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ハンセン病療養所のある香川県大島を「日本一輝く島に」! 2人の高校生が向き合う偏見・差別

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オンラインで取材に応じてくれたハンセン病問題に取り組むプロジェクトOの津田さん、平井さん
この記事のPOINT!
  • 高齢化が進む元ハンセン病患者。療養所の存続、差別の歴史をどう継承していくかが課題に
  • 香川県に住む高校生2人が、ハンセン病問題を風化させないための啓発活動に取り組んでいる
  • 同世代に向けて正しい知識を伝えていくことで、人権問題の解決につなげていく

取材:日本財団ジャーナル編集部

香川県高松市にある大島(おおしま)は、美しい瀬戸内海に囲まれた小さな島。海外からも多くの観光客が訪れる瀬戸内国際芸術祭の会場の1つでもある。

この島に、かつて90年にもわたる国の政策(※1)によって多くのハンセン病患者が強制隔離された国立ハンセン病療養所「大島青松園(おおしませいしょうえん)」がある。現在も45名(※2)の元患者が生活しているが、平均年齢は85歳を超え、施設の存続と、決して繰り返してはいけない差別の歴史をどのように継承していくかが課題となっている。

  • 1.らい予防法。ハンセン病 (らい) の発生を予防すると共に,患者の隔離,医療,福祉をはかり,それによって公共の福祉の増進に資することを目的とした法律。旧法(1907年)に代わって1953年に制定され、1996年に廃止された
  • 2.令和3年5月1日現在。厚生労働省調べ

「このままハンセン病の問題を風化させてはいけない」と、地元の高校生2人で構成された「プロジェクトO(オー)」(外部リンク)は、悲惨な歴史を持つ大島を「日本一輝く島にしたい!」という目標を抱き、“自分たちだからできること”を模索しながら、ハンセン病問題に関する人権啓発活動に取り組んでいる。

プロジェクトOのメンバーである津田真帆(つだ・まほ)さん、平井愛美(ひらい・あみ)さんに、活動を通して社会に伝えたい想いについて話を伺った。

地元の悲しい歴史を風化させたくない

「ハンセン病って、知ってる?」

当時、中学生だった津田さんがハンセン病のことを知ったのは、叔母さんからかけられた何気ないひと言がきっかけだった。

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ハンセン病問題に出合った時のことを振り返る津田さん

津田さん「学校で習ったこともありませんでしたし、叔母さんにそう聞かれて日本財団の笹川(ささかわ)会長のブログ(外部リンク)を読むまで、自分が住んでいる香川県に療養所があることも知らなかったんです」

このブログには、天皇(現在の上皇)陛下が笹川会長に対して、国内全14カ所(国立13、私立1)にあるハンセン病療養所のうち、唯一、高松市にある大島青松園へ訪問されていないことが心残りだと語ったことが記されている。

この出来事を境に津田さんはハンセン病に関する資料を調べ始め「同世代の若者に伝えるために、自分にもできることはないだろうか」と考えるようになったと言う。

津田さん「他にも社会問題はたくさんありますが、元ハンセン病患者さんやご家族に対する偏見や差別の問題は時間が迫っています。療養所に入所されている人たちの高齢化が進んでいる今、少しでも早くこの問題を解決して、残りの時間を安心して過ごしてほしい。そのためには、私たち若い世代が主体となって動かなければと思いました」

そんな津田さんが、1人で活動するのは心細いからと声を掛けたのが、バレーボール部のチームメイトでもあった平井さん。彼女自身も、津田さんに誘われるまでハンセン病についてほとんど知識がなかったと言う。

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大島の歴史を「なかったこと」にしたくないと語る平井さん

平井さん「津田さんに話を聞いて自分に何かできるんだろうと悩みました。でも、津田さんと一緒に初めて大島へ行った時に、海や自然の美しさに感動したんです。こんなに美しい場所や、そこに暮らす人たちが偏見や差別を受けるのは嫌だという思いから、私も一緒に活動することを決めました」 

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夕暮れに包まれる大島。写真提供:プロジェクトO
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本土(高松港)と大島をつなぐ連絡船「せいしょう」。写真提供:プロジェクトO

ハンセン病について学ぶために大島にある資料館に通い、ハンセン病に関する講演会にも積極的に参加したという2人。自ら療養所にコンタクトを取り、入所者の人たちから直接話を聞く機会もつくった。

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大島青松園で行われた講演会に参加した時の様子。写真提供:プロジェクトO

津田さん「皆さんから伺うお話は想像していたよりも衝撃的で…。自分だったらどうしただろうと考え込んでしまいます。講演会に参加するたびに新しいことを教わるので、まだまだ私たちが知らないことがたくさんあるんだなと感じます」

平井さん「療養所で暮らす人たちがこれまでに受けてきた偏見や差別の現状はほとんどが隠されていて、ご本人にしか語れないことがたくさんあります。私たちが簡単に伝えられるようなことではないけれど、このまま『なかったこと』にしたくないんです」

手描きマップ作りに島歩きツアー———自分たちにできることを

プロジェクトOが大切にしているのは、ハンセン病問題や療養所で暮らす人々を「身近」に感じてもらうこと。最初に取り組んだのは、手のひらサイズの手描きマップ「大島しまあるきMAP」の作成だった。

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プロジェクトOが手掛けた「大島しまあるきMAP」。写真提供:プロジェクトO

