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【10代の性と妊娠】予期しない妊娠や性被害から守るために。家庭でできる性教育のすすめ
- 世界から遅れをとる日本の性教育。知識不足も一因となり、性被害に遭う子どもが増加傾向に
- 子どもたちを性被害から守るためには、家庭における早い段階からの性教育が有効
- 大人も正しい性知識を学び、子どもと同じ目線に立った気軽に話し合える関係づくりが大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
日本の性教育は、欧米といった教育先進国だけでなく、アジアの国々と比べても遅れていると言われている。
2009年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)が作成した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、5歳から段階的に教えることを推奨しているが、文部科学省の学習指導要領で性教育が始まるのは小学校4~5年生頃から。中学生では生殖(※)のメカニズムについて、高校生になると避妊方法や人工妊娠中絶などについて学ぶが、一貫して性交については触れていない。
- ※ 生物が自らと同じ種類の個体をつくりだすこと
日本では10代からの「予期せぬ妊娠」の相談や、性被害に遭う子どもが増加傾向にあり、背景の一つとして「子どもたちの性の知識不足」を挙げる専門家も多い。
こうした状況に危機感を覚える親も多く、いま家庭での性教育に関心が高まっている。学校だけに頼るのではなく、身近な大人が子どもたちに正しい性の知識を伝えるためにはどのようにすればよいのか。
妊娠に関する相談支援窓口「にんしんSOS東京」を運営するNPO法人ピッコラーレ(外部リンク)の副代表を務め、助産師として性教育講座を行う土屋麻由美(つちや・まゆみ)さんに話を伺った。
30年間停滞する日本の性教育
「日本で性教育という言葉が使われ、学校で性に関する具体的な指導が始まったのが1992年。ただ、その頃から教えていることはそれほど大きく変わっていないんです」
その土屋さんの言葉に衝撃を受けた。
30年もの間、日本の性教育が停滞したままの理由の一つとして、2003年に起きた七生養護学校事件(※)が挙げられる。知的障害がある生徒を対象に独自の教材を用いて行っていた授業が、「行き過ぎた教育」として報道されたことで全国的に性教育バッシングが広がり、性教育そのものが停滞してしまったという。
- ※ 東京都日野市「七生養護学校」が行っていた性教育に対して議員や新聞社などが介入。授業内容が不適切であると非難し、東京都教育委員会が当時の校長や教職員に厳重注意処分を行った
現在子育てをしている人、子どもたちを教えている教員の多くは、家庭でも学校でも性について疑問を持つことをタブー視され、正しい性の知識を得る機会が少ないまま大人になった世代だ。
一方で、幼い頃からパソコンやスマートフォンに触れている現代の子どもたちがアダルトサイトなど有害コンテンツに触れるのを避けることは難しく、SNSに起因する子どもの性被害も増えている。
知識不足から気付かぬ間にトラブルに巻き込まれるケースが多く、警察庁が公表した「令和2年における少年非行、児童虐待および子どもの性被害の状況」によると、2020年にSNS起因の性犯罪などの被害者となった18歳未満の子どもは1,819人。2016年からの過去5年間で4.8パーセント増加している。
図表:SNSにおける罪種別の被害児童数の推移
文部科学省と内閣府では、子どもたちが性暴力の加害者や被害者、傍観者にならないために「生命(いのち)の安全教育」のための教材を作り、2021年4月より一部の学校で実証実験をスタート。2023年には全国の小中高において普及・展開を図る予定だ。
「とはいえ、教職課程では性教育は必修科目ではないため、学校の先生たちは教科書以上の内容を伝えることが難しいのが現状です。外国語教育やプログラミング教育など、新しい授業がどんどん取り入れられているのに、性教育に関しては世界の中で遅れを取っています。だから親御さんたちは少しでも家庭で教えられることを…と思うのでしょう」
昨今、書店の児童書のコーナーなどに幼児から小学生に向けた性教育の絵本なども多く並ぶようになったのは、「学校が変わらないのであれば、自分たちが変わらなければ」と考える大人が増えていることの表れだろう。
家庭での性教育は「子どもと同じ目線に立つ」
では、家庭で性教育を行う際にどのような点に気を付けたらいいのだろうか。
「まずは、大人が一方的に押し付けなるのではなく、子どもと一緒に学ぶという姿勢でいること。性教育に関する本などを一緒に見ながら『あなたはどう思う?』と意見交換をすることも大切です」
土屋さんのもとには「娘のマスターベーションを見てしまった」など、親から子どもの性に関する相談が多く寄せられるという。
「この時は女の子でも性的な欲求はあるし、悪いことではないんですよというお話をしました。お子さんへの伝え方として『自分のからだを触れることはいけないことではないよ。ただ、人前ですると不快な思いをする人もいるし、性的被害に遭う可能性もあるから、一人で安心してできるところでするようにね』と提案させていただきました。親御さんもこうして対処の仕方を学んでおけば焦らずに済みますよね」
土屋さんのお話をもとに年齢ごとの性教育のポイントをまとめたので参考にしていただきたい。
[0歳~]
