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「海洋ごみ問題」の解決に必要な発想・視点。時事Youtuberたかまつななさんと語る
- 世界では毎年800万トンものプラスチックごみが海に流出。東京スカイツリー200本分もの量に値する
- 海洋ごみの問題は、製品の企画・開発段階から処分までの一連の流れをとらえると対策が進む
- 海洋ごみ然り、社会課題を解決するためには正しい知識と複合的な視点が大切
取材:日本財団ジャーナル編集部
2016年に世界経済フォーラム(ダボス会議)が発表した報告書によると、世界のプラスチック生産量は1964年から2014年までの50年間で20 倍以上に増加。毎年約800万トンのプラスチックごみが海洋に流出していると推計され、このままでは2050年の海は魚よりもプラスチックの量(重量ベース)が多くなると言われるほど問題は深刻化している。
プラスチックごみの7〜8割は、陸から発生したもの。街中で捨てられたり、放置されたペットボトルやビニール袋といったプラスチック製品が、水路や川を伝って海まで流れ出てしまうのだ。
そんな私たちの暮らしに直結している海洋ごみの問題について、YouTubeや出張授業などを通して、子どもたちを取り巻く社会課題の解決に取り組むたかまつななさん(外部リンク)と日本財団の海野光行(うんの・みつゆき)常務理事が対談。社会課題を解決するために必要な視点や行動について語り合っていただいた。
製品の企画・開発段階から処分までの一連の流れをとらえる
海野さん(以下、敬称略):たかまつさんは、海洋ごみの65パーセント以上をプラスチックごみが占めることをご存じですか?世界各国で毎年800万トン以上のプラスチックごみが海に流出していて、強いて例えるなら東京スカイツリー(約4万トン)の200本分もの量に値するんです。
たかまつさん(以下、敬称略):海洋ごみの問題は、私も学校への出張授業で取り上げることがあるんですが、初めて知った時は驚きました。衝撃的な数字ですよね。いま学校で行われているSDGsの授業の中でもマイクロプラスチック(※)や海洋ごみについて触れられているので、子どもたちの間では問題認識が広がっているんじゃないかなと。もっとも身近な社会課題の1つと言っていいかもしれませんね。そもそも、これは私たち大人に責任があると感じています。ごみを気軽に捨ててきたことで海が汚れてしまい、結果的には、未来の大人である子どもたちにツケが回ってしまっている。
- ※ 極小のプラスチックで、広く使われている定義では直径5ミリメートル未満のプラスチックのことを指す
海野:海に流れてしまったプラスチックの中には、600年以上も形を保ったまま漂い続けるものもあります。つまり、その間海は汚れっぱなしということです。そう考えると、私たちの子どもだけなく孫、ひ孫、さらにその先の世代にまで悪影響を及ぼすことになってしまう。だから、たかまつさんのおっしゃるとおり、先の世代のことを見据えて、いまできることに取り組み続けて行くことが大事ですよね。
たかまつ:そのためには、まず正しい知識を身に付けることが重要だと思います。そもそも「海洋ごみはどこからやって来るのか」を知る。そして「脱プラ(※)」という言葉があるように、なるべくごみを出さない生活を心掛ける。ごみが海にたどり着かないような仕組みを考えたり、ポイ捨てしないための対策を講じることも必要だし、いまは善意のある人たちがごみ拾いをしてくださっていますが、善意にだけ頼るのではなく、そこにお金が回るようにしていくことも必要かもしれません。
- ※ 脱プラとは、プラスチックの利用をやめること。プラスチック製品の使用をやめたり、製品に使用するプラスチックを他の素材に替えたりする活動を指す
海野:確かに。海洋ごみの問題は、製品の企画・開発段階から処分までの一連の流れをとらえると対策が進みやすくなりますよね。
たかまつ:1つのアクションだけにフューチャーしてしまうと、そのアクションがどこにつながっていくのか分からないままになってしまう。自分がプラスチックごみを出さない生活をしても、ごみを捨てる人が減らなければ何も変わりません。また、ごみをとにかく焼却処分すればいいのかというと、今度は温暖化問題も絡んでくる。だから、正しい知識を身に付けて、物事を複合的に見ていく視点を養わなければいけないんじゃないかなと思うんです。
