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海の問題を自分ごとに。時事Youtuberたかまつななさんと語る、子どもたちの「学び」

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時事Youtuberで笑下村塾代表取締役のたかまつななさん(右)と日本財団の海野光行常務理事
この記事のPOINT!
  • 「1年間に1度も海に行ったことがない」10代は4割以上と、子どもの海離れが深刻に
  • 海と触れ合い、体験することで、その価値と共にいま起きている問題を学ぶ
  • きれいな海を奪ってしまうことは、「未来の子どもたちの人権問題」でもある

取材:日本財団ジャーナル編集部

選挙権や成人年齢の18歳への引き下げを踏まえ、高校では2022年度から政治や社会への関わり方を学ぶ新科目「公共」が必修となった。国や社会の問題を自分ごととしてとらえ、行動することを促す資質や能力を育成することが狙いだ。

一方で、日本財団が2022年1~2月に日本、米国、英国、中国、韓国、インド6カ国の若者を対象に実施した18歳意識調査「国や社会に対する意識」(別タブで開く)では、「自分は責任ある社会の一員だと思う」と答えた日本の若者は48.4パーセント、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」は26.9パーセントと、いずれも6カ国中最下位という結果に。

18歳意識調査「国や社会に対する意識」アンケート結果を示す横棒グラフ:
・自分は大人だと思う
日本27.3%
アメリカ85.7%
イギリス85.9%
中国71.0%
韓国46.7%
インド83.7%

・自分は責任ある社会の一員だと思う
日本48.4%
アメリカ77.1%
イギリス79.9%
中国77.1%
韓国65.7%
インド82.8%

・自分の行動で、国や社会を変えられると思う
日本26.9%
アメリカ58.5%
イギリス50.6%
中国70.9%
韓国61.5%
インド78.9%

・国や社会に役立つ事をしたいと思う
日本61.7%
アメリカ73.0%
イギリス71.2%
中国82.1%
韓国75.2%
インド92.6%

・慈善活動のために寄付したい
日本36.2%
アメリカ66.7%
イギリス69.5%
中国78.9%
韓国62.4%
インド83.7%

・ボランティア活動に参加したい
日本49.7%
アメリカ70.4%
イギリス64.2%
中国85.3%
韓国70.7%
インド78.1%
自身と社会の関わりについて、上記の全ての項目で日本は6ヵ国中最下位となった(各国n=1,000、各項目に「はい」と答えた人の割合)

今回は、「未来の子どもたちにツケを回さない」を信念に、YouTubeや出張授業などを通して、子どもたちを取り巻く社会課題の解決に取り組むたかまつななさん(外部リンク)と日本財団の海野光行(うんの・みつゆき)常務理事が、「教育」をテーマに対談を行った。

海洋酸性化や水産資源の枯渇、気候変動による夏の猛暑や台風の大型化による大規模災害など、海と関連する多くの問題が、私たちの生活によって引き起こされている。日本財団では、多くの人にとってこの問題を知り自分ごとにするために、2016年より「海と日本プロジェクト」(外部リンク)をスタート。前回の記事(別タブで開く)で触れた海洋ごみの増加をはじめ、子どもたちを中心に海の問題解決に向けたアクションの輪を広げる活動に取り組んできた。

この活動を踏まえながら、海野常務とたかまつななさんに、日本の未来を担う子どもたちが、社会課題を自分ごと化し自ら行動するためにはどのような学びや取り組みが必要なのか、語り合っていただいた。

10代の4割以上が「1年間に1度も海に行ったことがない」

たかまつさん(以下、敬称略):「海と日本プロジェクト」の中で、子どもたちに向けた取り組みとしてはどのようなことをされているんですか?