自分たちで考えたカエルのオリジナルキャラクター「せいぴょん」が、大島の歴史や島内のスポットを案内するこのマップには、子どもたちにも大島がどんな島かを知ってもらいたいという考えから、漢字には全てふりがなが振られている。

平井さん「せいぴょんは、大島の入口に置かれているカエルの石像と、青松園のシンボルの『墓標の松』がモチーフです。学生である私たちが直接案内するのは難しいけれど、手軽に持ち歩けるマップがあったら、これまで調べたことや思いを伝える手段になるのではと考えました。私たちがおすすめする海の絶景スポットも紹介しているんですよ」

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せいぴょんのモチーフになったカエルの石像「六蛙(むかえる)」。写真提供:プロジェクトO
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源平合戦に敗れた落ち武者を埋めた後に松を植えたと言われている大島のシンボル「墓標の松」。写真提供:プロジェクトO
 

2019年(中学3年生の時)には、マップを活用した大島の「しまあるきツアー」を開催。地元住民だけでなく中学校の同級生たちも積極的に参加してくれたのだとか。

津田さん「ツアーでは入所者の皆さんの講演会も行いました。学校ではいつもふざけているような友人たちも『すごく良かったよ』と言ってくれて、伝わったんだな、やって良かったなと思いました」

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「しまあるきツアー」に参加した同級生たちを案内する津田さん(中央奥右)と平井さん(中央奥左)。写真提供:プロジェクトO
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大島に訪れる観光客に手作りの「大島しまあるきMAP」を配る平井さん(左)と津田さん(真ん中)。写真提供:プロジェクトO

プロジェクトOの活動は、決して順風満帆だったわけではない。家族や療養所の人々をはじめ応援してくれる人がいる一方で、活動を始めた当初は理解や協力が得られない人も中にはいた。

また2020年初頭から現在に至るまで、新型コロナウイルスの影響によりツアーの開催はおろか、2人も大島に行くことが叶わない。壁にぶつかるたびに互いに励まし合い、いま自分たちにできることを考えながら、少しずつ活動を進めてきたという。

津田さん「コロナ禍で療養所の皆さんと直接会えない期間も、アンケートを通じていまのお気持ちを伺ったり、年賀状のやりとりをしたり、たくさん交流をしているんですよ」

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療養所の入所者の人々に実施したアンケートを見せてくれる津田さん

さらに、この期間にもできることがあるはず、と大人を対象にしたマップを作ることに。香川県在住の翻訳家・平野(ひらの)キャシーさんに協力してもらい英語版も作成した。

これは瀬戸内国際芸術祭で訪れる国内外の観光客向けに発案したもので、「次回は2022年の4月に開催されるので、たくさんの方に手に取ってもらえたらうれしいです」と2人は笑顔を見せる。

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写真左から、英語版のマップを作成する津田さんと平井さん、翻訳家の平野キャシーさん

偏見や差別をなくすために、進学しても活動を続けたい

津田さんは、コロナ禍を通じて改めて偏見や差別が身近な問題であることに気付いたと言う。

津田さん「ハンセン病の患者さんやご家族が受けたように、新型コロナウイルスに感染された方やご家族が、偏見や差別を受けているというニュースを聞いて、本当にこの現状をどうにかしなくてはいけないと思いました。実際に経験していない私たちは、いくら考えてもその本当の痛みや苦しみは分からないけれど、寄り添うことはできる。そして、私たちが同世代に向けて正しい知識を伝えていくことで、人権問題の解決につながっていくんじゃないかと思うんです」

現在2人は高校2年生。受験期間中は活動休止しなくてはならないが「大学進学後もプロジェクトOの活動を続けたい」と強い意志を見せる。

平井さん「同世代の人たちに伝えるために、インターネットを活用したいと思っていて。つい最近、学校の先生に協力していただいて、プロジェクトOの公式ホームページを自分たちで作成しました。今後は各地の療養所や支援団体と連携を取りながら活動の幅を広げ、発信する機会も増やしていきたいですね」

写真:プロジェクトOの公式ホームページについてオンライン取材で説明する津田さん
プロジェクトOの公式ホームページでは、ハンセン病問題だけでなく、大島の魅力も発信

津田さんは、日本の学校ではハンセン病だけでなく、国内外で起こっている多くの社会問題についてほとんど教えられないことを課題だとし、若い世代が社会課題を身近に感じられるようなプラットフォームも作りたいと話す。

津田さん「日本は海外と比べて、若い世代の社会問題への関心が低いというデータがあります。ハンセン病の問題のように、教わる機会がないからある意味仕方ないことかもしれないけれど、だからこそ、興味を持って知ろうとする姿勢が大切だと思います。私たちはそんな『知る』きっかけをつくっていければと思っています」

多様化する社会の中で、偏見や差別も複雑化している。自分はそうでないと思っていても、気付かぬまま誰かを傷つけている可能性を否定できる人はどれだけいるだろうか。

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プロジェクトOでは、せいぴょんのLINEスタンプ(外部リンク)も作成。その収益は活動費に充てている

まずは身近にある社会課題を知ることが大切だと、プロジェクトOの2人が教えてくれた。そのことが、元ハンセン病患者やその家族だけでなく、みんなが安心して暮らせる社会づくりにつながるはずだ。

プロジェクトO 公式サイト(外部リンク

プロジェクトO 公式インスタグム(外部リンク)

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