日本財団ジャーナル

社会のために何ができる?が見つかるメディア

自分でつくる「電気」。企業でもNPOでもない地域活動「藤野電力」が広める、持続可能な暮らしの知恵

写真
東京・六本木のアークヒルズで行われた藤野電力が主催する防災ワークショップの様子
この記事のPOINT!
  • 神奈川県藤野地区の地域活動「藤野電力」では、電気を自分の手でつくる防災ワークショップを実施
  • 大規模災害時、明かりを灯すだけでなく情報受信・発信など「電気」が有るのと無いのとで行動に雲泥の差が生まれる
  • 「普段から非常時でも使えるものを使う」「当たり前の大切さに気付く」ことが防災と持続可能な暮らしにつながる

取材:日本財団ジャーナル編集部

毎日の生活に欠かせないライフラインの1つ「電気」。何不自由なく電気を消費していた暮らしを大きく揺るがしたうちの1つが、2011年3月11日に起きた東日本大震災だ。

震源に近い東北地方では広範囲にわたって停電が発生し、福島原発事故の影響により首都圏でも電力不足が問題となり、以来エネルギーの在り方を見直す動きが高まっている。

神奈川県相模原市の藤野地区では、持続可能な社会を目指すイギリス発の市民運動「トランジション・タウン※」を実践する「藤野電力」(外部リンク)という地域活動に取り組んでいる。

  • 地域にある資源やそこに暮らす人々のスキル、創造力を最大限活用しながら持続可能なまちづくりを目指す市民運動
写真
イベント会場で再生可能エネルギーを供給する様子
写真
藤野地区で開催される人気の防災ワークショップ。受付開始後すぐに定員数を満たす

今回は、2021年12月に東京・六本木のアークヒルズで開催された出張ワークショップ(簡易版)の模様をお届けすると共に、防災における電気の重要性、持続可能な暮らしのヒントについて、講師を務めるプロジェクトリーダーの鈴木俊太郎(すずき・しゅんたろう)さんにお話を伺った。

災害時に知った電気のありがたみ

「東日本大震災では、私が暮らす相模原市も大規模な停電に見舞われました。夕方、家に帰ろうとすると町が真っ暗だったのを覚えています。コンビニも営業してはいるようでしたが明かりはなく、信号機も全て消えていて、ゴーストタウンのような光景に衝撃を受けました。ただそんな時、一つだけ照明が灯っていたのがわが家、それを見て心から安心しました」

震災当時のことを振り返る鈴木さんは、もともと電気の専門家ではない。DIYが好きで、車のバッテリー上がり(※)をなんとかしたいと思い、予防策として有効なソーラーパネルの設置の仕方を覚えた。震災を経て、周囲の人たちから「教えてほしい」という声が増え、勉強会を始めるようになった。

  • 電気不足に陥ってしまう状態
写真
東日本大震災当時の藤野地区の様子について語る鈴木さん

もともと都会からの移住者も多い藤野地区では、2009年より『トランジション藤野』という地域の資源を可視化し人のつながりをつくり、豊かに暮らすことを模索する活動が始まった。そして、地域通貨の活用や森の再生活動などに取り組む中で、3.11直後に有志のメンバーにより結成されたのが「藤野電力」となる。

「当初は、反原発とか反電力会社的な意見もありました。しかし、いったんそういう問題は置いといて、太陽光パネルを使って『自分たちで使う電気は自分たちでつくる』という試みを始めたんです。そしたら『これは面白い!』という声をたくさんいただきまして」

2011年の10月から本格的に活動をスタートさせた「ミニ太陽光発電システム」を組み立てる防災ワークショップ。参加者の中には、災害時においていかに電気が重要なのかピンと来ない人もいるという。

「経験がない人にはイメージしづらいのですが、停電時の真っ暗な中では体を動かすことすら難しい。明かりがあれば行動範囲も広がり、いろいろと対処ができます。また災害時に重要なのが、情報収集と発信。電気があれば、スマートフォンの充電ができますし、困った状況ならSNSなどでSOSを発信することができます。電気が有るのと無いのとでは、行動に雲泥の差が生まれるのです」

電気の仕組みを作りながら楽しく学ぶ

電気への理解を深められる防災ワークショップは、ミニ太陽光発電システムの組み立てと座学で構成され、体験コースと持ち帰りコースの2つが用意されている。

体験コース(1名税込5,000円)では、50ワットパネルなどを使って実際にミニ太陽光発電システムを作り、電工ペンチの使い方や組み立てに関する基礎技術を身に付けることができる。持ち帰りコースでは50ワットと160ワット、移動型モジュールの3つコース(1名税込3万7,800円〜5万9,800円)があり、自分で作ったミニ太陽光発電システムを持ち帰ることができる。

今回は体験コースに参加。まず座学では、発電の仕組みについても分かりやすく教えてくれる。

[基本となるワード]