海野さん(以下、敬称略):一番面白い取り組みとして挙げられるのは、海に関わるあらゆる研究に挑戦する中高生を対象に、研究資金や研究アドバイザーによるサポートを行う「マリンチャレンジプログラム」(外部リンク)でしょうか。学校教育の枠に収まりきらない子どもたちが参加し、その才能が突き抜けていくさまが見られます。出会った中で印象に残っているのは、ナマコを心から愛している中学生。ナマコの内臓にある粘着質を接着剤など私たちの生活に応用できないか研究してみたい、と応募してきました。東大教授をはじめ審査員の方たちは大人顔負けの研究精度の高さに驚かれていましたね。

また、海洋生物の研究に3Dデータを活用する「海洋研究3Dスーパーサイエンスプロジェクト」(外部リンク)というのも展開しており、これらの取り組みのように研究者や専門家、一緒に学ぶ仲間たちをつなぐ場を子どもたちに提供しています。

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「マリンチャレンジプログラム2018」の全国大会で日本財団賞を受賞した中学生たち(真ん中)
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最新の3Dスキャナーを使って海の生物の標本を撮影する中学生たち

たかまつ:素敵な取り組みですね。そもそも、「海と日本プロジェクト」では、どうして子どもたちを中心に取り組まれているのでしょうか?

海野:「海と日本プロジェクト」は発足から6年目になるのですが、スタート時の調査で、子どもたちの海離れが顕著であることが分かりました。10代の4割以上が、1年間に1度も海へ行ったことがない、と回答したんです。また、全国の小中学校を対象にした2020年度の調査では、「子どもたち向けに海洋教育をした学校」は約2割しか存在しないことも分かりました。

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「海と日本プロジェクト」の取り組みについて説明する海野さん

たかまつ:日本は「海洋国家」と言われているのに、そんなに少ないんですか!

海野:そうなんです。このまま学校教育だけに頼っていては、海に触れた経験が少ない子どもたちが増えてしまいます。そんな子どもたちが大人になった時、いったいどれくらいの人が今ある海の問題に目を向けようとするでしょうか?そうして海の問題が放置され続けたら、朽ち果てた海を次世代に残すことになってしまう…。だからこそ、子どもの頃に海と触れ合う体験が必要なんです。

たかまつ:言われてみればそうかもしれません。海での事故はニュースにもなりやすいですし、学校としてはリスクが大きい。だから、教育現場で子どもたちを海に連れて行きづらい、というのは想像がつきます。

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子どもたちの未来のための活動に取り組むたかまつさん

海野:たかまつさんが子どもの頃はいかがでしたか?

たかまつ:私は幼い頃からいろんな場所へ連れて行ってもらっていたんです。それこそ海を学ぶイベントに参加したこともあって、海の生き物たちの暮らしを知ったり、海の魅力を身をもって感じたり、やはり得るものは多かったですね。

海での体験が子どもたちをたくましく成長させる

たかまつ:子どものうちに自分が興味のある分野のスペシャリストとつながる機会を得られることはとても貴重だと思います。一方で、海に親しみを感じていない10代全体の関心を底上げするような、とにかく海と触れ合える機会をつくることも必要ですよね。

海野:昔は地域の大人たちが一緒になって子どもたちを育てていて、近所のおじさんやおばさんに海へ遊びに連れて行ってもらうようなこともありました。でもいまは、そのような地域のつながりが希薄になってしまいましたよね。だからこそ、日本財団が子どもたちの育成に少しでも貢献できればと考え、海と楽しく触れ合える宿泊プログラムなども展開しています。離島に行き、漁師さんの仕事の話を聞いたり、流通の仕組みを学んだり、何泊かして家に帰ってくると子どもが変わったと親御さんがびっくりされるんですよ。命の大切さを学んで嫌いだった魚を食べるようになった。仲間ができて責任感も芽生えたくましくなったなど、そういった声もよく耳にしますね。

たかまつ:海での体験が子どもたちを大きく成長させるんですね。私はそれこそ、ただ海を見に行くだけでもいいと思っているんです。きれいな海を見るだけで感動しますし、そこから「この海を守りたい」という気持ちが芽生えるかもしれない。あるいは砂浜にあるプラスチックごみを見て、どこから来たんだろうと海ごみ問題に関心を持つかもしれない。だから、まずは子どもたちが海と触れ合う機会をつくることが大切だと思います。

ロマンや好奇心をくすぐることで、海への関心を持ってもらう

海野:たかまつさんは、子どもと海の関係をつくっていく上で、他にどんなことができると思いますか?

