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30年以内に巨大地震が起こる確率70パーセント。京大名誉教授が唱える「今やるべき備え」

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2021年3月に行われた京都大学での最終講義にて、日本列島に差し迫る危機について力説する鎌田浩毅さん
この記事のPOINT!
  • 逼迫する南海トラフ巨大地震、富士山の噴火、首都直下地震。被害規模は東日本大震災の10倍以上
  • 国や自治体にできることには限界が。「自分の身は自分で守る」ための備えが重要
  • 一人一人が正しい知識を身に付け、行動することが命を守る。だから学びは大切

取材:日本財団ジャーナル編集部

近年、世界各地で地震や火山の噴火が頻発している。トンガの海底火山噴火や、インドネシアやハイチでのマグニチュード7を超える大地震。国内でも2022年1月だけで、東京・埼玉で震度5強を観測する地震や、大分県・宮崎県で最大震度5強を記録する地震が起き、緊張感が高まっている。

火山学、地球科学の第一人者、京都大学名誉教授の鎌田浩毅(かまた・ひろき)さんは、「今後日本で20年以内に起こるとされている大きな災害が3つあります。1つは、南海トラフ巨大地震、もう1つは首都直下地震、最後は富士山の噴火です」と言い切る。

いつ起きてもおかしくない大災害。自分の命を守るために「今からできる備え」、そして「もしものときにとるべき行動」について、鎌田さんにお話を伺った。

南海トラフ地震で国民の半数が被災する

実際のところ、私たちが直面する災害リスクはどれくらいのものか?

「まず、南海トラフ巨大地震。これは2035年からプラスマイナス5年、つまり2030〜2040年の間に必ず起きると言っていいでしょう。規模をひと言で言うなら、2011年に起きた東日本大震災の10倍以上。東日本大震災の経済損失は20兆円と言われていますが、南海トラフ地震では220兆円以上、死者も32万人(東日本大震災は行方不明者含む約2万人)を超えると予測されています。地震の規模はマグニチュード9.1(東日本大震災はマグニチュード9)とあまり変わりませんが、被害がこんなに甚大なのは、東は静岡から西は九州まで、被害に遭う人口が多いからです」

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忙しい合間を縫ってオンライン取材に応じてくれた鎌田さん

政府は2019年に、南海トラフ地震の死者の想定を2012年に発表した約32万人から約23万人に下方修正した。その主な理由は、市民の津波からの避難意識が向上したとされているが、鎌田さんは見通しが不十分だと指摘する。予想される被害想定があまりにも日常からかけ離れており、多くの市民は具体的にイメージできないからだという。ゆえに、津波からの避難意識が向上した人はさほど増えてはおらず、被害想定を減らせるような状況に達していないことを危惧している。

鎌田さんの推測によると、南海トラフ地震で予想される被災者数は6,000万人。日本国民の半分が被災するという。その中には、首都圏や太平洋ベルト地帯と呼ばれる産業の中心地も含まれており、経済的な被害も計り知れない。

南海トラフ巨大地震の震度分布図:静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性があるほか、それに隣接する周辺の広い地域では震度6強から6弱の強い揺れになると想定される。また関東南部、中部、山陰では震度5強強、関東北部、日本海側で震度4、東北で震度3以下の揺れが想定される
「南海トラフ巨大地震の震度分布」(気象庁ホームページより)。沿岸部では震度7になる場所も多数ある

鎌田さんが2番目に挙げる首都直下地震は、起きるタイミングが明確には分からない。しかし、「いつ起きてもおかしくない」と警鐘を鳴らす。

「東京の下には、19もの活断層地域と他にも地下に隠れた断層があります。そのどれかが動くと起きるのが首都直下地震です。また東日本大震災の影響で首都直下地震のリスクが大幅に高まっています。南海トラフ巨大地震や富士山の噴火は100年単位のストーリーですが、東日本大震災は1,000年単位の話。過去に起きたのが平安時代の貞観地震(869年)です。こうしたマグニチュード9クラスの地震が起きると日本列島は非常に不安定になる。東日本大震災の影響で、日本列島のプレートが5.3メートル東に引き伸ばされました。年間8センチメートルほどゆっくり移動していたものが、いきなり一瞬にして5.3メートルです。現在日本で『東日本大震災の余震』と言われる直下型地震が3〜5倍に増えているのは、このひずみを解消しようとする動きです。この状況はあと20年ほど続くと予想されます」

大陸プレートと海洋プレートの地震発生前および発生後の位置関係の模式図:(1)地震発生前の安定した状態(2)地震発生時の状態。海洋プレートの固着域が破壊されたことで、大陸プレートが沈降、東に大きく引き伸ばされたことで地盤が隆起し不安定な状態に。
東日本大震災後のプレートの状態。大きく東に引き伸ばされている。鎌田浩毅著『首都直下地震と南海トラフ』(MdN新書)による