海野:そういった海洋ごみの問題を国民の一人一人が自分ごと化し、社会全体の意識を高めるため、産官学民で取り組む「海と日本プロジェクト・CHANGE FOR THE BLUE(チェンジ・フォー・ザ・ブルー)」(外部リンク)という活動に、いま取り組んでいるんです。
例えば、海洋ごみ対策の広域モデルをつくる目的で、瀬戸内海に面する岡山、広島、香川、愛媛の4県と手を組み、瀬戸内海の海洋ごみの削減を目指す「瀬戸内オーシャンズX」(外部リンク)という共同事業を2020年にスタート。4県の海洋ごみ発生源調査を行い、データを収集して、瀬戸内海の中でも海洋ごみが多いエリアを明らかにし、どこにどんな人材を当てて、どこにお金をかけ、政策もどのように変えていくべきかを地元の企業や団体と連携しながら試行しています。
たかまつ:やはり個人でできることには限界があるので、自治体を巻き込み、ごみの発生源調査から政策実現のことまで取り組むことは、社会を変えるアクションとしてとても重要なことだと思います。
海野:はい。有限である資源を効率的に利用すると共に、持続可能な利用(リサイクルなど)を行う循環型社会の形成を見据えた「瀬戸内モデル」を完成させて、世界に拡大していけたらと。
柔軟な発想でより多くの人に理解と参加を促す
海野:より多くの人に海洋ごみの問題を知ってもらい、参加してもらうためには「エンターテイメント」も重要な要素だと思うんですね。例えば、海ごみの清掃活動を行うNPO団体(別タブで開く)の中には、RAPイベントや相撲イベントと融合したごみ拾いを実施し、毎回多くの参加者を集めているところもあります。
また、私たちもコスプレイヤーさんとコラボレーションした一斉清掃活動イベント(外部リンク)を企画しました。コスプレイヤーさんの皆さんは美しい映える場所で写真を撮りたいという気持ちが強い分、環境問題に敏感な人が多いんですよ。しかも発信力もあるから、SNSを使って海洋ごみ問題をどんどん広めてくれる。
たかまつ:私が掲げている「お笑いで世界を変える」という理念に共通するものがあるように感じます。やはり社会問題とエンターテイメントを絡めると、若い世代にも響きやすいと思います。
海野:そう、若い世代のマインドを変えるためには「エンターテイメント」は重要なキーワードかもしれません。以前、「リトルマーメイド」のキャラクターに扮した海外の有名コスプレイヤーが、ごみだらけの海岸で寝そべっている写真をSNSで公開したところ大きな反響があり、ニュースでも取り上げられたことがありました。そして、それを見た日本のコスプレイヤーの中には、「自分たちにもできることがあるんじゃないか」と海洋ごみを拾う活動を始めた人も。2019年6月8日の「世界海洋デー」に東京タワーで実施したごみ拾いイベント「コスプレde海ごみゼロ大作戦!in東京タワー」(別タブで開く)にもたくさんの方が参加してくれました。そんな風に発信力のある人が、エンターテイメントと絡めて社会問題を広めてくれると、より多くの子どもや若者に刺さるかもしれませんね。
海野:ところでたかまつさんは、社会活動に取り組まれていて疑問や虚しさを感じることはありませんか?自分がいくらごみを拾っても全く減らないのではないか、というような。
たかまつ:それは海洋ごみの問題に限らず感じますね。ただ、ごみ拾いを一度経験すれば、その後も拾い続けるかは別として、捨てることはしなくなると思うんです。「何でこんなにごみが落ちてるんだろう」と疑問を感じれば、自分は捨てなくなる。そういう体験をしたことがある子どもが増えれば、結果的にごみが減るかもしれません。それに、ごみ拾いをすれば、誰かに「ありがとう」と感謝してもらえることもあります。その「ありがとう」の言葉がすごく大事で、子どもの自己肯定感を高めたり、承認欲求を満たしたりすることにつながりますよね。それはつまり社会のためでもあり、自分のためでもある。そういう体験を通して海洋ごみ問題に取り組む人が増えたらいいなと思います。
海野:子どもの頃に積む経験はとても大切ですよね。先ほどたかまつさんがおっしゃったように、いまの子どもたちは学校の授業で習うこともあり、想像以上に海洋ごみの問題に詳しい。大人以上に知識を持っている子もいます。そういう子どもたちはみんな、「ごみをなくすためには何をすればいいのか」を一生懸命考えていて、以前、彼らを対象にした海洋ごみ対策のコンテストを開催したことがあるんです。具体的には、街のごみ回収率を向上させるべく、誰もが思わず捨てたくなるような「ごみステーション」のアイデアを募集するものなんですが、面白いアイデアがたくさん集まりました。
