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サッカーを通じたカンボジアの子ども支援。コロナ禍で模索した「今、僕たちにできること」

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学生団体WorldFut代表の小西立起さん
この記事のPOINT!
  • 長引くコロナ禍、海外を支援する日本のNGOやNPOは渡航規制により十分に活動ができない状態が続いている
  • カンボジアの子ども支援を行う学生団体WorldFutは、オンラインを活用し支援のスピード、幅を広げた
  • 環境に左右されることなく子どもたちが夢や目標に挑戦できるサポートを続けたい

取材:日本財団ジャーナル編集部

2019年12月に中国・武漢市で「原因不明のウイルス性肺炎」として確認されて以来、世界的に感染拡大を続ける新型コロナウイルス感染症。その影響はNGOやNPOなどの活動にも及んでおり、特に海外支援を中心としている団体では、渡航規制の影響で、長きにわたって十分に活動ができない状態が続いている。

サッカーを通じたカンボジアの子どもたちの支援活動を行う学生団体WorldFut(ワールドフット)(外部リンク)もその中の1つだった。毎夏に実施するカンボジアへの渡航が難しくなり、子どもたちと触れ合うことができない状況が続いていた。

「これでは、継続的にサポートしていた子どもたちにも影響を与え、WorldFutのメンバーの士気も下がる」

そう危機感を覚えた現代表の小西立紀(こにし・りつき)さんを含む中心メンバーは、「今」できることを模索。そして2020年10月、オンラインを活用しカンボジアの子どもたちの夢を応援する「夢旅プロジェクト」をスタートさせた。

これにより、現地の子どもたちや先生とのつながりが深まると共に、支援のスピード感が増し、活動の幅も広げることができたという。

そんなコロナ禍におけるWorldFut躍進の裏側について小西さんに話を伺った。

コロナ禍に直面した団体存続の危機

WorldFutは、元サッカー日本代表の中田英寿(なかた・ひでとし)さんが2008年に展開した社会貢献活動を促すキャンペーン「TAKE ACTION! 2008+1」に影響を受けた2人の学生により、同年、サッカーを通じた国際協力を目的に誕生した。

当時、訪れたカンボジアで目にした整地されていないボコボコのグラウンドでサッカーボールを一心に追いかける子どもたちの姿。そんな彼らが口にした「サッカー選手になりたい!」という言葉をきっかけに、15年にわたる支援活動は始まった。

カンボジアの子どもたちにサッカーを教えるWorldFutのメンバー
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カンボジアの子どもたちとサッカーを通して交流するWorldFutのメンバー

これまで2つの小学校を対象に、校舎やグラウンドの建設、サッカーグッズの寄贈といった物資の支援を行なってきた他に、カンボジアサッカー協会後援のもと、小学5・6年生を対象にしたサッカー大会「Dream Challenge Cup」を開催してきた。

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2019年に開催されたDream Challenge Cupの様子
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2019年のDream Challenge Cupで優勝したチームの子どもたち

現在、12代目となる代表の小西さんも幼稚園から高校を卒業するまでサッカー一筋だったという元サッカー少年。2019年に大学入学後、友人から聞いた「サッカーでカンボジアを支援している学生団体があるらしい」の言葉に惹かれ、WorldFutに足を運んだという。

「当時、何か新しいことに挑戦したいという気持ちはありながらも、具体的な目標や手段が思いつきませんでした。WorldFutで先輩方の話を聞く中で、僕自身がサッカーを通して学んだ、うれしさや悔しさ、友達と一緒にプレーをする楽しさなど、いろんな感情や体験をカンボジアの子どもたちにも伝えたいと思うようになり、入団を決めました」

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WorldFutへの入団の動機を話す小西さん

ところが、小西さんが入団して2年目、新型コロナウイルスの感染拡大によってWorldFutの活動も休止を余儀なくされる。毎夏恒例だった現地でのサポートも困難になり、メンバーの意欲は低下。約半数にあたる15人近くが「何のために活動をしているか分からない」と一時会議などに参加しなくなってしまった。

コロナ禍で生まれたプロジェクトが、さらなる推進力に

小西さんを中心に、残ったメンバーで何とか活動を続けようと「今、自分たちに何ができるか」を模索した。そうして意見を交わす中で持ち上がったのが、日本国内の児童養護施設の支援だった。

「僕も含めて、WorldFutのメンバーは未来を担う子どもたちの役に立ちたいという思いを持って入団しています。そこで国内に目を向け、児童養護施設の子どもたちのために何かできないかと考えました。現状調査するために100件以上の施設に連絡をしたのですが、やはり学生がいきなり連絡をしても取り合ってくれるところは少なく…。その中で僕たちの活動に理解を示してくれた施設が10件近くあり、そのうち2施設の子どもたちに2020年10月からサッカー教室を開くといった活動に取り組んでいます。実際にどれだけ役に立てているか分かりませんが、僕たち自身が子どもたちと触れ合うことで、活動をする上で大きなモチベーションにつながっています」と小西さん。

