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若者が選挙へ行くべき理由とは。NO YOUTH NO JAPAN・能條桃子さんに問う

- 選挙における若者の投票率の低さの背景には、政治や選挙に関する学びの機会不足がある
- NO YOUTH NO JAPANではInstagramを中心に政治や選挙、社会問題などの基礎知識を分かりやすく発信
- 選挙は一人一人の声を政治に反映するもの。自分の意見を持ち参加することが、社会を変える一歩に
取材:日本財団ジャーナル編集部
参議院選挙(外部リンク※)の投開票が2022年7月10日に迫っている。
- ※ 正式には参議院議員通常選挙。参議院は衆議院のように解散はなく、常に任期満了(6年)によるもの。ただし、参議院議員は3年ごとに半数が入れ替わるよう憲法で定められており、3年に1回、定数の半分を選ぶことになる。参議院議員の定数は248人で、うち100人が比例代表選出議員、148人が選挙区選出議員
今回のような国政選挙に限らず、選挙の度に話題となるのが、若者の投票率の低さだ。2021年10月に行われた衆議院選挙(※)では、全体の投票率が55.93パーセントなのに対し、10代が43.21パーセント、20代は36.50パーセントと、前回に比べて多少伸びてはいるものの、30代未満の投票率は他の年代と比べて低かった。
- ※ 正式には衆議院議員総選挙。衆議院議員の全員を選ぶために行われる。小選挙区選挙と比例代表選挙が同じ投票日に行われる。総選挙は、衆議院議員の任期満了(4年)によるものと、衆議院の解散によって行われるものの2つに分けられる。衆議院議員の定数は465人で、うち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員となる

若者の投票率が低い理由は?政治参加を促すために私たちにできることは? 2019年よりInstagramなどのSNSを中心に、若者と政治の距離を近づけるための活動に取り組む一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN(外部リンク)の代表・能條桃子(のうじょう・ももこ)さんにお話を伺った。
デンマークの若者の政治に対する関心の高さに衝撃を受けて
「留学先のデンマークで、若者たちの政治に対する知識や行動力に衝撃を受けました。20代の投票率はなんと80パーセント。その数字だけでも、政治に対する関心の高さが分かりますよね。家庭や学校でも当たり前のように、『私はここに入れる!』とか『あの政党の政策はどうなの?』という話ができて、結構盛り上がるんですよ。それを見て、とても素敵だなと思ったのと、日本との間にどんな違いがあるのかと考え始めたのが、いまの活動につながっています」
能條さんがデンマークでの生活で感じたのは、民主主義の重要性について職業や年代など関係なく多くの人が理解していること、「国は自分たちで変えていくもの」「一人一人がこの社会をつくっている」という意識が浸透していることだ。
ちなみにデンマークでは、義務教育の過程できちんと政治のこと教わり、全国的に擬似選挙なども実施されている。選挙活動から投票までのプロセスを体験することで、若者たちが政治に関心を持ち、民主主義社会に参画することの意義を学ぶという。
また、能條さんは、大人が子どもたちの意見を尊重しているところも大きいと話す。
「私は昔から政治に関心があり、大学3年生だった2017年の衆議院選挙の時にも若手の国会議員の選挙インターンに参加。とても面白かったですね。もちろん真面目なものではありますが、大人の文化祭的に盛り上がる部分もたくさんあったんです。ですが、それを友達に話したら『意識高いね…』みたいなリアクションが返ってきて……。確かに、そのインターンにも同世代の若者の姿はありませんでした。政治と若者の間に隔たりがあるように感じたんです」