- おむつ替えや沐浴のときに「きれいになったね」「気持ちいいね」と声をかける
- 人と触れ合うことで感じる安心や愛情を伝えることも大切な性教育の1つ
[2・3歳〜]
- 性器の洗い方を教えて、少しずつ自分でできるようにしていく
[4・5歳~(排泄が自立した頃から)]
- プライベートゾーンについて伝えていく
- 水着で隠れる部分は「自分にとって大切な場所」だから見せない&触らせない人を自分で決めて良いこと。また、他の人のプライベートゾーンも見ない&触らないと伝える
- 親であっても無理やり子どもの服や下着を脱がせたりすることはしないようにする
- もしも、誰かに見られたり触られたりして不快な気分になったら、「嫌だと言う」「周りの大人に伝える」ことを教えるのも重要
- 自分は自分であって良いんだということを話す(性自認・性的指向・多様性)
- 生まれてきたことについて話す
[10歳~]
- 自分と同様に、みんなも大切な存在であること、人との距離感について伝える
- 文部科学省の「生命の安全教育」(外部リンク)では小学校高学年からSNSとの向き合い方について指導することを提唱しているので参考にする
[思春期以降(※個人差あり)]
- 精通や初潮をはじめ身体や心が急激に変化する大切な時期。身体に起こる変化について伝える
- 好きな人ができたり、相手の体に興味を持ったりするのは「当たり前のこと」。好きな人を大切にするために、性交や避妊、性的同意、性被害、性感染症などついて正しい知識を身に付けておくことが重要
- 「もしも、望まない妊娠をしてしまったらどうする?」と性別に関係なく、話ができる関係を築けると尚よい。困った時の相談先についても調べたり、教えておく
「ちょっとハードルが高いかもしれませんが、私はアルミホイルの芯と靴下を使ってペニスの模型を作り、思春期を迎えた子どもたち(性別を問わず)と一緒にコンドームの着け方の練習をしました。コンドームはいきなり使うことは難しいので、女の子にとっても必要な知識かなと思います」と土屋さん。
どんな風に伝えたらいいか分からない、伝えるきっかけがほしいという親御さんのために、アメリカのNGOが配信している性教育動画をNPO法人ピルコンが日本語に翻訳して無料配信している「AMAZE」シリーズ(外部リンク)を薦めてくれた。
「動画は一緒に見ることで親も学べますし、子どもたち自身が気になっていることについて話すきっかけにもなります。性的暴力に関連するニュースや、恋愛ドラマなどを見た時に『どんな風に感じた?』と家族で意見交換をするのもよいでしょう」
また、日頃から子どもたちの様子に気を配り、いつもと何か違うなと感じたら、「大丈夫?」「困っていることがあったら何でも相談してね」と声を掛けてほしいと土屋さん。親子の会話の中に自然に性の話題を入れ込むことで、いろいろな行動のリスクについて知ったり、困った時に話しやすくなったりと、性被害に遭わないための対策にもつながる。
気軽に「性」を話せる場所はたくさんあった方がいい
土屋さんは、「学校の性教育の中でもきちんと性交について教えてほしい」と声を大にする。「生命の安全教育」の中でも「性的な行為」や「性交」という言葉はほとんど登場せず、具体的にどのような行為を指すのかについては触れていない。
「日本の性教育が停滞していた中で『生命の安全教育』の取り組みが始まったことは大きな一歩です。ただ、先生方にも準備は必要ではないかと思います。学校も、外部講師を招いて特別授業を行うなど、先生たちも一緒に学ぶ機会をつくる必要があるのではないでしょうか」
また、学校にあまり通えない子どもたちや、性の知識が自分にも大切であると、なかなか考えられないでいる子どもたちのためにも、児童館や子ども食堂といった地域における子どもたちの居場所も、性教育を行う場所として活用していくことは有効だという。
「ピッコラーレでも出張保健室を行っているのですが、子どもたちから性に関する質問をたくさん受けます。こちらから『調子悪そうだけれど、生理は順調?』とか『最近、恋人とどうなの?』なんて、何気ない会話をきっかけに話してくれることも。親には言えないけれど、性について相談できる相手を探している子どもたちは多いのではないでしょうか」
学校や家庭、地域の関連機関が連携して「子どもを守る」体制をつくることが重要だと土屋さんは話す。
「子どもたちの周りにいる大人が変わらなければ、現状は変わりません。まずは、大人たちに性に関心を持ってほしいですね」
子どもたちにとって信頼できる大人がそばにいて、気軽に話せる関係を築くことが、予期せぬ妊娠や、性被害から彼らを守るもっとも有効な手段と言えるだろう。そのためにも、ぜひ大人が率先して正しい性知識を身に付け、身近な人と話すことを大切にしていただきたい。
〈プロフィール〉
土屋麻由美(つちや・まゆみ)
助産師。大学病院、助産院勤務を経て1997年4月に出張専門の助産婦として中野区で開業。その後練馬区で麻の実助産所を開業。自宅出産のかたわら、自治体などの母親学級の講師や、きょうだいが生まれる家族に対しての出産準備教育の実践、幼稚園・保育園、学校、地域での保護者向け講座などの性教育実践も行う。妊娠に関する相談支援窓口「にんしんSOS東京」を運営する特定非営利活動法人ピッコラーレ(旧:一般社団法人にんしん SOS 東京)の副代表も務める。
麻の実助産所 公式サイト(外部リンク)
特定非営利活動法人ピッコラーレ 公式サイト(外部リンク)
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