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【家族を看る10代】子どもが子どもらしく生きられる社会に。ヤングケアラーと家族を支える
- 大人に代わり家事や家族の世話を担う「ヤングケアラー」の学業等への影響が社会問題に
- 自分の時間が持てず、友人関係や学校生活、進路・就職などに影響が及ぶことも少なくない
- ヤングケアラーであることで、子どもたちが未来を諦めなくていい社会を目指す
取材:日本財団ジャーナル編集部
あなたは「ヤングケアラー」という言葉を耳にしたことがあるだろうか?
これは「本来、大人が担うような家事や家族のケア(介護や世話)を日常的に行う、18歳未満の子ども」のことだ。
ヤングケアラーが担うケアの内容は、家事に、家族の介助や通院の付添い、投薬・金銭管理、感情面での寄り添い、きょうだいの世話・見守り、家族のための通訳など多岐にわたる。それゆえ、自分の時間が持てずに、友人関係や学校生活、進路や就職等に支障をきたすなど、ケアを担う子どもたち自身の人生に大きな影響を及ぼす可能性が存在する。
そんな若くして家族の介護や世話を担う子どもたちとその家族を支援するべく2021年に立ち上がったのが、日本財団「ヤングケアラーと家族を支えるプログラム」(外部リンク)だ。
本人や家族はどんな困難を抱えているのか、どのような支援を必要としているのか。ヤングケアラーの実態をひも解きながら、本プロジェクトを担当する日本財団 公益事業部の長谷川愛(はせがわ・あい)さんにお話を伺った。
社会課題として認知されつつあるヤングケアラー
日本国内で、ヤングケアラーという言葉が広く一般に使われるようになったのはごく最近のこと。2014年にイギリスで「子どもと家族に関する法律」が成立し、ヤングケアラーを法的に位置づけ、地方自治体に対して適切な支援につなげることを義務づけた。
また日本では2020年に埼玉県で全国初のケアラー支援条例が制定され、全てのケアラーが個人として尊重され、健康で文化的な生活を営むことができるよう社会全体で支えていく必要があることを明記。以降も、複数の自治体で類似の条例が制定されている。
では、そもそも日本にはどれくらいの人数のヤングケアラーが存在するのか。それは想像以上に多いものだった。
「2020年12月から2021年2月にかけて、厚生労働省により全国の中高生を対象に初めて行われた『ヤングケアラーの実態に関する調査研究』によると、公立中学2年生の5.7パーセント(約17人に1人)、公立の全日制高校2年生の4.1パーセント(約24人に1人)がヤングケアラーに該当するという結果が出ています。つまり、1学級につき1~2人ほどのヤングケアラーが存在する可能性があるんです」
また、2022年1月に今度は小学生、大学生を対象に調査が行われ、小学6年生の6.5パーセント(約15人に1人)、大学3年生の6.2パーセント(約16人に1人)が、世話をしている家族が「いる」と回答し、話題を集めた。
図表:家族の世話をしている可能性がある割合
図表:家族の世話に費やす時間
それほどの数が存在するにもかかわらず、なぜこれまでその存在が見過ごされてきたのだろう。
それは、ケアの内容やケアに対する責任が本人にとって大きな負担となっていても、本人や家族にその自覚がなかったり、子どもであるがゆえに行政や福祉サービス等につながることができず、一人あるいは家庭内で負担を抱え込んでいたりする場合も多いからだ。
「身近に家族のケアをする子どもがいても、『お手伝いをしていて偉いね』で片付けられてしまうことも多く、また子ども自身も、子どものうちは特に他の家庭環境を知るきっかけが少ないことから、自分の置かれている状況を当たり前のものだと捉えてしまいがちに。それに加えて、『家族のことを周りに相談できる人がいなかった』と答える人もいます。そのようないくつもの要因が複雑に絡み合って、ヤングケアラーが抱える困難さ、生きづらさが見過ごされてきたんです」
その困難さ、生きづらさとは「子どもが子どもらしく生きられないこと」を指す。
「家族のケアを理由に十分に睡眠を取ることができず、学校に遅刻するなど、日常生活に深刻な影響が出てしまっている子どもたちもいます。また、ケアに追われる中で授業や部活動への参加、友人との交流に当てる時間も制限されてしまい、教育や社会経験の機会を損失することで、その後の人生にも悪影響を及ぼす可能性も。もちろん、家族に対するケアの経験が、その子どもにとって大切な時間・経験となることもあり、全てのケアを否定するものではありません。しかし、ヤングケアラーとして生きていることで、『子どもらしく生きること』が難しくなってしまう場合があるのです」
先の調査では、「授業中に寝てしまう」「宿題ができていないことが多い」「持ち物の忘れ物が多い」「提出物を出すのが遅れることが多い」などと回答する子どもも多く、その数はヤングケアラーではない子どもの2倍前後だったそうだ。
この結果からも、家族のケアが子どもたちの学校生活や将来に深刻な影響をもたらす可能性があることを読み取れるだろう。
本人とその家族、双方をサポートしていく必要がある
長谷川さんは日本財団に入って3年目を迎える。もともとは社会福祉施設の修繕事業等を担当していたが、その頃からヤングケアラーを取り巻く問題に関心を持っており、彼らをサポートするために何かできることはないか考えていたという。
「実は子どもの頃、家族のケアをすることで負担を抱える子を間近で見ていたんです。もちろん、当時はヤングケアラーという言葉は知りませんでしたが、『家庭の事情』という言葉のもとに、周りからその負担・しんどさを見過ごされてしまう子どもたちがいる、ということを感じていました。その後、大学生の時にヤングケアラーという言葉を知り、検索してみると当事者の声がたくさん溢れていて。それを目にした時、ヤングケアラーという言葉が生まれたことでやっと光が当たり、可視化される人たちがいるのではないかと思いました。そして、そんな人たちの負担を少しでも減らせたら良いな、と」