世間では投票率の低さについて若者の勉強不足などが指摘されることもあるが、問題はそこにはないと能條さんは語る。
「日本はデンマークのように、大人や先生と政治についてフラットに会話を交わす機会が少なく、もっと気軽に話せる環境を築いていく必要があると思います。そして会話を交わすために必要となるのは、いまの政治や選挙に関する分かりやすい情報です。選挙は、自分たちの思いを社会に反映していく大切なもの。それがどんなものなのか、そもそも分からない状態では、投票という行動になかなか結びつかないのではないでしょうか」
能條さんの言う通り、日本では政治や選挙に行くことの意義を学ぶ機会が少なく、18歳になったから選挙に行こうと呼びかけられてもピンと来ない若者の方が多いのではないだろうか。
「知る」ことから始まる、若者の政治参加
若者に向けて、政治や選挙、身近な社会問題に関する情報を分かりやすく届けるために、NO YOUTH NO JAPANでは、Instagram(外部リンク)での発信に力を入れている。
「大切にしているのは、思わず読んで見たくなるポップなデザインにすることと、あくまでも中立的な立場で発信し、特定の候補者や政党を支持するような情報は出さないようにすることです」
![画像:
#どうして投票しないといけないの
わたしのモヤモヤを解消してくれるかも
・学費高いなぁ…
・結婚しても苗字変えたくないな
・もう少し賃金をあげて欲しい!
・同性でも結婚したい!
・異常気象が気になる…
・保育園に入れない
・地元の公共交通機関が不便だな
・子どもにいい未来をみせたい!
・もう少し金銭的支援してほしいな
選ぶ基準ってそれでいい
#だから選挙行かなきゃ
#どうして投票しないといけないの
長期的な政策が生まれにくいから
・政策→集中→60代の関心
・20代の関心→後回し。私たちが50歳になるころはどうなっているの?
#だから選挙行かなきゃ
#どうして投票しないといけないの
投票率が低い若い世代のための政策は生まれにくいから
・20代人口1251.9万人 投票率34%
・30代人口1499.6万人 投票率45%
・40代人口1890万人 投票率54%
・50代人口1574.8万人 投票率63%
・60代人口1772.5万人 投票率72%
全体投票率54%
#だから選挙行かなきゃ
#選挙の教科書
Q.どうやって投票するの?
A.今回の投票で書くのは3枚
1.小選挙区選挙…「候補者名」を記入。あさぎ色(水色)の用紙
2.比例代表選挙…「政党名」を記入。ピンクの用紙
3.最高裁判所裁判官国民審査…辞めさせたい裁判官がいれば×印を、いなければ何も記入せずに投票する
#だから選挙行かなきゃ
#選挙の教科書
Q.どんな政党があるの?
A.今ある政党は9党
・自由民主党
・公明党
・立憲民主党
・日本共産党
・日本維新の会
・国民民主党
・社会民主党
・れいわ新撰組
・NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で(NHK党)
#だから選挙行かなきゃ
#選挙の教科書
Q.衆院選ってなにを決めるの?
A.衆議院のメンバーを選び直す
[衆議院]
半分以上の議席を取った政党(合同する複数の政党でもOK)
↓
政権を担当
↓
内閣総理大臣を選出する
[議席数の変化]
小→これまでの方針や政策が続く
第→新しい方向性や政策が生まれるかも
#だから選挙行かなきゃ](/wp-content/uploads/2022/07/23-17.24.16-1.png)
NO YOUTH NO JAPANでは、60人ほど(2022年6月時点)の高校生や大学生、社会人といったアンダー30世代のメンバーで活動を行っている。その多くが、Instagramの投稿をみて関心を持った人だという。

「私たちは政治や社会のことを知り、自分の考えを持って行動するための『入り口』をつくることをミッションにしており、共に活動するメンバーにはいろんな目的を持った人がいます。政治そのものに関心のある人や、特定の社会問題を解決したくて参加した人など、きっかけはさまざまです」
地球温暖化や環境汚染などによる生物多様性の減少や、世界156カ国のうち120位(2021年)という日本のジェンダーギャップ(男女の社会的・文化的格差)問題、ロシア軍によるウクライナ侵攻といった時事問題など、世界で起きている社会問題の基礎知識を学べるコンテンツが充実しているのも、NO YOUTH NO JAPANのInstagram特徴。いま社会で起こっている問題を知り、そこから政治への関心を喚起し、社会を変えるため選挙へ参加を促すことが狙いだ。