たかまつ:海に面した地方の自治体が、もっと観光資源として海を活用したらいいのに、と思います。釣りの名所があるなら、釣り道具を無料で貸し出してお客さんを集めるとか、絶景スポットがあるなら交通の便を整えてアピールするとか……。気軽に遊びに行ける場所として海をうまく活用できれば、海と触れ合いたいと思う家庭も増えるんじゃないでしょうか。

海野:観光資源については私も共感します。「海と灯台プロジェクト」(外部リンク)という、日本の船舶の交通安全を守る上で重要な役割を担ってきた灯台を、新たな海洋体験を創出する地域資産として活用するプロジェクトを展開しています。電子海図が普及して廃止される灯台も増えてきましたが、灯台は明治時代からの技術の粋が集まった場所でもあるんです。一つ一つの灯台に奥深い歴史があり、その灯台の先には世界につながる海が広がっていることを子どもたちにも知ってほしいと。

写真:眼前に海が広がる岬の先端に建つ灯台
灯台のある場所には絶景が広がり、見るものを感動させる

海野:また、「海ノ民話のまちプロジェクト」(外部リンク)というものもあります。日本には海にまつわる民話が本当にたくさん存在していて、子どもたちには「自分たちの町にもこんなに素晴らしい民話があるんだ」と感動してもらいたい。それが発展すると、もしかしたら実際の海には行かずとも、教室の中で海の素晴らしさを学べるようになるかもしれません。

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「海ノ民話のまちプロジェクト」公式サイトTOPページ
「海ノ民話のまちプロジェクト」公式サイト

たかまつ:その取り組みは非常にユニークですね。好奇心をくすぐるようなアプローチは素晴らしいと思います。

海野:それと、海の大切さ、素晴らしさを学ぶだけではなく、子どもたちにはもっと海のロマンを感じてもらいたいんです。例えば昔、アポロ計画(※)ってありましたよね。人類が宇宙へ向かう、壮大なロマンを感じるものでした。それを海に置き換えたものがやりたいんです。

  • 1961年から1972年にかけて実施された、アメリカ航空宇宙局(NASA)による人類初の月への有人宇宙飛行計画

たかまつ:なるほど。それに興奮した子どもたちが、将来的に海洋人材になってくれるかもしれませんよね。

海野:そうなんです。例えば海底地形図って、少し前までは6パーセントしか明らかになっていませんでした。それを技術革新を進めながら100パーセント明らかにしようと思って立ち上げた国際的なプロジェクトが「日本財団-GEBCO Seabed 2030」(外部リンク)です。現在(2022年4月時点)までに約20パーセントを解明することができました。こんな風に未知のものを開拓していく過程にはロマンがあり、子どもたちも面白がってくれると思うんです。そして、すぐに完了するプロジェクトではないから、子どもたちに対して、『この夢を引き継ぐのはあなたたちなんだよ』と教えてあげたい。ロマンや夢を引き継ぐことで、未来へのバトンを渡せたらいいなと。

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プロジェクト開始時点(2017年8月)に公開されていた海底地形図:グリーンランド北部に位置するライダー氷河
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2020年版の海底地形図:同所

たかまつ:学びや研究というアプローチも大事ですが、そのように好奇心や興味をくすぐることも大切なことですよね。私もそういう手法を取り入れながら子どもたちに関わる仕事をしていて、『SDGsババ抜きカード』(外部リンク)『悪い政治家を見抜く​人狼ゲーム』(外部リンク)というものを開発しました。ゲームを通してSDGsを知ってもらったり、政治に関心を持ってもらったりするのが狙いなんです。複雑な問題や背景、構造を子どもたちに伝える際は、こんな風に敷居を下げることがとても重要だと思います。

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たかまつさんが代表を務める笑下村塾で開発した『SDGsババ抜きカード』
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たかまつさんの公式YouTubeチャンネルでも『SDGsババ抜きカード』
プレイ動画(外部リンク)を配信。たかまつさん(左から3人目)とお笑い芸人新宿カウボーイ(右から2・3人目)の二人とカードゲームを楽しむ小学生たち