首都直下地震で推測される経済損失はおよそ95兆円。日本の国家予算に近い額が地震で失われることになると、鎌田さんは推測する。そして、死者約2万3,000人、被災者は3,000万人と甚大だ。この2つの地震だけでも既に大きな被害が予想される。

さらに、そこに追い打ちをかけるのが富士山の噴火だと鎌田さんは言う。

「現在の富士山の状況は、マグマがパンパンに詰まった噴火スタンバイ状態。富士山には30年に1回噴火すればいいくらいのマグマが地下から少しずつ供給されています。それが、これまでは約100年単位で噴火を繰り返していました。その中で大規模な噴火だったのは、1707年に起こった宝永(ほうえい)大噴火です。これは、200年のスタンバイ期間を経ての噴火でした。現在は、そこから300年以上経っています。たまっているマグマの量から単純計算すると、次回の噴火規模は宝永大噴火の1.5倍くらいと考えるのが妥当でしょう」

富士山噴火のメカニズム図:富士山の地下約20kmにはマグマで満された「マグマだまり」がある。噴火の前には、マグマだまり上部で「低周波地震」と呼ばれるユラユラ揺れる地震が起きる(a)。さらにマグマが上昇すると、通路(火道)の途中でガタガタ揺れるタイプの人が感じられるような「有感地震」が起きる(b)。その後、噴火が近づくと「火山性微動」という細かい揺れが発生(c)。マグマが地表に噴出する直前に起きるため、「噴火スタンバイ」状態になったことを示す。噴火のおよそ数週間から1カ月ほど前にこうした現象が起き始める。噴火すると噴煙がのぼり、広範囲にわたって火山灰を降らす。
富士山噴火のメカニズム。事前に地震が起きるため、ある程度は噴火の予測ができるという。鎌田浩毅著『富士山噴火と南海トラフ』(講談社)による

これまで富士山の噴火の中で最大規模と言われている宝永大噴火。富士山の東南斜面からの噴火で、3つの火口が形成され、富士山から100キロメートル離れた江戸にも火山灰が降り積もり、昼間でも暗く、燭台の明かりを灯さねばならなかったという記録もある。

「実は、富士山噴火は南海トラフ巨大地震との関連性が高いのです。1707年の場合も、南海トラフでマグニチュード9クラスの宝永地震が起こり、その49日後に富士山が噴火しました。今回もそうなる可能性は非常に高いのではないでしょうか」

南海トラフ巨大地震の特徴は、東海、東南海、南海、つまり静岡沖、名古屋沖、四国沖の3つの地震が連動して起きることだ。そして富士山に近い、東海地震が起きればそれが富士山の噴火につながる可能性が高いと鎌田さんは推測する。

「しかも、東海地震は前回は休んでいるので、次の2030年代には必ず起きるのです」

南海トラフ沿いの巨大地震の震源域と発生の歴史図:南海トラフは静岡県沖から宮崎県沖まで続く海底にある。南海トラフの北側には3つの「地震の巣」があり、震源域と呼ばれている。それぞれ東海地震・東南海地震・南海地震を起こした場所で、一部は陸地にも差し掛かる。3つの震源域は地震の起きる順番が決まっており、最初に名古屋沖で東南海地震が発生し、次が静岡沖の東海地震、最後に四国沖で南海地震が起きる。前回の昭和東南海地震(1944年。マグニチュード7.9)が起きた2年後に、昭和南海地震(1946年。マグニチュード8.0)が発生。その前の回(1854年安政東海地震、安政南海地震。マグニチュード8.4)は、32時間の時間差で活動した。また3回前(1707年宝永地震。マグニチュード8.6)、三つの震源域が数十秒のうちに活動。4回前の慶長地震(1605年。マグニチュード7.9)も南海トラフが震源ではないかと言われている。東海地震の震源域では、1854年の安政東海地震以来大地震がなく、地震のエネルギーが蓄積されている。
過去の南海トラフ地震。1707年は地震のあとに噴火が起こった。鎌田浩毅著『地震はなぜ起きる?』(岩波ジュニアスタートブックス)による

「富士山噴火の被害総額は、2兆5,000億円と言われていますが、これは17年前の数字で過小評価だと考えています」

宝永大噴火の際には、江戸に5センチメートル、横浜で10センチメートルもの火山灰が降り積もったとされている。

ガラスの破片と同じ物質である火山灰は、人の呼吸器に入れば健康に甚大な影響を及ぼし、コンピューターに入れば通信機能がダウンする。電車や車も走ることができなくなり、ライフライン全てが停止し都市機能そのものが失われる可能性がある。