また、これからはInstagramや選挙メディアへの記事寄稿、イベント開催といった情報発信を中心とする活動に加え、次世代にとって必要な社会保障や雇用、教育などの政策について調査するシンクタンクの設立や、自治体などと協力しながら政策提言にも取り組んでいくという。
「これまでは情報発信を中心に行ってきましたが、自分たちが若者だからこそ発信できる意見もあると思います。2050年を自分たちが生きる時代として捉え、意見を政治に反映できるのは、今の若者だけなのではないでしょうか。しかし、情報発信だけでは若者に政治参加や投票を促すことに難しさを感じています。だから今後は、調査・研究活動を通じてこれからを生きる世代に必要な政策を考え、選挙以外の場でも政治家の人たちに伝えていけたらと考えています」

自ら意見を発信して、政治をもっと楽しもう
2021年の衆議院議員選挙では、多くの芸能人が「選挙に行こう!」と呼びかけるなど、これまでにないほど若者の選挙参加を促す機運が高まった。中でもNO YOUTH NO JAPANの活動は大きな注目を集め、そのムーブメントの起爆剤的な役割を果たした。
「アパレルメーカーとコラボして選挙の話のきっかけをつくるTシャツを作ったり、つながりのあるジェンダーや気候変動を考えるグループの方と協力してインスタライブを開催し『皆で選挙に行こう』と呼びかけたりしていました」

能條さん自身もテレビの情報番組や、ウェブメディアが主催する公開討論会などにも出演し、若者世代のオピニオンリーダーとしてZ世代(※)を中心に多くの支持を集めた。
- ※ 一般的に1990年半ば〜2010年代初頭に生まれた世代
「どこまで貢献できたか分かりませんが、結果として10代〜30代の投票率はいずれも3パーセント近く上がり、他の年代に比べて高く上昇しました。特に20、30代の女性の投票率は3〜4パーセント上がり、若者と政治の間には変化が起きつつあるように感じています」
「若者が声を届け、その声が響く社会をつくる。」をモットーとして活動に取り組む能條さん。若者の声が響きやすい社会づくりにおいて大切なことをこう語る。
「若者の周りの大人たちが自らの意見を積極的に発信していくことが大切なのではないかと。選挙に行き、政治について話をしてみるのでもいいですし、社会を変えていくという意味では会社の中で、自分の意見をしっかり言うことも必要だと思います。また、政治家の方には、若者の声が届きやすい仕組みづくりをしていただきたいですね。日本の30歳以下の有権者の割合は、50年前が約30パーセントだったのに対して、現在は13パーセントほど。そもそも若い人の意見が届きにくいんです。ですが今後数十年先の日本をつくっていくのはそういった若い人たち。1票の重さに差をつけるのは難しいかもしれませんが、議員にもっと若い人を増やし世代交代を図るなど、構造的な変化が必要なのではないでしょうか」
NO YOUTH NO JAPANでは、2022年の参議院選挙においてもInstagramや特設サイト(外部リンク)での各政党の政策や各選挙区の候補者などを網羅した情報発信に加え、東京・下北沢での選挙案内所の開設(外部リンク)、開票時にはみんなで楽しむパブリックビューイングイベントの開催など、ユニークな企画を予定している。

そんな能條さんに、選挙に向けて若者たちに対するメッセージを伺った。
「まずは、『投票は政治について詳しく分かっている人がやるものだ』という先入観を捨ててほしいですね。選挙とは一人一人の意見を政治に反映するもの。自分が大事だなと思えること、今の自分がベストだと思う中で、ぜひ投票に行ってみてください」
自分が生きたい社会は、自分でつくっていくもの。投票とはその手段の一つなのだと、能條さんのお話を聞いて改めて感じた。自分はいまどんなことに困っていて、どんなことを政治に望むのか。そんな素直な視点で選挙を捉え、自分の1票を投じてみてはいかがだろうか。
写真・画像提供:一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN
〈プロフィール〉
能條桃子(のうじょう・ももこ)
1998年生まれ、神奈川県出身。慶応義塾大在学中に経験したデンマーク留学などをきっかけに、2019年に若者の政治参加を促すNO YOUTH NO JAPANを創設。Instagramを中心に情報発信を行い、注目を集める。帰国後、2020年にNO YOUTH NO JAPANを一般社団法人化。現在、約60人のメンバーと共に、U30世代の若者が政治参加する社会を目指して活動に取り組んでいる。
一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN 公式サイト(外部リンク)
一般社団法人NO YOUTH NO JAPAN 公式Instagram(外部リンク)
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