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【増え続ける海洋ごみ】望むのは「作品が作れなくなる社会」。アーティストしばたみなみさんが廃品アートに込めた想い
- モノで溢れた現代社会。まだ十分使えるものでも「ごみ」として捨てがち
- しばたみなみさんは廃品(海洋ごみ)を使ったアートで「モノにも命があること」を伝えている
- いつか海からごみが無くなり、作品が作れなくなる日を願いながら活動を続ける
取材:日本財団ジャーナル編集部
「ごみで作品を作っているの?」
活動を始めてから幾度となくこのような言葉を耳にし、違和感を感じたと語るのは、地元・福岡で、海で拾った廃品(プラスチックごみなど)を素材に創作活動を行うアーティストのしばたみなみさん。2013年に参加した福岡・今津海岸での清掃活動で、いわゆる「海ごみ」であふれる地元の海の現状を知り、環境問題をテーマにした作品を作り始めた。
2019年より日本財団と環境省が実施する、海洋ごみ対策の優れた取り組みを表彰する「海ごみゼロアワード」(外部リンク)2021年度では、環境大臣賞を受賞。「作品がごみではなく、新しい命として認められたんだ」と喜びを語るしばたさんに、「ごみ」ではない廃品たちへの思い、作品を通して伝えたいことについて伺った。
本当にそれって「ごみ」ですか?
福岡県に生まれ、子どもの頃から図工や美術など、手を動かし何かを作ることが大好きだったと語るしばたさん。そんな彼女が、海洋ごみ問題と初めて向き合ったのは2013年のことだった。
「当時私はよく絵を描いていたのですが、テレビのチャリティー番組で、福岡の今津海岸のビーチクリーン活動が紹介されることになり、そのためのポスターを描いてほしいという依頼がありました。せっかくなので私も活動に参加してみたのですが、そこで大きな衝撃を受けました。子どもの頃から親しみがあり、きれいと思っていた海に流れ着いていたのは、大きな冷蔵庫に浴槽…。こんなものがどうしてここにあるの!と驚いたのを覚えています。他にも中国語やハングル文字が印刷されたお菓子袋など、思いもしないものが流れ着いていました」
また別の清掃活動に参加した際には、捨てられた水着や放置されたバーベキューコンロなども見つかった。
「持って帰って、きれいに洗うのは手間が掛かる」「安価だし、新しいものを買ったほうが便利だから」。そういった理由で捨てられたものではないかと、しばたさんはショックを受けた。また同時に、これまできれいに清掃してくれていた人たちがいたんだということに感謝の思いが湧き、「自分にも何かできないか?」と考えるようになったという。
「私は話をすることよりも、作ることの方が得意なのでアートを通して、海をきれいにしてくださっている方々への感謝と、海に捨てられたモノや流れ着いたモノに関心を持ってもらい、『モノにも命がある』ということを伝えたかったんです」
数年にわたる構想とインプットの期間を経て生まれたのが、海で拾った廃品を使ってアート作品を作る「ORINASU スクラップでビルド」(外部リンク)という取り組みだ。海洋ごみと言われる廃品に新しい命を吹き込むというものだ。
材質の異なる素材を組み合わせる際には、江戸時代中期より東北地方に伝わる、使わなくなった衣類や布団などの布を裂き、細い繊維状にして、紙縒り(こより)のようにして織り上げる「サキオリ」と言う技術が使われている。
「もともと海外のお菓子のパッケージなど何か使えるんじゃないかと収集するクセがありまして(笑)。海で廃品たちを見た時も、これで何か新しいものを生み出せるのではないかと思いました。みんなが『ごみ』というものにも、それぞれのストーリーがあると思うんです。私の作品を通して、廃品を違った角度から見てもらうことで、モノの背景について思いを馳せてもらえるとありがたいですね」
くじらにハート…。廃品で出来たアートが語ること
実際にしばたさんの作品にも触れていきたい。最初に紹介するのは、展示会で公開された大きなクジラのアートだ。
「今津海岸で拾った廃品を使っているので、『今津のクジラ』といいます。制作には2カ月ほどかかりました。私は、抽象的な作品とキャラクター作品を作ることが多いのですがこちらはキャラクターものですね。全体的に青い色を取り入れているのですが、よく見るとバケツの取っ手や日焼け止めのキャップ部分、釣り竿の一部など、どんなものが海岸に落ちていたのか分かるようになっています」
まさに命を吹き込んだという作品『ハートランプ』は、ビニール袋やペットボトルなどが素材に使われている。本体に付いている聴診器を胸に当てるとハートが点滅する仕組みになっている。「廃品が新たな命を得て蘇る。そんなふうに感じてもらえるとうれしいですね」としばたさん。
