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【子どもたちに家庭を。】法改正後に見えてきた特別養子縁組の新たなステージの課題
- 里親・養子縁組制度は「子どものためにある」という社会全体での認知が不足
- 「特別養子縁組」にも縁組成立後の継続したサポートが必要
- 「子どもの福祉」で遅れをとる日本。安心して子どもを産み、育てられる社会に
取材:日本財団ジャーナル編集部
親の病気や離婚、虐待などさまざまな事情で親と離れて暮らす子どもたちを家庭に迎え入れる「里親・養子縁組制度」。日本は、主要先進国の中でもその普及が立ち遅れている国だ。
しかし2020年に民法が改正され、法律的に養子となる子どもと実の親子に近い関係を結ぶ「特別養子縁組制度」の対象年齢が「6歳未満」から「15歳未満」へと引き上げられた。養親の手続きにかかる負担も軽減され、制度利用の機会が拡大したと言える。
また、2022年4月より不妊治療が公的医療保険の対象となる。この動きと連動し、厚生労働省の主導のもとで、不妊治療を行う夫婦に対して里親・養子縁組制度に関する情報提供を強化することも決定。実子を産む以外にも子どもを育てる方法がある、と周知を図るのと同時に、社会的養護を必要とする1人でも多くの子どもが家庭で育つ機会が得られるよう目指している。
以前の記事(別タブで開く)で触れた日本において里親・養子縁組制度の普及が遅れている問題は徐々に改善され、制度に対する認知も高まりを見せつつある。一方で、特別養子縁組制度について、これまで可視化されてこなかった問題が浮き彫りになってきた。
新たなステージに立った、特別養子縁組制度が解消すべき課題とは?
里親・養子縁組制度の推進を図る「子どもたちに家庭をプロジェクト」(外部リンク)を担当する、日本財団・国内事業開発チームの新田歌奈子(しんでん・かなこ)さんに話を伺った。
里親・養子縁組は「子どものため」の制度
民法改正により、特別養子縁組制度の対象年齢が15歳未満へと引き上げられた意義は大きい。
「養親が親権者となる特別養子縁組と違い、里親制度は実親が親権者となります。そのため、生みの親の同意が得られないという理由で里親養育となり、年齢が6歳を越えてしまって特別養子縁組に至らなかったケースは少なくありません。なので、15歳未満まで対象年齢が上がれば、それだけ家庭に迎えられる機会が増える。これはとても意義のあることだと思います」
そう新田さんは話す。不妊治療を行う夫婦に里親・養子縁組制度に関する情報提供を強化することも、特別養子縁組の機会を増やす上で同様の意義がある。この背景には、不妊治療を経た後に子どもを持つ最後の手段として特別養子縁組を望むケースがほとんど、という理由がある。
ただし、里親・養子縁組は子どもを育てたい親のための制度ではなく、「保護を必要とする子どものため」の制度である、という正しい理解を促すことが重要であり、課題とも言える。
「子どもが健やかに育つためには、安定した生活がとても大切です。特定の大人に受け入れられ、安心できる関係を築くことが自己肯定感を育む助けにもなります」と新田さんは語る。
国連のガイドラインでも、生みの親の家庭に復帰することができない場合、養子縁組をして継続的な関係がつくれる家庭に入ること、それが難しいときには里親のような環境で育つことを目標としている。
特別養子縁組家庭にも、継続的な相談・支援体制の拡充を
前向きな変化が起きてきたからこそ、浮かび上がってきた課題。中でも特別養子縁組は、国・自治体・NPOなど社会をあげて注視し、サポートしていく必要がある、と新田さんは言う。
というのも、2017年に厚生労働省から発表された「新しい社会的養育ビジョン」(外部リンク/PDF)では、5年間で3歳未満の里親委託率を75パーセント、7年間で未就学児の里親委託率75パーセントを目指す、という具体的な数値目標が示された。このことで里親制度に関わる動きは活性化しているが、特別養子縁組はやや立ち遅れている傾向があるからだ。
「里親制度には、里親手当と養育費という国からの経済的補助がありますし、子どもを養育している里親が休息を取れるよう、一時的に子どもを預けることができるレスパイト・ケアというサポートもあります。里親家庭同士の交流会なども設けられ、悩みを相談する場も見つけやすい。その一方で特別養子縁組制度は、子どもがその家庭に入った、という扱いになるため、成立後の公的な支援がないのが現状です」