「一人一人の備え」が命を守る

インタビューの中で、鎌田さんが繰り返し強調していたのが、「一人一人の備え」の重要性だ。これだけの災害が起こったとき、いかに国や自治体が地震や噴火に備えたからといってできることは限られている。実際の生死を分けるのは、いかに一人一人が備え、行動できるかにかかっている。

具体的な内容について鎌田さんに聞いた。

・最低でも3日分の水と食料、衣料品、簡易トイレを備蓄する

「地震に向けての備蓄は必須です。最低でも3日、できれば1週間生き残れるほどの水と食料、衣料品や簡易トイレを用意しておきましょう。私は東京に出張する際は500ミリリットルの水にペンライト、チョコをバックに入れるようにしています。ペンライトを入れているのは、地下鉄や地下街で地震にあったときの対策です。というのは、地震で水道管が破損すると水が地下に流れ込みます。東京の六本木(大江戸線六本木駅)などは特に深く40メートル以上になるのですが、ずっと地下にとどまっていては溺れ死んでしまう可能性があります。そんなときにペンライトがあれば、安全かつ速やかに地上に出ることができるのです」

・地震直後は安否確認。無理して自宅に帰らない

「仕事や外出中に地震が起きたら、まずは頭をかばって自分の身の安全を確保。収まったら携帯電話の電波が通じるうちに家族に安否確認をし、無理して自宅に帰らないようにしましょう。大都市の地震では、『群衆なだれ』が起きる可能性が高いのです。群衆なだれとは、人が密集したときに1人が倒れることで周りの人がなだれのように転倒してしまうこと。よって、被災したときは、駅には向かわず職場などにとどまることで、周りの人を助けることもできます。職場などに3日分の食料や水があれば、その間多くの人が『防災士』的な働きができます。これは大都会ならではのメリットと言えるかもしれません」

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東日本大震災の影響で帰宅困難者や渋滞でごった返す都内の道路。よねやん/PIXTA

そして富士山の噴火は、地震とは異なり事前予測がある程度可能である。住んでいる地域にもよるが火山灰対策が必須となる。

・マスク、ゴーグル、レインコートで火山灰対策。家にできるだけ入れない

「富士山が噴火した場合、1カ月近く火山灰が舞うことになります。これは、細かいガラス片ですので目に入ると炎症を起こしますし、呼吸器に悪影響を与える可能性も非常に高いのです。なので、いかに火山灰を身体に入れないかが重要になってきます、マスクにゴーグル、帽子、手袋、レインコートなどを用意し、家に入る前に玄関先で火山灰を落とすことが大切です」

知識を身に付け、行動することで命は救われる

防災にはソフトとハードがある、と語る鎌田さん。

「ハードとは、主に国や地方自治体が行うもので、防波堤や防潮堤や避難道路の整備など施設面が主になります。一方ソフトとは個人ができるもので、例えば一日のうちで過ごす時間の長い寝室の安全点検をすることや、非常食の準備などを指します。南海トラフ巨大地震をはじめとする地震の被害は甚大です。しかし、個人個人がソフトの対策をしっかりすれば、8割の命と財産は救うことができるのではないかと、私は考えています」

写真:防災キット。緊急時に家庭で必要となる基本的なアイテムを集めたもの。このサバイバルキットには、救急用品、食べ物、水、懐中電灯、電池が含まれている。
自分や大切な家族の命を守るには、日頃からの備えが重要。Roger Brown Photography/Shutterstock.com

16世紀から17世紀にかけて、イングランドで活躍した哲学者フランシス・ベーコンの言葉に「知識は力なり」というものがある。鎌田さんが京都大学の授業でもよく用いる格言でもあるが、その言葉のとおり、私たちに必要なのは正しい知識を身に付けて、それを活かした行動をすること。どんな大変な困難に遭っても、きっと良い未来へとつながるはずだ。

〈プロフィール〉

鎌田浩毅(かまた・ひろき)

火山や地震が専門の地球科学者。京都大学名誉教授・京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授。1955年生まれ。筑波大学附属駒場高校・東京大学理学部地学科卒業後、通産省を経て1997年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授に着任。講義は毎年数百人を集めるほどの人気で、教養科目の評価1位となった。『地震はなぜ起きる?』(岩波ジュニアスタートブックス)、『日本の地下で何が起きているのか』(岩波科学ライブラリー)、『京大人気講義 生き抜くための地震学』『やりなおし高校地学』(ちくま新書)、『地球の歴史』『理科系の読書術』(中公新書)、『富士山噴火と南海トラフ』『地学ノススメ』(講談社)、『武器としての教養』(MdN新書)、『100年無敵の勉強法』(ちくまQブックス)など多数の著書がある。2021年3月の最終講義はYouTube(外部リンク)で74万回以上の再生を記録している。
鎌田浩毅 公式サイト(外部リンク)

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