りとなり課題を感じているという。
「調査結果から言えるのは、選挙に対して若者の熱量がないということ。分からないという意見が多いけれど、調べればネットで分かりやすくまとまった情報がたくさんあるんですよ。選挙について調べるより、ゲームをしたり、バイトをしたりしている方がいい、と思っているんですよね。選挙に対して関心を持つことの優先順位が高くないのが問題です。大人たちは、その『分からない』をうのみにして、『もっと分かりやすくしろ』と言うけれど、そうではないと思っています。やはり興味のあることを入り口に訴えかけなければいけない。選挙に行くことが、楽しいと感じてもらわないといけない。そこで僕ができるのは、選挙をお祭りにして楽しい1日だと思ってもらえるように取り組むことだと思っています」
図表: 2019年7月実施の参議院議員選挙に行かなかった理由(複数回答)
選挙をお祭りにして投票率を向上させる
UMFが行った調査結果からは、親が選挙に参加している若者は選挙への参加率が高いという数字が出ている。一方で、選挙に参加していない若者はその親も参加していない割合が高いということが分かっている。この負の連鎖を断ち切らない限りは、投票率の低下を止められないと高村さんは言う。
図表:家族や友達と政治・選挙の話をする割合(単一回答)
「『♯政(マツリゴト)を祭に』をスローガンに、投票すれば無料で遊びに行けるような仕掛けにして、選挙をお祭りにしています。さらに、近隣のお店で支えるクーポンも配られます。こうすることで、親御さんが『行っとかな損するで!』と子どもに言えたりする。また、親御さんが小さな子どもを連れて選挙に行った帰りに外食もセットになれば、お子さんは『選挙』と聞くと『外食や!』と思えるような楽しいイメージが残って、大人になっても選挙に親しみを持ち続けられるのではないかと。親と子の投票率の関係にあるように、社会の動きや流れに沿った上で、多くの人が参加してみたくなる仕組み、誰でも参画できる仕組みをつくっていくのが大事なことだと思っています。僕たちは、意図して社会の流れを変えるというよりかは、人の流れを変えて行った先に、変わるものがあるんじゃないかなと信じています」
高村さんは1つの目標として、インターネット投票が解禁されるまでに緩やかなカーブで投票率を上げていくことが必要だと語る。
「現在、全年代を通じた投票率は約54パーセントですが、ネット投票にあやかった政策次第でいきなり15パーセントぐらい上がる可能性があるんです。それは決して良いことではなく、投票者が目の前のおいしい政策に惹かれて投票してしまい、そのことで国が破綻する可能性だってあるんです。そうならないためにも、みんなが政治に関心を持てる土壌をつくって、投票率74パーセントという過去最高値までに引き上げておきたい。僕自身、さまざまな社会課題にも関心はありますが、今は、その全てを解決できる可能性のある『政治』という最も若者の関心が薄いものを、僕たちの力で楽しいお祭りに変えることに集中したい。お祭りはみんなでつくり上げることで楽しい1日になります。政治に興味がない人も地元のお祭りを盛り上げるぐらいの感覚で、どんどん参加してもらえたらうれしいですね」
撮影:800クリエイターズ
〈プロフィール〉
高村治輝(たかむら・はるき)
一般社団法人UMF 代表理事。全国で地域性を生かした音楽フェスを主宰してきた経験から2018年3月にイベント制作を手掛ける株式会社UMFを設立。しかし、事業を行っていく中で大量消費・大量生産・過酷な労働環境など多くの社会課題を目の当たりにし、社会にとっての“いいイベント”をつくることを決意。手始めに「選挙の投票を行うと無料で楽しめる音楽フェス」を2019年4月の統一地方選挙に合わせて大阪で開催。選挙投票率をはじめ、より多くの社会課題にアプローチをするために一般社団法人UMFを同年10月に設立。
一般社団法人UMF 公式サイト(別ウィンドウで開く)
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