一見、可愛いらしいビジュアルのくじらやハートもよく見れば、一般的に「ごみ」と呼ばれる廃品で出来ている。そして、それらは私たちが日常生活で使っているものに違いないのだ。しばたさんの作品は、見る者に大量生産・大量消費の社会の在り方に疑問を感じさせる。
「見てもらうだけでなく少しでも実体験してほしくて、中に入れる作品を作りました」という『iroiro交差点』は、ヨットのポールや帆、ビニールハウスの支柱などで組み立てられた箱の中に、海で拾った廃品で作られた色とりどりの作品が装飾されている。
「私の活動は、地域の方々やいろんな方の協力があって成り立っているものです。みんな取り組み方は違うけど、きれいな海を守りたいという向かう先(未来)は同じ。みんなのいろいろが重なり合い交差する場所ということで『iroiro交差点』と名付けました」
作品を作る上でしばたさんが大切にしていることは、ぞれぞれの素材が持っている形や質感を損なわないようにすること。廃品そのものを楽しんでもらい、どうやって海にたどり付いたものなのかなど、考えるきっかけをつくるように努めている。
個展やイベントなどに出展した際には、海で拾った廃品や家庭で不要になったモノで作品を作る工作教室(ワークショップ)も行っている。
「得意な子はもくもくと、苦手な子は悩みながらも楽しそうに作ってくれます。中には、親御さんの方が熱中しているケースもありますね(笑)。参加した子どもたちが、『ごみ』というワードを避けて『漂着物』と言い直してくれたりするときは、本当にうれしいですね。目をキラキラさせながら作品を発表する姿を見ると、この活動をやっていてよかったなとつくづく感じます」
「材料が無くなり、昨品が作れない」日を夢見て
2021年度の「海ごみゼロアワード」において、数多くの応募者の中から環境大臣賞に選ばれたしばたさん。受賞の感想についても話を聞いた。
「『モノにも命がある』という思いで、作品を作り続けてきました。一方で、心のどこかで『自分がこれまでやってきたことは意味があることなのか?』と考えているところもあったんです。今回の受賞でそれが認められたのだと、うれしくて涙が出ました」
今後の目標については、「太平洋にプラスチックが集まったごみの島があると耳にしました。日本から流れ出てしまった廃品たちを、迎えに行ってあげたい」と語る。「拾いに行く」ではなく「迎えに行く」という表現に、したばさんのモノへ愛着が伝わってくる。
「『ちりも積もれば山となる』ということわざがありますが、その逆も然りだと思うんです。『海ごみ』というと大きな問題のように感じられ、自分一人が何かしても意味がないように感じがち。ですが、この問題は一人一人の心がけ次第で変わってくるものだと思うんです。海に行って現状を見て、手元にあるものを大切に、長く使う心を持ってもらえるとうれしいですね。そして、いつか海がきれいになって私が作る作品がなくなることを願っています」
以前に、街でごみ拾いをするボランティアの方たちから聞いた話の中で「ごみは現代社会を映し出す鏡」という言葉があった。
モノで溢れた現代社会。ここでは、多くの人が新商品や流行品を追い、少し欠陥や故障があると十分使えるものでも「ごみ」として捨てられがちである。しばたさんの作品たちは、そんな社会のあり方を静かに問いかけ続ける。
写真提供:しばたみなみ
【『海ごみゼロウィーク2022(秋)』開催。参加者募集中!】
9月17日(土)「World Cleanup Day」から9月25日(日)までは『全国・秋の海ごみゼロウィーク』です。海のために今、できること。身近なところから始めてみませんか。全国一斉清掃キャンペーンを実施します。
※上記は強化期間です。この期間以外で開催される清掃活動に対してもごみ袋を配布します。
参加申込みはこちら(外部リンク)
〈プロフィール〉
しばたみなみ
福岡出身。子どもの頃から図工、美術、技術など創作する時間が好きで工業高校の建築科に進学、卒業後は設計の道に進む。設計士と両立しながら、福岡のアーティスト事務所にスタッフとして参加。その経験をきっかけに2013年から自身も創作活動を始める。2017年より地元・福岡に作業場を構え、今津の海で環境活動に勤しみながら海で見つけた廃品を使って作品を作る中で「ORINASU スクラップでビルド」が誕生。絵を描き、布を織り、木を削り、土を練り、日々制作と模索を続けている。
ORINASU スクラップでビルド 公式サイト(外部リンク)
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