子どもたちにとって、大学生のメンバーは大人よりも身近で、いろんなことを相談できる存在になっていると、施設職員からうれしい言葉をもらうという小西さんたち。一方で、18歳で児童養護施を退所しなければならない若者がぶち当たる進学や就職といったさまざまな困難を改めて知り、今後どのような形でサポートできるかを模索しているという。

コロナ禍では、カンボジアの子どもたちに対してもオンラインを活用した新たな支援「夢旅プロジェクト」を同時期にスタートさせた。

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2021年8月に実施した「夢旅プロジェクト」には現地のプロサッカー選手も参加した

現地の先生たちを対象にした事前調査で、将来の夢や目標はあるが自分に自信を持てずに諦めてしまう子どもが多くいることが分かった。

そこで、本プロジェクトでは2日間にわたるプログラムを組み、子どもたち自身に、自分がどんなことに興味があり、将来どんなことに挑戦したいか、またその夢を叶えるために何を頑張るべきかを具体的に考えてもらう機会を設けた。特別ゲストとして現地のプロサッカー選手が自身の体験談を語り、子どもたちが夢や目標に向かって挑戦できるよう、励ましたという。

「ワークシート形式で行った授業では、はじめはなんとなく好きなことを書き出していた子どもたちが、次のステップでは紙にびっしりと自分の夢や、いまの課題について書いてくれて感動しました。自分たちが現地で一緒にサッカーをしていた子どもたちとは違う顔ぶれもたくさん参加してくれて触れ合えたことも、大きな収穫でした」

写真:夢旅プロジェクトで使用したノート。
左側のカンボジアの子どもたちの内容訳「将来は、先生が生徒を教えていることに興味があったので、先生になりたいと思っています。夢を叶えるために、一生懸命勉強して知識を蓄えたいです。若い世代に教えたいです。私が今できないことは、生徒に運動を教え、教師として働くことです。先生になるためにもっと一生懸命勉強しようと思います。
右側のWorldFutのメンバーコメント(一部抜粋)「やるべきことが明確になっているのがいいね」「どの教科を勉強するとかもう少し具体的に目標を設定できたらもっと夢につながると思うよ!今できなことを少しでもできるようになれたら夢にも近づけるはずだから頑張ろう!」
※送ってもらったシートをもとにメンバーが感想を書き、画像として子どもたちに送りました。
夢旅プロジェクトで、実際に子どもたちがノートに書き出した夢や目標(左)とそれに対するWorldFutのコメント(右)

「サッカー選手になりたい」「学校の先生になりたい」など、子どもたちの夢の実現をサポートするために、その後も定期的に連絡を取り合い、サポートを続けていると、小西さんは話す。

困難を抱える子どもたちの環境を変えるために

WorldFutの目下の目標は、カンボジアで支援している村にサッカークラブをつくることだ。小西さんが初めて現地へ行った2019年に、学校の校長先生に言われた「君たちのやっていることは遊びだ。子どもたちが本気でサッカーができる環境をつくってほしい」という厳しい言葉を発端に立ち上がったプロジェクトで、コロナ禍においても指導者探しなど少しずつ進めてきた。

「2021年に村の学校に赴任した新しい先生が指導者になってくれることが決まりました。すごく情熱的で、僕たちに対してもとても協力的なのですが、実はこの先生が、かつてWorldFutがサポートしていた小学生だったんです!こうして大人になった先生と一緒に活動に取り組んでいると、改めて継続することの大切さを実感しています」

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カンボジアで子どもたちにプロジェクト参加の呼びかけを行う小西さん(左)とWorldFutのメンバー(2019年)
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カンボジアではサッカー教室の他、子どもたちの夢を書いた風船を一斉に飛ばすという企画も実施(2019年)

一時は減ってしまったメンバーも新入生が加わり、現在(2021年2月時点)は60人のメンバーが所属するWorldFut。これまで15年続いた活動を次の代に受け継ぐためにも、「なんとしても2022年は現地に行って、直接子どもたちと触れ合う機会をつくりたい」と、小西さんの言葉に力がこもる。

大学卒業後はカンボジアに限らず、さまざまな理由から困難な状況に置かれている子どもたちの環境を変えるための活動をしたいと話す小西さん。

「大学受験の際、奨学金制度について調べていた時に、児童養護施設に入所している子どもたちの進学率が著しく低いことを初めて知り、自分が本当に恵まれた環境にいることに気付かされました。子どもたちが置かれている環境は、自分で望んだものではありません。この状況を変えるための活動や、さまざまな社会課題に取り組んでいるような企業や団体に就職できたらと思っています」

写真:ユニフォームを持つ小西さん
WorldFutでは年間ユニフォームスポンサーを募集している

設立以来、学生だけで活動を続けてきたWorldFut。現地で多くの実績を積む一方で、企業から協賛を集める際などは信頼を得にくく、「本当に活動しているのか」「学生に何ができるのか」と疑いの目を向けられることもあるという。そのために、一般の方に向けた定期的な活動報告会の開催やSNSなど使った情報発信にも積極的に取り組んでいる。

子どもたちの未来を思い、コロナ禍でも挫けることなく果敢に社会課題に取り組む若者たちを、ぜひ応援していただきたい。

写真:十河英三郎

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