たかまつ:子どもの柔軟な発想から生まれるアイデアって、大人の私でも想像がつかないものもありそうです。
海野:そうなんですよ。ある少女は「しゃべるごみ箱」を発案しました。そのごみ箱の前を通ると、「お兄さん、お姉さん。ごみを捨てませんか?どうぞどうぞ」と声をかけるんです。そうやって街からごみをなくしたいと。とても面白くて可愛らしいアイデアですよね。
たかまつ:ユニークでとても可愛い発想ですね。
海野:他には「ごみ拾いを資格制度にしたい」と考えている子もいました。その子とは「それなら学校を作ってしまえばいいかもしれないね」なんて話をして。でも、可能性としては十分にあり得るアイデアだと思うんです。そういう子どもたちのアイデアが実現できるよう、機会を提供したり導いてあげたり、それが私たち大人の役割なんだと思います。
社会課題の解決には、正しい知識と複合的な視点が必要
たかまつ:いま、SDGs関連の講演などでいろんな企業に呼ばれることが多いんです。その際に、「エコバッグを作ったので、プレゼントします」と言われることも多く…。エコバッグをたくさん作ることって少しSDGsに逆行しているとも思うんです。作るまでにはさまざまな工程がありますし、ただ作ればいいというものでもないですよね。そもそも社員の方は全員使っているのか、使っていないのだとしたら意味がない。そういうことも含めて、消費するとはどういうことなのか、企業の方も見直していかなければいけないと思うんです。海洋ごみの問題と一緒で、正しい知識を身に付け、複合的な視点で捉えていく必要があると。
海野:おっしゃるとおりですね。今回、たかまつさんとお話しして、腑に落ちることがたくさんありましたし、日本財団としてもお力を借りたいくらいです。たかまつさんが正しい知識を子どもたちに広げていってくださる活動も応援しています。
たかまつ:はい。世の中を変えていくことは大事なことです。ですが私は、その先のことも考えていきたいと思っています。社会が良い方向に変わっても、少なからず困る人たちが出てきます。雇用の問題などがまさにそうですよね。だからこそ、社会はなかなか変われない。であれば、変化の先に生まれる問題を解決するために政策を考えたり、国際的なルールを見直したりする必要があると考えています。
撮影:十河英三郎
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5月30日「ごみゼロの日」、6月5日「環境の日」、6月8日「世界海洋デー」の3つの記念日を含む5月28日(土)~6月12日(日)の期間を『春の海ごみゼロウィーク』とした、全国一斉清掃キャンペーンを実施します。あなたも海のために今、できること。身近なところから始めてみませんか?
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〈プロフィール〉
たかまつなな
1993年神奈川県横浜市生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶ SDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。大学生時代に、フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてデビューし、「エンタの神様」「アメトーーク!」「さんま御殿」などに出演、日本テレビ「ワラチャン!」優勝。 さらに、「朝まで生テレビ」「NHKスペシャル」などに出演し、若者へ政治意識の向上を訴える。
たかまつなな 公式サイト(外部リンク)
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海野光行(うんの・みつゆき)
1990年に日本財団に入職。日本財団常務理事、海洋事業部を統括。「次世代に豊かな海を引き継ぐ」をテーマに「海と日本プロジェクト」などのさまざまな事業を展開。国内外における、政府、国際機関、メディア、企業、大学、研究機関、研究者、NPO・NGO等とのネットワークを駆使してソーシャルインパクトを生み出し、地球環境問題をはじめ、海洋において国際的なイニシアティブを発揮できるよう、新しい時代を創るプロジェクト開発や戦略的パートナーシップの構築を進めている。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。