「また、児童相談所ではなく、養子縁組あっせん団体を通じて子どもを迎える場合、あっせん手数料が発生します。これには妊娠したものの事情によって子どもを育てられず、養親に托す決意をした生みの母が安全に出産を迎えるためにかかる費用も含まれます。しかし、数十万から数百万円まであっせん団体によって幅があります。養育に関わる手当が出ないことも踏まえると、養親の負担は軽くないと言えるでしょう。また、養育が始まってからは、子どもの出生について本人に知らせる『真実告知』の義務も発生します。これは養子の『出自を知る権利』を守り、アイデンティティを形成する大切なプロセスですが、うまく伝えることができずに悩む養親がいる一方、いつ・どういう形で知らせるかは親任せになってしまっている現状もあります」
熱心に養親を支える児童相談所や養子あっせん団体もあるが、どうしても地域差・団体差に左右されやすい。どこでも一定のサポートが得やすい里親と比べると、現状は特別養子縁組の養親の負担が高くなりやすい懸念がある、と言えるだろう。
「養子縁組の成立がゴールではありませんから、継続的な相談支援体制が必要だと思います。せっかくできた制度が “仏作って魂入れず” にならないよう、これらの課題を一緒に解決し多くの人が利用できるよう、私たちも支えていかなくてはいけないと考えています」と新田さんは話す。
「子どもの福祉」に遅れをとる日本。どう変わるべきか
特別養子縁組が抱えるこういった問題のうち、経済的な一助として、国は2020年より「養子縁組民間あっせん機関助成事業」を実施。国と都道府県が半分ずつを負担する形で、養親が民間あっせん団体に支払う手数料の助成を行っている。
東京都(外部リンク)を例に上げると、1人(世帯)当たり40万円を上限とした実費が補助される。しかしこの助成には地域差があり、都道府県に予算がない場合は実施できない。そのため、住んでいる場所によって助成の可否に差が出てしまう問題がある。
参考までにお隣り、韓国では養子縁組家庭の経済的サポートに取り組んでおり、養子が12歳まで月15万ウォンの「養育手当」を国が支給。さらに子どもの心理的な治療費を含めた医療費支援のほか、子どもに障害がある場合は症状に応じた養育補助金及び医療費まで別途支給される。
「仮に児童養護施設で0歳から18歳まで子どもを育てた場合、1人当たり5,000万~1億円かかるという試算があります。対して、里親養育にかかる経費は約3,000万円(※)。それであれば、里親同様に特別養子縁組の養親にも手当を支給していけば、家庭で育つ子どもが増やせると同時に公的支出も減らせます。今後はそういった方法も検討の余地があるのではないでしょうか」
- ※ ※親が育てられない子どもに家庭を!里親連絡会 参考資料(外部リンク/PDF)より
そもそも日本は「子どもの福祉」自体が遅れていると指摘する新田さん。例えば、イギリスやフランスでは、妊娠検診や出産が基本的に無料となり、母子世帯に対する生活費・教育費にまつわるサポートも充実している。
「本来は生みの親が子どもを育てられるのが一番ですから、そこに対して、社会保障制度が早期介入していくんです。日本でも、民法改正や里親・養子縁組制度の周知を図る国の取り組みは、前向きな変化とみられますが、こういった母子を守る社会保障制度をもっと充実させるべきではないかと。日本には経済的な理由で子どもを育てられない親も一定数います。日本財団ではこの状況を変える働きかけも行っていきたいと考えています」
GDPの約3パーセントを子ども関連に支出するイギリスやフランスと比較し、1パーセント台にとどまったままの日本。安心して産み、育てられない社会、子どもが幸せになれない社会に豊かな未来があるのか、私たち一人一人が真摯に考えなければいけない。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
新田歌奈子(しんでん・かなこ)
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院卒業後、2014年より日本財団に入職。2018年、日本財団「ハッピーゆりかごプロジェクト」(現:子どもたちに家庭をプロジェクト)のメンバーに加わり、生みの親と生活することが難しい子どもも温かい家庭で暮らすことのできる社会を目指す特別養子縁組や、里親の制度を推進するべく活動を行っている。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。