  • 電圧…「電気を流す力」のことで単位はボルト(V)。水に置き換え、水圧で考えるとイメージしやすい
  • 電流…「電気の流れる量」のことで単位はアンペア(A)。水で例えると水流に当たる
  • 電力…電圧と電流をかけ合わせたもので単位はワット(W)。1ワットの1,000倍が1キロワット
  • 電力量…電力×時間で、単位はワットアワー(Wh)。60ワットの電球を2時間つけっぱなしにすると120ワットアワーの消費となる。電力会社は「使用量」としてこのワットアワーを用いる
写真
ミニ太陽光発電システムの組み立て方を記載した説明書

知っているようで知らなかった電気に関するワードや知識に触れるに連れ、好奇心が刺激される。

座学後は、学んだ知識を活かしながらミニ太陽光発電システムの組み立て作業に。完成すれば、ノートパソコンが4~6時間、蛍光灯形電球が10~15時間利用可能だ。

[使用機材]

  • 50ワットソーラーパネル
  • チャージコントローラー(蓄太陽光発電に用いる蓄電池充電システムに必要な装置。ソーラーパネルとバッテリーの間に接続することで放充電の管理をする)
  • インバーター(直流電流を交流電流に変換し、家庭用電気製品を使えるようにする装置)
  • バッテリー

これらを電工ペンチやドライバーを使って、配線コードでつなげていく。

作業は大きく3つのパートに分かれ、まずはソーラーパネルとチャージコントローラーを配線コードでつなげるところから始まる。これで、太陽光発電で生まれる電気を制御する(充電の量を満タンとそうでないときで変える)ことができるようになる。

写真
電工ペンチで配線コードの被覆をむく参加者の方

続いて、チャージコントローラーとバッテリーを接続すると、チャージコントローラーのランプが点灯し、バッテリーから電気を取り出せるようになる。最後に、バッテリーをインバーターにつなげて、ソーラーパネルに接続すれば完成。全体で1時間半ほどの作業だ。

写真
鈴木さんの電気の仕組みを教わりながら組み立て作業を行う参加者の方々

参加者からは、「キャンプが好きなので、いざという時のためにキャンプ用品をまとめたりしていますが、改めて見直して見ようと思いました」「自分の家で、電気が作れるってすごいと思います。いざというとき安心だし、知り合いにも伝えたいです」といった、防災への意識が高まったという声があった。

また「電気については、理科の授業の苦手分野だったのですが、今日みたいな講習を受けていたら印象が変わったかもしれない」といった声や「DIYの楽しさに目覚めました!簡単なものから作ってみるもの楽しいかも」「自宅の家電が故障したときは今日習った配線技術を活用して直してみます!」といった声も。ちょっとした感動体験が得られたようだ。

写真
完成間近のミニ太陽光発電システム。あとはソーラーパネルに接続するだけだ

2011年から10年以上にわたってワークショップを行ってきた鈴木さん。防災の中で大切なことの1つは、「日常生活でも非常時でも使えるものを用いる」ことだと語る。

「手回しのラジオや乾電池の備蓄ももちろん大切ですが、保存する期間が長すぎて使えなかったというケースもあります。いざという時のためではなく、非常時でも普段の生活でも使えるものの方が安心だし、役に立ちますよね」

写真
取材に協力してくれた参加者の方々。とても楽しく学びの多い経験になったと語る

日常の「当たり前」から外に出てみる

鈴木さんに、藤野電力の展望を尋ねると「今はコロナ禍なので難しいですが、国内の電気について学ぶワークショップに加えて、アフリカなど、そもそも電気がない地域でのワークショップも積極的に開いていけたらと考えています。電気があることで、生活レベルが上がりますし、情報へのアクセスや学びの機会も格段に増えると思います。電線を引くのは莫大な費用がかかりますが、太陽光パネルは簡単に設置ができますからね」と、国内だけでなく海外の途上国でも電気に関する知識や技術を広めていきたいと話す。

写真
アフリカで行った「ミニ太陽光発電ワークショップ」の様子(2017年)
写真
太陽光発電システム作りに熱心に取り組むアフリカの子どもたち(2017年)

また、持続可能な暮らしについてアドバイスを伺うと、「いま、自分が暮らしている環境から出てみることです」と鈴木さん。

「都会で暮らしている人が、週末、一週間だけ田舎で暮らしてみるのもいいのではないでしょうか。都会と違い田舎って自然が強いし、自分が動かないといけない機会がとても多いんですよ。家を維持するのですら一苦労です。あとは、夜が本当に暗い。都会では、完全な闇なんてほぼないし、ヘッドライトを付けないと何もできない経験なんてないですよね。実際に、真っ暗な夜がどんなものなのか体験するだけでも、多くの刺激が得られると思いますよ」

写真
持続可能な暮らしのヒントについて語る鈴木さん

いつも使っているけど、知らないことが多かった電気のこと。まずは「当たり前」の大切さに気付くことが、心をより豊かにしてくれると同時に、災害に強い暮らしを実現するのだと感じた。

撮影:十河英三郎

藤野電力 公式サイト(外部リンク)

  • 掲載情報は記事作成当時のものとなります。
関連タグ
SNSシェア