海と触れ合うことが最初の一歩

海野:たかまつさんが、日本財団に望むことがあればお聞かせいただけますか。

たかまつ:とても大変なことだと思いつつ、社会を変えたいと思っている子どもたちを全力でサポートしていただきたいです。そのためには、子どもたちに徹底的に寄り添っていただくことでしょうか。例えば、政策提言まで一緒に取り組むとか、自らの手で社会の仕組みを変えるところまでサポートしていただけると、子どもたちの大きな成功体験にもつながると思うんです。社会問題を学ぶためのサポートをしてくれる団体はいくつか存在しますが、その先に一歩踏み込んだアクションができるところは少ない。だから、日本財団さんが先導してくれるとうれしいですね。

海野:そのためにも、一流の研究者や科学者と子どもたちをたくさんつなぐことですよね。彼らに共通するのは、社会に対する変化を起こす側にいる、ということ。そんな人たちの活動を目の当たりにして、子どもたちには社会を変えることを感じてもらえたらいいのかもしれませんね。

たかまつ:おっしゃるとおりですね。そして同時に、身近にいる保護者の方にもできることがあると思います。それはやはり、子どもたちを海と触れさせることです。私、コロナ禍で仕事も減ってしまい、一時期、本当に落ち込んでいて。そんな時に自然が豊かな場所に足を運んでみたら、心が浄化されていくのを感じました。それは実際に行ってみないと分からないこと。多少のお金をかけてわざわざ遠出するなんて面倒くさい、と思う人もいるかもしれませんが、一度きれいな海を自分の子どもに見せてあげてほしい。それはきっと、子どもの成長や発達にもとても良い影響を与えると思いますし、視野も広げてくれるはずですから。

海野:それと、私たちは日常的に魚料理を食べていますよね。それも海を学ぶ1つの方法になるかもしれません。食卓に魚が出てきた時、それはどんな特徴を持つのか、どんなところで獲るのか、あるいはどんな人たちが獲っているのか、そういった話をしてあげるだけでも、子どもが海に関心を持つでしょう。

たかまつ:それであれば、ぜひ海沿いのレストランに足を運んでもらいたいですね。魚の鮮度も美味しさも全然違いますから。そして、そういった美味しい魚がいつまでも食べられるように、私たち大人は、持続可能な海を残していかなければいけない。これは子どもたちに託す問題ではなく、私たちの世代が解決すべきことです。海がどんどん汚れていて、子どもたちからきれいな海が奪われてしまうというのは、子どもにとっての人権問題だと思います。子どもたちの人権が脅かされている。そう考えられるようになると、私たち大人も、もっと真摯に海の問題に取り組めるようになるのではないかと思います。

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最後には「一緒に何かやりましょう!」と思いを共にした、たかまつさん(右)と海野常務

撮影:十河英三郎

〈プロフィール〉

たかまつなな

1993年神奈川県横浜市生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶ SDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。大学生時代に、フェリス女学院出身のお嬢様芸人としてデビューし、「エンタの神様」「アメトーーク!」「さんま御殿」などに出演、日本テレビ「ワラチャン!」優勝。 さらに、「朝まで生テレビ」「NHKスペシャル」などに出演し、若者へ政治意識の向上を訴える。
たかまつなな 公式サイト(外部リンク)
笑下村塾 公式サイト(外部リンク)

海野光行(うんの・みつゆき)

1990年に日本財団に入職。日本財団常務理事、海洋事業部を統括。「次世代に豊かな海を引き継ぐ」をテーマに「海と日本プロジェクト」などのさまざまな事業を展開。国内外における、政府、国際機関、メディア、企業、大学、研究機関、研究者、NPO・NGO等とのネットワークを駆使してソーシャルインパクトを生み出し、地球環境問題をはじめ、海洋において国際的なイニシアティブを発揮できるよう、新しい時代を創るプロジェクト開発や戦略的パートナーシップの構築を進めている。

「海洋ごみ問題」の解決に必要な発想・視点。時事Youtuberたかまつななさんと語る

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