その想いを抱え、長谷川さんが担当する「ヤングケアラーと家族を支えるプログラム」では、いままさにヤングケアラーとして生きる子どもたちが『子どもらしい時間』を過ごせるよう支援に取り組んでいる。特筆すべきはその対象に『家族』も含まれている点だろう。ケアを担う子どもと一緒に、ケアを必要とする家族のこともサポートする。包括的に取り組むことが、ヤングケアラーを取り囲む複雑な問題を解決するために重要だという。
「ケアを減らすために何が必要なのか。例えば児童家庭支援センターなどの民間機関による家庭訪問・家事支援などを通じて、家族全体を見据えたサポートをしていきます。日本財団の事業ではありませんが、最近では自治体でも、群馬県の高崎市や兵庫県神戸市などがヤングケアラーのいる家庭に対し、ヘルパー派遣事業を始めることとしていますね。同時に、当事者である子どもたちには学習支援をしたり、ヤングケアラー当事者会とつないだりしながら支えていきたい。その両軸が大事だと考えています」
ヤングケアラーをサポートするために、日本財団では以下の事業展開を予定している。
- 自治体モデル事業(自治体と連携し、ヤングケアラーの早期発見、支援につなげるモデル事業の検討)
- 民間団体への支援・連携によるヤングケアラー支援の拡充(モデル自治体および全国への展開)
- 普及啓発活動(普及啓発のためのホームページ・動画の作成や、シンポジウムの開催)
- 日本財団が旗振り役となっての関係者によるネットワーク構築
- 政策提言(モデル自治体事業や、民間団体との連携の実績から、国に対して政策提言を行う)
現在(2022年7月時点)、一般社団法人日本ケアラー連盟(別タブで開く)、一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会(別タブで開く)、一般社団法人ヤングケアラー協会(別タブで開く)といった民間団体や大学等と連携し、それぞれの強みを生かしながらプログラムを進めている。
「日本ケアラー連盟には、大学教授など、調査研究や政策に通じる方たちが多く所属されています。それを生かし、ヤングケアラー全体の支援体制を強化していきます。ケアラーアクションネットワーク協会は、当事者間で気持ちを共有する場を運営されている団体です。そのため、当事者向けのプログラムをもっと多くの方に提供できるよう、ヤングケアラーを支える人材の育成に力を入れています。そして(元)当事者の方々により運営されているヤングケアラー協会は、当事者目線を生かしたコミュニティの運営や就職支援など、悩んでいる子ども・若者に寄り添った直接的な支援を展開しています。皆さんと連携することで、当事者の子どもたちが取り残されない体制づくりに取り組みたいです」
「頑張って」ではなく、子どもたちのSOSに耳を傾ける
2023年4月には、子ども政策の司令塔になる「こども家庭庁」が発足予定だ。それに先駆けて、2022年6月15日には子どもを個人として尊重し、基本的人権を保障する「こども基本法」(外部リンク)が国会で成立した。
成長途上にある子どもは、とても弱い存在だ。だからこそ、子どもたちが健やかに成長するためには、国や社会全体で彼らを支えていく必要がある。
図表:学校や大人に助けてほしいこと、必要な支援
「もしも身近にヤングケアラーかもしれない子どもがいたとしたら、まずは話を聞いて、その子の気持ちを受け止めていただきたいです。その際、『あなたが頑張らなくちゃいけないんだよ』などと励ますのは逆効果。そんな風にプレッシャーを掛けられてしまうと、その子はどこにも相談できなくなってしまいます。そうではなく、何か困り事はないか、子どもの声を聞き、一緒に考えてみて、その上でサポートが必要な場合や、どうすればいいか分からないときは、相談窓口や支援団体につないでいただけるとうれしいです。『ヤングケアラーと家族を支えるプログラム』の公式サイトでも、相談窓口(外部リンク)を紹介しています」
図表:現在の悩みや困りごと(大学3年生)
自分一人では、SOSの声を上げづらいヤングケアラーたち。 長谷川さんは、そんな現状を、みんなの力を合わせていち早く変えていきたいと願っている。
「ヤングケアラーであることで何かを諦めたりすることがない社会をつくりたいんです。例えば、家族のケアをしなければいけないからと、希望する進学先や就職先を諦めざるを得ない子どもたちもいます。また、ケアを要する家族へのサポート体制が十分に整っていない中で家族のケアから離れることは、家族と自分自身のどちらを優先するか、という二者択一を迫られるような状態となってしまいます。でも、支援体制を整えることで、『周りからのサポートを受けながら家族と生活し、自分の未来も諦めない』という選択肢が生まれます。そのためにも、社会全体でヤングケアラーの問題に取り組んでいけたらと思っています」
全ての子どもたちが、安心してなりたい自分を目指せる社会を実現するためには、家族だけでなく、私たち一人一人が彼らに対する理解を深めることが大切だ。読者の皆さんには、ヤングケアラー本人はもちろん、一人でも多くの人にこの記事を共有し、相談や支援につなげるなど、自分にできることから始めてみていただきたい。
撮影:十河英三郎
〈プロフィール〉
長谷川愛(はせがわ・あい)
武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒、2020年に日本財団に入会。社会福祉施設の修繕事業等を担当後、現在は里親制度などの家庭養育の推進や、ヤングケアラーとその家族への支援、小学生を対象とした次世代教育事業などに関わる。
- ※ 掲載情報は記事作成当時のものとなります。